表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/10

8章_主は時代に歯向かう

一方、シャルルたちはフローレンのおかげで無事に革命軍の目から逃れることができていた。

彼らは怪しまれないよう、2人づつにわかれて町を偵察していた。

シャルルとマテリエルは、町の中央広場にてフローレンが来るのを待っていた。

しかし、彼女は来ない。

広場の中央には大きな処刑台ギロチンがあり、隣にある看板には今日処刑される貴族の名前がリストにされていた。現在の時刻は20:00であり、ちょうど夜の処刑が終わったところだった。

広場の周りには見物席が円周に広がっており、町の人たちがぎゅうぎゅうになって座っていた。

シャルルとマテリエルも、今夜の処刑を遠くから見ていた。


「まさに公開処刑だな」

「毎日何十人の貴族の首が飛ぶところを、この町の人間たちは楽しんでるのか...」

「...吐き気がする」

「...本当にそうだ」

シャルルは身震いしていた。

民衆への憎悪よりも、処刑される自分の姿を想像して恐れている。


(これが俺たちの末路だと言いたいのか..)


一方、シャルルの心はフローレンのことでも一杯だった。

思考の内訳としては貴族の処刑が6割、フローレンの安否が4割といったところだ。

本人でも薄々違和感を感じていた。

まさか貴族の自分が、従者一人にここまで感情を左右されるとは。

だが、それも仕方ない。

命の恩人であり、忠義の呪いも受けようとする覚悟もある。

シャルルはフローレンを、少なくとも特別扱いして良い存在だと認めていた。


「フローレン。来ないな...」

「ま、まあ。あのメイドのことだ。きっと上手く逃げているはずだ」

と、マテリエルはフォローする。

「だったらなんでここに来ないんだよ」

「さあな。まあ、信じてやれよ。お前のために命を懸けてる従者だろ」

「だが、もし捕まっているなら助けてやらないと...!」

「...悪いがそんな余裕はないな」

「見て見ろ。今日処刑される人たちのリストを」

「過去に話したことのある人たちもいる」

「くそっ。できることなら助けてやりたかった...」

マテリエルは悔しそうに手を握りしめる。

その様子を見たシャルルは、自分だけがやるせない思いになっているわけではないことを理解する。


「おいマテリエル。セフィアたちが戻ってきたみたいだ」

シャルルの見る先には、ローブを羽織ったセフィアとセルが立っていた。彼らはここからもう少し北にある宮殿の様子を見に行っていた。

シャルルたちはいったん人影の少ない路地に移動し、セフィアたちと合流する。


マテリエル「セフィアさん。そちらの様子はどうでしたか?」

セフィア「うむ。宮殿の方だが、警備が厳重になっていて近づけそうにないのじゃ」

セフィア「ある意味予想通りじゃが、宮殿自体は全く綺麗じゃった。おそらく、政府は宮殿が落ちる前に降伏したのじゃろう」

シャルル「なら、今の宮殿には革命軍のトップたちがいるのか?」

セフィア「それは間違いないのじゃ」

セル「ムカつくやつらだ。やつらに高貴な宮殿なんて似合わねえ」

と、セルは悪態をつく。


セル「それで、ここはどうなんだ?健気なメイドっちは来たのか?」

シャルル「いや...」

セフィア「そうか」

セル「だろうな」

セフィアとセルは、シャルルの答えを予想していたように答える。


セフィア「シャルル殿。あのメイドは主人を守るために立派に役目を果たしたのじゃ。童の使いに欲しいくらいじゃ」


セフィアはシャルルの肩をポンと叩く。

セル「概ね、革命軍に捕まって、痛い目に合って、気が緩んだところで忠義の呪いに掛かって死んでるだろうな」

セフィア「セル。その言葉は禁忌に値するのじゃ」

セフィアがセルを睨むと、セルは目をそらす。

シャルル「……」

(フローレン……)


マテリエル「それはそうと、中央広場では毎日貴族の処刑が行われているらしい。あそこに今日処刑される人たちのリストも出ている」

セル「マジかよ……」

セフィア「……」

シャルル「……」

皆が思い思いに沈黙すると、マテリエルの後ろに魔方陣が現れる。


マテリエル「...ミステタか」

ミステタ「じ、時刻通り戻ってきました」

魔方陣からは、ミステタとウォードが出てくる。これはミステタが使う転移魔法の力だろう。


ウォード「貴族たちが捕らえられてる牢獄を見てきたぞ」

マテリエル「どうだった?」

ウォード「当然といえばそうなのだが。警備は万全だ。近づくこともままならなかった」

ミステタ「し、施設の内部からは魔法妨害の陣が敷かれていました..」

ミステタ「じ、自分の魔法で転移できればとも思ったのですが、生憎難しそうです」

恐る恐る報告するミステタは、自分の魔法が通用しないことを申し訳ないと思って報告した。

マテリエルからすればいつものことだが、シャルルたちからするとあまりの自信の無さに同じ貴族として、なんだかやるせない気持ちにさせられる。

(たぶんこいつ、友達多くないな)

