表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
不死の魔女-増長した人類に鉄槌を下し分からせる絶対不敗の存在-  作者: 手の遅いエリオット


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

16/19

第十五話

姉弟は今までこちらに来てから、ずっと寄り添って生きてきた。以前は国が分かれて敵と味方に分かれてしまい、連絡も取ることができずに離ればなれになったまま消息がつかめなくなっていて、その上で伝える手段も無いままに命を奪われた……はずが、見たこともない荒野に二人で漂着したのである。実際にこれはお互いの想いの深さと共に『遠く離れた地でありながら射殺された時刻が同時であった』奇跡がもたらしたものであった。


気がついたとき、目の前に愛する人がいた。二人は何故そうなったのか、そこはどこなのかを詮索する前に衝動的に抱き合い、涙を流して再会を喜び合ったのである。射殺された絶望からの再会であったので、二人にとっては望外の喜びだった。

それ以来、特にマリーヤは何があっても離れることはしないと心に強く決めていた。奇跡は二度は起きないだろう、よって再び離れたら二度と会えない予感がしたからだ。だからユーリが思想的に偏った話をしても否定はせず、曖昧に言葉を濁してやり過ごしてきた。


だが、夕食で食べた雑穀のミルク粥と炙った塩漬け肉を食べてそのまま寝入った弟ユーリの寝顔を見て頭をなでているマリーヤは、それも限界が近いように思えてきた。

彼女は過去も共産主義の考えに馴染めず西側の国へ逃れていた。本来ならユーリも連れて行くはずだったのに、はぐれてしまって散り散りになったのである。揺れの激しいプロペラ機の轟音と共に遠ざかっていく空港を涙を流しながら眺めたあの日の光景は脳裏に焼き付いて離れない。見えるはずもない遠景にどこかにユーリがいるのではないかと必死に目を凝らして探し求めていたのだった。

それが再び共に生活できるようになった。どのような形であれ、愛する弟と暮らすことができるようになった今、それを手放すなど決してあり得ないものに思えた。自分の信念をなげうってでも、何を犠牲にしてでも離れたくない、マリーヤは固く心に誓っていた。


マリーヤは、幼い頃より生まれつき視力に優れていた。遠い物にもすぐ気づき、かくれんぼ、捜し物も得意だった。子供の頃には裸眼で空を飛ぶ野鳥を見つけ出して図鑑の写真と照らし合わせて調べるのが大好きな少女だった。

ウクライナに逃れてからもその目は健在で、誰も探せなかった上空の偵察ドローンの敵影を裸眼で見つけ出すくらいだった。

それが民間自衛組織の一員の耳に入り、パルチザンに入るきっかけとなったのだった。彼女の視力の高さは双眼鏡など目立つ装備なしに敵の基地を見つけ出したり味方のドローン操縦士の側で任務に就いて早期警戒に当たったりと常に役立つものだった。


それが引き継がれたのだろう。マリーヤはこちらに来てから視力強化の固有魔法が使えるようになっていた。前世よりも遠くが見え、意識すれば更に視野を広げて観察することすらできるようになっていたのだった。

……ノヴィ・ソユーズの規定では魔法を持つ者は申告する義務が生じる。彼女のように本来の肉体の機能を強化する魔法の場合、最悪では視力を乱暴な手段を用い物理的に使えなくする処置がとられた可能性が高い。しかし今回は本人が魔法であると認識していないことと、外部より魔法を行使している様が分からないことが幸いして、そのような悲劇が起こることはなかった。


彼女は眠った弟をベッドに移して寝かしつけ、そっと窓を開けた。

ここ、ノヴィ・ソユーズには航空機がまだない。軍用ドローンもない。裏側ではジェットエンジンや軽量合金が昼夜をまたいで開発中であり、軍用機はそろそろロールアウトを迎える予定になっていた。だが空を飛ぶまでには至っていないので、夜空を切り裂いて飛ぶ航空機はまだ存在していない。トーキョーでは魔力で飛行するドローンが広く用いられているが、当然のごとくノヴィ・ソユーズにて魔力を原動力とするエネルギーなど使われるはずもないので彼女は同じ名前を持つ飛行物体がこちらの世界で普及しているなど思いもしなかった。


空からエンジン音が響いてこない。爆発音もしてこない。今更ながら彼女はここが戦場ではないのだと再確認していた。そして、それがどれほど心に安心感をもたらすことだろうか。

贅沢などできない暮らしだが、銃撃や爆撃におびえることがない。敵兵の警戒をかいくぐって通信線の切断や偽情報の発信を行う任務もない。平和な日々はなんと素晴らしいことだろうか。


そういえばあまり夜空を任務以外で見上げることなどなかった。こちらに来てからも空をあまり意識してこなかったような気がする。ここは夜に明かりが少ないので、星空がよく見える方だ。だが今日はやや曇天模様で星のきらめきを見ることはほとんどできなかった。

