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不死の魔女-増長した人類に鉄槌を下し分からせる絶対不敗の存在-  作者: 手の遅いエリオット


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第二十二話

場所は戻ってセント・グレゴリオ聖王国。

枢機卿の会合は時間が経過したものの紛糾して状況は進んではいなかった。


「その提案は懸命に布教活動にいそしむ牧師たちへの侮辱につながるものだということを理解してもらいたいね」

カーティスが机を叩きつつ抗弁する。


「他国での布教活動は大変に崇高でかけがえない。それを無意味だの無駄だのと言われたくはないぞ」


「無意味だとは言ってないさ。ただはかばかしくないね、効果が出てないねと表現したまでだ」

レノックスが例によって余計な一言を口にして、言い返された反論に更に油を注ぐ。

「我らが聖王国の評判を知らないわけではあるまい?知らないふりをするならぼくが列挙してやるから良く聞きたまえ。聖王国は終わった国だ、聖王国には馬鹿と狂信者しかいない、聖王国に住んでいたら有り金を全部むしり取られてすってんてんになる、知り合いが聖王国にいるなら良い奴なら連れ返せ、悪い奴なら放置して知らんぷりしろ、聖王国に……」


「もういいだろ、聞きたくないよそんな戯れ言は。立場をわきまえて話す癖をそろそろ身につけなよライミー」

ローザがたまりかねて彼の発言を強引に遮る。

「今はそういう評判を確認してる場合じゃないんだよ。敬虔な信徒が暮らしているこの国の行き先をどうするか、責任ある私たちが道を指し示さなくちゃならないんだ」


「なぜ君たちはそういう話になってしまうのかね。君たちが信奉する救世主は遍く全てを赦して救いたもうのではなかったのかね?もう少し前向きな議論をしてもらいたいものだよ」

ギュレルがひげの先端をつまみながらぼやく。越虚がいない今、彼だけが信仰対象が異なる存在だ。


「そうだねぇ。ここを天国だとして遊びほうけてダラダラと過ごして国の助けにならない者が多すぎる預言者の信者は言うことが違うねえ、勤勉な我々には考えも付かんよ」

そしてレノックスがそれに応じて相手の逆鱗に触れる軽口を叩く。


「それは私たちへの挑発と捉えて良いのかね?私にジハード宣言させたいのかな?」


「やめろ。一旦双方共に口を閉じろ。枢機卿の集まりだというのに理性の足らない発言が多すぎる。特にレノックス。お前はしばらく黙れ」

たまりかねてシュタールが議論と呼ぶにはあまりに乱暴な論争を中断させた。

「全く。枢機卿の会合と思えん。一度議題を整理する」


他の面々が黙りこくったのを確認してからシュタールは一人綴りだした。


「今までの話と重複するが確認のため聞いて欲しい」

「現状において重要度が高いのは国民の減少だ。特に聖王国に対して忠誠度が低く国家を脱出するケースが後を絶たない。これに対して他国における布教活動と宣伝活動による国民の募集の成果が追いついていない。このままでは国家の人口が減り続け破綻する結果が訪れる。これを手をこまねいて見ているわけにはいかない」

「次に国家の経済状況だ。現状の貨幣制度であるが他国の冒涜的な魔力本位制に押されているせいで対外的な貿易に多大な支障が生じている。貿易を行おうにも相手の業者が金貨での決済を断るケースが頻発しており、事実上制度上の問題で物資が不足する始末だ。結果として国内でまかなえない生活必需品の不足が物価を押し上げて聖王国全体のインフレが看過できないところまで来ている。これは早急に解決せねばならない」

「最近の問題としては物価の上昇により生活物資の調達に深刻な問題が発生したことから、配給で配られている小麦を他の食料品と交換する物々交換が常態化していることだ。これは闇ルートを媒介していることも影響し、交換レートがかなり住人側に不利に設定されていると聞く。これも放置できない」

「一方で労働先として教会が管理している農地がある。ここでは教会ごとにインセンティブを与えて開墾面積を増やし食糧自給率の維持に努めているところだが、農地となるのは国家の外縁部とその周辺にならざるを得ない。従い国境での出入国管理に問題が発生している。外部から審査を経ずに侵入されるリスクと、農地に働きに出たまま帰ってこない出国者の増加だ。教会側で人員を配置して監視を行っていると報告は受けているが、どこまで機能しているか疑問だ」

