6章_主は己の弱さを知る
赤国政府がコミューン街を奪還したことは、瞬く間に国内中に広まった。
他の街を占拠していた革命軍の幹部たちは、急ぎ集会を開いて、今後の方針をさだめていた。
カーネーション「お二人共、集まってくださりありがとうございます」
そこには3人の赤棒がいた。元は教会の娘で、数多くの平民たちから支持されているカーネーション。西側領土を治めていた正義感の強い貴族のラヴ。平民出身で、魔法への才能を開花させ革命軍でも随一の実力者となったクリムゾン。
彼らはそれぞれ、アカネの様に各街を占拠している革命軍の幹部たちだ。
クリムゾン「アカネのやつめ。まさか赤国軍に負けるとは」
クリムゾン「元々あいつのことは気に入らないと思っていた。己の支配欲がにじみ出ているからな。かえって清々する」
ラヴ「クリムゾン。そうも言ってられぬぞ!」
ラヴ「我ら4人は4つの地区を占拠する革命連合。その一つの牙城が崩されたとあっては、民衆たちの動揺は避けられない!」
カーネーション「そうですね。ようやく民衆たちが希望に目覚めつつあるというのに、この流れを妨げられるのは何としても防ぎたいところです..」
クリムゾン「ああ、例の作戦は実行できそうか?」
ラヴ「無論だ。民も皆憤っている。赤国政府などすぐに打ち砕くだろう」
カーネーション「しかし、コミューン街に溜まる彼らを放置しておくのは心配です」
クリムゾン「やつら、攻めてくるでしょうか?」
カーネーション「ええ。噂ですが、都で灰国が赤国政府の援軍に入るとの話を聞きました。外国からの援軍を得た今、総攻撃をしない手は無いと思います」
ラヴ「敵が次に侵攻するとしたら、カーネーション。お前のところだぞ」
ラヴは勢力図を指さして、カーネーションの治めるアルザス街を指す。アルザス街はコミューン街よりさらに北東に進んだ町で、距離的には隣町にあたる。
カーネーション「....わかっています」
クリムゾン「もちろん、私は貴方に加勢しますぞ!」
ラヴ「ああ、俺もだ」
クリムゾン「ただ、そうすると例の作戦をどうするか...」
皆は少し沈黙する。二人の意見がないと悟ったカーネーションは自分の意見を言った。
カーネーション「私に考えがあります」
カーネーションは、ラヴとクリムゾンにこれからの作戦を伝えた。
ラヴ「.....な、これは」
ラヴ「...勝てるのか?」
カーネーション「少し、頼れる味方を得られたもので、恐らく大丈夫でしょう」
ラヴ「なるほど。頼もしいな」
クリムゾン「わかりました。われらはいつでも援軍に向かえるようにします」
カーネーション「ありがとうございます」
カーネーション(ああ、あと少し……もう少しで私は成し遂げられる)
(世界を変える革命を……)
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一方その頃、赤国軍のマテリエルは、上官にあたるセフィアの部屋に来ていた。
白い机に白い戸棚。机の上には黄金で描かれた綺麗な花模様のついたティーカップがおかれており、セフィアという人物の高貴で潔白を好む性格が反映されている部屋だ。
マテリエル「ほんとうにコミューン街を奪還できるとはすごいですね」
セフィア「そうじゃな」
マテリエル「ただ、革命軍の勢力はまだまだ健在です。ここからどうするか...」
セフィア「案ずるでない。手は打ってある」
マテリエル「えっ!そうなのですか!?」
セフィア「いかにも。ようやく灰国との交渉が功をなしたのじゃ」
マテリエル「灰国の義勇軍の話ですか」
マテリエル「他国の兵士など正直、あまり当てにはならないと思いますが...」
コンコン。
ノックの音がする
マテリエル「どうぞ」
ギー
ゆっくりとドアが開き、予想よりも大きな影が見える。
ただの一瞬だが、マテリエルは違和感を感じた。
ドアの先には、棒人間とは思えない巨体を持つ大男が現れた。
彼の体はところどころが丸い筋肉で覆われており、肌は灰色。
灰棒だ。
マテリエル「っ!」
その姿は彼らが想像していた灰棒の姿ではない。
灰棒も他の棒人間と同じ様に、細い胴体でできていて、
何なら身体能力は棒人間の中で最も低い。
(灰棒は棒人間の中でも最もか弱い種族のはず。だというのに、この圧倒的筋肉は一体何なんだ!)