ふと、どこかにかすかな光が見えた気がする。マリーヤは少し目を凝らして空を捜した。いつかのように飛行物体などないか注意深く空を見る。

……すると、明らかに何らかの物体が浮いて移動しているのが見えた。速度も早くかなり高さがあるようで、シルエットは明確ではない。だが飛行コースが直線であるので目で追いかけることはできる。

それを視線で追いかけつつ数秒間見つめていると、唐突にそれは明るくなって、そして消えた。


……


魔女と分身には、内々で決められている手順がいくつか存在する。それらは本体の命令を受けずに行動できる条件や、緊急時にすぐ対応しなければならない行動などである。

その中に、これがあった。


『分身が隠蔽を使用して偵察任務を遂行している際に、何らかの手違いで隠蔽が解けてしまったり、もしくは隠蔽の魔法が無効化されたり突き破られた際には、強制的に分身はそれまでの情報を本体へと送信して、速やかにその身を爆散させる』

これは魔女が独占している魔法技術を漏洩させないための手段であった。


その瞬間、北に位置する人間の集落付近の上空を一体の分身が高速飛行していた。最近栄えてきたそこの集落と地殻変動の状態を調べながら別の目標へと移動するためだ。


魔女にとって魔法とそれに付随する技術は発展すると脅威となるとの認識であった。だが魔法を使わない構造物は重要度評価が極めて低かった。これは魔女が前世を持つ人間たちの科学技術について詳細なデータを持っていないことに起因する。まさか前世で核分裂及び崩壊熱をベースに熱核兵器を実用化していたとは思いもしない。

そこの集落は以前より規模が拡大しているようだった。しかし魔女から見れば鉄と油で動かしている物体がどんなに大きくてどんなに力強かったとて、魔法を防御する魔方陣が設置されていなければ指を折って数える時間も掛からないくらいに焼き尽くしてしまえるものでしかない。人間側に教えてある魔法でいくらでも攻撃することが可能であるのに機械によって面倒で鈍重な方法で攻撃するなど愚の骨頂である。よってこの集落を魔女は軽視し取り立てて警戒していなかった。事実、魔女はまだこの国家にノヴィ・ソユーズという名前があることすら知らないでいる。


だが。


そこから分身に向かって明確な魔力が向けられたのである。

魔法に疎いはずの全く警戒していなかった地域から魔法らしきものが向けられた。『隠蔽を用いている分身に対して』である。魔女にとってはあり得ないし、あってはならない。

見上げた彼女も相手が魔女だと認識していたわけではない。それどころか魔女がいるという情報すら知らない。

魔女は、隠蔽を人間に喝破されたことは一度もなかった。魔女が隠蔽を使えるようになって500年以上。その間一度もなかったのだ。

それが、今になって破られた。全くの偶然の出来事ではあったが。


すぐさま分身は、あらかじめ決められていた緊急時の対応法に則って、情報を一方的に本体に送信して共有を終わらせ、隠蔽が破られたことも伝え、即座に所持していた魔方陣を作動させて体内で魔力を爆発させて粉々に粉砕して果てた。


報告を受けたとき、魔女本体はトーキョーの街にいた。小鳥の姿へとその身を変えて、潜伏しつつ観察していたのだ。トーキョーでは重要施設に近づく物体は虫であろうとも全て魔法で攻撃して焼いていた。それ故魔女も危ない場所には近づかないよう用心しつつも空を羽ばたいて飛ぶ体験を楽しみつつ散策していたところだった。

そこに突如として緊急の報告。情報共有、そして隠蔽が破られた可能性があるので規定に従い自爆する。それを最後にその分身から連絡は途絶えた。


送られてきた情報を確認したところ、充分に高度を確保し、音もなく高速で飛行中に魔法に頼らない都市から魔法が向けられてきた、とある。隠蔽の魔法は存在を知らなければ「そこに何かがある」かどうか認識はできないはずだ。となれば「最近になって魔法の技術が飛躍的に向上して無効化に成功した」とか「魔法の才能があるものが意図的に隠蔽を貫通する方法を編み出した」と考えて備えねばならない。状況的に偶然という線は排除すべきだ。

事は一刻を争う。魔女はそこに一番近い分身を検索し、そこに本体の意識を移した。

魔女の本気の飛行速度なら時間は掛からない距離だ。魔女は隠蔽を掛けておきながら魔法が投射された場所へ急行した。


近づいてみると、その集落は想像以上に発展しているのが見て取れる。これだから人間は目が離せない。放っておくとさっさと発展して危険な存在になってしまうのだ。

だが相変わらず魔力を使用している反応はろくにない。防御結界も見当たらない。これは朗報と言えた。魔法に対しての護りがないところなど、いとも容易く更地に変えられる。むしろ魔女にとってはここまで発展しているのに魔力を使わないのが不思議であった。ここの人間は愚かなのか、それとも別の理由があるのだろうか?

