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不死の魔女-増長した人類に鉄槌を下し分からせる絶対不敗の存在-  作者: 手の遅いエリオット


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第十三話

マサヨシは吊し上げの場所からよろよろと自室に戻り、粗末なベッドに横になっていた。

けがの具合から言えばすぐに病院で看護を受ける必要があるのだが、悲しいことに本人は動く気力が無く、同僚も助けてくれなかったのでそのまま放置されてしまっていた。

彼が寝ている個室だが、セルジオが割り当てられていた部屋である。ここに移ってきた当初は同僚との大部屋から個室になったことで大はしゃぎであったマサヨシであったが、こうなると誰も看病してくれない状況が仇となっていた。

枕元には魔力電池と両親から贈られたペンダントが置かれている。窓からの淡い光を受けてそれは鈍い光を放っていた。


そこに新しく送られてきた分身が現れた。現れたと言っても例によって隠蔽で誰にも視認できない。

新たな分身は、魔女本体から密命を受けていた。


「その男はカツウラに有用かもしれない。よって目立たぬように連れてくるように」


方法に関しては分身に一任されていた。その場、その時に最適な方法を決めて良いと。


彼は現在衰弱していて、トーキョーからカツウラまで自力で移動できるとは思えない。

このまま静養させてある程度まで回復させる方法もある。しかし専門の施設でない場所で療養させて効果はあるのか。どうにも介抱する人員はいないようである。となると放置されている可能性が高い。下手をするとこのまま衰弱死してしまうおそれもある。

となれば、ドローンにも隠蔽の魔法を掛けてそこに彼を収容し、一気に運んでカツウラで静養させるべきではないか?

……今までカツウラに何人も誘導して連れてきたが、そこまでの手段は使ったことはない。しかし、誰も関知していない現状においては、それが一番いいのではないだろうか。


分身はサブを通じて本体宛てに意見具申した。魔女が専用で使っているドローンの使用許可を求む。

しばらくして返答が来た。了解、隠蔽を掛けた状態でトーキョーに送るので受け取られたし。


魔女のドローンは大きさや形を自在に変化させられる。普段は副人格であるアイビーが腰掛ける小さなクッション型の形で運用しているが、いざとなれば十数メートルの大きさまで拡大可能である。当然人間には開示していないので、魔女以外に知られてはならない。今回は特例として分身に使用許可が出た。


更にこのドローンは動作原理も抜きん出ている。

ドローンの外殻に刻まれている魔方陣には「力場制御」と「重力制御」の効果がある。それにより任意のベクトルへドローン全体を牽引して移動させる機能があるのだ。加えて周辺に力を制御するフィールドを展開しており、外部環境に重力異常を及ぼさず、重力の急激な変化と潮汐力による物質劣化を防止している。フィールドは外気との空気抵抗もキャンセルしており、大気圏内で光速の10%近くまでドローンを加速させても大気摩擦が起きないようになっている。それどころか微風さえ吹かない凄まじさだ。

これらは前世持ちから見れば完全なオーバーテクノロジーである。故にそういう物が存在しているとすら想像も付かない。魔女にとってみれば千年以上に渡り、あまりに長い間に退屈しのぎに様々な試行錯誤を繰り返した結果たどり着いた魔法の極地であり、地球のテクノロジーに似せるつもりも追い越す意図もない、単純な積み重ねの結果からの独自進化と言うだけだ。地球の知識を持つ者には科学技術の常識が邪魔をしてたどり着けない技術とも言えた。


マサヨシの居室の窓際にドローンが音もなく到着した。

分身はコントロールを引き継ぎ、隠蔽を解かずに窓を開ける。さすがの魔女も物質を透過させる技術は持っていない。だが周辺に人影もなく、魔法のデバイスで監視されていないことも確認済みである。

ドローンの大きさを三メートルほどに大きくしてから開口させる。窓には十分な大きさがあったので、マサヨシの肉体をベッドごと持ち上げ、ドローンへ搬入する。窓は普段開け放たれることは無かったようで、ヒンジ部分から金属がこすれる音が放たれた。

