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7章_主は私と契約する

---


シャルルたちは灰国の力、そしてフローレンやシャルル、自警団たちの活躍によって、革命軍の本拠地でもあるアルザス地方を奪還することに成功した。

これは一瞬の間、世論を騒がせた。

あと一歩と思われた革命の兆しが振り出しに戻るかと思われたからである


---


数日後。

シャルルとフローレンは、アルザス街の瓦礫の上に座って町を見渡していた。

降伏した町の住民たちが、町の再興のために強制労働させられている。

そんな彼らをこき使うように指揮しているは赤国軍の兵士たちだった。


シャルルは鼻歌を歌いながらその光景を眺めていた。

シャルルは屋敷を襲われてから初めて上機嫌だった。

革命軍に占拠されたアルザス地区を奪還し、フローレンが無事に戻ってきたからだ。


最も、重症だったのはフローレンよりもシャルルの方だ。

フローレンは単なる魔力の過剰使用で気絶した。1日も安静にすれば復活する。

一方シャルルは、フローレンという規格外の魔力を持つ精神を自分に取り込み、そこからめいっぱいの魔力を引き出して戦闘を行った。

こっちのほうが体への負荷は大きく、3日も寝たきりで看病される始末だった。


「フローレン……」

「はい?」


シャルルは改まってフローレンの側に寄る。


「その……ありがとう」

(ありがとう...!?)

(あのシャルル様が私にお礼を!)

シャルルは恥ずかしそうにしながら礼を言った。

「え...と。いえ、当然ですよ!」

(ここは謙遜しないと)


「当然...か」

「っふ。そうだな」

シャルルは普段の余裕と傲慢さのある表情に戻る。


「そうだ。灰国のやつら、が撤退していったのは聞いてるか?」

「えっ!そうなんですか?」

フローレンは初耳だった。3日は起きていたのだから、周囲を見渡せば気づくはずなのだが、案の定か彼女は昨日までシャルルの看病をしていたため、外の様子は全くしらなかった。

そして、自分が灰棒に狙われていたことも知らないらしい。


シャルルはフローレンを狙った灰棒の話をするつもりだったが、

素っ頓狂な反応をするフローレンに呆れて話題を閉じようとする。

「やれやれ。やっぱり外国のやつらは信用できないってことさ」

「そうですか……」

(なにか合ったのかな?……)


疑問に思うフローレンをよそに、シャルルは話を進める。

「さて、ここからは残党狩りだ」

「...あ、そっか。革命軍の本拠地は落としたんですよね」

「そういうことだ。と言っても、確か革命軍の首謀者を打ち漏らしたんだよな。

ほら、カーネーションってやつ。聖女とか呼ばれてたあいつがトップだったらしい」


「あの人、確かになんというか、すごい神々しい魔法を使っていましたね」

「ふん。見た目だけだ。騙されるなよ」

「す、すいません!」

フローレンはそそくさと謝る。

シャルルは一瞬そっぽを向くが、すぐに話を続ける。


「やつらを全員滅ぼさないとな」

「ぜ、全員ですか...?」

「全員だ。だからお前には引き続きよろしく頼む」

「た、大変ですね...」

フローレンが困惑していると、兵舎に一人の兵士が走りながら叫んだ。


「大変だ!」

テントから兵士たちが出てきて、一人の兵士に漂う。

シャルル「何があったんだ?」

シャルル「これを見てくれ!」

兵士は新聞を取り出すと、それを皆に見せながら叫ぶ

「赤国の首都、

ミスティーユが革命軍に降伏した!」


「なに!?」

シャルルは驚く。それと同時に、周囲にいた兵士たちも同じ報告を聞き、各々の反応をする。

「そんなバカな!」

「それじゃあ、俺たちはどうなるんだ...?」

「賊軍...」

「ウソだ...」

兵士たちは困惑し始める。


「くそっ、その新聞を貸せ!」

シャルルは新聞を取ると、その内容を自分の目で確認する。

新聞には確かに、革命軍が首都のミスティーユを陥落させ、王族も捕縛したと書かれていた。

(これは……まずいぞ)

