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第一話 標的は総理大臣 その1

あまり深く考えずに読みましょう。


 わたしの名前はカルラ・アルヴァギアス。宇宙連邦内でも発言権の強い先進惑星、アルヴァギアス星の直系王女です。次期女王という地位にありながら、かねてより下劣で低俗な噂で有名な"ある惑星"のことに関心を持っていたわたしは、父上や家臣、大臣達を騙くらかし、単身で宇宙へ飛び出しました。

 

 目的地の太陽系第三惑星に到着するまでは良かったのですが、突然の隕石衝突で宇宙船は落下。大きな大陸の横にへばりついてる、見るからに弱小そうな島国の首都圏へと落下し、ここ、郭名かくめい家の庭先に墜落したのでした。


 この星にもあめりかなどという国家が中心となって、密かに宇宙連邦と協定し、連邦の準加盟惑星(オブザーバー)となっています。なので、一惑星の姫君が他の惑星に密入国だなんて、発覚したら大変です。宇宙船が直るまで、わたしはこの家で厄介になることになったのですが……。


 郭名家の子供部屋で今川焼きをいただいていると、階下からドタドタとした足音が響いてきました。

「カルラ~、助けてくれよ。また巨人とナル夫が虐めるんだ!」

 ボロボロになって帰ってきた小学生の少年、郭名(はじめ)さん。わたしがお世話になっている郭名家の男の子です。

「またですか、始さん。あの二人も懲りないですね」

「そうなんだ……。しかも聞いてくれよ、カルラ。リリカちゃんなんて、『ヒエラルキーの底辺に居る人間とは話すのは時間のムダ。ついでにあんたの発声は酸素のムダ』って言うんだよ~。このままじゃあ、リリカちゃん、有名私立中学の進学を目指す冴杉さえすぎになびいちゃうよ」


 相変わらず彼女は俗物というか先を見据えているというか……。およそ小学生らしくない言動をする彼女の姿が思い浮かびます。


「何とかしてよカルラ~。あいつらに勝てる"宇宙道具"出してよ~」


「しょうがありませんね。確かに、あの二人の行動は目に余るものがありますね」


 だろ? と、始さんは同意を求めてきます。



「君が賛成してくれるなら話が早い」


 と言って、咳払いをすると、


「では、これから僕が提案することは何だと思う?」



「……まさか」




「"革命"をしよう!!」


 


 今川焼きを噴き出しました。


「うわ、汚いぞっカルラ!」


「『また』ですか、始さん!! この間もそう言ってワシントンに突入したら、酷い返り討ちにあったのを忘れたんですか!?」


「生身で太平洋上空でF-22(ラプター)と銃撃戦をしたのは地球上で僕達ぐらいのものさ。忘れるわけないだろう?」


 ははは、と笑いながら受け流します。


「それに、あの時の革命動機は、大暴落した企業の株式を300口も買っていた父さんを救うために、下らない財政金融政策を実行した 連邦準備制度理事会(F R B)を爆撃しようという感動的な思いが発端だったじゃないか」


 地球に来てからまだ日が浅いですが、世界のあれこれをあのヤンキー合衆国に押し付けることが浅はかだということは、わたしにも分かります。


「どこが感動的!? ただ米空軍に追われただけで、結局『らくらく偽札増刷機』でことなきを得たんじゃないですか」


「しーっ! 大声を出すな。さっきから、東京地検の人が家の周りをうろついてるんだよ!」


 ああ。だからパパさんは朝から押入れの中で震えてたんですね。


「大体、今回の革命はお米の国が標的じゃないぞ」


「と、いうと?」



「"日本"だよ。僕が内政の頂点に君臨して巨人やナル夫のような人間を豚箱にぶち込んで、俗物スノビズム全開なリリカちゃんを僕の虜にするんだ!!」



「えーーーーっ!?」

 

 相変わらず発想が飛躍し過ぎです。小学生のコミニュティ問題が、何故国家権力の簒奪に繋がるのか、地球人の少年の思考形態には毎回驚かされます。


「駄目です! これじゃあテロリストじゃないですか!」


 必死の思いで始さんを踏み止めようとしました。しかし、


「おいおい、カルラ。逆らうなら君の存在と庭に埋まっている宇宙船をマスコミにリークするぜ」


 そうでした。わたしは彼に生殺与奪の権利を握られているのです。わたしの宇宙道具の持ち合わせでは大気圏外へ脱出が不可能なので、宇宙船が直るまで郭名家からは"親戚の子"として海外から留学してることになっているのでした。


「アメリカのエリア51が宇宙連邦地球支部らしいけど、捕まったらどんなことをされるんだろうね?」


 恐ろしい……。小学生にして、既にここまでの脅迫技術を持っているなんて……。


 まあ、私が捕まった時点で、始さんの悪事も明らかになりますから、自爆行為のような気もします。しかし、「宇宙人に脅されてやった」なんて証言されたらどうしようも無いので、渋々とわたしは毎回、彼に宇宙道具を貸すはめになるのでした。


 始さんは横目でこちらを見てニヤニヤするのをやめると、道具を要求してきます。


「手始めに首相官邸に乗り込もう。さあ、『ヘリトンボ』を出してよ」


「あれはF-22ををあしらった後、米軍の新鋭機に二人分とも撃墜されたじゃないですか」


「ああ、ブチ切れた空軍がF-35(ライトニングⅡ)を出撃させたんだっけ。新型の戦闘活動を間近で見れて手に汗握ったよ」


 わたしは冷や汗しか出ませんでしたけれども。 GAU-22/A 25mm機関砲から放たれた弾丸の風圧が耳元を掠ったあの時の感触を、わたしは一生忘れません。


「と・に・か・く! 『ヘリトンボ』も『運輸産業撲滅促進扉』も故障中です」


「ああ、前に扉でロシアに密入国した時に、あっちの内務省を怒らせて二人でシベリアに放逐された時に凍結しちゃったんだっけ」

 

 また嫌な思い出が頭をよぎります。寒かった……。吹雪の中味わった凍死寸前の兆候である筋肉収縮の痛みを、わたしは一生忘れません。

 

 まあ、始さんは殆どトリップしていたようで、笑いながら走馬灯を楽しんでいましたが。


 ホントに地球人なんですかね? この少年。


 連邦指定のA級危険生物が地球人に擬態していると聞いても全然驚かないでしょう。



「じゃあしょうがない。大人しく丸の内線で行きますか」


 母さんから電車賃もらって来なきゃ、と言いながら下の居間へと降りていきます。わたしも着いて行きます。





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