9章_主の希望は終わる
トラックへ向かうシャルルの横から、殺意を溢れさせた狂人が割り込んだ。
エン「シャルル・サンミューズ!」
シャルル「?!」
エン「お前を殺す!」
エンは懐に常備していたナイフを握ってシャルルに斬りかかる
「なんだお前は!」
シャルルはエンの斬撃を腕で受ける
「うぐっ!」
「くたばれ!」
エンはナイフを押し込み、シャルルを苦しめる
(まずい..!)
『水魔:リヴァイアサン』
ウォードの詠唱により、水が龍の形を模したものが現れる。
「シャルル殿を助けるのだ!」
ウォードが命じるとリヴァイアサンはシャルルを囲って自分の首に滑らせ、ウォードたちのいるトラックに向かっていく。
「待ちやがれ!シャルルサンミューズ!」
エンは走ってシャルルを追いかけるが、リヴァイアサンの上を滑るシャルルには追い付かない。
シャルルは出血した腕を抑えながら下を眺める。
「なんだったんだ?あいつ...」
シャルルは無事にトラックまで流れ着く。
しかし、エンは諦めない。
『エンハンス・レグ!』
エンは己の脚力を強化した。
トラックは加速し、セル、セフィアと駆けつけた革命軍を置いて広場を去る。
その後ろを、トラックと同じくらいの速度でエンは追いかけた。
エン「待てや!シャルル!!」
シャルル「?!」
ミステタ「なんて人だ..!」
(ギューン)
マテリエル「構うな!俺たちはもう嫌われ者の貴族なんだ。誰に恨まれててもおかしくない」
運転席に座るマテリエルは、後ろから追いかけてくるエンに構わずトラックを猛スピードで走らせる。
エン「てめえぇ!!」
厄介に思ったウォードはリヴァイアサンを使って別の指示を出す
「リヴァイアサン。足止めしてくれ!」
すると水龍はその場で破裂し、エンに向かって津波となって襲いかかった
「グワーッ」
それはエンだけでなく、同じく貴族たちを追い打ちしようと追いかける革命軍たちにも的中した。
「これで後方一旦は大丈夫だろう」
シャルルは落ち着いたウォードの様子を見ると、自分も一旦車の中で一息つく。
そして思い出す。ようやく会えた両親との再会を。
シャルル「父上、母上!....ああ、夢じゃない!」
ジュッグス「シャルル、よく生きていた。」
シャルル「はい。」
ジュッグス「もう心配はない。共に革命軍から逃げよう」
シャルルは両親との再開を喜ぶ。
マロー「シャルル。良かった。
皆さんにも、なんとお礼を申したら良いか。」
ウォード「国は滅ぼされても、まだ貴族は各地で生き残っている。再び我らの力を結集することができれば、国を取り返すことも夢ではないはずだ!」
ウォードの言葉で場内は一瞬の希望に包まれる。だが、一瞬だけだ。
ガタン、ガタン!
車体が大きく揺れる
シャルル「おいマテリエル。この車大丈夫か!?」
シャルルは窓から顔を出して運転席のマテリエルに文句を言いに行く。
マテリエル「仕方ないだろ!地面がぐちゃぐちゃなんだよ!」
シャルルにつれられてジュッグスも様子を見に来る。
「シャルル、下手に顔を出すな。狙撃されるかもしれん」
「えっ。はい!」
シャルルはここが戦場であることを再認識し、気を引き締めた。
カステラ「来たわね。」
屋根の上でトラックを眺めるのはカステラだ。
彼女もまた、シャルルが今日自分の父と母を助けるために動くことは予想していた。そんな彼女はアネモネたちとは別行動で処刑場を監視していたのだ。
彼女の周りには10人程度の兵士たちが銃をもって控えている。
大事にはしたくなかったのでこれだけしかいないが、すでに街中には貴族逃亡の騒ぎが広がっている。
ここは革命軍の本拠地。援軍はいくらでもはいる。
(とはいってもあの車は厄介ね。なんとかして止めないと)
『向かい風』
カステラは貴族たちの車両に向かって突風をあてる
...が、微妙に速度が下がる程度だった。
「う〜!。こういうとき風魔法は不便なのよね!」
「なら、これでどう!」
『サイクロン!』
カステラは道路に向かって強力な上昇気流を発生させる。
するとそこには竜巻が現れ、正面から突入してきた車は風に巻き込まれる。
屋根の高さまで上昇した車両は、ひっくり返って地面に激突した。
ガッシャーン!