...しかし、灰棒たちには卓越した科学力があった。
物質を知り、生命を知り、力の正体を知った彼らは、科学と呼ばれる技を使って、独自の方法で世界を操作する術を得ていた。
眼の前にいる灰棒は、そんな科学技術の結晶から生まれた、究極のドーピング戦士というわけだ。
だが、その事実は赤棒たちには未知の領域だ。そんなことが科学とやらで可能であるとすら思わない。それ故に、セフィアとマテリエルは恐怖した。
セフィア「なんと...」
マテリエル「あ、あ、」
アルファ「失礼する」
巨体が部屋に入ってくると、2人は身を縮めて言葉を失う
だが、その様子を見てアルファは一切動じない。
そして無言で2人の返答を待った。
セフィア(おいマテリエル。何か言うんじゃ)
マテリエル(えっ。そんな、、ええっと)
マテリエルは一呼吸置いてなんとかそれっぽいことを言う。
マテリエル「あ、貴方が灰国からの援軍ですか?」
アルファ「如何にも、我こそは灰国軍「アーティファクト部隊」のアルファ。灰棒のアルファである」
アルファ「ここに来た理由はただ一つ」
マテリエル「……?」
セフィア「…な、なんじゃ?」
アルファ「赤国と世界の平和のため、革命軍というテロリストたちを排除する」
アルファ「灰国の遊撃部隊である我らが、彼らの罪を取り除いて見せよう」
セフィア「お、おお...」
マテリエル「....!!」
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唐突の灰国からの援軍。
赤国軍の兵士たちからすれば願ってもない助っ人だったが、外国に不信感を持つ彼らにとっては、必ずしも歓迎されるものでもなかった。
シャルル「灰国のやつらが援軍に来たって、唐突だな」
フローレン「灰国って機械の国ですよね。私たちとは違う、不思議な力で沢山の人形を操っていると聞いたことがあります」
シャルル「ああ、俺も実際に見たことはないけどな」
イデア「でも、どうして灰国の人たちが赤国に味方を?」
シャルル「わからない。だが僕らにとってはまたとない好機。利用させてもらうまでだ」
ジル「....」
ジル「……来たな」
ジルの視線の先には、3人の灰棒と、その背後に機械兵たちが連なっていた。
イデア「何、あれ...?」
アリス「怖い...」
3人の灰棒は、いずれも筋肉が異常なレベルで発達しており、棒人間とは思えないマッチョだった。肩や腕や足には丸っこい筋肉がモリモリしており、胴体も太く、そのくせ腹筋はキリっと締まっている。
そして、彼らの後ろに続くは銀色のボディを纏った丸形の機械。短足な両手と両足を持ち、両手には手の代わりに銃口が開いている。
他にもこの世界には存在しないはずの金髪の人間少女を模したアンドロイドや、野球ボール並みのサイズで空中を浮遊している謎の物体が散見される。
イデアは、その異様な光景に圧倒された。
イデア「あれが、灰国のアーティファクト部隊……」
フローレン「あの動いてる金属の人形たちがアーティファクトなの?」
ジル「いきなり襲ってきたりしないよな...」
ジルはジト目でアーティファクトの部隊を眺めた。
アーティファクトの先頭にいたアルファは、シャルルたちを見つけると部隊を止めて彼らの正面に立った。
ジル「....!!」
アリス「ヒッ」
イデア「あ...」
シャルル「な、なんだ?」
アルファ「ごきげんよう赤国の諸君」
アルファ「俺は革命軍の鎮圧に来た。アーティファクト部隊のリーダーのアルファだ」
アルファ「貴方がフローレン殿だな?」
フローレン「あ、はい」
アルファ「先の戦いでは幹部のアカネを倒したそうだな。実に見事であった」
フローレン「え....あ、はい。ありがとうございます」
ベータ「っふ。アルファ。少し気が入りすぎだ。皆怖がっているではないか」
アルファ「それはどういう意味だ?ベータよ」
アルファの後ろから、別の1人が間に入る。彼もまた、アルファと同じくムキムキのボディを持つ灰棒だ。ただ、アルファが生真面目な印象を放つのに対し、ベータは気さくな印象で話していく。
ベータ「いえ、だってさっきからこの部隊の面々を睨みつけているではありませんか。特にフローレン殿」
ベータはフローレンに視線を送る。彼女はビクッ、と驚いた様子で一歩後ずさった。
アルファ「なに?すまないな。怖がらせるつもりはなかったのだ」
フローレン「あ、いえ……。ただちょっと怖かっただけです」
フローレンは両手をもじもじさせつつもアルファから視線を外さない。それに少し困惑するアルファ。
ベータ「はっはっはっ。怖い、か。それは褒め言葉として受け取っておこう!」
アルファ「我々は軍人だ。怖いのは当然」
ベータ「アルファ。だからそういうところだぞ」
アルファ「?」
ガンマ「...やめておけ。こいつには何を言っても通じない」
ベータ「そうだな。まあ君たちとはまた会うだろう。これからよろしく頼むということだ」
アルファ「?」
アーティファクト部隊は踵を返して去っていった。その後ろ姿は、やはりどこか異様な雰囲気だった。
シャルル「は、はあ。なんだったんだ?」
ジル「とりあえず、ヤバい奴らと関わっちまったらしい」
イデア「でも味方なのよね?」
アリス「ちょっと、カッコ良いかも」
イデア「え!?アリスどうしたの」
フローレン(....不思議な人)
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同盟が確立した赤国軍と灰国軍は、次なる革命軍の拠点、アルザス地区に向かった。そこはコミューン街の隣の地域であると同時に、革命軍にとっては本拠地でもあった。
ガンマ「敵は降伏勧告を飲まないらしい。かといって対話はしたいと言っているが、どうする?」
