言葉の壁ですれ違う二人
「女はちょっとぐらいバカな方が、可愛げあんだよ……。実際、お前……」
とちょっと言い淀んで、筧はぼそりと呟いた。
「か、可愛いし……」
斜め下を向いて、私を褒めた。おおう……。新鮮な反応だ……。
「……あ、ありがとう……」
私も俯いて、照れてしまう。だって、男子にそう言われたのは初めてだから。
何度か可愛いと言われたことはあるけど、それは全員女子だから。男の子ってあんまり褒めないもん。さっきの兎の子は例外。
だからそんなこと言われてしまったら、どう対処すればいいのかわからない。
なので、私も褒め返すことにする。
「か、筧もかっこいいよ……」
「……」
二人して照れてしまった。なに、この……初々しいカップルみたいな空気!
まだ付き合ってもいないのに、何故こんなピンク色なムードになっているの。舞台は廃校舎だよ? 最悪のシチュエーションだよ? ムードなしだよ? 私が選んだ場所だけど。
筧が二歩下がる。九十度にお辞儀して、手を差し出してきた。
「閑麗香さん。俺と突き合ってください」
「え……」
この場所で、まさか告白すると思わなかった。
これでもし手を取ったら、イエスという意味で取られるよね。でも今ここで断ったら、明日からどんな顔して会えばいいか……。元々そんなに仲良くはなかったし、別に付き合いたいと思っているわけでもないし……。うーん、どうしたらいいの……?
これってずっとこの状態だと、しんどいよね……?
私は頭を下げて、謝った。
「ごめんなさい!」
「マジかよー」
筧は頭を上げて、残念そうに深いため息をついた。
「絶対イケると思ったのに。あーあ……」
「……なに、その言い方……。まるで本気じゃないみたいに」
私は筧がそんな人間だとは思いたくなかった。けど、なんだか恐ろしい。
よくわからない。でもなにかを感じる。言葉にできないけど……空気が違う。