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恋人

作者: 天窪 雪路

恋人よ。

キミは今も変わらずに、キミがまだ少女だった頃に海岸で拾ったというあの貝殻を大切にしているだろうか。


「父が亡くなる以前に家族で海に行ったことがあって。私は大好きな父にねだって、貝殻集めを手伝ってもらったの。色々な貝殻を拾ったわ。父はへんてこな貝殻ばかりを拾って私を困らせたのだけれど、この貝殻はそんな父が私のためにやっと探してくれたものなの。綺麗でしょう?」


そう言って真っ白な陶器製の小物入れからその巻貝を手に取ると、


「聞いてみて?波の音がするから」


と、僕は何度か波の音を聞かされたものだ。巻貝の口の部分に耳を当てると確かにサーッと波の音がした。彼女は本当に波の音が閉じ込められていると信じていたし、それ以外の理由など、どうでも良かったのだ。


恋人よ。

キミは今でも、左の耳にピアスをしているのだろうか。


「これはね、私が初めて頂いたお給料で買ったピアスなのよ。その時付き合っていた彼に、『親孝行も良いけど、何かずっと身に付けられるものに使ったらどう?一生懸命に働いてお金を稼ぐことができたその時の喜びを保存しておくことは、いつか必ず役に立つと思うよ』って言われたから」


初めての彼の話なんて聞きたくもなかったけれど、その彼と同じように元カレになった僕のことも、きっとキミは大切に思ってくれているのだろう。なんてね。


恋人よ。

キミの幸せを、僕はそう言える立場にはないかも知れないけれど、心から祈っているよ。甘いものを食べている時の笑顔のように、変わらずによく笑うキミでいてくれると安心だ。もう僕は、そんなキミを隣で見守ることはできないけれど、恋人よ。上手くは言えないけれど、キミは僕にとっていつまでも大切な人のようだ。

この世の中というのは、キミと過ごした思い出を語るもので余りにも溢れすぎている。この世の中というのは。

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