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#074

 革命遊戯の説明はなおも続いていた。


《獲得した得点に応じて、上位五名は“革命ランカー”として、週に一度開催される特別な治安保全活動にも参加できるよ。それではレイジ君、ぜひ成果を出してくれたまえ。期待しているよ》


(治安保全活動……? なんだ、それ)


 聞き慣れない言葉に、レイジは眉をひそめた。

 どうにも腑に落ちない。この革命遊戯にはあまりに“損”がなかったのだ。

 もちろんターゲットの捕縛に向かえば危険はある。しかし、参加するだけで一点もらえるという仕組みが、そのリスクを帳消しにしてしまっている。


 ——まるで、参加者の母数を増やすこと自体が目的であるかのようだ。


「わかりました。今日だけになるかもしれませんけど……やってみます」


 これ以上ここにいる意味は薄い。そう判断したレイジは最低限の返事をして、その場を離れた。


「だいたい分かったか?」


 ノインが、どこか誇らしげな口調で声をかけてくる。

 ターゲットが犯罪者であること。これこそが彼の言う“ジャスティスクラブ”の正義なのだろう。


「ごめん。正直、デスゲームみたいなものかと思っていたよ。生き残りをかけた争いとか、そんな感じの……」

「そんな危険なものに、レイジを巻き込むわけないだろ? 安心しろよ。参加者の血は流れないんだ」


 柔らかい声音に、レイジの胸の緊張が少しだけほどける。


「僕はどう動けばいいんだ?」

「初めてだし、怖かったら無理に動く必要はないさ。様子見でもいい」

「……いや、最初だからこそ色々試してみたい」


 とはいえ、胸の底にじんと重い不安が残っているのも事実だった。

 レイジは革命遊戯開始まで、手の中の白紙の紙をぼんやりと眺め続けた。


 やがて、聖堂に設置された時計が静かに日付の変わり目を告げる。


 ——零時。


「そろそろだ。レイジ、準備しておけよ」


 ノインが立ち上がると、周囲の子供の何人かも反応して体を起こした。


 その瞬間、レイジの持つ紙が淡く青く光り始めた。

 紙面に、墨を流し込むように文字が浮かび上がっていく。


『アルバ・ライザーグ 罪状:窃盗・殺人 エルジア通り』


 さらに下には、驚くほど精密な似顔絵まで刻まれた。


「これが……僕のターゲット、か」

「レイジ、俺は行くよ、また後で。無茶すんなよ。危ないと思ったら逃げてもいいんだ」

「わかった」


 ノインが駆け出していくのと同時に、聖堂の入口から十数名ほどの子供が勢いよく夜へ飛び出した。


 残された聖堂を見回す。

 ——ほとんどの子供は動かない。


(やっぱり……参加だけでも点が取れるなら、動かないのも立派な選択肢ってことか。横取りが得点源になるわけだし……)


 そんな考察をしていると、背後から弱々しい声がした。


「あの……」


 振り返ると、クロエが怯えた瞳でこちらを見上げていた。


「たしかクロエさん、だったよね。どうしたの?」

「さっきはごめんなさい……。レイジくんも革命遊戯に参加するんだね。……気を付けて」


 言い終えるなり、クロエは躊躇なく外へ走り出ていった。

 レイジはその背中を驚き混じりの表情で見送る。


(意外だ……。あの子も、ターゲットを狙うつもりなのか)


 夜気が流れ込む聖堂の入口が、不気味に口を開けていた。

 レイジは手元の紙を握りしめ、深く息を吸った。


 聖堂を出たレイジは、夜気の冷たさに肩をすくめながら周囲を見渡した。

 深夜の街は静まり返り、どこか張りつめた空気が漂っている。


(……エルジア通りって、どこだ? ターゲットが全員ばらばらなら、誰かの後ろをついて行っても意味ないし)


 あてもなく走り出したが、表通りには人影ひとつなかった。

 違法入国者である以上、騎士団に見つかれば即アウトだ。

 その条件でターゲットを探し出し、捕縛までたどり着く。考えるほど、革命遊戯の難易度は跳ね上がっていく。


 通りの端に立てられた看板を見つけて走り寄る。幸い、エルジア通りは今いる道と交差しており、数分歩けば目的地に着くらしい。


 夜風が肌を刺す。酒場から漏れる灯りが、かすかに足元を照らしていた。

 エルジア通りは飲み屋が並ぶ雑多な通りで、まだ営業中の店から笑い声が漏れ聞こえてくる。


 目的の通りに着いたものの、レイジはそこで動きを止めた。


(……これ、めちゃくちゃ難易度高くない? 広すぎるだろ)


 そのときだった。


「あの……」

「うわっ!?」


 背後から声が落ち、レイジは思わず飛び上がった。振り返ると、申し訳なさそうに立つクロエの姿があった。


「レイジくんも……この通りでターゲットを探しているの……?」

「そうだよ。ということは、クロエさんも?」

「うん、罪状は詐欺だって」

「詐欺か。知能犯なら比較的捕まえやすいタイプかもね。僕のターゲットは殺人までやってるらしいから……ついてくると危ないよ?」


 そう忠告すると、クロエは小さく首を振った。


「同じ通りにターゲットがいるなら……協力するのも手だよ」


 意外な言葉に、レイジは瞬きをした。

 考えてみれば、二人で動いたほうが安全性は上がる。


「たしかに……それはそうだね。クロエさんは、捕縛したことある?」

「捕縛は……ないかも」

「じゃあ、今日は捕まえられるといいね」


 クロエは返事の代わりにこくりと頷き、通りに面した酒場の窓から中を覗き込んだ。

 ひとつ、またひとつと店を見て回り、目視でターゲットを探しているようだ。


 数件目の店を覗いたとき、クロエの口から震える声が漏れた。


「……私のターゲットがいた……」

「おお、どこ?」


 レイジも身を低くして外から店内を覗き込む。

 柄の悪そうな男が二人、テーブルを囲んで大声で笑いながら酒を煽っていた。


 手元の紙と見比べる。顔、特徴、間違いない。


「あいつだ……本当にターゲットだ」


 二人とも、紙に刻まれた似顔絵と一致していた。


「出てくるのを待とう。酒もだいぶ入ってるし……多分、簡単にやれる」

「キミ、暗殺者みたいな言い方するね」


 軽口を叩きつつ、レイジは紙を懐にしまい、そっと拳を握りしめた。

 心臓の鼓動がじわりと早まっていく。

 夜の冷気の中で、捕縛のチャンスはすぐそこにあった。

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