母の思い
お母さんと私は、椅子に座って、お茶を飲みながら話をすることにした。
「お母さんのお家はね、そんなに裕福じゃなかったのだけど、いつも凄く楽しかったのよ。小さい頃は、貧乏貧乏って同級生に言われて苛立っていたわ。でも……大きくなってからわかるようになったの。お金が全てじゃないって、ね」
「うん」
「家にお金はなかったけれど、温かさはあったの。お母さんもお父さんも優しくてね、兄弟みんな優しかったわ。家族、友人、知人、知らない人、それから嫌いな人、どうでもいい人。全ての人に優しくできるようになりなさいって教わったのよ。笑顔を絶やさないようにしなさいとね。そしたら、幸せが舞い込んできたの。……一時だけだけど……」
お母さんは頬杖をついて、首を傾けた。
お母さんの考えはよくわかった。私を甘やかす理由も。
「麗香はもっと厳しくした方がよかった?」
「うん。だって……みんなみたいに気が強くないもん。こんなにうじうじしてる性格、みっともないし。いじめられるよ」
「そう……。それは難しいわね。なにか言われたら、言い返すようにしなければいけないものね。でも気にしないでいいのよ。いじめる人間は、いじめられる人間なのだから」
「どういうこと?」
「人をいじめる人はね、満たされていない人なのよ。一見満たされているように見える人を、いじめたがるものなの。だから、いじめられたらこう思ってやりなさい。あなたは可哀想な人だとね。あなたも満たされるように、私が笑顔をあげると言ってあげなさい」
「……逆上しない?」
「怒るわよ?」
「だったらよくないんじゃ……」
「人に同情されるのは、誰だって嬉しくないかもしれないわね。だけど、人を傷付けることしか能のない人間には、お似合いな言葉でしょう?」
もし、お母さんの言った言葉を、私があの時言っていたら……。どうなっていたのだろう。
呪いとはいえ、あれは完全にいじめだった。でも孤立無援の状態で? 効果あるの?
「……」
「そういう人も幸せな気分にさせてあげられれば、いいのだけどね」
思わしげな顔をしてお母さんはフウとため息をついた。
「どんな人にでも優しくできれば、お母さんの立派な子よ」
「どんな人にでも優しくなんてできないよ。そんなの、難しい」
「難しくてもやるのよ。自分が幸せになりたかったら、相手を幸せにするの。周りが幸せなら、自分も幸せ。幸せはきっとやって来るのよ。大丈夫、麗香にならできるわ」
誰もが幸せになったら、呪いはなくなるのだろうか。
兎の子の呪いも、そのお友達の呪いも……。この世から全て呪いは消えるのだろうか。
私は誰かを幸せにすることができるの?
「お母さんも、他人に優しくできなくて、つい怒ってしまうことはたくさんあったわ。でも心を穏やかにしていれば、誰にでも優しくしようと思えるのよ。人に優しくしたら、自分も気持ちいい。相手も気持ちよくなれる。とてもいいことでしょう?」
「うん」
「優しいことは悪いことではないのよ、麗香」
お母さんのその時の真剣な表情が、凄く印象に残った。