「カステラがやったぞ!」
「かかれ!」
兵士たちは倒れたトラックをたちまち囲い始める。
貴族たちがなんとか車両から脱出することには、全方面が包囲されていた。
「撃て!」
バンバン!
「あぐっ!」
「ぐはっ!」
先に脱出した貴族から狙い撃ちにされる。
窮地を察したウォードは青い杖を地面に「コンッ」と叩く
「ここはワシに任せろ!」
『マリンウェーブ』
するとトラックのドアから外にめがけて水流が吹き出す。
「うぉお!」「うわぁ!!」
水流に煽られた兵士たちは、全身に水をかぶる
「くそっ。銃が錆びちまう!」
「なんの!火薬で撃つんじゃないから大丈夫だっての!」
革命軍が怯んだ内に、貴族たちはトラックから飛び出して、乱戦に持ち込む
「こんなところで死んでたまるか!」
「革命軍に一泡吹かせてやる!」
処刑場で解放された貴族たちには当然武器がない。そのため、事前にマテリエルが生成した突貫の剣や銃、杖をもってなんとか反抗する。
本来なら一人一人が一流の魔法使いだが、この状況で使える魔法は限られる。
「確実に足止めするんだ!街から逃がさなければこっちのもんだ」
兵士たちは冷静に貴族たちから距離を取りつつ、遠距離から逃げる貴族を狙い撃ちにする。
正面を突破しようとする貴族たちに対し、
カステラはかまいたちを生み出して、彼らの足元を切り裂いた。
「そりゃ!」
「うっ!」「痛いっ!」
貴族は足をとられて倒れこみ、そこを兵士たちが銃で仕留めていく。
「貴族たちは逃さないで!」
「おう!」
その様子を見た一部の貴族たちは、後ろに逃げようとする
しかし、後方からはシャルルを追ってきたエンがきていた。
「はあ。はあ。追いついたぜ」
エン「貴族は全員ぶっ殺す。お前ら覚悟しろよ」
エンは自信のある顔でナイフを構え、貴族たちを牽制する。
シャルル「っち。さっきのよくわからないやつか」
ジュッグス「見たところ革命軍でもないな。たった一人で何をする気だ?」
シャルルたちは警戒する。
エンは走ってジュッグスに迫る。
エン「まずは貴様だ!」
ジュッグス「ドライブ殿。剣を」
マテリエル「っ!。はい!」
ジュッグスはマテリエルに頼むと、マテリエルは両手から剣を生み出してジュッグスに投げる。ジュッグスは飛んできた剣を右手で受け取ると、エンのナイフを受け止めた。
キーン!
ジュッグスは力強く剣を振るい、エンを右側に薙ぎ払う
「くそっ」
「息子に何の恨みがあるのか知らないが、シャルルはやらせんぞ」
「息子?!お前がそいつの親か!」
エンは立ち上がり、ジュッグスに斬りかかる。
ジュッグスはすかさず剣を返し、エンの攻撃をいなす。
キン! カン!