……ふと、残されたサイドテーブルに置かれたペンダントに目が行った。周囲にはほぼ私物はなく、鈍く光を反射するそれが恐らく彼の私物として唯一の物に見える。

隣に置かれた魔力電池と共に分身はペンダントをマサヨシの胸部に載せた。

マサヨシに寄り添うように分身はドローンに乗り込み、外から窓を閉める。再び窓の枠がきしむ音が響いた。だが現在のところ誰もそれには気づいていない。


ドローンの開口部が閉まり、唐突に加速した。観察者がいたら空間から唐突に消え失せたように見えるだろう。

しかし力場制御が効果を発揮していることと、重力制御でドローン全体に牽引力が掛かっているおかげで、ドローン内部には一切加速によるGがかかっていなかった。空気すら動かない。風切り音も発生しない。もちろん光も発生しない。

表に面した監視カメラは機能していたが、一切記録にその全貌を残せなかった。


後日。彼がベッドと共に忽然と姿を消したことが警察署内で大きな話題となった。しかし事なかれ主義の署長は説明するにはあまりに情報の少ない一連の事件を、発表せず報告せずもみ消して事態の収拾を図った。よって、その日をもってマサヨシという警官は署員名簿から削除され、給与相当の魔力の支払いも停止された。署長レベルで報告が止まったことからその上には情報が届かず、精査すれば魔女の情報が関知されそうな動きは上層部に対し闇に葬られることとなった。


分身は誰にも気づかれないまま、マサヨシをトーキョーからカツウラまで瞬時に移送するミッションを無事に完遂した。それを分身からトーキョーのサブと本体へ報告する。

サブからは彼が消失した影響と周辺の監視を続行するとの連絡が来た。本体からは状況の確認、及びカツウラでの受け入れ体制を引き続き整え情報工作も実行する旨の連絡があった。


分身は彼のペンダントを観察し、素材や目立った特徴がないか確認した。……特に何も仕掛けはなく、切断しても何も内部構造に異常は無いようだ。

それを踏まえて、分身から本体に意見具申があった。

今からこのペンダントに偽装し、彼の観察と必要なら誘導を行いたい。

本体から許可が出たので、分身はペンダントを素粒子レベルまで粉砕し、それに成り代わるよう自らの身体を変質させ、ほぼそのままペンダントへと変身した。


……


朝の日差しを受け、眩さを感じたマサヨシは目を覚ました。


「ああ、起きたね?具合はどう?どこか痛む?」


聞き覚えのない女性の声だ。目をパッチリ開けて周囲を見れば、全く見覚えのない部屋にいる。

慌てて身を起こすと、胸に置かれていた魔力電池とペンダントがタオルケットと共に足の方にずれて移動した。落ちてくる感覚でマサヨシはそれを見る。


マサヨシは自分の身体をまさぐった。あれほどひどかったケガがほとんど治っている。

彼が状況を把握したと察知したアイビーは先んじてこう話しかけた。


「どうだい、まだ痛む場所はあるかい?ここにはいい薬があるから治療もスムーズに進んだんだけど、もしかしたら治療できてないところとかあるかもしれないからね。大丈夫?」


それを聞いてマサヨシはあらためて身体をチェックした。腕を振り回し、足を曲げ伸ばしして、手足の指も動かしてみる。……みごとにケガは治っているようだった。


アイビーはそう言ったが、あくまで方便である。

彼をここに運び入れたところで結界を張り、彼に対して沈静と睡眠の魔法を動作させた。そして肉体の回復を促進させ、一時的に自然治癒力の強化を行った。

その間はアイビーが治療に当たる間、彼に流動食を与え、定期的に下の世話を行い、身体を拭いてやり、包帯を取り替え、身体を浮かせて褥瘡予防まで行った。

途中で幾度もデイジーが様子をのぞきに来たが、結界に関しては治療の一環で衛生状態を保つためだとし、治療の影響でずっと眠ったまま昏睡状態にあると説明しておいた。彼女もそれで納得したようで、彼に与える流動食の材料や換えのシーツなどを運び入れたりして手伝ってくれた。