とシャルルは思った。


一方、大人なセフィアは気にすることなく話を続ける。

セフィア「まあ、魔法妨害は当然としてじゃ。夜中に外から侵入するのはできないのか?」

ウォード「無理だろう...。住人の話だとあそこは24時間灯りがついている。コソコソ入らせてくれる感じじゃない」

ウォード「それに我らの人数は少ない。頼れるのは魔法くらいである以上、やはり魔法妨害のある場所に行くのは無謀だ」

マテリエル「確かにな...」

マテリエルは手を頭にあてた。


マテリエル「可能性があるとすれば、この広場でその日に殺される貴族たちを助けるくらい...か」

セル「っち。どうせ俺たちに未来はないんだ。だったら宮殿を派手に壊して、奴らに一泡吹かせれば良いだろう」

セフィア「わらわたちだけでは、宮殿の庭に入った時点で全滅するのがおちじゃ」


マテリエル「となれば、やはり捕えられた貴族たちを助けたい」

皆が頷くと、ミステタが思い出した様にバッグをあさりだした。


ミステタ「そ、そういえばこちらの記事を拾ったのでした」

シャルル「それは革命軍...いや新政府の新聞記事か?」

ミステタ「はい、ここには、明日に処刑されるの人の名前かが詳細に書かれています」

ミステタ「それで、その、明日処刑される人なのですが...」

ミステタ「ドライブ様のご両親と、シャルル様のご両親がおられます...」

マテリエルとシャルルの表情が焦りに変わる。


シャルル「っ!……ミステタ」

ミステタ「な、なんですか!?」

シャルルは、彼の肩をガシッとつかむ。

シャルル「明日だ。明日この広場で処刑される父上たちを助ける!」

ミステタ「お、落ち着いてください」


シャルル「落ち着いていられるか!」

シャルル「マテリエルもそうだろう!」

マテリエル「当たり前だ!」

シャルルとマテリエルは必死に訴えるが、他の4人は2人を冷静にしようとなだめる。


ミステタ「ちょ、ちょっと待ってください。準備も何もなければ絶対に勝てません」

ウォード「その通りだ。シャルル殿。わしも、あなたの父上、ジュッグス様には世話になった」

ウォード「助けたい気持ちはある。だからこそ冷静になれ」

するとシャルルは少しだけ冷静になる


セル「家族...な」

(セル。言いたいことはわかるが、ここは抑えてやれ)

