早速攻略完了!・3
――散々、花畑を荒らす台風となった、諫早森羅の登場。
彼がアオナシに来たのは、学園長の意向とのことだ。今年度から学園長が代わり、経営方針の進路を大きく変えた。その一つが、「社会交流」と銘を打たれた、姉妹校の男子高生を編入させること、らしい。期間は二カ月の間。長いのか短いのか、僕には判断できない。
去年度のうちに、諫早は学園長となんらかの形で知り合う。そして学園長の計画に賛同し、年度始まりのタイミングで編入。このような流れでアオナシに『アオ』が混じることとなった。
……そんなもの、聞かされたところで信じられるものではないが。
まあここで大切なのは、目に見える、彼の行動か。
新学期が始まって二週間。
物珍しさから、生徒たちは彼に詰め寄る。男であることも、外からの侵入者であることも、僕たちからすれば新鮮だ。いろいろと話を身の回りの話を聞いたりとしている。爽やかな笑みで、健全である刺激的な話題を提供してくれる諫早は、瞬く間にアオナシのアイドルとなった。
この交流の主題なのだしそれ自体はいい。ただ、諫早の行動には不可解なところが沢山ある。
いつも遅刻寸前に登校して、放課後になったらすぐに教員寮へ帰ってしまう。夜になったら食堂へ顔を出し、周囲にきた生徒とある程度雑談などして、また帰って行く。休日は休日で、一日中教員棟から出てこないで一日をそこで過ごす。たまに職員寮の近くを散歩していることがあって、そういうときにばったり出くわした時は、僕と破魔と彼とで雑談なんかをして過ごしたことはある。
なんのために編入してきたのか。また、学園は何故に彼を編入させたのか。
僕は諫早のお目付役と、佐手さんから正式に命令を預かった。学園を守るものとして、動向の読めない諫早は、注意を払わなくてはならない。【お兄さま】という立場もあって、僕の方が行動のしやすさも便宜の計りようもある。なにより、男慣れしている。
一応、僕の実家に手紙で事情を説明し、諫早家について内密に調査してもらっている。秘密にしたことは外部に漏らさないのが梨山の家訓だから、世間にこんな非常識な出来事が漏れる心配はしていない。むしろ、面白がって受け持ってくれるだろう。
「だね。けど肝心なことは何一つ語ってくれないよ」
「そこで私たちは考えた。いっそ、梨山さんと本当の意味で仲良くなってもらえばいいと。隠し事しないのが、男同士の友情というものなのでしょう?」
「まあ、そうかもね」
「梨山さんは【獅子宮(高二)】の顔なのだから。言い換えれば、梨山さんには勿体ないぐらいとても魅力的でふくよかな身体は、私たちが担当してるの」
「言い方ってものがあるよね?」
「無駄にふくよかな、お胸?」
「遠まわしな言い方ってものがあるよね?」
カップはこのクラスで一番を記録する僕だけどさ。邪魔なんだよなあ、正直言ってこれ。分けられるものなら配布したいよ。『お兄さまの肉!』とでも売り出せばがっついてくれるピラニアは沢山いるよ。……字面だけだととんでもないな。
「男性は大きなお胸を好くって聞くけど、本当なのかしら」
「それなりに女性は好きっぽいし、嫌いではないだろうけど」
なんの話を真面目な顔で語っているのだろう、僕は。こういうシモな話題はふざけている時だけにしたいものだ。こほん、と咳払いをして、軌道修正させる。
「諫早をクラスの一員にする方法をクラスで画策していた、ってことだね」
「その通り。梨山さんが困っているみたいだから。助け合うのがあ、クラスメイトってものでしょ。私たちと梨山さんは、一蓮托生なのよ」
「君たち……」
なんだか、ちょっとだけ感動した。
「この議題はもう朝会議で何度もやっていて、みんな同じ意見になったわ」
「待って。なに朝会議って。いつしてるのそんなの。なんで僕は省かれてるの」
「だから私の意見が【獅子宮】の総意だと思って聞いてほしい」
「僕は【お兄さま】という尊い立場であることを聞いてほしい」
前言撤回。僕の意見ってどのくらい権限を与えられてるのかな……。
「立案した作戦を分かりやすく発表するわ。『梨山さんと諫早さんが親密になれば、自動的に私たちとも親密になれる。ならまずは二人を親友にしてしまおう!』ってところなの」
「『私たちが諫早さんと親密になれば、自動的にお兄さまも親密になれるよね』って考えてくれない当たり、実によくクラスのセル画が発色してると思うんだが、どうだろう?」
「【お兄さま】のくせに知らないの? 他人の不幸……じゃなかった、幸せは妬ましいから引きずり降ろせ、って格言を」
「無理にアドリブを加えるのはやめてくれないかな。ただの本心じゃないか」
「まあこれまでのは建前で……間違えた、本心で、これからはずっと建前だから安心して」
「嘘をつかない娘は好きだよ僕ぁ」
僕がそう言うと、蒔苗君はやや強張らせていた表情を緩める。――それでいて、瞳は混じりけのない、純粋な光を帯びた。
「そういう観点から見れば、これから私たちのしようとしていることは、色仕掛けになるのかもしれないのかしら。一世一代、人生初ね。梨山さんの身体を差しだすなんて」
「もちろん、比喩だよね?」
「やだ梨山さんったら。【お兄さま】、男子であるくせに、同性の諫早さんに肌を晒すのは抵抗があるの?」
「比喩じゃないの!?」
「比喩よ、当然」
「…………」
疲れる。肩ががくりと落ちる。誰か肩を揉んでくれないかな。……いや、やめておこう。この流れで口に出した瞬間、出てくる反応は決まりきっている。
「いや、別に僕だって、男に見られるのは平気だけどさあ……もちろん女にも」
未だに実家に帰ると、兄弟とお風呂入ったりするし。乙女の羞恥心なんてもの、僕は持ち合わせていない。恥じらいが欲しい、と兄弟なんかにはよく言われる。
「私たちは知っている。梨山さんは諫早さんと仲良くなりたいと。諫早さんと打ち解けるにはね、私たちではスタートラインが遠すぎるの。私たちができるのはその手伝い。上等よ。梨山さん以外の【獅子宮】は影からサポートに徹し続ける脇役でしかない。嫌と言って聞く耳を持たないわ。私たちは、『偽物のアオが本物のアオと絡む』その姿を見るそのときまで、梨山さんの野望を全力でサポートすることに決めたの」
巻名君の言葉に、実は教室に残っていたクラスメイト全員が、静かに頷いた。
建前で本音を隠し、本音で本音を隠す。
僕のクラスメイトは、もっと単純に、彼をアオナシ生と認めたいのだ。
そのためなら、僕に協力を惜しまない。表面をどれだけ取り繕うとも。
なんのかんのといって、僕の仲間なんだよなあ、このクラスは。
「……なら、僕の意見にも耳を傾けて、」
「はいそれじゃ私はこれで行くところがあるので御先に失礼するわ」
「オチは見えてたからショックは受けてあげないよ」




