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幕間

 王都の街に、甲高い悲鳴が木霊した。

 倒壊した民家からは瓦礫が崩れ落ち、漏出した天然ガスが爆ぜ、いくつもの家屋から火柱が立ち上る。

 黒煙が空を覆い、鈍く霞んでいた。


 その混乱の只中に、小柄な女性騎士——セラヴィア・エルグレイスは立っていた。

 身の丈ほどもある大斧を肩に担ぎ、焦げた空気の中で息を整え、戦況を見据える。


 ――イリュドで見た、あの地獄と同じだ。


 セラヴィアは、喉の奥から震えがせり上がるのを感じた。

 研修で訪れたイリュドの壊滅的な光景。それが今、王都で再現されている。


 数時間に及ぶ戦闘で、彼女の所属する小隊は全滅した。

 応援に駆けつけた騎士たちも、次々と倒れていった。


 ――目の前の“怪物”によって。


 黒い肌。肥大化した四肢はもはや人の形を逸脱し、筋肉は鎖のように隆起している。

 唯一、人としての名残を感じさせるのは、頭頂部から垂れる長い髪だけだった。


 セラヴィアの魔力はとうに底をついている。しかし、怪物はまるで無尽蔵の魔力を抱えているかのように、息ひとつ乱していなかった。


「死ぬときは……勇敢に戦って死ぬ。それが、騎士の運命(さだめ)


 自分に言い聞かせるように、セラヴィアは呟いた。

 震える膝を叱咤し、瓦礫を踏みしめて前へと踏み込む。


 大斧が軋む音と共に、彼女は最後の魔力を振り絞った。


魔圧撃(マナスティル)・断空ッ!」


 蒼い斬撃が空気を裂き、怪物の肉体を深く断ち割った。

 だが――その傷口は、瞬く間に肉をかき寄せるようにして再生していく。


「キシダン……カクゴヲ」


 怪物が、はっきりと言葉を発した。


 思考を持つ怪物。

 それが、この戦場で最も恐ろしい異常性だった。


 セラヴィアの脳裏に、かつて戦死した父母の顔が過ぎる。

 これまで何度も死線を越えた。もう十分だ、と胸の奥で何かが囁いた。


「ごめんなさい……コーダ」


 最期に呼ぶ名は、ただ一人。

 かつて彼女の価値を見出し、背中を押してくれた唯一の友人だった。


 怪物の太い腕が、彼女の身体を鷲掴みにした。

 宙に持ち上げられ、骨が軋む音が耳の奥で鳴る――。


 刹那。


 銀色の閃光が一直線に走り抜けた。


 気付けば、怪物の腕が肘から先ごと空へ飛んでいた。

 セラヴィアの身体は誰かに抱えられ、背中が温かい。


「決して諦めるな、セラヴィア」


 低く、よく通る声音。

 感情を抑えた指揮官の声ではなく、どこか温度を含んだ声だった。


 セラヴィアは驚愕のあまり、目を見開いた。


 ――コーダ・エイルフォード。

 御三家の娘にして、本来は王都の中枢を担う指揮官。

 彼女が戦地の最前線に立つなど、これまで一度もなかった。


「あなた……どうして」


 息も絶え絶えに問うと、コーダが短く笑った。

 血と土で汚れた制服のまま、彼女を優しく地へ下ろしながら。


「たまには、自分の手で掴みたいものもあるということだ」


 その言葉が、立ち昇る炎の音に負けず、静かにセラヴィアの胸へ落ちていった。

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