ベータ「一番面倒な対応だなぁ?白黒はっきりつけてほしいものだ」
アルファ「不要だ。やつらはテロリスト。降伏に応じないなら滅するのみ」
ガンマ「リーダーに従おう」
アルファ「敵は籠城している。先に我々から突撃するぞ。赤国にも伝えろ」
ベータ&ガンマ「了解」
ベータ「はてさて、敵はどう出るかな?」
ベータの読み通り、アルザス街の外では革命軍の兵士たちが防御陣を敷いていた。
灰国のアーティファクト部隊が到着したことを察知してのことだ。彼らは街一体に城壁を築き、各地方に魔法部隊を配置していた。抜け目はない。どこから攻めても全面対決は避けられないだろう。
灰国の機械兵たちは、赤国軍の部隊と共にアルザス街の中央道をたどって城壁付近まで兵を進めていた。
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一方、革命軍側は向かってくる灰国軍と赤国軍を前にして迎撃態勢を強めていた。
幹部であるラヴとクリムゾンは、砦の高台から兵士たちに演説をする。
ラヴ「勇気ある革命軍の兵士たちよ!この町が我々にとって最大の希望だ。ここで敵を倒せば、我々の勝利は確定される!」
ラヴ「今こそ諸君らの力を合わせて立ち上がろう。立てよ国民たち!革命を遂行し、民に自由と繁栄を与えようではないか!!」
クリムゾン「敗北はすなわち貴族たちに支配される闇の時代の再開だ。そんな世界を迎えるくらいなら私はこの世の破滅を望む。」
クリムゾン「恐れるな。やつらに私たちの怒りと憎しみを思い知らせてやれ!」
革命軍「うおーーー!!」
兵士たちは次々と前線に集い、突撃していく。
マテリエル「来たな。いいか。うまく引き付けるんだ!」
イデア「えいっ!」
フローレン「えい!!」
ガンマ「うおりゃー!!」
アリス、イデア、フローレンの3人は後方から遠距離攻撃で応戦する。敵は魔法で防御を固めており、生半可な攻撃では傷つかない。革命軍はどんどん近づいてくるので、赤国軍は後退しながら攻撃しなければならない。
そしてその様子を、高台からベータが見ている。
ベータ「上出来だ。やれ」
ベータが指示すると、突然上空に円盤状の機体が飛び出す。
そして、その円盤たちは高度を取ると、綺麗な三角形の隊列を整えながらアルザス街に向かっていく。
そして先端から光が照射され、アルザス街の城壁に向かって炸裂する。
革命軍A「な、なんだあれは!?」
ラヴ「.....まずい!全員逃げろ!」
敵はさっきまでこちらを向いていた大砲を急いで上方に向ける。
が、もう遅い、
円盤状の爆撃機の中心部から、大量の光の玉が解き放たれる。
それらはメテオのように、コミューン街のバリケードに降り注ぐ。
ヒュルルルルルルルルルル、ドカドカドカドカドカドカカーン
シャルル「あれが爆撃機ってやつか」
マテリエル「あの円盤一個が、上級魔法と同じものを繰り出せるらしい。灰国の技術、恐れ入ったぞ」
爆撃の音が鳴りやむと同時に、地上の部隊は一斉に攻勢に出る。
フローレン「わー!」
イデア「はあー!」
シャルル「おりゃー!」
イデアは氷剣で敵を切り裂き、フローレンは大きな炎を吹き出して敵を追い払う。
シャルルは魔銃を持って、他の一般兵らと共に逃げる革命軍の背中を撃ちながら前進していく。
革命軍は大混乱に陥った。
あれだけ硬かったアルザス街のバリケードは、もう瓦礫の山と赤棒の死体だらけになっている。
私たちは難なくバリケードを突破して街になだれ込む。
シャルル「いいぞ。ここまで作戦通りだ」
マテリエル「ああ、だが油断するな、シャルル。お前たちは自警団の連中と共に中心街を目指せ、俺たちは左右から続く」
シャルル「いいだろう。了解だ」
ベータ「案ずるなシャルル殿。当方も援護するぞ!」
シャルル「わかった。頼りにしてるぞ!」
シャルル、フローレン、自警団のジル、アリス、イデア、そしてベータと少数の機械兵たちがアルザス街の中央を攻める。
町内には建物が連なっており、革命軍たちは度々影からゲリラ戦を持ちかけてくるが、フローレンを中心に返り討ちにあっていた。
フローレン(火炎の息)
フローレンは口から炎を吐き出し、残っている革命軍を追い払う
革命軍兵士E「うわああ!熱い!」
ベータ「..炎の魔法か。便利そうだな。」
シャルル「フローレンは炎を自在に操れるんだ。すごいだろう!」
シャルル様は笑顔だった。戦場であるというのに、とてもとても喜んでいる。
あれだけ国を騒がせ、自分を虐待した革命軍を蹴散らせているからでしょう。
そんな私たちの前には、また別の赤棒が立ちふさがる
カーネーション「止まってください。」
シャルル「何者だ!」
カーネーション「私は革命軍のカーネーションです。」
カーネーション「お願いです。この町への攻撃をやめてください。」
シャルル「それは無理な相談だ。俺はこのコミューン街を消し去りたいほど憎んでいる。」
カーネーション「貴方には民衆たちの苦しむ声が聞こえないのですか?」
シャルル「聞こえるさ。実に愉快だ!」
カーネーション「っ。」
シャルルの暴言に、赤棒たちの怒りは再沸する。
革命軍兵士E「あいつ殺せ!」
ベータ「ほお、あれが革命軍の長、カーネーションか」
ベータ「シャルル君、あの女を捕えればこの戦は勝利だ。手伝ってくれないか?」
シャルル「あ、ああ。わかった」
ベータ「ありがとう。では、戦闘開始だ」
ベータとシャルルがカーネーションに狙いを定めた時、彼らの間に別の赤棒が割り込む。
ウヴ「『大地崩壊』!」
ゴゴゴゴゴゴゴ...
ベータ「なんだ!?地震か?」
クリムゾン「『物理魔方陣』」
シュン、シュン
人並みサイズの魔法陣が回転し、シャルルに向かって飛んでいく
シャルル(は?なんだあれ...って)
ドカッ!