「所詮はただの平民。それに負けるほど落ちてはおらぬわ!」
ジュッグスはそう言ってから素早くエンとの距離を詰める。
そして剣撃を打ち込む。
エンはそれを避けられなかった。
その刹那、空から雷が落ちた。
その雷はジュッグスにピンポイントにヒットし、ジュッグスは
感電する。
「ぐわぁ!!」
エンも巻き込まれたが、持ち前の身のこなしで距離を取り、受け身を取ってダメージを抑える。
ジュッグスは倒れこみながら周りを見ると、雷を発生させた張本人が目に入る。
そこには革命軍の軍服を着た、1000年は生きたであろう大樹の幹から作られた古風な杖を持った男がいた。だが革命軍の幹部でない。むしろジュッグスとシャルルが良く知る男だ。
「まさか..ヒビヤ....」
ジュッグスは目を疑った。
そこにいたのは、シャルルの世話役であり、ジュッグスにとっては古くから雇ってきた信頼できる従者である者。
そして、あの日、屋敷に暴徒たちを攻め込ませ、サンミューズ家を破滅させた首謀者。
ヒビヤ・エミスだ。
「久しぶりです。我が主人」
ヒビヤは慇懃無礼な態度でジュッグスに挨拶する。
「お前……裏切ったのか」
「違いますよ、ジュッグス様」
ヒビヤはしらを切るが、その口元は冷静かつ冷徹だ。
「はぁ!」
ヒビヤはそのままジュッグスを蹴り飛ばす。
「父上!」
ジュッグスは後方に飛ばされ、大きな石に頭をぶつける。
「くはっ……」
そしてそのまま意識を手放した。
シャルルは意識を失った父をかばうように前に立つ。
他の貴族たちもヒビヤを警戒した。
「ヒビヤさんが来てくれたぞ!」
「彼はサンミューズ家を裏切ってでも革命軍に味方してくれた英雄だ!」
革命軍の兵士たちはヒビヤの登場に士気をあげる。カステラを除いて。
「ヒビヤ。あなたが来るんですね」
兵士たちが喜ぶ中、カステラだけはヒビヤを睨みつけた。それも当然だろう。
確かに、カステラとヒビヤは同じ革命軍についた人間だ。だが、ヒビヤはサンミューズを滅ぼすために自分たちメイドも見捨てた。
自分とフローレン以外のメイドは町で晒し者にされた挙げ句殺されたのを見ている。
それをやった張本人がヒビヤなのだから、むしろ今すぐにでも殺したいとすら思うだろう。
カステラの視線に気づいたヒビヤは彼女に向かって呟く
「カステラか。君もうまく立ち回ったな。
カーネーションに付いたということは新政府での立場も約束されたものだろう」
「...勝手なことを」
カステラはそう吐き捨てて貴族たちを仕留める。
シャルルはヒビヤの前に立って憤る
「ヒビヤ!今まで何をしていたんだ!なぜ貴様が裏切る!」
シャルルは問う。
シャルルはヒビヤが裏切ったことを今初めて知ったからだ。
少なくとも彼は側近。味方であるはずだった。
ヒビヤ「シャルル。貴方に失望したんですよ」
シャルル「なに?!」
ヒビヤ「貴方が愚鈍だから、この革命の時代に、遅かれ早かれ滅びる運命なんですよ。
だから私は革命軍と手を組んで、サンミューズ家を滅ぼしたんです」
ヒビヤは静かに語るが、どこか怒りもこもっていた。
ヒビヤもまた、黒い杖を掲げて魔法を唱える。
『ショックウェーブパルサ』
そう言うと、貴族たちのいる空間一帯に電撃が炸裂し、その全員を感電させた。
「ぎゃああああ!」「ぐっ、くっそぉぉ!!」
貴族たちは逃げようとするが、この電撃の走る空間からは絶え間なく体を痛めつけてくるため、一歩歩くのも精一杯で。
例えるならばこの空間一帯は電子レンジだ。
1分、2分、3分。
その間に貴族たちは次々に倒れていき、生気を失っていった。
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一方フローレンたちは処刑場のある広場に到着していた。
すでにシャルルたちはトラックに乗って場を後にしている。
その場には討ち死にを覚悟しているセフィアとセルが残って、革命軍と戦っていた。
「はあ、はあ。魔力がもたんの..」
「ゴキブリのように湧いてくれるじゃねえか」
セフィアとセルはすでに100人近くの革命軍を倒しており、魔力も底をついていた
「流石に上級貴族。やってくれたわね。そこまでして民を苦しめたいのかしら」
革命軍のアネモネはセフィアたちに皮肉をかます。
「汚らわしい貴族たちはここで皆殺しよ!