こうして彼がほぼ完治する頃には二週間ほどの経過時間となっていたのだ。結界を解除する前には伸びた髪を整えて爪も切り、時間経過があった痕跡を残さない細工まで行った。

魔女の技術を持ってすれば外科手術で治すことも可能だったが、どこかに不自然な痕跡が残るかもしれなかったので、今回は選択しなかった。


「えーと……治療して下さったんすか?ありがとうございます」


マサヨシはベッドから立ち上がり相手の女性に頭を下げた。ついでにペンダントを拾い上げ、胸に掛ける。


「気にしないでいいよ。ここ、カツウラではお互い様精神でね、困ったときは助け合うんだよ。お返しをしたかったらあとから働いてくれたらいいからね」


「ここ、カツウラなんすか?俺、あれからどうなったんすかね?」


「あたしも詳しくは知らないよ。あんたがひどい状態でカツウラに連れてこられたからあたしが治療してあげてたんだよ」


「今は何月何日っすか?」


……その質問は少々都合が悪い、治療で魔法を使って短縮させているので正しく答えると矛盾が生じる恐れがある。


「今は六月の頭だね。あたしは何日かとかあまり意識しない生活してるから正確な日付は分かんないや」


「えー……そんなんで生きていけるんすか?」


「あたしは魔女でね、魔力には事欠かないのよ。だから用事が無ければ寝てばっか。……正確な日付が知りたければ光遙亭に行けば分かるよ」


と、アイビーは即答を避けた。ついでにデイジーに投げる方向で誘導する。


「うわぁ、話には聞いてましたけどいるんすね、そういう人。でも退屈しないっすか?」


「あはは、どうせ誰かが何かしら相談を持ちかけてくるし、デイジーが唐突に来ては面倒を起こしてくるし、朝から晩まで寝ていられる日なんてそうそうないよね」


「……朝から晩までって、すげぇパワーワードだ」


そういう話をしていると、いきなり勢いよく扉が開いた。


「おいーっす!アイちゃーん!彼の具合はどうなったー?」


魔女は当然彼女がやってくることは熟知していたが、アイビーは頭を抱える仕草を見せた。


「けが人が寝てるところに勢いよく入ってくるんじゃないわよ、もう」


デイジーはそれに対して、周囲を眺めて言い放つ。


「けが人、いないじゃん?」


「……たまたま今回はうまく治療できたからけが人じゃなくなってますけど、普通はこんな早く治らないからね?」


「だってアイちゃんだもん、普通じゃないでしょ?だからいいの!」


「あたし以外でその謎理論を応用しないようにね?」


と、そこにマサヨシが割って入った。


「あ、どもっす。こないだまでけが人だったらしいですけど、なんかピンピンしてます、マサヨシです」


「よっ!元気そうだね。あたしはデイジー。こいつの友だちだよぅ」


デイジーはそう言いながらアイビーの頭を乱暴になでる。なでるというより掴んでいる。


「やめなっての!……で、あたしがアイビーよ、まだ名乗ってなかったね」


と、いつもの二人の会話を交わしながらも、アイビーはやや焦っていた。

何しろ、『マサヨシをトーキョーからカツウラまで運んできて治療を行い完了したのがトータルで二週間足らず』というのが短すぎる。彼は警官をやっていたのだから、場所の位置関係も基本的な知識として把握しているだろうし、人間がどんな手を尽くしてもトーキョーでの一般的な医療技術であそこまでの重傷を短時間で完治するなどあり得ない。トーキョーの医師からは全治三ヶ月の診断結果が出ていたのだ。これはマサヨシ自身が医師から告げられている。運搬するのもそうだ。世間一般に用いられているドローンでトーキョーからカツウラまで早くても五日はかかるのだ。病人搬送ともなれば慎重を期さねばならないからそれよりも遅くなる。

そのうちバレるであろうが、この場としては引き延ばしてごまかしておく方がいい、魔女はそう判断した。

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