魔法陣は厚みがなく、シャルルの懐にぐさりと刺さり、そのまま押し込む
シャルル「ウグァァァァ!」
フローレン「魔方陣が直接飛んできた!?シャルル様!」
シャルルは魔法陣に激突して10mほど吹き飛ぶ。
シャルル「大丈夫だ、、」
ウヴ「カーネーション、遅くなってすまんな」
クリムゾン「...貴方が無事で本当によかった」
カーネーション「ごめんなさい、でも……」
クリムゾン「…ここからはお任せください」
クリムゾンとラヴはカーネーションの前に立ってシャルル、フローレンたちと対峙する。
クリムゾン「おい、そこの貴族面!」
シャルル「...俺のことか」
クリムゾン「自分の地位が危うくなったから、他国に自国の民を制圧もらうなんてな。己の保身しか考えていないからそんなことするんだ。恥を知れ。」
クリムゾン「私は貴族が大嫌いだ。何ができるわけでもなく、ただ血筋だけで支配者を選ぶ世の中など、認めない!」
シャルル「...貴様の考えなど知ったことか。俺は俺からすべてを奪った貴様らの罪を許さない」
シャルル「革命軍全員、いや赤国の民全員に償わせる」
フローレン(シャルル様、復讐のことになると、本当に怖い……。)
カーネーション「もう良いです」
カーネーションは、何かが切れたかのように表情を変えた
カーネーション「戦士たちよ。聞きなさい!」
カーネーション「この街の緑も、水も、尊い命も、すべてあなたたちのものです」
カーネーション「恐れずに守るべきもののために戦いなさい。なぜなら私達は、これをするために生まれてきたのだから!」
カーネーション『アークエンジェル』
カーネーションは目を閉じて両手で拝むと、見渡す限りの周囲に向かって巨大な魔法陣を展開する。
すると、革命軍の兵士たちの体が光り出し、背中に黄色い羽が作られる。
ウヴ「これが聖女様の力!」
クリムゾン「……とても美しい」
カーネーション「ラヴ、クリムゾン。お願いします」
クリムゾン・ラヴ「はっ」
こうして赤棒と革命軍がついに対峙する。
フローレン「これは、まずくないですか...」
シャルル「聖女だと...」
シャルル「あいつ、聖女だったのか?!」
シャルル「我々貴族よりも上位の身分を持ちながら、平民に味方するなど...許せない!」
ラヴ『ボルカニックアロー』
ラブは空中にあがると、空中から大量の矢を振り落とす。
その矢は、それぞれが炎を吐き出しながら飛んでおり、着地すると矢もろとも爆散して地面をえぐる。
シャルル「くそっ、避けられない!」
フローレン「これくらい!」
フローレンは両手を交差させると、動いた両手をなぞるように炎の壁が作られる。
フローレン『エンブラゼ・ウォール』
クリムゾン「この程度の力で、革命軍を倒せると思うなよ。『魔重力波』!!」
クリムゾンの重力は炎の壁を貫通し、ピンポイントでシャルルを押しつぶす。
シャルル「アガッ!?」
フローレン「シャルル様!」
ラヴ「まずは貴様からだ!」
ラヴはシャルルに狙いを定めて爆炎の矢を放つ。
フローレン「シャルル様危ない!」
シャルル「ぐっ...くそっ....」
シャルルは身動きが取れない。しかし、シャルルに矢は当たらなかった。
ドーン!
フローレン「ガアアァ!...(バタン)」
シャルル「フローレン、俺を庇ったのか。」
フローレン「ハア、ハア、良かった、無事で」
シャルル「……すまん。俺のせいで」
フローレン「良いんです。私、いつでも貴方の味方ですから」
カーネーション「主人のために体を張るなんて、あの子は一体..」
ベータ「当方はこう見えて速度に自信があるのだ。聖女様。大人しくしてもらおうか!」
カーネーション「しまっ!?」
ガ・キーン!
剣を持った革命軍がベータの剣先を止める。
革命軍F「聖女様、お下がりください!」
カーネーション「ありがとう」
そう言ってカーネーションも黄色い羽で空に飛び立つ。
ベータ「っち...」
ベータ「余計なことを...!」
ドカッ
革命軍F「グワッ」
(ぴゅーん!)
革命軍Fは吹き飛び、建物の壁にめり込んでしまう。
シャルル「くそっ。どうする!どうすれば良いんだ!」
シャルルはピンチを自覚した。
自分の力では太刀打ちできない。フローレンも厳しそうだ。
ウヴ「一気に片をつける」
ウヴ「いくぞ!『大地崩壊』」
「ガキガキガキガキ..」
周辺の大地が一気に砕けてばらばらになる。
そこに立っている私たちは、足場を無くしてでこぼこの大地を転がりまわる
シャルル「くっ、強いな。革命軍、俺たちが思っていたよりもずっと手ごわいぞ!」
フローレン「この....まま.....では、負けて.....」
クリムゾン「まずは、あの貴族から止めを刺してやる。確実に、」
フローレン(ダメ...)