シャルルは危機感を覚えた。

次のページを捲ると、革命軍によって墓縛されている貴族のリストとその罪状が詳細に書かれていた。

「我々を弄び続けた悪魔の手先、貴族たちを処刑する。勇気ある者は彼らの死を見届け、新しい時代を迎え入れよ」

タイトルにはそう書かれている。


シャルルは新聞をフローレンに渡すと、地面を拳で叩く。

「クソがっ!」

「奴らの勝ちだなんて、認めるものか!」


シャルルの悔しい声はフローレンの不安を煽る。

フローレンは恐る恐る新聞を読み進めると、そこにサンミューズ家の名があることに気がついた。

「シャルル様。これを....」

「なんだ」

「ここに、旦那様と奥様のお名前が...」

「なんだと!生きていたのか!」

「だが捕まっているのだな」

「こうしちゃいられん!」

シャルルは立ち上がると、マテリエル少尉に直談判する。


「マテリエル少尉!今朝の事件は聞かれたか!」

「ああ、もちろんだ。」

「このままでは貴族は全員処刑される!なんとしても助けねば!」

「……」


マテリエル少尉が困り果てた顔になる。

(ここも駄目か……)

「貴様ら軍はどうされるのだ!?」

「....わからない。全くもって連絡がない」

「おそらく、すでに参謀本部も革命軍に...」


マテリエル少尉が言いかけようとしたとき、別の兵士が飛び込んで来た。

「大変です!首都から放たれた革命軍改め、新政府軍の大隊が、こちらへ侵攻しています!」

「なに!?」


(ここまで早く動くのか?)

シャルルは焦りを隠せなかった。

「のろまが!俺は首都に行く!」

「待て。シャルル・サンミューズ」

マテリエル少尉が引き止める。

「なんだ?」

「もはや軍は機能しない。兵士の大半を占める平民はすぐに逃げ出すだろう」

「だったらどうした。俺は..」

「まあ聞け!あの処刑リストには、俺の両親も入っている」

「民への慈悲を忘れるなと、口酸っぱくおっしゃっていた父上がだ」


マテリエル少尉は泣いていた。

だが、その目は怒りを含んだ眼差しをしており、シャルルを睨むように提案する。

「だから、シャルル。力を貸してくれ。

今できる、最善の策を教えてやる...」

「なに...?」

「今から俺は、この基地にいるすべての貴族に声をかける。

そして革命軍と戦う意思のある貴族だけで、この基地を抜け出して首都へ向かう。

俺やお前の両親が捕えられている牢獄を襲撃するんだ」

「そして、貴族たちを救出する!

...わかったか?」


シャルルはマテリエルの決意を悟り、自分もまた決意をするときだと感じる。

シャルルは小さく頷いた。

「....いいだろう。だが、そうなればもうお前は俺の上司じゃない。敬語はなしでいくぞ」

「いいだろう」

「それと、フローレン。あいつはつれていくぞ」

「あのメイドは、信用できるのか?」

「当たり前だ。俺の命の恩人だ」

「わかった」

そういうとマテリエル少尉は、足早にテントを出る。



程なくして、マテリエル少尉は反抗の意思がある貴族たちを集めて来た。

マテリエル「...集まったのは俺を入れて7人だ」

マテリエル「一人づつ簡単に紹介しよう」

マテリエル「俺はドライブ・マテリエルだ。道具の生成に特化した家で育った。必要な車や武器は俺が作ってやる」


続いて、青白い衣服と巻き毛の髪をした大柄な男が声を発する。

ウォード「我はウォード・ポーションと申す。水魔法なら任せてくれ。このまま革命軍の乱暴のままにさせるわけにはいかない。皆で協力してこの国の危機を救おう。」


次にウォードの隣にいる緑色の髪型をしたやや小さめの青年。

ミステタ「えと、、ミテスタ・トランスミッターです。戦闘魔法は無理ですが、転移魔法を少し学んでます。少人数なら人でも、なんとか運べるかと..」

フローレン(この人、マテリエル家で私達を軍部に運んでくれた人だ)


