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不死の魔女-増長した人類に鉄槌を下し分からせる絶対不敗の存在-  作者: 手の遅いエリオット


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第十八話

トーキョーに一人の男がいた。名前はアレックスだ。

彼は前世ではアメリカ西海岸でギークワーカーとして働きながら違法薬物の運び屋をやっていた。料理を運び、車で人を運び、ネットの依頼を見て得体の知れない薬物も運ぶ。いつも彼は街中をせわしなく走り回っていた。PCでダークウェブにも入り浸り、危ない情報やランサムウェアで抜かれた企業情報を加工してネットに放流もやって日銭を稼いでいた。


それだけで満足していれば良かったものの、彼は欲をかき薬物製造の上層部につながるコネを捜し、流通ネットワークを中抜きして利益を荒稼ぎするようになった。それが裏組織の耳に入って、恨みを買ったことからヒットマンを雇われて射殺されてしまったのだった。

死ぬ寸前にライフルの発射音の反響音を彼は聴いた。だが、次の瞬間彼はこちらに漂着したのだった。そのまま彼も転生者運搬ドローンに載せられトーキョーに来た。幸いだったのは彼は転生者にしては魔力量が少なかったのだ。よってそのまま彼は拉致されずトーキョーの市民として居住を許された。


彼は一日で魔力を20ほどしか生み出せない。だから仕事をしなければ基本的に生活できない。食費としてはギリギリ何とかなったが、それだけで人は生きて行くには辛すぎる。

しかし彼は目ざとい性格であったので、支給された魔力電池のからくりにも早い段階で気がついた。


魔力電池には当局から魔力を搾取する仕掛けが入っている。それも一定量ではなく割合で抜かれるらしい。多く充填していたらそれだけ多く抜かれる。これのおかげでトーキョーでは納税という概念が存在しない。バカだとそこで思考が止まるが、アレックスは他人を出し抜いたりシステムのハックをするのが大好きだったので、魔力関連の仕組みを自分なりに調べてあらゆる抜け道を試してみた。さすがに電池の分解はできなかったが、時間と場所によって魔力徴収の量の変化があるかどうか、充填のタイミングで変化があるか、受け渡しの相手によって変化があるか、それこそ思いつく限りの観察と実験を行った。


結果として『徴収が行われているのは街中の特定のスポット』であることは突き止めた。街灯として設置されている魔力ランプが、通りがかる人間の電池から魔力をかすめ取る役割も果たしていたのだ。

これに気づいた三日後、彼は警察からの出頭を命じられた。早朝に彼の居宅に警官がやって来て、彼に国家転覆に関する容疑が掛かっていると告げられたのである。

だが、アレックスはあまりにもあからさまなとってつけた理由と、そのタイミングに失笑するところだった。当局の連中はなかなか間抜け揃いであるらしい。どこに街頭を眺めていたら逮捕される世界があるというのだ。しかも行動を起こしてから拘留までの期間も短すぎるじゃないか。こっちの警察はヌルい。彼はそう確信した。


彼は一週間の拘留処分となった。その後尋問があり、どうして街頭で不審な動きをしていたかを詰問されることとなった。彼はトーキョーの特徴的な街並みを好奇心本位で眺めていただけだとシラを切り通した。

彼には勝算があった。彼が調べていたのは魔力に関わる重要機密に違いない。これが世間に知られたら国家の経済に対する信用が失墜する。だから表立って彼にその認否を問うことができないのだ。万が一アレックスがそれを知っていなければ藪蛇になってしまうので。そして彼の命をすぐに奪わなかったのにも意図があったと感じた。

彼にとってみれば、そこまで必死になっている事が答え合わせに等しかった。痛いところを突かれた際には如何にして相手にそれと悟られないかが勝負の鍵となる。ポーカー勝負で絶好の手が入っているときに大事となるのは相手に気取られないことだ。察知されたらオリられる。安いと思わせて勝負に来させないと勝ちは拾えない。それが駆け引きというものだ。


「なぁ、もう分かってるよな?俺をこれ以上締め上げても何も出ねえよ?」


取り調べが始まって6日目のこと。アレックスは賭けに出た。ずっと同じ知らぬ存ぜぬのやりとりが続いて訊く方も訊かれる方も手詰まり感が出ていると踏んで、彼から尋問官に話を振ってみたのだ。

これは相手があまり尋問になれていない様子でもあったのも判断材料になった。彼も前世で散々警察の世話になっていたから、取り調べを食らった経験が豊富だったのだ。つまり怒鳴り散らして恫喝して圧迫を掛けてから態度を柔らかくして期待の答えを引き出す、そういう尋問テクニックにも受け慣れていたのだ。今の相手はそんなやり方を知らずにやらされている、そんな雰囲気があった。普段そういう業務に就いていないのではないかと彼は考えたのだった。ならばうまく対応すればこっち側で場をコントロールできる。