セフィアは、皆に聞こえないようにセルにつぶやく。


セル「はあ。まあ広場は妨害魔法が効いてないんだったな」

セル「ってことはミステタの転移魔法も使える。なんとかなるかもな」

と、セルはミステタの魔法に期待した。


ミステタ「え?!、大人数を転移させるのはちょっと...」

シャルル「ミステタ。頼む!」

ミステタ「うーむ……」


すると、マテリエルが口をはさむ。

マテリエル「もちろん、ミステタにすべてを背負わせはしない。今からできるだけ万全の作戦を立てる」

セル「ま、そうだよな。俺たちも作戦を考えればいいんだろ?」

ミステタ「そ、そうですね」

ミステタ「わかりました。考えましょう!」


シャルルたちは、人の少ない郊外まで赴き、空き家で夜を過ごした。

皆が寝静まったころ、シャルルは眠れずに窓の外を見ていた。


セフィア「シャルル。起きていたか」

シャルル「...セフィアさん」

セフィア「眠れないのか?」

シャルル「……うん」


セフィアは隣の椅子に腰かける。

シャルル「ねえ、セフィアさん。俺たち貴族は、、悪人なのか?」

シャルルは悲しそうな顔で問う。

セフィア「……」

セフィアは少し考えてから、口を開く。

セフィア「誰が悪人かを決めるのは人間じゃ」

セフィア「神ではない」

セフィア「多くの人間たちが、「この国は悪だ」と言えば、それは悪になる。そして人間が決めたらそれは正しいことになる」

セフィア「だからシャルルの問いに対する答えは、正直わからない」

とセフィアは答える。


セフィア「この家は、わらわが元々住んでいた家じゃ」

セフィア「工業が盛んな地域でのう。働き者が集う良い町じゃった」

セフィア「皆、町の発展のために尽くしてくれたし、わらわも皆のために精一杯を尽くしたつもりじゃ」

セフィア「だがある日突然、わらわは従者たちに捕らえられた」

シャルル「...」

セフィア「わらわの至らぬ点も多々あっただろう」

セフィア「だが、わからない。なぜああなってしまったのか。どうすれば防げたのか」

シャルル「……」

セフィア「このどうしようもない悔しさと怒りを、どこに向けたら良いのか...!」


シャルルは、自警団との会話を思い出す。

---

自警団「ここは今革命軍に占拠されてるしな。貴族だなんのと言われても、ここじゃあな(笑)」


ジル「はっきり言って貴族も嫌いだ」


イデア「私たちは革命軍でも貴族派でもない」

イデア「ただ、平和を望むだけよ」

シャルル「そんなものは僕だって望んでいるさ!」

イデア「あなたが欲しいのは貴族が支配する世界。自分の平和でしょう」


イデア「あなたは革命が起こった理由を何一つ理解していない。だから革命軍に勝てるわけないのよ」

---


シャルル「民衆たちは、貴族たちに支配されるのを嫌がっていた...」

シャルル「そりゃ、僕だって、もし平民に生まれたら、あんな生活は嫌だと思う」

シャルル「でもしょうがないだろ。そんなの。僕だって生まれを選んだわけじゃない」

シャルル「天が僕をこの家に産ませた。それがすべてだ」

シャルル「だから僕も、父のように普通の貴族として生きるはずだった」

シャルル「ご先祖様だってずっとそうしてきたじゃないか」

シャルル「なぜ今になって。。普通のことだったはずなのに...」


セフィア「土地の所有主は必ずどこかの貴族じゃ。そして赤国のものでもある。」

セフィア「平民はわらわたち貴族や、本国から土地を借りているに過ぎない」

シャルル「そうだ」

シャルル「持ち主を殺せば自由になれるなんて、倫理がおかしい!」

セフィア「ああ。わらわもそう思う」

セフィア「じゃが...」

シャルル「民からすればそれも理不尽か。素質も能力も無いくせに!」


セフィア「サンミューズ家の場合、貧しい子供を拾っては魔法実験の道具にしていたそうだな」

シャルル「それは父が始めたことだ!僕は...」

セフィア「わらわはそなたを責めんよ。ただ、民衆は、許さんじゃろうな」


セフィア「フローレン。あの娘はなぜお主についていくのじゃろうか?」

シャルル「フローレンは……」

セフィア「なんとなくじゃが、わらわにはわかる」

シャルル「え?」

セフィア「あの娘は、おぬしのことを誰よりも大切に思っている。それは間違いない」

シャルル「……それは僕も、わかってるつもりだ」

セフィア「あの娘があれだけの魔法を使えるのには驚いたのじゃ。一体何を仕込んだのじゃ?」


シャルルは観念し、渋々口を開く

シャルル「.....はあ。マテリエルにはバレてそうだし良いか。」

シャルル「『器の解放』だよ。母が一部の側近を除いたすべての従者にかけている」

セフィア「やはりか、お主がさらっと『忠義の呪い』を使えたのもそういうことじゃな」


器の解放、使用者の魔力を永続的に底上げする代わりに、寿命を激減させる魔法。

禁断魔法に指定されたのは70年前で、それより昔は当たり前のように従者や兵士に使われていた。

圧倒的な力が得られるこの魔法が存在する限り、誰にとっても使わない手はなかったのだ。そしてこの魔法が人口を蝕みつづけた。

ゆえにほとんどの現貴族たちもこの魔法のことは知っているし、使ってはいけないことも知っている。使っていることがバレれば、国からすべての爵位を剥奪されるからだ。

70年前まで、サンミューズ家はこの契約魔法を大量に売買することで、貴族の中でもより高い地位を得ることができた。だが禁断魔法に指定されてから没落してしまった。

しかし、シャルルの父ジュッグスは、過去の栄光を夢見た。

あくまで禁断魔法を公で使うことはできないが、産業の発展や領内の軍事拡大に使うことはできる。

そうしてジュッグスは、再び上級貴族へと登りつめたのだ。


シャルル「……禁断魔法なんて区別、うちにはあってないようなものだ」

セフィア「フローレンは、真実を知っておるのか?」

シャルル「いや、知らないだろうな」


セフィア「そうか……可哀想な娘じゃのう」

シャルル「…そうだ。知らないから、あんなに幸せそうに僕についてくるんだ」

シャルル「…」

セフィアは少し沈黙し、また口を開く。

セフィア「わしは無知で愚かな民衆の心に寄り添えとは思わん」


セフィア「……じゃがせめて、主として、フローレンの想いを汲み取ってやるのじゃ」

シャルルは小さく頷いた。

セフィア「話はここまでじゃ。もう寝よう」

とセフィアは立ち上がり、空き家を後にした。


---


翌日。フローレンはカステラたちによって牢獄に入れられていた。

(ここだと全然魔法が使えない...)