「数少ない金貨での交易が可能だったノヴィ・ソユーズだが、ここ最近で交易が止まってしまっている。未確認情報だがノヴィ・ソユーズに国家存亡の危機が迫り機能停止に追い込まれたとも聞く。あそこからは暖房に使用する石油も供給されているがこれが止まると冬が越せなくなることも想定せねばならなくなる。備蓄はそこまで多くないため、これも情報の精査が喫緊の課題だ」

「仮にこれからノヴィ・ソユーズからの資材が来なければ、計画されている景気刺激策としての中央聖堂改築も立ちゆかなくなる。実際に入ってくる予定だった鉄鋼材やコンクリート材が納期を過ぎても届いていない。これには建設員を募集し仕事として回す目的があったが、建設が進まないことから参加した国民から不満の声があふれている。代替する仕事もないためせっかく募集した人員が半分以上辞退していなくなったらしい。再募集しても集まるかは見通せない状態だ」

「ここまで述べた問題よりも恐らく深刻なのはこれだ。……魔力電池が闇で流通している、その情報を掴んでいる。恐らくこれは『ここにいる人間もよく知っている』ようだな。全員ではないが一人か複数。恐れ多くも神の力を窃取して横流しする行いは、私にとっては赦しがたい。欲に駈られて神を裏切る行為は決してあってはならないしあるべきではない。私腹を肥やしているなら自らの信仰心に照らして改めてもらいたい」


ここまででシュタールは言葉を区切った。


「私からは以上だ。皆から何かあれば聞かせてもらいたい。だが暴言や罵倒は謹んでもらいたい」


「要は国外からの物資が届いてないのでうまく回ってないってことだね?しかもノヴィ・ソユーズとの交易が止まってるってなるとあたしの注文してるアクセサリーとかどうなるのよ!?高かったのよ!」


「おお美しきシニョーラよ、それはたいそうお困りだろう。今度私の懇意にしている行商人を紹介してあげるよ」


「裏で魔力電池が出回ってるって話はぼくも耳にしたことがある。そしてあれは悔しいことに良くできてる。神の力を勝手に使っていなければぼくも使いたいくらいだ。ねえギュレル?」


「何が言いたいレノックス。私が不正に関わっているとでも告発しようというのかね。証拠を出したまえ」


「ああ、申し訳ない。ぼくとした事が憶測で他人をおとしめてしまったようだ。心から反省し二度としないと約束しよう」


「みんな聞いたかい?レノックスが軽口を叩くのを止めるってさ。次に余計な一言をしゃべったら枢機卿の地位を剥奪しようと思うんだが、どうだろうねぇ?」


「今のは私も聞いたよ。その議決、私も賛成だ」


「お、おお?構わないよ、ぼくだって神に仕え人々に奉仕する聖職者の一員だ。それではまずどうして軽口を叩いたら職を失うに値するかを成文化して法律にしなくてはね。条文作成はぼくが担当しよう。二ヶ月くらいあれば草案はできるかな」


「やれやれ、これだから二枚舌持ちは嫌なんだ。我らの祖先がメイフラワー号で旅に出たのは正しかったとまた証明されたな」


……シュタールがそれまでの議事をまとめて振り返ったというのに、彼らはまるでそれを前に進めようとしない。それだけではなく冗談では済まない話題を繰り出して言い争いの具にしている。


「その辺でやめろ!本筋から外れた下らない口げんかはたくさんだ!」


「そらみろ、シュタールを怒らせちまった。同じ神を仰いでる君たちがどうしてこうも仲違いを繰り返すのか理解に苦しむよ。君たちの聖典に致命的な欠陥があるんじゃなかろうな」


「ギュレル、あんたもだ!一旦全員黙れ!」


もう何度目かになるかわからないシュタールの制止の発言で一同は黙った。


「先ほどの私の発言の中で特に重要な部分を再び強調して、かつ解りやすく表現して提示する。全員良く聞くように」

「今の聖王国の最大の懸案事項は人口の流出と経済規模の縮小だ。これは決して放置できない。我々が怠慢を働けば国が消滅の危機に陥る。それはすなわち神に約束された地に住まう我々が神の意向に背いてアダムとエヴァのように再び楽園を追放されるのと同義だ。これを良く理解して欲しい」