相手はたじろぎ、次に席を外した。明らかに誰かの判断を仰ぎに行った。

アレックスは賭けに勝ったと確信した。これでこの賭場は彼のものだ。

やや時間が空いて、やって来たのは偉そうな風貌の男性だった。飾りの多い制帽に制服。外見から見ればこの警察のトップの方にいそうである。


「で、お前は何を知っている?」

「……えらく大雑把な聞き方じゃないのよ。知ってることは無いわけではないけど、あんたが聞きたいこととは別かもなぁ」

「何が言いたい?」


「なぁ、あんたは治安維持の責任者だろ?だったら仕事は減った方が嬉しいよな?現場からの突き上げが減る良い方法があるんだ、聞いてくれないか?」

「……聞こうじゃないか。つまらん話なら承知せんぞ?」


彼にとっては相手から聞く姿勢を引き出せた朗報だった。後ろ半分の脅しなど無意味だ。


そこからアレックスは警察署長に対してプレゼンを始めた。街を観察していて気づいたこと、経済の回り方と格差が存在すること、それの対応に警察が追われているだろうことも。

この都市国家がいわゆる前世持ちの多いところだという背景もあり、アレックスはあえて強めの態度で臨んだ。その上で我に秘策があり、相手の仕事も手伝いながら甘い汁も吸えそうだという罠も仕掛けたのである。相手が生真面目で職務に忠実なら引っかからないが、そうでない俗物ならばうまくいく。

果たして、署長は話を聞くうちに乗り気になった。


「ふぅむ。お前さんはなかなか面白いな。今までの部下は話が分からない奴らばかりだったが、お前さんとはうまく付き合えそうだ」

「そりゃあどうも。バカ正直な連中ばかりじゃ社会ってのはうまく回りませんからね。あんたも大変だったろ?」

「そうなのさ。言っても分からんし何をやらせても工夫をしない。いちいち命令しなければ仕事ができないとか、こっちの負担が増えるばかりだ。お前さんみたいな部下が多ければ助かるんだがなぁ」


ニコニコ笑いながら相づちを打ちつつ、アレックスは心の中で毒づいた。てめぇみたいなボンクラの部下になるなんてぜってぇお断りだ。


さて、アレックスが署長に語った詳細はこうだ。


まず、街の一角に歓楽街を設ける。表向きは別の言い訳を用意しておくが、実質そうだと認識させる舞台装置を用意しておく。その一角だけ赤い街灯でも設置しておけばいいだろう。

その辺りは何故か警察が立ち寄らない。地面に白線でも引いておき、そこをまたいだら治外法権として扱うようにしておくのだ。

そこでは大規模なテロの画策でも無い限り大抵のことは黙認する。いかがわしい連中が妙なものを取引したり不幸な女が性的虐待を受けたとしてもエリア内で起きたことには警察は関与しない。当然訴えを受けたら受理はするがサボタージュでもして先延ばしし棚上げにする。これを何度かやればそういう扱いなのだと周知されるだろう。そこには得体の知れない自警団が暴力を伴った管理を請け負う。売春の管理もやる。当然警察は黙認だ。

男女の性行為が行われるとすれば、確実に「買いたい男ども」と「売りたい女ども」がマッチングされることが予想される。市場原理に基づき、余程の上玉であればともかく、そこらのみすぼらしい格好の女が高値で買われる可能性は薄い。貧乏故に体を売るとなれば値段を釣り上げる交渉などしていられないだろうからだ。予想では魔力100かそこらで一晩を見知らぬ男に明け渡すことになろう。中には徒党を組んで値段交渉をするものも出るだろう。女どもが娼館を設置して高値で男を釣る可能性もある。だがそれならそれでもいい。それもまた市場の成り行きだ。買い叩かれる貧しい女には厳しい世界となるが、死ぬよりはましだろう。

肝心なのは「鬱憤を晴らしたい連中」が「貧困者を買い叩いて憂さを晴らせる」仕組みを構築させること。要はガス抜きだ。貧乏人が集うゲットーを設置して下級市民が判りやすくなればそこを下に見て安心しつつ落ちたくないとも考えるようになる。ああはなりたくないから真面目に生きよう。そう全体意識を方向付けるのだ。

反対に貧困者には「体を売れば一日食っていける魔力がすぐ手に入る」スキームを提供することになる。多少あちこちに擦り傷やら裂傷やら作るかもしれないけれども、困ったときに食い扶持を確保できる道があるのはでかい。自警団が見回るなら余計な暴力を振るわれずに済む。皮肉だがそれは貧困者に対して一定の利益を生む。

