圧迫する冷水に体は混乱し、鉛のように重くなる
智弘にはソフィーが冬の海に飛び込んだ意図が理解できなかったし、特に心動かされる事も無かった。
ソフィーは、彼女自身の為に海に飛び込んだのだと彼は理解した。彼女のその行為は、智弘の心を更に遠ざけた。しかし同時に彼はどのような判断も下していなかった。彼は冷やかに状況を分析し、対処しようとしていた。
着水と同時に全身の筋肉が硬直する。圧迫する冷水に体は混乱し、鉛のように重くなる。
智弘は暴れるソフィーを背後から羽交い締めにし、その動きを御しながら浜辺を目指す。
足をばたつかせて抵抗するソフィー。その姿は二人の目にひどく幼く見えた。有希は躊躇い無く波打ち際をかき分けて二人に近付き、智弘からソフィーの体を受け取る。
ソフィーは力なくその場にへたりこもうとした。水を含んだその体は、有希の手に負える重さではなかった。再びソフィーは智弘に抱きあげられ、やがて車の後部座席に寝かされた。
「このままバイクに乗ったら、さすがに凍死するわ」智弘はそう言い、バイクの鍵をキサラギの手に握らせる。
「まじで言うとん?」
「キサラギ、お前、俺ん家のガラス割った事もう忘れとおやろ?」
智弘は幾分とげのある目つきで彼を見つめる。
「ほんまや、忘れとったわ」
「智弘、早く乗りな。おいてくよ」
ハンドルを握る有希が車内から叫ぶ。
「わかった」キサラギは渋々ながらそう言い、バイクの鍵を受け取る。




