平々凡々な日常がいい
私が焦らすと、兎の子が痺れを切らした。
――なにを躊躇しているの。早くして。そんなに長く時間を止めていられないのだから!
「ご、ごめん。でも……」
優柔不断なところは好きじゃない。自分でもそう思う。
けど、選択を迫られて早急に決断できるほど、私は芯の通った子じゃない。だってまだ十四歳の中学生で、昨日までごくふつうの生活を送ってきた女の子だよ?
失いたくない生活だって、ある。
ぎゅっと拳を握って胸に当て、目を閉じる。
「私……」
――……。言って。
「平々凡々な日常が好き。みんなと笑い合える毎日が好き。お母さんもお父さんも、しつけ方に不満はあるけど、大好き。学校も、嫌いじゃない。だけど……これからそうじゃなくなるなら……、その生活を取り戻すために…………戦おうと……思う」
本に出てくる主人公みたいに、かっこいいことは言えない。
でもこれは、私の精一杯の決心。これからなにか起きるなら、頑張って対抗策を考える。私になにかできることがあるなら、やろうと思う。
そしたら、いつもの生活に戻れるんだよね? いつもの平々凡々な……けれどもそれが楽しいと思えるような生活に戻れるんだよね?
私は兎の子に同意を求めるように、目配せした。
――さあ。わからないわ。でも、なにもしないよりはましよ。
頼りない答えだけど、ちょっとは元気が出てきた。希望があれば、走り出せる。
「……わかった」
――時を戻すわよ。
兎の子はまたジャンプして、空中で逆回転。懐中時計を掲げてなにか呟く。空気が変わった。
そしてまた膝の上に着地。私の膝の上がよほど気に入っているようだ。
――時間は戻ってしまったわ。さて、一仕事一仕事。
兎の子はよじ登って私の胸に乗っかった。何故か胸を揉まれている。そういう趣味……?
恥ずかしさのあまり、顔が赤くなる私。
「ちょ、ちょっと!?」