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にゅにゅにゅ  作者: 社容尊悟
二 麗しい香り
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塩を送られる麗香




 一夜は私に助言をせず、浅川の動向を見守ることにしたらしい。

 私の脳には一夜の声は届かない。離れていると届かないみたいだ。

 私はというと……、すぐ横の教室に来た。ここで位置を確認しながら浅川と同じポーズを取ってみる。逆ということは、左右対称にすれば、呪術は解けるはず。

 でも、なにも起こらない。空気が変わった気配がしない。

「……そう簡単には、解けないってこと……」

 手を下ろし、ため息をつく。

 もう一度クラスに戻って、さっきの浅川と正反対のポーズを取ってみた。

「……面白いことをするよね」

 浅川の後ろに行って、同じポーズを取る。なにも起こらない。

 一夜は無表情のままでなにも言わない。

「ボクのポーズを真似たところで、この術は解けないよ」

「……でも呪術を解くにはそうするしか……」

「場所が大事なんだよ、場所が」

「場所?」

 浅川はヒントをくれている。妙に親切だな。

「呪術はかけるよりも解く方が難しい。かけた本人以外が解くのがね。なんでも順番があるように、これにも順番があるんだよ。閑さんはわかるかな?」

「浅川……。本当は、みんなを死なせる気がないんじゃ……」

 浅川はクスッと笑って、眉尻を下げた。

「それはどうだろうね。他人にはボクの心はわからないよ」

 多分、一夜にはわかる。浅川の気持ち。私にはわからないかもしれないけど……、人の気持ちを理解できる一夜なら、わかると思う。目配せしてみた。

 ――……。僕にだって、わからないことはあるのよ。

 そうか、一夜にも浅川の心情までは読み取れないのか。

 浅川もきっと、悪い人じゃないと私は信じる。人の命をなんだと思っているのかとは、説教できないからね。

 私は正義の味方じゃない。善人でもない、ふつうの女の子だったんだから。

 関係ない人の命だったら、助けようと思ったかどうかなんてわからない。

 私には関係ないって、切り捨ててしまえば終わり。人の繋がりって薄いから、誰か一人の言葉で切れる縁だってある。だから……その時にならなければわからない。

 その時になれば、私がふつうの女の子じゃなくなったかどうかがわかる。

「ありがとう、浅川。敵に塩を送るって、浅川みたいな人のことを言うんだね」

「ボクは敵とは思っていないよ」

「味方なの?」

「さあ。ボクに訊かないでくれよ、閑さん」

 浅川が私を睥睨へいげいする。私の足がちょっとだけすくんだ。

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