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そこは広場で、父親が掴む鉄柵の向こうには象がいた


 ソフィーは智弘の見送りを断った。彼女は一人、ホームに立って新幹線に乗り込んでいく。そして窓側の座席に腰を下ろし、移りゆく景色を眺めるように、ぼんやりと車窓に目を遣った。

 新幹線がトンネルに吸い込まれるたびに、もう一人のソフィーが自分を見つめ返してくる。それは今までに見つめ返してきたどの自分自身よりも遠くから彼女を見つめていた。ここで眠りに落ちれば、また「あの場所」に迷い込みそうな気がした。そして向かい合う二人の彼女が同時に眉を寄せる。


 あれは一体何だったんだろうとソフィーは考える。どうやら彼女には考えなければならないこと他に沢山ありすぎたから、今の今まで思い出しもしなかったらしい。

 考えを深める中でソフィーにある確信が芽生える。あの時の自分は、本当の父親の中にいて、父が目にした風景を二人で眺めていたのだと。


 そこは広場で、父親が掴む鉄柵の向こうには象がいた。彼女と父親はだれかに呼びかけられて振り向いた。その時ミキがソフィーを揺り起こし、彼女は目覚めたのだった。

 もしミキがこなければどうなったのだろうと彼女は考える。

 あの時私と父親を呼びかけたのは、産んでくれたほうの母親だったのかもしれない。そう考えると複雑だった。もしミキがこなければ、私は生まれて初めて自分の母親の顔が見れたかも知れないし、冬夜の寒さに凍え死んでしまっただろうから。

 しかしそもそもが全くの見当違いかもしれないと彼女は考える。

 私は冬の夕暮れに眠り落ちて、ただ淡い夢を見ていただけなのかもしれない。

 それでも、とソフィーは思う。私は自分自身を信じることにした。有希なら理解してくれそうだし、それに智弘にも伝えたいと思った。


 そのようにして考え込んでいる間だけ、景色はどこにもなかったし、車内には彼女一人だけがいた。そして見つめ返してくるもう一人の自分の頬を涙が伝っていくのを見て、自分自身が涙していることに彼女は気づいた。

 伝わる振動に耳を傾けながら、彼女は静かに泣いた。

 

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