表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/10

5章_主は希望を見ている

シャルルとフローレンは、コミューン街から離れて再び赤国軍に合流していた。

理由は単純、シャルルが頼れる組織は、最初から軍部しかなかったからだ。

革命軍の捕虜から帰還したシャルルは再び、マテリエル少尉との会談が許された。

「いはやは、よく生きて帰って来たな。シャルル殿」

「お心遣いありがとうございます。」

「君の従者、フローレンと言ったか。かなり優秀みたいだな。」

「ええ。まあ」

「彼女がいなければ今頃、、、考えたくもありません」

「奴らは極めて危険です。早急に排除しなければと痛感しています」

「ああ。心構えが一段と変わったようだな」

「はい」

「今度の作戦では、君にはぜひ私の直轄部隊に入ってほしい」

「はい」

「作戦はいつになりそうですか」

「1週間後だ。それまでに装備と準備をしっかり整えておけよ」


---

1週間後、作戦の日が来た。


革命軍の討伐に駆り出された部隊はすでに壊滅しているため、集まったのは各部隊の残存兵だけだ。

しかし、前日までに集団規模での兵士たちの脱走が相次いでいた。

残る戦力は想定の半分程度になっていた。


シャルルやマテリエル、他の貴族将校たちはいらだちを抑えながら、作戦を開始する。

シャルルはフローレンを連れて軍の先頭に立ち、コミューン街へと歩みを進める。

「ねえフローレン」

「はい?」

「君はやつらのことをどう思う?」

「……」

フローレンは少し考えこんだ後、

「敵です」

「そうか。なら良い」

「僕が敵だと言った存在は、お前にとっても敵だ」

「いいな」

「はい!」

フローレンは健気に返事をした。

---


「突撃せよ!」

「お~!」

赤国軍と革命軍の戦闘がついに始まった。

赤軍は部隊ごとにコミューン街になだれ込み、革命軍の基地を目指して突撃していく。

一方革命軍も街道や建物を駆使した市街戦を展開し、激しく抵抗する。


人数比では圧倒的に革命軍が多い。

だが、赤国軍側に残った将校たちは、皆一級品の魔法使いだった。


『光魔:セレスティアルインフェルノ』

貴族将校の一人、セフィア・セイントコネクトは革命軍の集団に突っ込んで上級魔法を炸裂する

パーン。ババババーン

一気に数十人の敵が消沈し、そのまま地面に倒れていく。


「おお、あれが上級魔法か!初めて見るぞ」

シャルルは味方の働きを称賛した。


「セフィア様は名門貴族の出身だ。本来なら雑魚処理をお願いするのも恐れ大きいのだが..」

「名門の方々はやはり使う魔法も凄いのですか?」

フローレンは素朴な疑問をマテリエルに問う。

「ああ、血筋の良い家柄ほど高度な魔法を専門にしているな」

「だからこそ、君があれだけの魔法が使えるのは不思議だ」

「マテリアル少尉、余計な話は止めていただきたい」


「っつ。」

フローレンはシャルルの機嫌が悪くなるのを察して黙りこくる。

だが、マテリエルは構わず話を続ける。

「本来、魔法を学べるのは貴族の特権だ」

「貴族の特権?」

フローレンは聞きなれない言葉に疑問を浮かべる。

それに対してマテリエル少尉が答える

「ああ、魔法はその威力によって、低級、中級、上級の3階級に分けられている」

「中級以上の魔法は、貴族か聖職者、それと一部の軍人でないと学ぶことが許されていない」

「貴族が優れているから、平民にも同じくらい魔法を学ばせる必要などないということだ」


フローレンはこの話を始めて知った。

今まで、サンミューズ家の屋敷では次々と難しい魔法の習得を推奨されていたからだ。

「その、階級というのはどのような基準で決まるのでしょうか?」


「フローレン。今は余計なことを考えるな。」

シャルルはフローレンの質問にメスを入れた。

(っち、余計なことを教えやがって)


「....まあ良い。軍に力を貸してくれるなら、貴様らの罪も保留にしよう…」

「話は終わりだ。行くぞ!」

マテリエル少尉はそう言い放ち、再び進軍を始めようとした。


シャルルたち政府軍は優位性のある中級魔法を使うことで、革命軍に一定の打撃を与えていた。

しかし、革命軍の数の多さと、士気の多さ、そして憎悪の大きさに徐々に押されていくことになる。

魔法を放つには、魔力が必要だからだ。

そして魔法を使うたびに魔力は徐々に消費されていく。

貴族たちの魔力が切れ始めたころ、戦況は一変する。

「敵襲です!」

1人の兵士が赤国軍に駆け寄り報告する。

「なんだ?」

「中級魔法を使う小隊と、正体不明の黒棒がこちらに向かってきています」

「恐らくは、敵の主力かと!」


(黒棒...まさか)