(体がだるい...)


牢番「おい、新入り。飯だ」

フローレンは牢番からパンと水をもらう。

(シャルル様は無事かな……)

フローレン「……」モグモグ


食事を終えた後、ベッドに横になる。

すると外から大きな音が突然聞こえてきた。

続く音は、誰かの悲鳴...

一体この施設では何が行われているというのだろうか...

いや、考えるはやめよう。


シャルル様たちはご両親を助けるためにきっと動くだろう。


私は、どうすれば良い?

このまま牢屋に居続ければ、今日という一日は終わる。


シャルル様も、ご両親も、みんな殺される。


いや、楽観的に考えよう。

私がいなくても案外うまくやってくれるかもしれない。

私の知らないところで、みんなが助かってほしい。


それに、メイド1人が加勢に向かって何ができるのだろう。

貴族派の人たちにはもっと強い方がいる。私がいようといまいと結果は変わらないかも。。


...ダメだ。

心の奥底にある想い。本心は決まっている。

いかなきゃいけないと思っている。


でも、どうして私は、貴族に味方するのだろうか?

サンミューズ家は、私が知っている暖かい人たちではなかった...

本当に道具として使われていた。

私の使用期限(寿命)は、せいぜいあと数年。


....これだけ考えても『忠義の呪い』は発動しない

なぜだろう。


---

「お前たちは従者だ。」

「従者は、主のために生きるものだ。」

「お前たちの命はこのサンミューズ家が預かっている。」

「お前たちはサンミューズ家の一部だ。その身を、精神を、サンミューズ家のために使うのだ。」

---


「フローレン...」

フローレンを呼ぶ声が牢屋の外から聞こえる。

牢屋の檻の外には、カステラがいた。

「カステラ...」

カステラ「フローレン……寒いでしょう」

カステラ「このマントを羽織るといいよ」

フローレン「……ありがとう」

カステラ「…こんなことになってごめんね」

フローレン「……うん」

フローレン「私は出られないの?」

カステラ「....安心して。新政府が安定してきたらちゃんと解放するから」

フローレン「そんなんじゃない!私は今いかなきゃいけないの」


カステラ「貴族に味方しちゃダメ。サンミューズ家の真実はさっき話したでしょう!」

カステラ「世界のためにも、貴方のためにも、貴族の味方をしたらダメ!」

フローレン「そんなこと知らない!私がどうなろうと構わない!」

カステラ「……私は、フローレンまで失いたくないの」

フローレン「カステラ……ごめんね。でも、マテリエルさんやシャルル様を見捨てられない。」

カステラ「....(タッタッタッ)」

カステラは去っていく。


フローレン「待って!お願い!ここから出して!」

フローレンは再び牢屋に取り残された。


「うう...」

フローレンは泣きながらカステラが渡したマントを羽織る。

これからどうするべきなのか、余計にわからなくなってくる。

しかし彼女は動かねばならなかった。

そういう契約をしたから。

忠義の呪いには強制力はない。

だが、強制力がないからこそ、代償は高くつく。

契約をしたという事実が、彼女の体を一層駆り立てるのだ。


フローレンは牢屋の檻を掴んでは、曲げようとしたり、壊そうと試みる。

だが、檻には妨害魔法が敷かれており、触れるだけで力が抜けてしまう。

万事休すだった。


しかしそれでもフローレンは諦めない。

カン!カン!と鳴る鉄の音は、周囲にも響き、妙な緊張感が漂う。

やがて3人の警備員がフローレンの檻にまでやってきて、彼女に言った。

「出ろ」

警備員は鍵を開けて彼女を廊下に連れ出す。


そして、どこかわからないところに誘導される。

普通に考えれば、牢屋で大人しくしなかったことへの懲罰だろう。

だが、フローレンはそんなことは気にせず、暴れ出す機会を伺う。


しかし、警備員の一人が彼女に小声で話す

「しばらくぶりだな、フローレン」


フローレンは耳を疑った。