マテリエル「ミステタはうちの家で仕えてくれてる貴族でもある。よろしくしてやってくれ」

次に、ミステたの隣にいくと、何度か目にしたことがあるマテリエルの上司、セフィアがいた。半透明の白いレースを纏っている。

セフィア「わらわはセフィア・セイントコネクトである。魔法は聖属性じゃ。最初の反乱が起きた際に、わらわの家臣たちは皆死んでしまった。革命軍は全員墓に入れてやるので、皆もそのつもりで頼むのじゃ」


セフィアの隣には、少し間をあけて濃い緑の衣服で包んだ男がいた。

「セル・デシーだ。使い魔法は風魔法。敵は全員殺して良いんだよな?」

(セルは睨みつける様に皆に真意を問いただした。他の貴族たちは小さく頷く)


最後に、マテリエルの右にいたシャルルとフローレンに視線が集まる。

「シャルル・サンミューズだ。恥ずかしながら戦闘魔法は特にないが、僕も革命軍には復讐しないと気がすまない。やつらに捕らわれた両親を助けるためにも、どうか力を貸してほしい。」

「...フローレン・ガーデニアと申します。シャルル様に仕えています。炎の魔法ならけっこう使えますので、よろしくお願いします。」


一通りの人間が話を終えてた。次はマテリエルが話をまとめようと口を動かしたが、その前に鋭く口を刺す声が通る。

「あのメイドは信用できるのか?」

貴族の一人。セルだ。

「当然だ。俺は命を救われている」

シャルルは自信を持って答える。

だが他の貴族はいびつな顔をしている。


しかし、フローレンの力を見ているマテリエルは彼女を擁護した。

「シャルル。俺もフローレンにはぜひ来てほしいと思っている。彼女の忠義は俺も見てきたからな」

「だが、ここにいる貴族たちには、従者に裏切られて人間不信になってる人もいる」


「だから、『忠義の呪い』を試してくれないか」

忠義の呪い。それは古来より伝わる、従者と主人の間で交わされる契約魔法だ。

もし、この契約を交わした従者が主人を裏切る行動を行った場合、若しくは主人が従者を疑った場合、従者の体は溶けて無くなる。これが忠義の呪いの効果だ。


セフィア「それは禁断魔法じゃろう?一時の心の揺らぎですら魔法は見逃さないので、裏切りを疑った時点で魔法は発動する。すぐに死ぬのじゃ。」



「なっ。流石にそんなことは..」

セフィアの警告を聞き、シャルルは躊躇った。しかしマテリエル少尉は険しい眼差しで続ける。

「それで死ぬならそれまでだ」

「フローレン殿。君はどうだね。主のために、できるか?」


マテリエルはフローレンを強く見つめる。フローレンはその期待に答えるように頷いた。

「シャルル様をお守りするためなら、たとえ火の中水の中です」

それを聞いたマテリエル少尉は唇を緩める。


「フローレン。本当に、良いのか?」

シャルルはフローレンに声をかける。フローレンは声を震わせることもなくはっきりと

「はい」

と答えた。

「では……決まりだな」

「シャルル殿、契約系の魔法は得意だったな」

「あ、ああ。」

「じゃあ、頼んだぞ」


シャルルは覚悟を決めた顔をして、詠唱を始める。

「……忠義の呪い」

シャルルがそう唱えると、シャルルとフローレンの体が光りだす。

そしてフローレンの右腕には呪いの証として青い紋章が刻まれた。

「これで契約は完了だ」


これにより、回りの貴族たちもフローレンの同行に同意した。否、同意せざるを得なくなった。セルは、演劇でも見せてもらおうかという具合に2人の行為を滑稽に思った。どこで朽ち果てるか、見ものだと。