フローレンは、先の戦いで遭遇した黒棒のことを思い出した。

(あれが攻めてきているとなると、このままでは……)


「損耗してきた我らを一気に打つ気か。シャルル殿、フローレン君。まだやれるか?」

シャルルは息切れしているが相変わらず強気だ。

「向こうからくるとは、ありがたいな」

「この機を逃さず革命軍を鎮圧するぞ」

「はい」


---

一方赤国軍は、黒棒の奇襲に動揺していた。

「なんだこいつ!」

「早い...!」

「....お前たちが遅すぎるんだ」

「怯むな!魔弾の雨を浴びせてやれ」

赤国軍の魔法使いたちは、黒棒に魔法を放つが、命中することなく弾かれる。

「魔弾が効かない……だと?」

「あの黒棒はいったい……」

「貴様たち雑魚に用はない」

「……さっさとそこをどけ」


そういうと黒棒は赤国軍に一人突っ込んでいく。

「奴を内側に逃がすな...!」

「隊長!足元に魔方陣が..!敵にロックされています!」

「なっ、いつの間に!」

隊長が振り向くと、そこにはアカネが率いる革命軍側の魔法使いが現れていた。


「貴様は!」

「敵はひとりじゃないのよ!」

アカネは布陣した魔方陣を発動させると、それらは赤国軍の兵士たちもろとも爆発してしまった。


ほぼ同時に、シャルルとマテリエル少尉がこの場に駆けつけてくる。

「うおー。このシャルルサンミューズが援軍に来たぞ!」

相変わらず威勢だけは一人前だ。

シャルルは前線にいた兵士たちの亡骸を見る。

彼らのほとんどが爆死してしまっている。


「あら?あなたは、この前逃げ出した貴族じゃない」

「アカネだな。先日の恨み...ここで必ず晴らさせてもらう」

「覚悟しろ」


シャルルは魔銃を構える。

アカネはその様子をあざ笑うかのように、新たな魔法を発動させた。

「へえ……ずいぶんと強気ね」


シャルルが持っている銃は、実弾が入っていない。代わりに魔力を込めることで発射される構造になっている。

一発辺りの魔力消費が少なく、扱いも容易なため赤国では多くの兵士の標準装備となっていた。

それは逆に言うと、シャルルが扱える攻撃魔法は三等兵と大差ないということ


アカネは黒棒を呼び出した。

「ブラック。あいつらを蹴散らしてあげて?」

「了解だ」


(こいつ……あのときの……!)

「皆さん!気を付けてください。あの黒棒は、、強いです」

フローレンは皆に警告する。


マテリエル少尉の側近たちは、銃を構えて魔弾を放つ。

しかし、体に纏った鉄のようなマントが弾を通さない。

「神速、絶空斬!」

マテリエル少尉はすかさず魔法を放つ。

「なに!」

(早すぎて呪文が間に合わない!?)

黒棒は一瞬のうちに、間合いを詰めてきた。

(避けれない……)

グサッ...と

「マテリエル少尉!」


マテリエル少尉はブラックに吹き飛ばされる。

痛む傷を押さえながら、何とか立ち上がり、戦局を眺める。

(なるほど。近接系の黒棒でこちらの隊列を崩し、後方では魔法部隊が敵を殲滅する作戦か)

(確かに、こちらには接近戦に有利な戦力がろくに居ない...)


「マテリエル..くっそ!」

「シャルル様!アカネからも攻撃が来ます!」

「ああ、分かっている」

「もちろんいくわよ!」

『炎魔:フレイムバーン』

ゴゴゴゴゴー!


迫りくる炎を前に、シャルルも魔銃を発泡する。

(今がチャンスだ)

バンッ!


魔弾はアカネの強烈な炎に焼かれて消失してしまう。

一方、回避に遅れたシャルルはアカネの炎を直撃する

「アッツい!!」

(クソっ。当たると思ったのに!)


シャルルはその場に倒れ込んでしまった。

「ふん。その程度で倒れるなんて、本当に貴族なの?くだらない」

アカネは呆れるように言った。



「よくもシャルル様を!」

そういうとフローレンは全身を炎に包んでアカネたちに突撃する。

「ネプソン。消化急いで!」

慌てて部下の一人が詠唱を始める。

(こんなんじゃだめ……どうすれば)

「水魔法:ウォーターポ.」

「ぐわっ」

フローレンの炎の舞は、水魔法を唱えようとした兵士をピンポイントで捕えた。


アカネは焦る

「なっ!?」

(私だってこんな器用に炎を纏えないわよ!?)