聞き覚えがある声だったからだ。

彼女は、声の方を振り向く。

そこには、自警団のジルがいた。

他の二人も警備帽子を上にあげて顔を見せる。

「アリス、イデアさん!?」

「静かにな。ここはまだ敵地だ」

「あっ、はい」


三人はフローレンを牢屋から連れ出し、人気のない場所に連れて行く。

「どうしてここに……」

「あなたを助けにきたのよ」

「えっ……」


イデアは優しくフローレンの手を握る。

「そんな。私なんかを...」


フローレンは困惑する。

サンミューズ家では従者は使い捨てだ。自分の命は自分で守れ。

だが主の命は自分の命に代えても守れと。

別にそれがおかしいと思ったことはないし、ひどいと思ったこともない。

主人の命は自分のよりも価値があって、守るべきものなのは自然なことだろう。

でも、この人たちは、そんな私のために危険を犯して助けに来たというのか。

私は……


4人は人のない会議室に入り込んだ。

「さあ、これを着て」

フローレンはイデアと同じ警備員の服に着替える。

服装が変われば早々にバレることはない。


イデアはフローレンの頭を撫でる。

「シャルルたちが他の貴族を助けにこの町に来たことは知ってるわ」

「え?」

「自警団を舐めるなってことだ」

フローレンは驚くが、ジルは得意気に言葉を添える。


「うん。シャルルたちがどう動くのかは知らないけど、これ以上、貴族に味方するのはあなたの身が危ないよ」

「フローレン。私達と一緒に逃げましょ」


イデアはフローレンに顔を近づける。

が、フローレンは必死に訴える。

「そんなこと、わかっています!でも私はシャルル様を助けに生きます!」


ジルは言う。

「前から気になってたんだ。なぜお前は、あのサンミューズ家に忠義を尽くのか」


フローレンはジルの問いかけに少し考えて、答えた。

「別に、そんな大層な理由なんてありません」

「ただ……」

彼女は続ける。

「私は死にかけていたところをあの家にいました。他でもないシャルル様に拾ってもらい、食べ物をくれました。住む家も、友達も、役割も、全部与えてくれました」

「私は、シャルル様のために生きています。だから……」


フローレンの動機は純粋だった。

助けられたから、仕える。恩人だから、身を粉にして働く。

ただそれだけ。



ジルは言う。

「お前はシャルルの奴隷か」

「そんな生き方で本当に良いのか」


「…シャルルが、お前のことをそんなに大事にしているようには見えない」

フローレンはその言葉にカチンときた。

そしてそれに反発するようにジルに言い返す。

「な!そんなことありません!」

しかしアリスも続ける。

「じゃあなんでフローレンを助けに来てくれないの?」

「それは、シャルル様は私よりも価値があるからです!私のためにあの人を危険を晒すくらいなら私はここで死にます!」

フローレンはジルの目を見て訴える。

ジルはフローレンの覚悟を見て、ため息をついた。


「フローレン...」

その場にいたアリスもかける言葉を失っている。


「わかった。」

と、イデアはつぶやく。

「フローレンの気持ちはわかった。でも一つだけ確認させて。

時代は変わったの。あなたはもう、貴族の所有物じゃない。すべての民は、自由になったの

そのうえで、フローレンは自由になった上でも、シャルルに仕えたいの?」


フローレンはその言葉を聞き、イデアとジルを見つめる。そして答えた。

「もちろんです!」

彼女の返答に迷いはない。まっすぐな目だった。


「わかった。じゃあシャルルを助けに生きますか!」

「はあ、しょうがないな」

「しょうがないね〜」


「……」

フローレンは目に涙を浮かべる。そして、3人に言った。

「ありがとうございます!でも、あなたたちにとってこの選択は本当に良いのでしょうか?」

イデアは言う。

「もちろん!。わたしたちも仲間でしょ。最後まで付き合うよ」

3人は堂々と答えた。もう迷いはないようだ。


私はシャルル様と共に生きるために頑張るんだ!