「それでは諸君。参ろう」

「時代の生贄にされた、貴族たちの舞を見せてやろう」


「シャルル、フローレン。頼んだぞ」

マテリエルは二人の側で小さく呟いた。

そうして貴族たちは、密かに軍を去るのであった。


---



シャルルたちは夜中は隣町の空き家に忍び込んで仮眠をとり、翌朝から動き出した。

お世辞にも貴族らしい可憐さというものは残っていなかった。

ロールパンを大量につけたような髪型であるカールは全て落とした。

服装は用意できないのでローブを羽織って隠しているが、見た目は平民と何ら変わりない。


ミスティーユ。そこは赤国の首都。

度重なる内乱の末に町並みはぼろぼろだが、それでも国内人口の1割がこの街に住んでいる。

そして、この街で新しい政治が始まるというのだから、民の活気はほかの町よりもずっと高い。

私たちがミスティーユ町に到着したのは5時くらいの日暮れだった。

シャルル「着いたな」

フローレン「首都、と言いつつもやはりボロボロですね。」

セフィア「かつての美しき町並みも、やつらに奪われたということじゃ」

マテリエル「ひとまず、時計塔のある中央広場を目指そう。そこで情報を集める」

シャルル「了解」


---


大通りには、たくさんの民がいて活気があった。しかし、路地に入るとそこはまるで別世界のように閑散としている。

酒瓶一本を持って胡坐をかいている男が座っていた。

私たちは、情報収集として声をかけてみる

シャルル「もし、この町について聞いても良いか?」

男「(面倒そうに)……なんだあんた。」

シャルル「ああ、ちょっと聞きたいんだが、この町で貴族の処刑が行われているのは本当か?」


シャルル様の質問に男はさらに眉をひそめる。

私たちのことを警戒しているのだろうか。

服装や見た目はもう、一般市民と変わらないはずですが..


男はじっとこちらを見たのち、ため息をつくと話を続けた。

男「ああ、本当だよ。この街じゃ毎日処刑が行われているんだ。」

男「新政府の命令で貴族どもを断頭台に送るのが俺たちの仕事だ」

私たちは衝撃を受ける。

つい最近まで、この街は貴族が統治していた国の首都である。

そんな国が貴族を処刑するなど許されるはずがない。


男「ギロチンという新しい処刑器具があってな」

男「処刑される人間の真上に鋭い刃がぶら下がってるんだ。」

男「紐を引けば最期、落ちる刃とともに貴族の首がポロリと落ちる」

男「痛みに苦しむ時間が短い慈悲深さを持った新政府流の処刑方法だ」

フローレン「ひっ..」

シャルル「…それが慈悲深いだと?」


シャルルが怒りをあらわにすると、男は口を緩ませて言葉を続ける。

男「ああ。少なくとも、貴族たちが平民にやってきたことよりは断然な」

男「ところで、、あんたも、見物に来たのか?それとも...」

シャルル「な、なんだ?」

フローレン「シャルル様!囲われてます」


周りには10人ほどのごろつきたちが、武器を構えて待っていた。

皆、赤青白の3色のストライプが入ったマントを着ている。

革命軍の紋章だ。

男「良くいるんだよなあ。処刑の件を聞きにくるやつは。」

男「あんたら。元貴族だろ。」

男「俺が無職の放浪者だと思ったか?」

男は腕の服をくるませて前腕を見せる

そこには赤青白の3色のストライプが入っていた。


セル「その紋章は、、革命軍か」

男「いいや、今は新政府だ!」

男はステッキサイズの小さい杖を出し、先端をシャルルたちに向けて構える。


「っち」

セルは風龍の形をした勇ましい杖を出して戦闘態勢に入る。

「やるしかないな」

ウォードもまた杖を構える。


フローレン「下がってください!」

最初に動いたのはフローレンだ。

彼女は誰よりも先に、両手から炎を舞わせる。


フローレンの放った炎は革命軍に命中する。だが、それは敵を攻撃するためではなく、炎の壁を作るためだった。

フローレン「先に行ってください!私が足止めします」

シャルル「いや、ここは全員で戦って..」

マテリエル「ダメだ。援軍がきたら本当に終わりだ。悪いがあの子の判断が最善だ」


そう言うと貴族たちはそそくさと裏通りに消えていく。

シャルル「……くそっ、絶対追いかけて来いよ」

フローレン「はい!」

私は、シャルル様の背中をそっと見送ると、革命軍に向き直る。


革命軍A「魔術:『耐火の衣』」

革命軍B「突っ込め!」

革命軍は炎の壁をものともせずにこちらに突っ込んでくる。

フローレン「え!?」


ドカッ

炎を突破してきた敵は、剣を突き出してフローレンの頭を突き飛ばす。

痛い!