そもそもが貧困者に対する暴力や性犯罪は現在でも多発している。暗黙の了解で魔力で体を売る女はそこらにいる。野放し状態だから警察も手を焼いていた。……これを場所限定で黙認することで、その他の地域の治安も回復するおまけがつく。


ここからが一番重要だ。

その場の管理はアレックスが担当する。過去に前世で似たようなスラム街に住み着きやり方を熟知している彼にとってはその経験が生きる。陰から幾人かを操って動かせばうまくいくだろう。

警察は暴徒の発生頻度が減る。貧困者からの陳情も減る可能性が濃厚だ。性暴力の相談は増えるだろうがそっちはアレックスと協議の上でうまく回していけるよう工夫していく。署長は配下の警官に対して特定区域の犯罪行為を見逃すように命令する。中間管理職の幾人かを抱き込んで金やら女などで懐柔すればいい。結果として他地域の問題が減れば警官の負担も減少するだろうから物わかりのいい警官は反対しないはずだ。生真面目な警官を抑えつけるのは署長に押しつける。

アレックスの上がりは直接地域の顔役から魔力の徴収を行うと共に赤い街灯の魔力徴収をこっちでかすめ取る。恐らくこれだけでもかなりの収入になるはずだ。……このアイデアを開陳するのはリスクがあったが、アレックスがあまりにも平然と話すものだから署長は彼がそれを知る立場にあるのだと誤認して話を合わせてしまった。


発想としては極めて非人道的な提案である。特に貧困者たちの人権は一切考慮されていない。もはや悪魔との取引と変わりがない物だった。

だが署長はその提案に乗った。善悪の判断ではなく、自らの仕事の低減と受け取れる報酬の見積額の多さに目がくらんだのである。洋の東西を問わず警察組織は汚職がつきもの。それはこちらでも同様だ。

かくして、アレックスの企みは走り始めた。彼は裏組織を一つ手に入れて性犯罪から魔力を絞る錬金術を確立した。署長はそれに目をつぶる代わりに分け前をもらった上に貧困者対策もできることとなった。署長はこれを上に報告しないつもりだ。したら決済は面倒だし誰かの横やりが入って計画が頓挫する。だいたい取り分が減る。だから内密に事を運び利益を独占するつもりだった。

アレックスはそれを想定しながら、署長の身分が近い将来に必ず失われるだろうことも予想していた。魔力電池には間違いなく出入りの履歴がどこかに保存されているはずだ。彼が設計したら確実にそれは仕込む。不自然な魔力の流れが露見したらそこから足が付くのは考えておかねばならない。だが認可がもらえてシステムが動き出すことが肝要なので、相手が失脚しても問題は無い。だから好きにやらせて夢を見せてやればいいのだ。当局からの追及は署長で止まれば良い。自分に累が及ばないように、事前に関係は整理しておこう。

アレックスはとてもクールでドライだった。利用できる奴は利用して捨てる。自分は火の粉をかぶらないようにうまく立ち回る。やり過ぎれば前世のように暗殺されるかもしれないので、欲で都合良く動きそうな連中を集めて動かすつもりだ。今度は利益を独占して恨みを買う愚は犯さないようにしよう。自分はほどほどに稼げれば良い、あとは周囲に気前よくばら撒いてやろうじゃないか。


こういうものはまずビジネスモデルが定着するまでが大事だ。それまでは抱え込んだ連中を儲けさせてやらねばならない。自分に利益が入るのは後からでいいのだ。赤い街灯から魔力を徴収するのもすぐには実現しないだろう。目の前の男が失脚していなくなっても実現するかどうかは分からない。更に上の立場の人間とコネが生まれるまでは懸案事項として棚ざらしにしよう。今は計画を始める前段階だ。焦りは禁物。

今回は事情聴取から拘留されて尋問を受けた状態から相手を抱き込めただけでも上出来だ。


こうしてアレックスは一介の市民から成り上がる階段に足を掛けた。

彼の計画はここから半年間は組織形成に費やされ、それに掛かる必要経費は署長の電池からなだめすかして供出させた。

とある貧民街が区画ごと誰かにより買い取られ、街道との境目に白線が引かれた。理由は一切説明されなかった。

警官の人員によく分からない素性のものが追加で配置されたのもこの頃だ。採用基準は明らかにされず、粗暴で知性にも欠けてはいたが組織として人手不足であったことから大きな問題にはならなかった。

その時点で署長は不適切な魔力の受け渡しや不穏な動きを会合で指摘され、懲戒解雇となった。だが不思議なことに署長は失職してから別の職に就き、更に収入が増えた。どこに転職したのかは明らかにされなかったが。


アレックスが思い描いていた組織は一年後に本格始動した。トーキョーに歓楽街が誕生した瞬間である。

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