あちこちを素早く見渡していると一カ所だけ魔力を使っている反応があった。魔女は開いている窓からそこへ一気に飛び込んだ。


……


「なんだろう?防空用の阻塞気球?航空ドローンの実験?いや、ここにそんなものあるわけないか」


マリーヤは空のささいな変化に思いをはせた。そして未だに戦場の癖が抜けていないことに気が滅入った。

消えてしまった空間を、彼女は更に目を凝らして捜してみる。だが、特に変わった物はないようだ。


ため息をつきながら窓を閉めようとした瞬間、外からまばゆい光の塊が部屋に飛び込んできた。

彼女はあまりのまぶしさに顔を手で覆って防御姿勢をとる。


目を開けると、そこにはとてつもなく恐ろしい人影が立っていた。音もしない。空気も動かない。人影はゆらゆらと燃えるような光をまとっているが、その光は壁に届いていないのか部屋は真っ暗のままだ。実体感がまるでなく、ホログラフや眼球に直接映像を投影しているのかと錯覚する光景。だが明確に殺意が向けられているのが伝わってくる。そう、戦場で自爆ドローンが上空から向かってくるのを視認したときと同じような恐怖感だ。


突如、その人影がマリーヤに英語で誰何してきたようだ。彼女はロシア語圏で生まれ育ち、その後ウクライナに移住してからはウクライナ語で生活してきた。戦場に出るようになってからは義勇兵やエンジニアと情報交換しなければならなくなったので英語もある程度は読み書きはできる。こちらの世界では英語が使われていたのでしばらくは拙い英語で会話もした。しかしノヴィ・ソユーズに入ったら公用語はロシア語なので、とっさに話された英語の意味が頭に入ってこなかった。

頭の中で英語で言われた内容を反芻する。……どうやら「あなたは見えているのか」と言ったようだ。


「はい、み、み、見えて……います……」


かなり時間をおいてから、絞り出すような声量で辛うじて返答することはできた。久しぶりの英語なので発音も正しいのか自信がないが、多分伝わったはずだ。


……


魔女は隠蔽をまといつつ、相手を高温で焼き尽くす魔方陣を既に準備している。その効果で魔女の周囲には高濃度の魔力が充満し、魔力を持たない者にすら視認できる規模にまでなっている。だがそれを隠し通せるくらいに隠蔽もまた強力だ。

つまり、隠蔽を無効化できる人にしか、その悪魔が顕現したような恐ろしい姿を見ることはできない。例によって飛行時には周囲に力場も張っているので空気も動かない。猛スピードで窓から突進したというのに、人間にはそれが全く関知できないのだ。ただ魔力反応には引っかかるためトーキョーでは行えない。実際トーキョーでは隠蔽状態で何度も撃墜されたことがある。


明らかに相手の女性はそれを見ての反応と思われた。つまり、隠蔽の効果がないことが確定である。


「お前は見ているな?」


さらに確認のため、魔女はそのまま女性に問いかけた。


魔女は、律儀に返答を待っていた。その間に状況を再確認する。

彼女は隠蔽を貫通する術を持っている。恐らくそれは彼女の固有魔法である可能性が高い。

視覚に作用して強化する固有魔法はカツウラのアイラも持っている。彼女はそれを活用して海中の魚影を見てから網を入れて、前世では絶対実現不可能な漁法を行っている。だがアイラには隠蔽を喝破するまでの能力はない。少なくともアイラについている分身からそのような報告はない。

念のため、アイラの側にいる分身を個別に呼び出して情報共有を求めてみた。即座に応答があり、そのような反応は一切なかったという。報告を求められた分身は確認のためアイラの前で手を振ったりこれ見よがしに何度も目の前を飛んでみたりしたが気づいた様子はないとも報告してきた。


魔女は人間が稀に持っている固有魔法に目がない。何故ならばそれは魔女が未だに持っていない新しい魔法の習得につながるからだ。その魔法を観察し、機序や術式を研究し、魔方陣に転写して使える形に整え、必要に応じて威力や規模を変化させる。そうやって魔女は千年以上掛けて魔法のストックを増やしてきた。魔女が発動寸前でとどめている高熱魔法も、大昔に一人の人間が「ほんのりと物を暖める力」を固有魔法で使っていた物を研究して威力を最大限まで高めた成果である。これはのちに人間側にも開示し、広く世界で活用されている。余談だが光遙亭のコンロにもこの魔法が使われている。だが人間側が大規模攻撃にもその魔法をベースに強化してきた物を攻撃魔法として魔女に向けてきたことも何度もあり、そのたびに魔女は人間に分け与えたことを後悔している。

目の前の女性は恐らく強力な固有魔法を所持しているらしい。ならばここで処分してしまっては勿体ないだろう。何とか理由をつけてここから連れだし保護しておきたい。


「は……みぃ……みぇ……みぅぇてま……」


女性が掠れてうめくような声を出した。ようやく声を絞り出した、そんな感じだ。


「見えているのだな?」


「みぅぇてます……」


肯定している様子だ。だが言葉が辿々しい。こちらの言葉に不慣れなのか?

そういえば稲を育てていたときに交流のあった日本人たちも言葉が不自由で苦労した覚えがある。恐らく彼女の母国語は英語ではなかったのだろう。


「英語、できるか?」

「少し……」


全く話せないわけではないらしい。ならば地道に会話をしてやるか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