--
(私は、どこで生まれて、どこで育ったのか、覚えていない。
薄っすらと覚えているのは、街灯の下で横になってうずくまっていたあの日。
私は、貴方に出会った。
なんて言ってましたっけ?もう覚えていませんが、そのあと暖かい部屋でコーンスープを飲ませてくれたことはしっかり覚えています。)
「お前の命はシャルルのものだ。死ぬまでそれを忘れるな。」
「はい」
(まだ、出し切ってない力があるはず。なら、やらないといけない。
あなたを守るために)
--
フローレン「ハァーー」
直径10mはありそうな魔法陣が地面に現れる。細く、細かい線からは黒い気と、赤い光が発している。
ベータ「この魔方陣は大きいな。離れておくか。」
クリムゾン「何をする気だ。」
ラヴ「あやつ。まさか..」
フローレン「..紅炎舞う乙女!!」
フローレンは、自分を起点に大きな爆発を起し、上空に向かって大きな火の玉が舞い上がる。
ただ見た目は火の玉ではなく火柱だ。ただ、個々の大きさがゾウレベルに大きく、その大きな玉が熱気を舞ながら上がるために、ほうき星のように長い小尾を作って柱のように見える。
ある意味では、火山が噴火したかのように、空に火花が吹き上がっているとも例えられる。
ラヴ「まずい!逃げろ!」
クリムゾン「畜生が!」
舞い上がる火の玉は50..100個あるかもしれない。それらが3人に分割してそれぞれ襲いかかる。最初の1発は辛うじて避けられなくもないが、逃げた先に2発目が迫り、ウヴとクリムゾンをそれぞれ飲み込む。
ウヴ「ぐそおおおお」
クリムゾン「うわああああ」
カーネーション(なに、、これ)
カーネーション(私達は、これで終わるの....?)
フローレンの炎はカーネーションのいるところまで届こうとしている。
カーネーション「うわっ!」
炎の手前、突然突風がカーネーションを襲う。
カーネーションは風に吹き飛ばされて不意に戦場から離れる。
炎はカーネーションを追いかけるが、同時に吹いた向かい風が火の玉の進行を弾き返した。
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フローレンが放った炎の後には、戦場は灰になり尽くしていた。
敵に直撃できなかった火の玉たちが地面に落ちて、周囲を燃やし尽くしたからだ。
イデア「す、すごい...」
アリス「え?何が起きたの?」
シャルル「は、ハハハ!ざまーみろ!...」
フローレン「はあ、はあ。はあ。(バタン)」
フローレンは体の負荷が限界を迎え、気絶して地面に倒れる。
ラヴ「....」
クリムゾン「はあ、、はあ、、」
フローレンに一番近づいていたラヴは完全に意識を失っている。
一方、クリムゾンは体をユラユラとさせながらも、辛うじて立っていた。
だが、どうやらアークエンジェルの力は消失済みのようだ。
ベータ「ほお、今の攻撃を耐えるか」
ベータは背中に身に着けている巨大な筒を手に持ち、前に向ける。
するとその筒は左右に開き始めて、巨大な銃剣のような形になる。
ベータ「いくぞ!」
ベータは巨大な銃剣をもって、クリムゾンに接近する。
クリムゾンも近づくベータに気づいて死にものぐるいで対抗する。
クリムゾン「?!」
クリムゾン「魔術魔方陣..壁!」
クリムゾンはベータの前方に人より大きめの魔方陣を敷く。
ベータ「はあ!」
ガキーン!
ベータ「ほお!硬いではないか!」
ベータ「だがこれならどうだ?」
ベータ「形態変化、レールガン」
巨大な銃剣は形を変え、レールガンになる。
そして変化と同時に銃口から光が煌めく
ドピューン!
クリムゾン「...!」
その光は魔方陣の壁を飲み込み、クリムゾンに直撃した。
後に残ったのは、真っ黒に焦げたクリムゾンの体だけである
ベータ「さて...どうやら聖女様は逃がしてしまったようだな」
ベータ「天使の加護を作り出せる魔法。そのデータ、詳しく調べたかったものだが...」
ベータ「まあ良い。それより」
次にベータはフローレンの方を振りむく。
ベータ「今のは上級魔法の中でも究極に近いエネルギー量だった。庶民のメイドにこんな才能があるとは」
ベータ「このデータもぜひ、欲しい」
シャルル「ベータお前、何を...」
ベータはフローレンに視線を移す。
シャルルは急いで倒れるフローレンを抱える。
傷は深く、意識がもうろうとしている。
ベータ「....」
ベータは満面の笑みでフローレンに近づく。
シャルル「やめろ....こっちにくるな...」
イデア「」
ジル「」
アリス「!」
ベータの手前に、自警団の3人が立ちはばかる。
ベータは一瞬だけ止まって彼らに警告する。ベータ「そこをどけ」
ジル「……」
イデア「……」
アリス「……嫌!」
シャルル「やめろ!やめてくれ!!」
3人は恐怖で体が震えているが、それでもフローレンを守るように立ちはだかる。
そんな3人を見て、シャルルも覚悟を決めた。
シャルル(俺が守らないでどうする!)
チャキ。
シャルルは魔銃を構えてベータに向ける。
シャルル「答えろベータ。何をする気だ?」
ベータ「このメイドをこちらに渡せば、お前だけは殺さないでやるぞ?」
シャルルは歯を食いしばる。
シャルル「そうか……」
そして、シャルルは発砲する。
バン!
しかしその弾丸をベータは首を曲げて回避する。
イデア『アイスリムスレインッ!』
ジル『エンハンス・レグ』
アリス『スターサークルスウォーム』
イデアの氷、アリスの星型の精霊たちがベータに向かって飛ぶ。
ジルも脚力をあげてベータの横っ腹に突撃する。
しかしベータは、氷と星の攻撃を避け、ベータに接近する。
ジルは短剣を振りかざすが ベータが拳を振り上げると、バリーン!という音が鳴り響き、剣は弾けた。
金属の破片を顔に浴びるジルを無視して、ベータは2人に接近する。そして、左右の手でそれぞれの腹をパンチ...!
