一夜の家
空を飛ぶこと、数十分。お母さんの別荘とやらに辿り着いた。
風が気持ちよかったけど、素直に怖かった。心臓止まるかと思った。
お母さんの持っていた別荘は、白いペンションみたいな家だった。周りに木が植えられていて、地面は人工芝でコーティングされている。ちょっぴり高級感が漂ってくる家だ。こんな家に住みたかった……って、言ったらダメだよね。
使われていないからか、蔦が生えていて、見たくもないクモの巣を発見してしまった。誰も住んでいないと、こうなるよね。家も人を必要としているのだなあ。
にゅにゅにゅは壁に手を触れて、微笑んだ。
【……懐かしい】
――僕も、ここには来た覚えがあるわ。断片的な記憶だけれど。
【一夜。お前の家だ】
――僕の?
【お前の両親が、幼い麗子から奪い取った家が、お前の家】
にゅにゅにゅは悲哀に満ちた瞳で、真実を告げた。
一夜は目を見開いて息を呑んだ。そんなこと知っていたら、お母さんとお話できないよね。お母さんは、どんな風に思っていたのだろう。
【麗子は、優しい心を持ちながらも、お前の両親を憎み、お前をも憎んでいた。だから今まで、お前に悪いと思いながらも呪いをかけていたのだ。可愛げのある、復讐だ。それだけですんでよかったと思え】
この別荘はお母さんが静かに療養するために親が与えたものだったらしい。景色も空気も綺麗で、静かな場所だからちょうどいいと思う。それなのに、一夜の両親に別荘を無理やり奪い取られてから、不幸が立て続けに起き、運を吸い取られた。この場所は風水的にもよくて、お母さんの病気の療養には最適だったのだ。
一夜の両親はそれを知っていて、無償で譲れと脅した。一夜の家は代々続くお金持ちの一家で、お母さんの家は一夜の家に世話になっていたから逆らえなかった。お母さんの病気はどんどん悪化していき、お母さんの両親にも不幸があった……とにゅにゅにゅは語る。
それから、お母さんがどれだけ壮絶な人生を送ってきたかを、にゅにゅにゅは教えてくれた。一夜はなにも悪くないのに、反省していた。悪いのは親だよ。
――親の責任は……子である僕の責任でもある……。
【お前の肉体が死なずにすんだのは、たまに麗子がお前の世話を焼いていたからだ】
にゅにゅにゅはお母さんに肩入れしている。好きみたいな感じがする。
にゅにゅにゅが取りつく人間は、優しい人間なのだろうか。でもそれだと、私が優しい人になるよね。血筋を好んで取りつくのかも。それはにゅにゅにゅの意志なのかな?
【一夜にはその小汚い人間の血が流れている。私はお前の幸せは望まない。……しかし、今の器である麗香が望むと言うのならば、仕方ない。お前たちの願い、聴き入れてやろう】
にゅにゅにゅはふっと笑って、金色のドアノブを回した。
【今度の器には、幸せになってもらいたい】
――……!




