幕間
「紹介しよう。鎮魔課に新たに加わったメンバーたちだ」
抑揚の少ない上司の声が、石造りの拠点に硬く響いた。
対魔人・魔獣戦に特化した特殊部隊──鎮魔課。その規模は、もはや一部隊どころか小さな騎士団に匹敵する。王都の治安維持部隊だけではとても賄えず、腕に覚えのある民間戦士まで徴兵してようやく成り立つ状態だ。
理由は明白だった。
戦死者が多すぎる。
ミカ・アルドゥーネは、その現実をいやというほど知っている。
半年のうちに、何人の先輩が、同期が棺に収められたのだろう。
数え始めればキリがない。思い出すたび胸の奥が空洞になるだけだ。
彼女の瞳からは、とうに光が失われていた。
平和であるはずの王都で、日常のように仲間が死ぬ光景。
その積み重ねが、確実に彼女の心をすり減らしていく。
目の前に丁寧に整列した“新兵”たちは、まだ知らない。
この場所が、どれほど容赦なく命を削っていく場所なのかを。
──なんて羨ましい。
ミカの得意とする元素術は、対魔人の近接戦で相性が良かった。
炎は殺傷力を高め、同時に防御としても使える。
生き残ったのが数人しかいないのは、皮肉にも“適性が高かった”というだけのことだ。
まるで、ふるいに掛けられているようだった。
耐え抜いた者だけが、次の地獄へ進む権利を与えられる──そんな悪い冗談だ。
ミカは無表情のまま、新兵たちの列を眺めた。
その視線が、ふと一人の少女で止まる。
「……セラヴィア?」
口より先に記憶が反応し、名前が漏れた。
呼ばれた少女が顔を上げる。大きな斧を背負い、背丈は小さく、幼い顔立ち。だがその瞳には、見覚えのある芯が宿っていた。
「……ミカ」
訓練院時代の同期。
特別親しかったわけではない。ただ、隣にいた記憶がある。
それだけだったのに──
頬を伝う熱が、勝手に零れた。
「どうして……泣いてるの?」
「な、泣いてません。ちょっと……目に、ゴミが」
雑すぎる言い訳だった。セラヴィアは困惑していたが、ミカは顔を伏せるしかなかった。
もう、これ以上同期を失いたくない。
ただそれだけだった。
その時、上司の声が再び場を引き締めた。
「先日、鎮魔課は十四名の犠牲を出した。しかし我々に悲嘆の時間はない。一刻も早く事態の収拾に努める。──命に代えてもだ」
その言葉は重く、鋭い刃のようにミカの胸へ刺さった。
だが、その痛みが少しだけ彼女を現実へ引き戻す。
自分で選んだ道。
ここで得る経験は、必ず“彼”を支える力になる──ミカはそう信じていた。