イデア「アガっ!」
アリス「ウッ!」
シャルル「まだだ!」
シャルルはベータの背中に向かって、魔銃を放つ
。
バン! ベータの背筋に銃弾が刺さる。少しだけ体にめり込んだようで血が出ているが、ベータからすればかすり傷だ。
ベータは銃弾を指で取り出すと、その弾をシャルルに向かってデコピンで飛ばす。
その銃弾に魔法の威力はついていないものの、弾速はむしろ増している。
シャルル「あがっ!」
魔弾もといい実弾はシャルルを容易に貫通し、シャルルは膝をつく。
シャルル「クソッ……」
ベータ「これで分かったか?お前では俺には勝てない」
ベータは剣を出現させる。
イデア『フロスト……』
アリス『ス…ター……』
イデアとアリスはあきらめずに魔法を唱える。
しかし、2人の背後から別の機械兵たちが現れる。
現れたのは2体の人形アンドロイドだ。灰国軍が誇るNECシリーズの機械兵であり、NEC-8と呼ばれている。
どちらも人間でいうところの身長160cm程度の長髪の美少女の見た目をしており、一体は黄色い髪を、もう一体は緑色の髪色をしている。
彼女たちは光る棒状の武器を、イデアとアリスの首もとに添える。
イデア「なっ!」
アリス「キャー!」
その武器は中心の棒から凄まじい高温を発しており、鉄くらいなら振るだけで両断できてしまう。名前を言うならライトセーバーというのが一番近いだろう。
NEC-8(緑)「大人しくしなさい」
NEC-8(黄)「って言っても多分殺されちゃうけどね!」
ベータ「ようやく来たか。そいつらは処分して良いぞ」
NEC-8(黄)&(緑)「はい。マスター」
そう言うと、彼女たちはイデアとアリスにトドメを刺そうとする。
ジル「やめっ!。辞めてくれえええ!」
ジルは叫び、走り出すが、間に合わない。
シャルルも、彼らが死にゆく姿を見ることしかできない。
(僕は、無力なのか)
(本当は、わかっている。僕は大した魔法も使えないのに、戦場に居て、フローレンにすべて任せているだけの雑魚だ。だから味方の死にゆく様も見ることしかできないし、フローレンのピンチでも何もできない)
シャルルの頬を涙がつたう。
(ちくしょう。僕にも力が....あれば!)
そのとき、フローレンが言葉を漏らす。
フローレン「貴方だけは……死んではいけないんです……」
シャルルは振り返る。フローレンに意識は戻らない。空耳か?。しかしたしかにそう聞こえたのだ。そして目線の先には、一歩ずつこちらに向かってくる人影が見えた。
この状況を打開する方法。
シャルルの脳裏には一つだけ案が浮かんでいた。
シャルルは戦いに向かない契約魔法の使い手。だが、一つだけ戦闘に応用できるものがある。
それは
『コンセント:(精神の共有)』
シャルルは小言で唱える。それは、人と人の心を繋げる力。
他人の精神、いわば魂を自分の中に取り込むことで、その取り込んだ者の知能や、魔力までもを我が物にできる。
「フローレン、力を貸せ」
シャルルはフローレンの手を掴んで彼女に語りかける。そしてそのまま意識を集中させて、フローレンの魂と自分の魂を繫げていく。
『精神の共有』
それは契約魔法としては決して珍しいものではないが、そのデメリットはとても多い。
まず、使用魔力量の関係で長時間の使用には向かず、体への負荷も大きい。
それから相性の問題があり、誰とでも成功するわけではない。成功したとして相手の1割の力も使えないことはザラだ。
逆に、下手に成功すると、自分と他者の境界を有耶無耶にして、自分を喪失する可能性がある。
何より、自分の中に他人の人格を入れるという行為自体、気持ちの悪いもので仕方がない。
だが、このときのシャルルは躊躇わずに発動した。
このくらいじゃないと勝てないから、フローレンを守れないと思ったからだ。
(サンミューズ家と、シャルル様のために...)
シャルルは自分の中に何かが入る感覚がした。
その直後、どうしようもない頭痛と吐き気が体を襲う。
(あぁ、これはフローレンの見ている景色か。)
そこから一瞬だけ、心の感覚で一瞬遅れてどうしようもないくらいの魔力が体内になだれ込む感覚に襲われる。
シャルルの体はたちまち悲鳴をあげて、激痛となって宿主に訴える。
「アガっっっっっっっっっっっ!」
(これが、、あいつがいつも感じている魔力!!)
あまりの負荷に、シャルルは意識を失いかける。
しかし、その痛みと苦しみが逆に彼の意識を覚醒させる。
(この魔力はすごい!)
「これが、あいつの世界か!」
そして彼は、新たな力を手に入れる。
NEC-8(緑)「さようなら」
アリスに手をかけようとするNEC-8の手に、火炎の縄がまとわりつく。
アリス「!!」
NEC-8(緑)「想定外の奇襲!発生元を特定!」
NEC-8(黄)「なにこれ!ええ!」
同時にNEC-8(黄)も両手を炎の縄に奪われ、空中に浮く。
シャルル「くたばれ!」
シャルルは縄を大きく揺らして、NEC-8たちを壁に叩きつける。
ガシャン!