フローレン「ぐっ……」

フローレンは後ろに転びそうになりながら、倒れないように右足で体を支える。

そんな彼女を敵は見逃さない。


敵のは剣をそのまま前に突き出してくる。

(やばい!当たる!)

ガキーンッ。と剣は地面を突く

革命軍C「っ。外したか」


フローレンはとっさに体を横に倒して左にゴロゴロ転がることで回避していた。

危なかった。

けど、立ち上がる隙もない。

顔を上げたときにはもう、3人の革命軍が私を囲っていた。

剣が目の前に迫る。

私はとっさに炎を体に纏い、敵の体を燃やす。

革命軍A「うっ。」

よし、怯んだ。

このまま炎で囲んで、押しつぶす。

革命軍A「なんてな。無駄だ。」

革命軍A「火属性なら、炎に耐性のある魔法を張ってしまえば全然熱くない」

革命軍A「汚れた貴族が。我が剣のサビになれ」

敵の余裕そうな表情は彼女を絶望させる


私は、ここまでなのだろうか。

シャルル様は、ちゃんと逃がせただろうか?

従者として、あの人に認められる生き方ができただろうか?

ああ、シャルル様、どうか……


私の死を、想ってくれますか?



「待って」


目を瞑った私に、とどめが入ることはなかった。

或いは、偶然死ななかった未来を見ているような気分。。


目を開くと、そこには見覚えのある子がいた。

服装は赤、青、白の3色が交わる革命軍の服。

でも中身は見たことがある。

緑色の目、緑色の髪、

カステラ?


カステラ「フローレン!」

フローレン「カステラ……」

カステラは私に抱き着く。

フローレン「なんで、ここに」

カステラ「それはこっちのセリフでもあるわ!」

カステラは涙ぐんだ声のまま、明るく答える。

フローレン「でも、なんで?あなたはお屋敷に残っていたはずじゃ、」

カステラ「まさか。倒れる前にちゃんと逃げてるよ」

フローレン「カステラ……」


私は嬉しかった。今の自分が殺される直前であったことを忘れるくらいに。

彼女が生きていて、私のことを、見つけてくれたことが。


カステラ「ひとまず、うちに来て!」

カステラ「ここじゃあ難でしょう...」

革命軍A「カステラ。これはどういう..」

カステラ「この子は私の友達なの。同じ家で働いていた同僚なの!」

革命軍A「な、そうか……」

革命軍B「っち、命拾いしたな。嬢ちゃん」

革命軍C「はあ、仕方ないな。また来るよ」

カステラに助けられた後、私は革命軍のアジトに連れて行かれました。


..本来なら敵の基地。

シャルル様の敵。

でも、そこにはカステラがいる。

なぜ、、

私は事情を知りたかった。

だから、カステラに質問をした。

フローレン「説明して」

カステラ「まあ、いろいろあってね……」

フローレン「いろいろ?」

カステラ「まずはさ……その、あなたが無事でよかったわ」

フローレン「あ、ありがとう」

ひとまずカステラは明るい笑顔を私に向けてくれた。

「でも、なんであんな危険なところにいたの?」

「それは...」

私は何も話せなかった。忠義の呪いがあるし...

「うん。じゃあ、私から話すね」

そしてカステラは声の調子を落として、あの日からのことを話してくれた。


---

私はね。フローレンと別れてから、お屋敷を逃げ出したの。

で、運良くパン屋のおじさんに匿ってもらってたんだ。

フローレンも会ったことあるでしょう?