---首都ミスティーユ 中央広場


広場には、処刑される貴族たちを見物しようと人が集まっていた。

衰退しきった国を復興させるために日々奮闘する労働者たちの、楽しみの時間である。


以前までの労働は、憎き貴族たちを喜ばせるものだった。

だが今は違う。労働は自分の利益と、新政府の発展のために行うものとなった。

それを一番に実感できる場所が、この処刑イベントだ。


広場の大衆の中に、エン・トンビーという赤棒がいた。

彼はかつて、サンミューズ家の領内に住む農家の子だった。

担当の役人からは滞納税やら不敬罪の罰金だのとケチを付けられては余計に税を取られており、特に貧しかった。父は貧しさのあまり盗みを働いたが、逮捕され処刑された。その後、母も法で禁止されている売春に手を出していた。

しかし、これもサンミューズ家に摘発され監獄送りにされた。

食い扶持を失ったエンは見つからないよう盗みを繰り返し、その罪として奴隷の身分を与えられた。


エンは、生まれながら恵まれている貴族のことが嫌いで仕方なかった。


--- 過去、サンミューズ領の街


街道には馬車が止まっており、そこからシャルルが不満な顔をして現れた。

街道では貴族の馬車に道を譲るのが常識だ。しかし、道を譲らなかったものがいたからだ。

エンの主人「エン!何をしている。早くひれ伏せ!」

エンの主人「このたびはうちの奴隷が大変申し訳ございませんでした!」

シャルル「ふん...」

シャルルは主人を少し見ると、エンの方を睨む。

エンはシャルルの威圧的な目線に臆することなく、怨めしい目で返す。


エン「...なぜお前たちはそんなに良い服を来ているんだ?」

その言葉が周囲に響いた瞬間、町の人達は皆、こいつはバカだと悟った。


シャルル「その目つき。気に入らないな。」

ヒビヤ「シャルル様。この者は世間の常識を知らないのです。どうかお気になさらないでください」

シャルル「ふん。常識を知らないから許されるものじゃない。」


ドカン、ビリビリ

シャルルはエンに手榴弾のような魔法道具を放ち、エンを数メートル吹き飛ばす

エンの主人「ヒイィ」

エン「ウガッ。ウッ。...アアアアアアアアア!」


シャルルは苦しむエンを睨みつける。

シャルル「おい主人、この奴隷にしっかり世間の常識を教えておけ」

エンの主人「は、はい。大変失礼いたしました〜」


---


今日はエンにとって特別な一日だった。

なぜなら今日は、憎きサンミューズ家の領主が処刑されるのだから。


エンは普段よりも仕事を早く切り上げて、処刑台に最も近い一番前の列に座っていた。

サンミューズ家の2人が処刑台に上がるときの表情と、最後の遺言と、首が落ちる刹那の声が聞けることを、とても楽しみにしていた。



処刑執行人「それでは、本日処刑される貴族を発表する」

広場に集まる群衆は、歓声をあげて喜んだ。

平民たち「わあああああああ!」

広場の中央に、鎖で繋がれた貴族たちがゆっくりと姿を表す。

貴族A「まだ死にたくない!」

貴族B「なぜ私がこんな目に……」

そしてそこには、シャルルの父であるジュッグスと、母のマローの姿があった。


エン「ハア、ハア、ついに来たぁ。」

エンは鳥肌を立てながらジュッグスとマローを見ていた。


---


広場の群衆は、処刑執行人の言葉に耳を傾ける。

広場にいる貴族は全員首輪をつけられて、その首に鎖が巻き付いている。貴族たちはその首を1人ずつ順番に落としていくという死刑方法だった。

エンはその一人ずつの処刑を、汗を握り締めながら待っていた。


広場の群衆は、処刑執行人と貴族の様子を食い入るように見つめていた。

革命軍A「よし、そろそろだな」

革命軍B「ああ」

革命軍C「今日も楽しみだな!」


処刑執行人が剣を抜くと、周りから歓声が上がった。

処刑執行人「さあ!始めっ!」


そう発した処刑執行人は、突然頭から血を流して倒れた。

「なんだぁ!?」

周囲がざわつく。


