兎の子の正体
「え……え……? ええええ?」
かずや……って言った? 今?
かずやというのは、兎の子の友達のことではなくて、兎の子の名前だったの?
頭が混乱して、収拾がつかない。ベッドでゴロゴロしている兎の子を引き剥がせない。
――これからは、僕のこと、一夜と呼んでね。
「……いや。絶対にイヤ!」
――そんなこと言わずにぃ。
「ブリッコしないで!」
――仕方ないじゃない。僕、今女の子みたいになっちゃっているのだから。本当の僕……一夜は凄くカッコいいのよ? 君だって、魅惑の美青年に惚れてしまうわ。
「……そんなことないもん。私、君みたいな人苦手だから」
――わかってないわね。これだからお子様は。
「そのお子様にいやらしいことしたの、誰?」
――それは耳が痛いお話ね。僕が君に惚れているのは事実よ。
「う……」
途端に顔が熱くなる。こうもはっきりと好意を示されると、どうしていいかわからない。
――だから君にはちゃんと手解きしてあげるから。
「な、なにを……。もしかしていやらしいことをする気じゃ」
――被害妄想。違うわよ。特訓!
「ええーっ! なんの?」
――明日からのお楽しみよ。よろしくね、麗香。
兎の子、もといかずやが飛んできて、言った。また、手を差し伸べる。
「……うう……いやだ……」
ろくでもないことを考えているに、決まっている。かずやはいやらしいことしか頭にないもの。私を見る目が他の人とは違う。性的な目で私を見ている。
目付きが嫌。性格が嫌。見た目が嫌。全部嫌。
生理的に嫌!
だけど……かずやの力を借りないと、私はなにもできない。それを知っていて、かずやはこうやって私の平和な日常に転がり込んできた。
女の子の見た目をした彼と一緒に、特訓するしか道はない。
私は諦めて、その小さな手をぎゅっと握り返した。
ぶすっとした顔で、挨拶。だって、本気で嫌いだから。
「……よろしくしたくないけど……、よろしくお願いします」