あの人、優しいから。


次の日、暴徒たちは、お屋敷にいた人たちを軒並み捕らえて、街の広場で晒し者にしはじめた。

ジュッグス様や他のメイドたちもそこにいたよ。

みんな、手足を縛られて、1日中吊られている。

で、住民たちから殴られ続けてるの。

...とても怖かった。


でも、一人だけ家の人間なのに、拘束されないで、堂々と立っている人がいたの。

ヒビヤ様だった。

あの人が、今回の襲撃の首謀者だったみたい。

ヒビヤ様は、サンミューズ家のやってきたことを凄く非難していた。

ヒビヤ様は、シャルル様の側近だったのに、


でも、ヒビヤ様の訴えと、街の人達の怒る姿を見て、私でも気づいてしまった。

サンミューズ家は、お世辞にも民に支持される優しい貴族ではなかった。

最近の飢饉でも、税を下げることを許さなかったし、


フローレンもシャルル様とずっと一緒にいたならわかると思うけど、

サンミューズ家は平民、特に弱い人たちに厳しい。

民が権利を持つことに強く反対している家なの。


---


一区切りまで話し終えたのか、カステラは一息をついた。

するとフローレンからカステラに質問をする。

「カステラはどうして、革命軍にいるの?」

「自分の身を守るため。かな……」


カステラは言葉を詰まらせて下を向く。

「いや、何いってんだろ私。自由のためだよ」

「フローレン。今の話はサンミューズ家の一部の闇に過ぎないよ」

「これくらいのことは他の貴族でも同じ。だから良いわけじゃないけど、サンミューズは貴族の中でもずっと腐ってる」

「本当は私達も、被害者なんだから」

「え?」

「ねえフローレンって魔法に強いよね」

「え。まあ...少し」


「平民には禁止されている上級魔法も使えるよね」

「....そうなの?」

「そうだよ。流石に自覚してよ」

「?」


カステラは言うかどうか迷っているらしい。

でも、少しすると決心してゆっくりと話し始める。

「『器の開放』っていう禁断魔法があるの」

「器の開放?」

「うん。これを使うと、体が空気中の魔力を引き込む力が格段に上がるらしいの」

「ほんとはね。上級魔法っていうのは貴族でも容易に使える人はそんなにいないんだけど」

「フローレンは当たり前のように使える。私ですら中級魔法は余裕で使える」

「それは、小さい頃にこの『器の開放』っていう魔法をかけられたからだよ」


「えっ!カステラも?」

「うん。サンミューズ家の従者は、ほとんどみんなね」

「でも、それを使ったら体が壊れてしまうの」

「え……」


フローレンは息を吞む。

「で、その『器の開放』が禁断魔法扱いされている理由はね。この魔法を使うと、体が本来許容している量を超える魔力が体内に入ってきちゃうの」

「そのおかげで強力な魔法が使える。」

「でも体がそんな負荷に耐えられるわけじゃない。魔法を受けた半分の人は1ヶ月以内に体内の魔力が爆発して死ぬ」

「運良くそれを退けても、寿命の消耗がものすごく早くなる」

「私達は、どれだけ長くてもあと数年しか生きられない」

「そんな……」

「これがサンミューズ家の本当の闇よ」


フローレンには心当たりがあった。

小さい頃、シャルルの母マローに何かの魔法をかけられたこと。

屋敷ではよく従者が倒れたり、或いは失踪してしまう事件がよく起きていたこと。毎年、泥まみれになっている汚れた子どもたちが新しい従者として迎え入れられて、大半が大きくなる前に消えてしまうこと。

上の人々は、奴隷の子だから元々病気を持っていたとか、仕事に耐えきれなくて逃げ出したとか言っていた

本当は、その殆どが『器の開放』の代償によって死んでいたとすれば...


カステラは悔しそうな顔をする。

フローレンも、衝撃が頭から離れない。

(これが、あの優しいサンミューズ家の正体?)