そして次の瞬間には、西側の建物から閃光が輝く。

『セレスティアルインフェルノ』

セフィアの生成した光の玉が、他の処刑執行人や民衆まで巻き込んで無差別に襲いかかる。

「ぐわあああ」

「ぐああ!」

光の玉に直撃した執行人2人は倒れ込み、身動きが取れなくなる。

処刑場にいた者たちは、処刑される貴族を除いてあっという間に倒されてしまった。


かわりに処刑場には、灰色のマントを羽織った集団が続々と登ってくる。

セフィア「我々は、天性から与えられた大地の守護者。貴様ら愚民どもを成敗しに来た!」


革命軍A「おいおい、貴族たちの襲撃だ!これは一大事だぞ」

革命軍B「俺たちも現地の警備たちに加勢するぞ」


まずは現地の警備兵たちが駆けつける。

そしてここは中央広場、騒ぎが起きれば、続々と援軍が駆けつけてくるだろう


群衆A「逃げろ!貴族だ!」

混乱していた群衆たちは、一斉に散り散りになる。

セル「何人逃げられるかな!?ウインド・アロー!」


セルの呪文により、群衆は次々と吹き飛ぶ。

セル「アハハハハハ!ざまあみろ!」


マテリエル「囚人の皆さん。今からあなた達を開放します。」

束縛された貴族A「おお、助かった!」


カチャ、カチャ、パキーン

マテリエルは手錠を見ると、それに合う鍵を魔法で生成し、次々と貴族たちを解放していく。

ウォード「ジュッグス様、マロー様、お会いできて光栄です」

ジュッグス「ああ。だがなぜ今日に限ってここを」

ウォード「シャルル殿が、我々を導いているからです」

マロー「…なんと。。」

マテリエルの父「ああ、ドライブよ。まさかそなたがこんな大規模なことをするとは..」

マテリエル「申し訳ありません父上。ですが、、私は父を殺そうとしたやつらを許せません!」



革命軍D「貴族たちの襲撃だ!」

革命軍E「慌てるな!敵の数は少ない」

革命軍F「町から逃げられると思うなよ!」


広場の外周で警戒していた革命軍たちが、貴族に向けて銃を構える

チャキ、

チャキ、チャキ、チャキ

シャルル『雷魔法:ヴォルテックス・パラライズ』

シャルルは群衆に紛れて兵士たちに近づき、後ろから電気を浴びせる。

兵士にあたった小さな電気は、革命軍の兵士たちを媒介に伝導していく。

ビリビリ、ビリビリ、ビリビリ

革命軍D「あっ、」

革命軍E「いっ、」

革命軍F「うっ、」


しょうもない悲鳴が小さく響く。

シャルル「ふう。突貫で覚えた低級魔法だが、案外いけるな」

革命軍D「きっ貴様...」

シャルル「俺が致死量の電気を扱えなくて良かったな」


---



ジュッグス「シャルル、お前なのか?」

広場の中央から、外に向けて、ジュッグスは、呟く。

マロー「シャルル。私達のためにこんな危険なことを...」


その声はシャルルには聞こえないが、二人がこちらを見ていることはわかった。

シャルル「父上母上!また会えて良かった..!」


エン「.....シャルルだと?」

エンはジュッグスの言葉を聞き、考えこむ。

そして彼の視線の先には、目に焼き付いた記憶にいる人物がいた。



広場の外周にいた革命軍たちは一掃され、逃げ延びた者も散り散りとなりその場は静かだになった。

貴族たちは広場の中心で、互いの健闘を称えあっていた


ミステタ「みなさん、転移魔法ができました」

ミステタの前には人間が入るに十分な大きさの魔法陣が展開されている

セル「よし、さっさと逃げようぜ!」


そう言ってミステタは転移魔法陣に手をかざす。

ビリビリ..ドカン!

ミステタ「ア....ゲホッ(バタン)」


突然、電流を流されたミステタは失神してしまった。

セル「なんだ今のは!」

マロー「もしや、転移魔法へのトラップ?」


「そのとおりよ」

声の方向は広場の地下から聞こえた。するとどこからともなく革命軍の兵士たちが現れ、広場の中央に集まる貴族たちに銃口を向けた。


アネモネ「私は革命軍、改めて新政府軍のアネモネ」

こっちはリリーね。

リリー(チャキ)

