実習班の幕田くん
今日は結婚記念日なので……馴れ初め的なやつを書いてみました(*´Д`*)
お目汚しすいません。
あとで妻から聞いた話をもとに、妻視点で書いてみました。
今日は大学で初めての実習がある。
『白衣を着たい』という理由で化学系の大学に入った私は、この日をとても楽しみにしていた。最初の実習は基礎実験。半日かけて基礎的な器具の操作を学ぶ。
腕がなるぜ!
一通り作業が終わり、反応を待つ間しばらくの待ち時間。この空き時間に今までやった操作や反応をまとめてレポートを進めておこう。
「すいませーん。布団干しっぱなしなんで、取り込みに一度家に帰っていいですかー?」
隣の実習班からそんな声ーー
は? 何言ってんのこの人? 頭弱いの?
普通、実習中に布団取り込みにいく人いないよ。
「ダメです」
ほら、やっぱりダメだった。
なんだろうこの変な人。
* * *
2年生になり実習の内容も複雑になってきた。
考察すべきことも多くて、班のメンバーと協力しながら進めていかないと、とてもじゃないけど終わらない。
それなのによりにもよって、実習班にあの『変な布団の人』がいるし……。
「どうも幕田です」
茶色い縁のゴツいメガネに、適当に脱色した痛みまくりの茶髪。髪型はボサボサでだっさい。
どうせチャラチャラした軽いやつに違いない。
その軽そうな頭の中と同様に、ね。
でも話してみると、意外と真面目な人だってわかった。もう一人の実習班の男子と、中学生みたいなノリではしゃいでいるのはウザかったけど、実習にはしっかり真面目に取り組んでくれる。
まぁ実験内容から化学反応を考察する作業においては完全に戦力外だったけど。やっぱり、頭弱い。
それにやたらと妹の写真を「かわいいでしょー」見せてくる。完全にシスコン。
あ、風の噂で聞いたけど、バイト先で知り合った彼女がいるらしい。ふーん、どうでもいいけどね。
そんなある日、こんな事件があった。
『ガスバーナー前髪炎上事件』
幕田くんに作業を任せて、私は結果をまとめていた。するとどこからか、あまり嗅いだことのない異様な臭いが……。
顔を上げると、ガスバーナーの火で幕田くんの前髪が大炎上している!
「幕田くん! 前髪!」
「え? うわあああ」
幕田くんは燃え盛る前髪を手でパンパンと叩くと、煤けた前髪が舞った。全体的に長めのボサボサ頭だった幕田くんだったけど、前髪だけぱっつんのスッキリした感じになっていた。
普通ガスバーナーで前髪燃やすかよ、バカじゃん。
笑っちゃ悪いのに笑いが込み上げてくる。幕田くんは絶望的な表情を見せているが、堪えられない。
そして私は、ケラケラと笑った。
* * *
そんな話を友人にしたら「最近、その幕田くんって人の話ばっかりだね」って揶揄われた。
そりゃ実習班が一緒なんだから、嫌でも私の大学生活に関わってくるんだし、仕方ないじゃん。
「でも、すごく楽しそうに幕田くんのこと話してるよ」って? そりゃあんな変な人の話は、笑い話にしかならないでしょ。
それに幕田くんは彼女いるらしいし、私はそんな人に横恋慕するような面倒臭い女じゃない。
好きとか、そんなんじゃない。
でも、幕田くんに彼女がいなかったら、どうなんだろう。
* * *
それから実習班も変わり、幕田くんとは疎遠になっていった。でも別に私は悲しくなかった。面白いテレビ番組が終わっちゃったみたいな、そのレベルの寂しさがあったくらい。
でもそれから一年ちょっと。
3年生の冬に、幕田くんから久しぶりにメールが来た。
とりとめもない雑談のメールだったけど、なんだか懐かしい気持ちになった。あの頃の楽しい気持ちが蘇って、自然と頬が緩む。
どうやら、かなり色々あって彼女さんには随分前にフラれてたらしい。だからと言って、私には何も関係ない事なんだけど……。
なんか、ご飯に誘われた。
私も色々話したいと思ってたし、いい機会かもしれない。
仕方ない、行ってあげよう。
妻視点で書くと、なんか俺ってチャラ男っぽいじゃん。そんな事ないんだけどなぁ……( ̄◇ ̄;)