「さっきまとめたのはそれに付随して様々な問題が絡み合って進行しているとの問題提起だ。どれも一切捨て置けない問題ではあるわけだが、それらの根本にあるのは国力の減少にあると表現して構わないだろう。多少の問題は人口が戻って人々に活気が戻れば解決可能なはずだ」


一同はうって変わって沈黙を守った。そしてそれを破るのはいつもこの男だ。


「あ……ちょっといいかい?」


レノックスが挙手をして発言を求めた。その彼らしくない行動に全員が彼の顔をまじまじと見る。


「なんだよ、揃って変な目で見やがって。あのな……今更だけれどもぼくたちは揃いも揃って知識も足らないしたいした知恵も持ち合わせていないよなぁ」


いつもなら誰かがそれに言い返すところだが、今回はそれにも反応は薄い。


「だいたいだなぁ……あ、これは言ってはまずいな」


いつも言い過ぎるくらいに躊躇なく喋るレノックスが言いよどむ。そのくらいに場は重苦しかった。


……彼らの発言がまとまりなく、的を射ないのには本質的な問題に誰も触れようとしないところもあった。


この場には『国王』がいないのだ。


本来であれば場を収めて国家としての舵取りを任される国家の責任者。それがいない状態で会議を行っているわけだ。


元々聖王国には代々の国王がいた。初代は国に名前を残すグレゴリオ。それからは血統ではなく枢機卿の中から適任者を選んで次代の国王とするシステムとなっていた。

だが、今やそれは機能していない。先代の国王が身罷られて今年で十年になる。そのままになっているので、国民の間にも不安が高まっている。自然と現在の枢機卿への支持も失いつつあった。

彼らがそれを知らないわけがない。普段から信者と接しているのだから、あからさまに見る目が冷たくなっているのを肌で感じている。しかしながら彼らはこうやって議論を避けている。


根本的な原因は枢機卿の人数が少ないことにもあった。国民が減り、教会の数も減少傾向にあり、国家の規模が全体的に縮小して選出される枢機卿が出てこなくなった。今は人員として全盛期の半分にも満たない。比較的経済に明るい信者の多いユダヤ教のシナゴーグに至っては、枢機卿を輩出する意義を見いだせないとして代表者を送り出すのを止めている。

そして、ここにいる誰も理解しているが口には出さない問題がある。それは『三大宗教に帰依していない越虚がその長命から聖王国の様々な事柄に大きく関わっている』ことである。

越虚はこれまで四代の国王に仕え、意見を度々求められ、時には次の国王の候補の助言まで行っていた。東洋の密教の修験僧が西洋宗教に依拠する国家の重鎮として重用されている。実際として、現在枢機卿に名を連ねている面々はそこに思うところもあった。今回の会合を越虚なしで開いているのもその影響が大きい。その反動はこうしてまとまりが付かない議事に現れている。


誰にも明かしていないがシュタールは懐に越虚から託された書簡を潜ませている。そこには彼が提案する様々な提案が記されている。越虚は自分が出席できない会合に付託する意見を予め用意していたのだ。

だが、そこに彼から枢機卿を増やすことと国王の選定を急ぐようにとの文面があったことから、シュタールはそれの公開を拒んでしまった。そこには彼なりの葛藤がある。

今、ここでシュタールがそのことを議題に載せたとしよう。そうなれば他の面々は率先してシュタールを次期国王へと推薦するだろう。しかし当の本人はそれを望んでいない。腹案もなく手立てもないのに国王に祭り上げられ、責任と決断だけを押しつけられる。それなりの名誉欲はある彼ではあるが、さすがに国王になるのは時期尚早だと思っているのだ。

さきほどレノックスが言いよどんだのもそれだ。彼は場の空気を読むのは下手ではあるがあれこれ仕事を押しつけられる雰囲気だけは鋭く読む。飄々と自らの仕事を押しつけられないよう身をかわすのが上手な男だった。


その書簡には対外的に売れる商品作物を戦略的に栽培して外貨を獲得するとか、街の外での取引を見ないふりをして魔力電池の黙認を薦める内容もあった。恐らく現在の聖王国でやれることはそのくらいであろう。

しかしそれも、『魔力は神から授けられた奇跡の力』との共通認識から受け入れられる提案ではなかった。ましてやシュタールは堅物である。柔軟な受け入れなどできようはずがない。


かくして、時は過ぎゆけど議題は進まず。

棚ざらしと責任転嫁ばかりの枢機卿たちの会合は夜半まで続いたのだった。

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