(そんなの酷すぎる……)


「フローレン」

「....なに?」

「私と一緒に、革命軍に入らない?」

「……え?」


「フローレンとなら、一緒にできる気がする」

「カーネーション様ならきっと、貴方も受け入れてくださるわ」

「カーネーション様?」


「私の新しい御主人様!」

「貴族たちが強欲に飲まれる中、自分たちの過ちに気がついて、すべての人達のために声を上げた人」

「あの人は、本当の意味で人を大事にしてくださる」

カステラは私に優しく手を差し伸べる。

(……カステラ)

「……」

(でも私は……)

「ごめん、私にはできない」

私はカステラの手を握ることができなかった。

そんな私を、彼女は責めようともしなかった。

「そう...」

カステラは悲しそうに返事をする。


「ごめん」

私はいたたまれなくなり、少しの沈黙の後、静かにその場を去ろうとする。


「おーい。カステラ?」

そのとき、扉から一人の男が入ってきた。

兵士の服装をしている。

「...レット」

レットと呼ばれたその男は私の存在を一目すると、再びカステラに問いかける。

「カステラ…話はついたか?」

「.....」

「そうか……それは残念だな」

「……」


沈黙の中、レットは私に近づきながら、カステラに話しかける。

「こいつを捕まえるんだろう?」

「……そうだね」

カステラは、一瞬言葉が詰まったように見えた。

だが、カステラの目はすでに何かを決心しているようだった。


私は危険を感じ、立ち上がる。

「……」


そのまま黙って逃走の体勢に入る。

しかし、その瞬間だった。

レットは小さなナイフを投げる。

(っく!)

警戒していたのもあって、首を曲げてそれを回避する。

避けられるけど...


「ごめんね。フローレン。私にも立場があるの」

「でも、殺しはしないから安心して?」

カステラは、苦虫を噛み潰したような顔をする。


私は困惑した。しかしすぐに決断する。

「ごめん!」


私は反射的に反撃の体勢を取った。

手のひらから火の玉を召喚し、四方に飛ばす。


その玉は曲線を描いてレットに当たる。

「あっつい!」

これでやけどは免れないだろう。

次に私は炎の壁を作ってカステラたちとの間を隔てる。


(今のうちに逃げないと!)

私は出口に向かって一目散に走る。

(革命軍に捕まるわけには行かない!)


「逃がさないよ」

(突風:リバースガスト)

カステラが念じると、室内だろいうのに急に空気たちが動き始め、炎の壁に向かって突っ込む。

そして、炎の壁が弾け飛ぶ。

その風は、私の背中にまで届いた。


「っ!」


(まだだ..!)

私は炎の鞭を作ってカステラを牽制する。

が、炎は風に吹き飛ばされ、私のもとに返ってくる。

「うわ!」

炎を食らって尻餅をつく。


(カステラに勝てるわけないじゃん……)

カステラは私より魔法の評価が高くはない。

けど、炎と風では相性が悪い..


「そこだ!」

レットは光のリングを飛ばし、私の両足を拘束する。

(しまった!)

「さあ。大人しくしろ」


私は壁に叩きつけられる。

「うぐっっ」


「ちょっと!レット!」

「分かってるよ」

カステラはレットを叱る。

あくまでもフローレンを傷つけたくないという意志があるからだ。

一方レットは生粋の革命軍。フローレンはどちらかというと敵であり、容赦することに意味を感じていなかった。


レットという男は私の両手を掴んで、リングで拘束しようとする。

「っ!」

(マズい!)

私は咄嗟に炎を出して、レットの手を焼く。

「くっ!このガキ!」

レットは怒って何度も私の手足を拘束しようとするが、私は手足に火傷を負ってもなけなしの魔法で抵抗する。


(しつこい!!)

このままではいずれ負ける。

「フローレン。大人しくして!」

必死に抵抗する私の右手を、カステラが掴む。


「離して!」

私はカステラのお腹を蹴って突き放す。

「きゃっ!」

「あっ...」

カステラに暴力を振るってしまった。

(どうしよう)

敵に同情する余裕なんてないはずだけど、それでも私はこの子を傷つけたくなかった。

後悔する。

私は慌ててカステラに駆け寄ろうとしたが、強い衝撃を受けてそのまま倒れてしまった。


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