麗香の憧れ
「歳いったらなあ、やることがなくなってくるから、今のうちにたくさんやっておくんだぞ。義務的なことがなくなるだけで、趣味は満喫できるがな。お前たち子供は趣味以外のこともしておかんとな」
お父さんはそんなことをうそぶいた。
「……趣味以外のことって?」
「勉強とか、家事とか、礼儀とか? 子供の間に身に付けておかないといけないわよ」
う……。また勉強か……。大人って大変なんだなあ……。
「そういうお母さんたちは身に付いてるの?」
「身に付いてるから結婚もできて、仕事もしているのよ?」
「そ、そうですか……」
論破されてしまった。真に正しいです。
「ということは、身に付いてなかったら結婚もできなくて、仕事もできないの?」
「そうでもないわよ。身に付いてなかったら、身に付けられるように会社がなんとかしてくれたからね。礼儀を知らなくても、その人が欲しいと思ったら、きちんと教育してくれるのよ。お母さんの時代は、そういう時代だったわ」
今の時代はどうかわからない……ということか。
「今は就職難みたいだけど、麗香はやればできる子だから。ちゃんと仕事先見つかるわよ。見つからなくても、自分を責めないでいいの。悪いのは自分でも、企業でもない。誰も悪くないのよ。相性が合わなかっただけ、そう思っておきなさい」
お母さんはありがたい言葉を言ってくれた。
「うん」
「……麗香にはまだ早いけれど、早い、早いって言っているうちに、就活は始まってしまう。これだけ覚えておくといいわ。あなたの魅力は誰かが見つけてくれるのよ。魅力がない人間なんて、いないものね。麗香はとっても魅力的よ」
ニコッと微笑みかけてくれた。お母さんが結婚できた理由が、なんとなくだけどわかった気がする。なんて優しい人なのだろう。美人だし、非の打ちどころがない。
「ありがとう、お母さん。お母さんはいつまでもそのままでいてね」
「それはできないわね。あっという間にしわしわのおばあちゃんになってしまうわ」
お母さんはおばあさんになっても、きっと美しい女性だと思うけどな。
私、やっぱりお母さんみたいな人になりたい。いつまでも、私の憧れ。
「そうなっても、お母さんのこと、好きでいてね」
「うん」
「病気や怪我で苦しんでいたら、助けてね」
「わかった」
「頼りにしてるからね」
お母さんは物悲しそうに笑う。どうして、今そんなことを言うのだろう。私は不思議に思いつつも、訊かなかった。なんでも訊けばいいってもんじゃないし。