『アビススラッシュ』!」
アネモネは黒い剣からえぐい黒みを感じる覇気を放出させ、セフィアを斬りつける。
アビススラッシュに触れた者は、その黒い気が体に伝染し、徐々に全身を真っ黒に包む。そして周りが見えなくなり、聞こえなくなり、肌の感触がなくなり、全身が闇に包まれるころには五感すべてが封じられる。
「ぐわぁぁ!」
セフィアはアネモネの攻撃を杖で防ぐが、その威力により体ごと吹き飛ばされる。
そして、剣に触れたセフィアは触れた部分から黒い煙が伝染し、徐々に伝達していく。
「なんじゃこの禍々しいものは...!」
セフィアはアネモネの攻撃に寒気を覚える。
「セフィア、くそっ」
セルが代わりに前に出るが、彼もすでに魔力が底を尽きていた。
杖が重く、体も満足に動かない。
『ダークショット』
リリーが遠方からセルを狙撃する。セルにそれを避ける力はなく、胸に直撃した。
「あっ..」
(ここまでか……)
セフィアとセルは互いに目が合うと、互いの言いたいことがなんとなくわかった気がした。
そして二人はそのまま地面に倒れ伏した。
「終わったわね」
アネモネはセフィアとセルの息の根を止めるため、一歩ずつ歩み寄る。
しかし、アネモネが彼らにトドメを刺すことはなかった。
アネモネたち周囲に、赤い炎の閃光が走る。
「何あれ!?」
建物の屋根から飛び降りた少女は、空から炎の円陣を纏い、まるでほうき星のように空に赤い光りを照らした。そして彼女はセフィアとアネモネの間に落下し、周囲に炎草が生える。
「セフィア様!」
「?!」
セフィアはすでに視界を奪われていた。しかし若干残っていた聴覚でフローレンの声を聞き分けると一つ思う。
(この娘は来たのじゃな)
その少女、フローレンはアネモネの方を向いて対峙する。
「な、なんなのあんた?!」
アネモネはいきなり空から降ってきたフローレンに驚きを隠せなかった。
しかし、こうして革命軍たちに囲われた戦場に、全く冷静な表情で自分の前に現れる彼女の心境を読むに、それがとてつもない脅威であることを感じ取った。
(こいつ……!貴族じゃない!何者?)
「あんたも、邪魔するなら死になさい!」
アネモネは剣を振りかざしてフローレンに襲いかかる。
フローレンは両手を天に掲げ、そこから手前に下げて告げる。
『フィアーソル・ストーム』
彼女の両手から編み出された魔法陣からは数多の火の玉が飛び出した。
まるで手持ち花火のように噴出された無数の火の玉は、大きさこそバランスボール並のサイズで、アネモネと周囲にいる兵士たちをそれぞれ吹き飛ばした。
「ぐぁああ!」「あちっ」「火が!」
フローレンからの攻撃は止まない。
ある程度フローレンと距離があったリリーは、辛うじて飛んでくる火の玉をかわす。
交わした火の玉が後方の建物にぶつかって崩壊する。
リリーは建物の倒壊から逃れると、体を伏せてフローレンに狙いを定める。
(おちつけ。当たるはず)
『ダークショット!』
バーン!
そうリリーが願うと、放たれた黒い玉はフローレンの頭を直撃する。
「やった!」
リリーは命中したことに喜びの声をあげるが、すぐにそれがぬか喜びであることに気づく。
フローレンは弾丸の衝撃で少し頭を傾かせたが、無傷でそこに立ち、リリーを見た。
「え?なんで……」
棒人間は、頭を撃ったからといって必ず死ぬわけではない。だが、普通は致命傷か重症くらいにはなる。それにリリーのダークショットには闇属性特有の呪いが込められている。弾丸に纏わる黒い気に触れればそこはぼろぼろに腐敗してしまう。
リリーは慌てる自分の心を落ち着かせて、アネモネの側に寄る。
「姉さま!大丈夫?!」
「ええ、何とか」
アネモネは全身に火傷を負っていたが、命に別状はなかった。
「この程度!」
二人はフローレンの方を向くと、フローレンが徐々に近づいていくるのが見えた。
リリーの弾丸が当たった傷には黄色い炎が吹き出して、傷は瞬く間に消えた。
闇属性の覇気も残っていない。浄化されているのがわかった。
そして2人は同時に同じ結論に至った。
(私たちじゃ勝てない)
(こんな化け物...)
