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絵はがきのおはなし

作者: 徒耀子

 おじいちゃんが、外国の絵はがきをくれました。昔、外国へ行ったときに、おみやげとして買ったものだそうです。

 その中の一枚は、しっくいの家がよりそって建っている、路地をうつした写真でした。

 別の一枚は、お城の広間のようでした。きらきら光るシャンデリアが天井から下がり、大きな窓があって、壁には絵が描かれています。

 ○ちゃんは、その絵はがきセットを、机の上に広げたままにしておきました。

 夜になり、さあ眠ろうとしたときです。何気なく机の上を見たら、路地の絵はがきの中に、むすめが一人、立っていました。

 絵はがきの中でも、今は夜のようです。あたりは暗く、むすめは、肩にストールをかけて、さむそうに、前をかき合わせていました。

 むすめは、白い顔で、遠くを見ていました。その方角は、火がともされていて明るく、立派な建物が見えました。

 お城の広間をうつした絵はがきも、様子が変わっていました。おしゃれしたお姫さまや王子さまたちが、くるくる、ダンスを踊っています。

 ○ちゃんは、はっと、気づきました。

 むすめが見ている建物は、お城なのです。お城では、今、舞踏会が開かれています。むすめは、行きたかったのにちがいありません。

 むすめは暗い路地にぽつんと立ち、一方、お城の広間はこうこうと明るく、みんな楽しそうに笑っています。

 ○ちゃんは、悲しくなってきました。のそのそとベッドに入り、ふとんを顔まで引きあげて、そのなかで丸くなりました。

 まぶたの裏に、むすめのすがたが浮かんできます。

 むすめは、ドレスをもっていないのでしょうか。ドレスならあるのに、と○ちゃんは思いました。○ちゃんは人形のセットをもっていて、ドレスも何着かあります。ばら色のサテンのや、うすみどり色のや。かかとの高いくつもありますし、ネックレス、ちっちゃなティアラだってあるのです。

 それらを、あのむすめに届けられたらなあ、と○ちゃんは思っているうち、眠りにつきました。

 むすめは、○ちゃんの人形のドレスを着て、くつをはき、アクセサリーをつけていました。すてきなお姫さまです。

 でも、むすめは、まだ悲しそうな顔で、遠くにあるお城を見ています。

 ○ちゃんは、あ、と思いました。

 乗り物が必要なんです。

 でも、人形セットの中には、馬車なんてありません。

 ○ちゃんは、お兄ちゃんのお下がりのミニカーのことを、思いだしました。赤と緑色でぬったバスで、車掌さんも乗っています。

 むすめの前にバスがあらわれました。

 発車しますよー、と車掌さんのアナウンスが流れます。むすめはびっくりしていましたが、あわてて乗りこみました。

 ドアがしまり、バスが走りだします。

 バスはあっという間に、お城にたどり着たようです。広間の絵はがきを見ていると、むすめが入ってきました。

 むすめは、顔をすこし赤くして、困っている顔です。慣れない場所へ来たことを後悔しているのかもしれません。

 しかし、ひとりの男の人が進みでて、むすめを踊りに誘いました。

 音楽がはじまり、ダンスがはじまります。

 くるくるとまわるたび、ドレスのすそが広がって、シャンデリアの明かりが小さなティアラに反射してかがやきます。むすめの表情は、どんどん明るく、今では楽しそうに笑っていました。

 ○ちゃんも、うれしくなって、にこにこしました。

 きれいな舞踏会の様子を、いつまでも眺めていました。

 目を覚ましたときには、朝日がさんさんと、窓から降りそそいでいました。

 絵はがきを見ると、広間では、何も起きていません。きちんと片づいていましたが、舞踏会のにぎわいを思い返すと、なんだか寂しい気がします。

 街並みのほうでは、いつもどおり。

 しかし、開けた窓のひとつに、○ちゃんは、あのむすめを見つけました。

 髪をとかしている腕には、○ちゃんがあげた、ブレスレットがかかっています。



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― 新着の感想 ―
[一言] はじめましてこんにちは。 窓、というのが想像で浮かびました。窓の風景をぼんやりと眺めている様な。絵はがき、私も好きで行った先でいいのが無いかと探すのですが、なるほどこういう作中での使い方もあ…
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