ロマンチックな名前
嘘をつくのは好きではない。でも、みんなのためにつく嘘ならば、ついてもバチは当たらないよね……? 私の平和で平々凡々な日常は、もう終わってしまったから。
一夜が来てから、ずっと特訓の毎日。にゅにゅにゅの呪いも度々起きている。
廸がいつ何時ターゲットにされるか、わからない。
みんなを守るには、教えちゃいけない、知られちゃいけないんだ……!
「うん……約束する」
私は人差し指を差し出す。一夜は頷いて、指切りをしてくれた。
――それでこそ、僕が見込んだ子だわ。
「もう……」
たまに褒める。真剣な目で。なんでしょうかね。私を落とそうとしているのですか?
そう簡単には落ちてあげませんけどね!
舌を出して、一夜を挑発する。一夜は微笑んでいた。
「なんで?」
――ん?
「私がこんなに敵視しているのに、なんで優しくしてくれるの?」
――んー、そうね。触りたいからかしら。
「真面目に答えて」
――君が好きだから。
「……す……」
頬が熱を帯びる。照れているのを、ごまかせない……。
――そういう反応も含めてね。
一夜はクスクスと笑っている。手玉に取られているような……。
――僕の名前ね、一つの夜って書くでしょう。英語ではワンナイトね。英語にしたら特に意味もなさそうだけど、僕の名前の由来はちょっと特殊。ある夜に男女が出会うの。どちらも一目惚れしてしまってね。僕の両親のこと。そしてその夜に一つになる。僕にもそうなって欲しいと思って、つけてくれたのよ。どう? ロマンチックでしょう?
一夜は自分の名前の由来を誇らしげに語った。
「へえ……」
――まあ、君が嫌いな下ネタに変わりはないけれどね。
「いいよ。それは……。私も好きかな」
――そうなの。
「うん。素敵だと思う」
――ありがとう、麗香。乙女ね。
「乙女なのは君の方だよ」
――ふふっ、そうかしら。
一夜は心から喜んでいる様子だった。