リリーとアネモネの二人は身構える。
フローレンは一言呟くと、彼女たちを熱風で吹き飛ばした。
「悪いけど、邪魔」
「あああっ!」「くぅっ!」
リリーとアネモネは同時に吹き飛ばされる。
2人は地面に倒れ、意識を失った。
---
「これは、派手だな...」
「フローレン!大丈夫!?」
遅れてジル、イデア、アリスが広場に到着する。
三人が来たときにはすでに、広場の革命軍は全滅していた。
フローレンは倒れたセフィアとセルの様子を見ていた。
セフィアはすでに言葉が通じない状態だった。
わずかに体が震えているが、じきに死ぬだろう。
一方セルは、血を吐き出しながら辛そうにもがいている。
「ひどい怪我...」
アリスは恐怖で涙を浮かべながら二人を見る。
「他の貴族たちはどうしたんだ..?」
ジルは素朴な疑問を呟く。周囲を見渡すが、他の貴族たちが倒れている様子はなかった。
「セフィアさん、セル、シャルル様はどこ?」
フローレンはセフィアに問いかけるが、当然返事はない。
すると死にかけのセルが血を吐く咳をしてから呟く。
「ゲホッ、俺は呼び捨てかよ..」
「うるさい」
セルの発言をフローレンが一蹴する。
「っち。シャル....は……あっち.....だ。あと....すき.....ろ....」
そしてそのまま意識を失った。
「…ありがとう」
フローレンはお礼を言うと、セルの指さした方向に走り出した。
炎の円陣を纏い、行く先に向かって赤い閃光が走ったと思うと、彼女は爆炎を描きながら飛び出した。
アリス「私……」
イデア「?」
アリス「私、怖い。フローレンが」
イデア「うん……確かに……」
ジル「ああ。だが、あれが本来のあいつなんだろうな」
アリス「うん……」
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シャルルたち貴族は、マテリエルの作った魔導駆動車に乗って逃亡を謀った。しかし待ち伏せしていたカステラたち革命軍に足止めをくらい、更には追加で駆けつけたエンとヒビヤの雷によって全滅の危機を迎えていた。
エン「う。ああ...(バタン)」
ヒビヤ「ふん。運の悪いやつだ」
エンは、ヒビヤの下した『ショックウェーブパルサー』の巻き添えを食らい、他の貴族たちと同じく沈黙した。
貴族たちもその全員がショックウェーブパルサーの餌食になった。
さっきまで活躍していたウォードも、隠れていたミステタも、焼き焦げてどうしようもなくなっている。
唯一貴族たちの中で意識を保っていたのはドライブ・マテリエルだけだった。
ドライブは魔法の発動時に絶縁性のある鎧を生成し、危機一髪で電撃を回避したのだ。
「はあ、はあ、はあ、グウッ...」
だが、相手が悪かった。
普通の電気だったらまだ良かったが、ヒビヤの電気は桁が違う。
鎧は一定の時間ドライブを守ってくれたが、最終的には灰となり塵となり、使い物にならなくなった。
よって、彼も決して戦える状態ではない。
「なんてやつだ...」
「敵じゃなくて良かった..」
革命軍の兵士たちは、ヒビヤの圧倒的な上級魔法に対して各々が恐怖を呟いていた。
ちなみに革命軍の兵士たちは貴族から一歩距離を取ったためそのほとんどが無事だ。
「これがサンミューズ家最強の魔法使いの実力...」
カステラはつぶやく。
ヒビヤはシャルルの側近を任されるほどのエリート執事。当然、それを任されるほどの実力者だとは思っていたが、魔力の桁が違う。ヒビヤはサンミューズ家での「古参」からもわかるように、『器の解放』を受けていない。
素の力であれだけの力が出せるのだ。
『器の解放』が禁断魔法たる理由も理解できる。
凄腕の魔法使いを量産できるといっても、寿命は所詮10数年。そんなことをするよりも、血統を固めて才能のある子孫を産み、英才教育で伸ばす。そしてそれ以外の平民たちは労働力として、一生使いつぶした方が国策として正解だ。
「後は息の根を止めるだけだ。
あとはお前たちでもできるだろう」
ヒビヤはそう言うと、兵士たちはビクつきながら貴族たちの生死を確認しだした。
「マテリエルだ!まずあいつを仕留めろ!」
兵士たちは辛うじて耐えたマテリエルに集中砲火を浴びせた。
マテリエルはほとんど一切の抵抗もできずにあっけなく撃沈する。
(これじゃあ、あがいた方が損だった気分だ..)
彼が革命軍と戦い続けた彼の功績は、あまりにも小さく、そして情けない最期であった。
カステラもまた、シャルルの生死を確認する。
「ぐ...」
砕けた地面の上で、シャルルは僅かなうめき声を上げ、息があった。しかし意識はなく、まさに虫の息だった。
「まだ生きているんですね。シャルル・サンミューズ」
カステラはその状態に感嘆した。普通であれば既に死んでいる状態でもおかしくないからだ。
(フローレンには悪いけど、こいつはもう...)
そんなときだ、広場に爆炎が上がると、そこから赤い閃光が飛び出してきた。
「な、なんだ!?」
兵士たちは注目する。
カステラは爆炎の中から出てきた者を見て驚愕した。
それはフローレンだった。
なんかすごい数の魔法が出てきてるね。。