選ばれた麗香
――落ち着いて。
私の膝の上に兎の子が飛び乗ってきた。風がヒューヒューと吹いている。窓から入ってきたのだろう。もう驚きはしない。でも、なんだか……ホッとした。
「君は……あの時の……」
――話は後よ。閑麗香。
「どうして私の名前を……」
――ごめんなさい。君の特異体質に気付かなくて。でも正解だったわ。君を選んで。君はにゅにゅにゅの対抗者なのよ。
兎の子は兎の耳をしな垂れさせて、私に謝った。なんの話をしているのだろう。
「にゅ、にゅにゅにゅ?」
――さあ選んで。……もしも、目の前で困っている人がいたら、君は助ける? それとも、見て見ぬふりをする?
あの時はなにがなんだかわからなかったけれど、今は違う。
はっきりと答える。私は――、
「助ける!!」
――よく言ったわ。
兎の子はにっこりと微笑んで、私の膝の上からジャンプする。
空中で一回転した兎の子は、バッと手を広げて懐中時計を掲げた。絵本で読んだことのあるような兎に、よく似ている。役割はちょっと違うのかな?
兎の子が目を閉じて、英語かどこかの言語で呟くと、空気が変わった。みんなの動きが止まった。時計を持っていたし、時を司る系の能力……? いきなりファンタジックな。
「ど、どういうこと?」
理解が追いつかない。私のたいしたことのない頭じゃ、理解できない。
兎の子が再度私の膝の上に飛び乗った。私と兎の子だけは動けるみたい。
「説明してくれないとわからないよ」
――少しは自分の頭で考えてみたらどう?
「バカなんです!」
半ば投げ槍に言い返す。すると、兎の子はハァとため息をついて教えてくれた。
――いい? これから僕の言うことをよく聴いておくのよ。
「僕?」
――僕が僕と言って何が悪いのよ。唯一のアイデンティティなのよ?
兎の子はムッとして頬を膨らませた。いちいち可愛い。もふもふしたい。