ベータ「ほお。シャルル殿。そんな力を持っていたのか?」
シャルル「たった今手に入れた!覚悟しろベータ」
ベータ「それは楽しみだな」
シャルルは、内から漲る力を感じていた。そして彼は両手に炎を灯す。
その炎は揺らめきながらも力強く燃え盛っている。まるで命の煌めきのように。そして魔法によって生成されたその炎が、彼の体を包み込み、鎧となる。
シャルル「喰らえ」
バシュッ!
という音が鳴り響き、一気に距離をつめる。そしてシャルルが刀を抜くように手をかけると、剣の形をした炎が生成されベータの腹部を斬る。
ガキン!! しかし斬ったのは刀身ではなく、ベータの持つ武器だった。
それはまさにガードと呼べるような鋭さで炎剣を防いだのだ。
そしてベータはそのまま強引に、シャルルを弾き飛ばす。
ドカン!!という轟音が鳴り響き、壁に叩きつけられたシャルルは口から血を吐く。
シャルル「ウゲェッ!」
アリス&イデア「!!」
アリス「大丈夫..?!」
シャルル「問題ない……立てる」
そんなやり取りをしつつ、再びシャルルは立ち上がる。
ベータ「これは、とんでもない力を手に入れたようだな」
シャルル「あぁそうだとも。そしてお前はこれで終わりだ」
シャルルは炎剣を後ろに引き絞る。刀身に魔力が迸り輝きを増す。
それから、フローレンの得意な魔法をつぶやく。
『炎渦疾風』
ゴオオオオ!という音と共に炎がシャルルの剣を包み込み、そして空中に舞い上がる。そしてベータに一直線に突撃する。
ベータは剣を構え、防御の姿勢をとる。
ガキーン!
ベータは流石に受け止める。が、シャルルの炎圧に押し込まれ、ベータの両足は徐々に後ろに押されていく。
「これは素晴らしい...!」
ベータの目が輝く。
「その力!ぜひ、欲しい!」
シャルルは炎剣を押し込みながら叫ぶ。
「そうはさせるか!」
このタイミングで、ベータの背後からジルが斬りかかる。しかし、ベータはその攻撃を予測していたかのように、ジルを足蹴りで吹き飛ばす。
「グハァッ」
だが、一瞬後ろに注意を割いた瞬間をシャルルは逃さない。
「いくぞ!」
炎剣はさらに輝きを増し、ベータの体を焼き尽くそうとする。
「!!」
そのあまりの眩しさに、一瞬視界が失われるが、シャルルは構わず突撃する。
「グワッァァァ!」
ついに押し切ったシャルルはベータを切り裂き、彼から悲鳴が聞こえる。
シャルル「オリやあああああああーーー!」
ズバッ!という音と共に、炎はベータの体を覆う。
そのままベータを丸焼きにせんとばかりに炎は増す。
しかし、ここでシャルルの限界が来た。
「グハッ....」
何があったわけでもなく、シャルルは口から血を吐き出す。
同時に、炎も収まり消える。
そして、シャルルは手を地につけて苦しむ。
シャルル「はあ、、はあ、、はあ、、、」
(まだ、、ここで終わってはダメだ!)
ベータ「はあ、はあ、はあ、クソオオオ」
ベータはまだ意識を持っている。
が、彼の両手は炭化しており、武器すら握れない状態。まさに満身創痍であった。
シャルル「これ.....で..終わり...だ.....!」
シャルルは再び立ち上がって前を向く。だが、ふらついていて、生成される炎は右往左往してすぐに消えてしまう。
ベータ「勝負....あったな。シャルル君!」
ベータは勝利の笑顔を見せる。
しかし、ベータは己の後ろに来る別の影に気づく余裕もなかった。
アリス『バインドスター!』
とアリスが唱えると、星の精霊たちがベータに飛びつく。
ビリビリビリ!
ベータ「ぐわああ!」
ベータの体に電撃が走り、大きく怯む。
イデア『フロストピークフリーズ!』
カチカチカチカチ!