リリーは銃口を向ける


アネモネは、腰に差した刀に手を当てながら、貴族たちのいる処刑台に上がる。


アネモネ「あなた達が今日来ることはわかっていたわ。マテリエル少尉」

アネモネはマテリエルを見てそういう。


マテリエルはアネモネを知っていた。

東部にある辺境の村を管轄していた貴族で、大した税収も得られず、自分たちも畑を起こさないと生活できない貴族だ。

貴族の会では、誰よりも謙虚に下に回って接待する姿勢が特徴的で、他の貴族たちから滑稽に思われていた。いわば、貴族社会での最底辺。


マテリエル「そうか。俺の父と母を処刑する日に、俺が現れるのは予想できるってか」

アネモネ「そういうこと!」


そう言ってアネモネはマテリエルに斬りかかる。

マテリエルは太刀筋を読み、剣を受け止める。

その隙にジュッグスもアネモネに斬りかかろうと迫るが、側にいたリリーがそれを阻む。


「ダーク・ショット」

黒い覇気をまとった玉が放たれる

「ふん」

ジュッグスは、リリーの放った闇の玉を剣で受け止める。

ちなみにジュッグスの剣はマテリエルが即席魔方で作った剣だ。

シャルルが契約魔法しか扱えない非戦闘員であるように、ジュッグスも契約魔法が専門でありほかの魔法には疎い。とはいえ大人として最低限、剣の腕は素人以上にある。


ジュッグス「アネモネ・エミスコード、リリー・エミスコード」

ジュッグス「どちらも東部の村を管轄していた貴族か」

ジュッグスは軽蔑の意を込めて二人の名を呟く。


アネモネ「さすがジュッグス様。私達のような小物貴族の名前まで覚えていられるのです?」

ジュッグス「なぜ民を秩序の道に導くはずのお前たちが、革命などと暴動を起こす?」

アネモネ「あなたの言う秩序なんて、上級国民が一番得をするためのシステムでしょ」

ジュッグス「世の中はそういうものだ。そして貴様らもまた支配する側の人間だったはずだ」

アネモネ「そうね。でもわたしたちはあんたらよりも育ちが良くなくてね!」


ガキーン!

とアネモネの刃がジュッグスの剣に交わる。

『ダークロージョン』

アネモネの剣から黒い覇気が放たれ、ジュッグスの剣はたちまちボロボロに錆びてしまう。

「なっ」


アネモネ「契約魔法が専門のサンミューズ家にはキツイでしょう?」

アネモネはニヤリと笑う。

ジュッグス「ちっ……」


ジュッグスの剣が使い物にならないとわかるや否や、アネモネは追撃を行う。そして遠距離からはリリーが銃弾を放つ。

リリー「私達は飢饉で苦しむ民たちを、一番近いところで見ていた」

リリー「私達は死にかけの農民から搾取したりしない」

「ダーク・ショット」


(まずい..)

ジュッグスが狙い撃ちにされそうなとき、セルが動いた。


セル「風魔法:かまいたち」

鋭い風が闇の玉を打ち砕き、勢いよくアネモネを切り裂く


アネモネ「ぐっ!」

アネモネは怯む。だが、これはあくまで風。傷は浅い。


セル「せっかく助けてやったのに、ここで潰れたら面目が立たねえ」

セル「あんたらは先にいけ」

ジュッグス「なっ!そなた正気か?!」


セル「っふ。こうなったらヤケクソだ。俺はできるだけ革命軍の中枢を討ち取る!」

セルは龍の杖を前に出してアネモネたちを牽制する。

その様子を見て、もう一人の貴族、セフィアが彼に並ぶ。

セフィア「面白い」

セフィア「ならばわらわも付き合おう。そなたらは逃げ延びるのじゃ!」

リリー「っち、舐めるな!」


数多の革命軍が一斉に銃を構え、発砲する。

だが、それらはすべてセフィアの作った聖なる光が壁となり、貴族たちを守る。

「今のうちに、いくがよい!」

セフィアは前を向きながら貴族たちに訴える。


マロー「あなた方の想い、無駄にはしません」

マテリエル「よし。いくぞ!」


(ボンッ)

転移魔法が使えないため、マテリエルはプランBとして考えていた魔導駆動型の車を召喚する。

見た目は軍用トラックのようで、積み荷部分に詰めれば20人は乗れそうだ。

マテリエルは運転席に座り、他のエンジンをかけると、他の貴族たちも乗るように指示する。



ウォード「シャルル殿、お早く!」

シャルル「ああ!」

シャルルはトラックのある中央にまで走って向かう。


契約魔法についてまとめ


・タイプA:能力の拡張と代償を背負う契約

例)器の解放(禁断):体が集める魔力のストッパーを外す

コンセント:他人の精神を自分と共有する

リミットブレイク:一時的に身体能力を数倍にあげるが、解除後にその負荷を受ける(エンハンスアームなど身体強化の魔法を使う方がデメリットがない)

イタミタイサン:今感じている体の痛みを翌日に繰り越す


・タイプB:いわゆる法律まがいな制約をかける

例)忠義の呪い(禁断):主人に謀反心を抱くと死ぬ。主人が従者を疑うと従者が死ぬ。

盜衰呪:盗みをすると足が腐る

ピノキオ:嘘を語ると鼻が伸びる

死罪の呪い:人を殺害すると自分も死ぬ


「行為に代償がつくこと」と「使用者と対象者の同意があること」を満たせれば契約魔法になります。こう考えるとけっこう抜け道ありそうだな...


じゃあ赤国の法は魔法によって強制的に守られるのかというとそんなことはないです。

基本的には相手の同意が必要であったり、1人1つの契約をつけるだけでもそこそこ魔力を使ったりします。国民全員に魔法をかけるなんてとんでもない。なので、せいぜい釈放される囚人に、再犯の抑止力として使われる程度だったりします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