イデアが唱えると、一瞬のうちにベータの足元が凍る。
ベータ「クソッ!なんだこれは!」
そして、その氷はどんどんと上へと伸びていく。
ベータ「ああ、、、あ、、あ、、」
氷はベータの全身まで伸びていき、ベータは完全に身動きが取れなくなった。
シャルル「はあ。はあ。やった....!」
シャルルが再度地面に倒れ込む。
アリス「シャルル!お疲れ様!」
イデア「はあ、はあ、、やったわね」
こうして、敵は全員動けなくなった。
革命軍の幹部は討伐され、裏切りのベータも倒した。
その様子を、建物の屋上から眺めている別の姿があった。
...灰棒のアルファとガンマである。
アルファ「ベータめ。しくじったか」
ガンマ「....どうする?」
アルファ「まあ、仕方がない。回収して本国に撤収する」
ガンマ「…だな」
二人は突然、氷漬けになったベータの前に現れる。
シャルル「なっ。お前、、たち、、」
シャルルたちはすでに満身創痍だったが、新たな灰棒たちを眼の前にして警戒する。
アルファ(ここで戦闘して全員の口封じをするのも手だな)
アルファ(いや、後々のことも考えるとリスクが高いか)
アルファはシャルルを見て一瞬思考を巡らせると、両膝を揃えて敬礼する
アルファ「君たちには迷惑をかけた。ベータの行動には我々にも目に余るものがあったことを謝罪しよう」
アルファ「そして、君たちの勇気と力に敬意を表する。」
ガンマ「……同じく」
シャルルは警戒を解かないが、とりあえず安心する。
きっとベータだけが異常だったのだと思いこむしか彼にとって未来のある世界はないと思ったからだ。
しかし、イデアは納得していない様子だ
イデア「そんなこと言っても無駄よ。あなたたちは始めからこれが目的で赤国に来たんでしょう?」
アルファ「はて。これとは何だ?」
イデア「とぼけないで!赤棒を攫ってなにかの実験にするつもりだったんでしょう!」
イデア「そうでなきゃ、あなたたちが革命に干渉する理由がないわ!」
アルファ「なるほど、それは考えもしなかったな。遺憾だ」
アルファ「まあ革命軍の本体も君たちの活躍で落とせた。我々の目的は達成された。よって、余計な疑いを掛けられる前に本国に帰還させてもらおう」
アルファがそう言うと、空から円盤が現れ、円盤の中央から光が放たれる。
その光はアルファとガンマ、そして氷漬けになったベータを照らし、まるで吸い上げるようにして彼らを円盤の中に取り込んでいく。
イデア「なっ!待ちなさい!」
しかし円盤はアルファたちを収納すると、ものすごい速度で飛び立ち見えなくなってしまう。
直後、やってきたのはマテリエルとセフィアだった。
マテリエル「お前たち、大丈夫か?」
シャルル「……」
バタン、とシャルルは倒れる。
イデア「シャルル!」
倒れたシャルルの元にイデアとアリスが駆け寄る。
マテリエルとセフィアは周囲を見渡した後、とりあえず状況を確認し始める。
セフィア「……どうやら勝ったみたいじゃな」
マテリエル「あぁ、革命軍幹部のラヴに、この死骸は....」
ジル「クリムゾンだ。ベータがやった」
ジルが補足するとマテリエルは納得したように頬を緩ませる。
マテリエル「なるほど。しかし、この有様はなんだ?」
周囲は辺り一面が焼け焦げており、大きな亀裂が走っていた。
マテリエル「おい、シャルル!起きろ!」
マテリエルはシャルルに必死に呼びかけるが返事がない。
セフィア「……これはひどいのう」
セフィア「…まさに、地獄の跡じゃ」
セフィアは町の惨状を見て切ない顔をする。
町は、フローレンの使った『紅炎舞う乙女』によって大火事、もしくはすでに灰になっていた。
セフィアがそういった後、赤国軍の兵士が走って報告に来る。
赤国軍兵士「報告します!灰国軍の機械兵たちが、任務は完了したと言って一斉に撤退を始めてしまいました!」
セフィア「なんじゃと?全く、徹底しておるの。やつらは」
セフィアは呆れるように息を吐く。
赤国軍兵士「いかがしますか?」
セフィア「…まあ良いじゃろう。戦いは我々の勝利じゃ。皆にそう伝えよ」
セフィアは一呼吸置き、冷静な顔でそう判断する。ベータたちが裏切ったことは知る由もないといった感じだ。
アリス「あの、灰国の人たちは...」
イデア「アリス。何も言わないで」
アリス「え?」
イデアは悲しそうな顔でアリスを見つめる。そして続ける。
イデア「良いの、これで。まずはフローレンとシャルルを安全なところに連れていきましょう」
と、やるせない気持ちを抑えるのだった。
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一方、アルザス中心街から少し離れた場所に、一人のメイドがいた。
その赤棒は、地面を転がってボロボロになってしまった聖女様の手を掴んで、彼女を立ち上がらせた。
「聖女様。危なかったですね」
カーネーションは突然吹いた強い風に飛ばされて、戦線から離れていた。
その強い風は決して偶然の産物ではなく、他でもないこのメイドが出した魔法だった。
この場所はアルザス地区の端っこにある丘で、そこからは天にも登る巨大な煙幕がアルザス町の中から打ち上げられているのが見えた。
すでに爆発から5分はたっただろう。今頃現地ではベータが氷漬けにされる頃だ。
しかし、先程の大魔法が放たれた跡形は遠くからでもわかるレベルで健在していた。
カーネーション「ラヴ! クリムゾン!?」
カーネーション「まさか....さっきの炎の中に?」
「申し訳ありません。そこまでは手を回せず..」
カーネーション「そんな、私だけ、こんな……」
カーネーションは悲しい思いとともに、貴族たちへの強い憎悪を初めて実感した。
と同時に、自分がまだ生きていることへの安堵の気持ちも覚えた。
「あなただけでも、生きていて良かったです」
メイドは胸に手を当ててカーネーションに諂う。
カーネーション「....ありがとうございます。カステラ」
カーネーションを助けたメイドは、カステラだ。
...カステラはかつて、フローレンと同じサンミューズ家に仕えていたメイドだった。
フローレンとは古くから仲良しの親友で、暴徒たちに屋敷を襲われた日にも、フローレンと一緒に戦っていた。あれから彼女の行方を知るものは誰もいなかったが...彼女は今、革命軍の事実上のトップであるカーネーションに仕えていた。
カーネーション「あなたがここにいるということは、例の作戦の方は....」
カステラは少しだけ笑みを含めて報告する。
カステラ「成功しました」
カステラ「これで、この国は救われます」
クリムゾン&ラヴ&灰棒たち「1話で出番終わりかよ」
あれ~。こんなシナリオだったっけな。。