「ブラック!早くこっち来なさい!」


「へいよ」

ブラックはよろよろのマテリエル少尉を置いて後退する。

そして、フローレンの背中を狙う。


「フローレン!後ろにくるぞ!」

マテリエル少尉はフローレンに叫ぶが、もう彼女が振り向く頃にはブラックは目と鼻の先まで来ていた。

「っ!」

ブラックがフローレンに迫り来る。

(このままだとやられる……)


ブラックがフローレンの首に剣を向けた時、素早く動く影が見えた。

ガキーン!

ブラックの剣はその人の剣と拮抗した。


「ほお..」

「あなたは...ジル!」

「ぐぬぬ、、しばらくぶりだな...」

ジルはブラックの重い剣を支えながら、苦し紛れに笑って返す。


「フローレン!」

『冷魔法:フロストピークフリーズ』

「っち」

ブラックの足元から氷が生える。

それを察知したブラックは即座にジルとフローレンから離れる。


「イデアさん!」

「やっぱり、あの別れ方じゃ納得できなくてね。」

イデアはフローレンに手を振って笑いかける。

「そんな...革命軍に敵対までしなくても..」

「いいの。私達が決めたことだから」

フローレンはイデアを心配するが、イデアの心は決まっているようだった。

そんなイデアの背後からもう一人、小さいこどもが現れる。

「ちなみに私もいるよ!」

「えっ!アリスちゃん!」


「あいつらは..」

「っふ。どうやら、あの時うちの基地に潜り込んでた4人組が揃ったようね」

アカネはせせら笑うように言うと、再び魔法を放つ。

『炎魔法:フレイム・バースト』

そしてそれを合図として、周囲の魔法使いも魔力を込め始める。

(次こそまずい!)

「イデアさん!」

「ん?」

『エンブラゼ・ウォール』

フローレンは魔法の壁を張る。


アカネたちの魔法は、壁を避けるように上に逸れて炸裂した。

「う〜また!!」

悔しそうに歯ぎしりするアカネ。

彼女は自分を正面から睨みつけるフローレンとイデアの姿をみて、余計に機嫌を悪くする。

「ブラック!さっさとやらないと給料出さないわよ!」

「はいよ」

アカネはブラックに命令する。


「ジル!そっちは頼むよ!」

イデアはジルに指示する。

「...いや、無理だっての。10秒もつかどうかだな」

ジルはイデアの無茶振りにボソッと愚痴を吐く。一方ブラックはやる気だ。


「ッフ。まずはお前からか」

『スキル:瞬足』

ブラックは風のように音をきりながらジルに接近する。


『エンハンス・レグ』

一方ジルは、自分の足にバフをかけてブラックの攻撃を回避する。

シュパッ!

(あ、危ねえ..)

ジルは眼の前にまで迫る剣先をギリギリ避けたことを察知する。


だが、安堵するまでもなく次の斬撃が襲いかかる。

ジルは周囲の建物を使って空中を逃げ回り、時間を稼ぐ。

エンハンスレグの効果もあって、黒棒相手にもなんとか立ち回れているように見えなくもない。

だが、ジルはあくまで戦闘向きではない。

剣は持っているが、それは護身用。

足を早くするのも、どちらかというと戦うためではなく、逃げるための術だ。

故に戦闘経験では圧倒的にブラックが上だ。


ジルは建物から建物へ飛び回り、ブラックから距離を取るが、

ちょうど10秒逃げ回った頃、ジルの着地地点にブラックが先回りする。

「なっ!」

「はあっ!」

ブラックの剣とジルの大剣がぶつかる。

(ガキーン!)

ジルは力負けして吹き飛ばされ、地面に叩きつけられる

「ぐはっ!」


「これで終わりだ」

ブラックは建物の壁を蹴り、ジルの倒れた地点に急降下する。

(やばい、今動かないと死ぬ!)

「エンハンス・レグ」

ジルは咄嗟に自分にバフをかけ、その地点から逃げ出す。

「ガハッ」

だが、途中で足を躓き、今度こそ地面に思いっきりダイブする。

「はあ、はあ……やべえな……」


ブラックは地面に突き刺した刀を抜くと、ジルを見る。

次こそは必ず自分を仕留めるといわんばかりの赤い目。表情には微かに笑みが見られる。それが強靭の黒棒、狂人の黒棒などと言われる所以だ。

真っ黒な体から想像するのはまるでハンター。いやむしろ死神と言っても良い。

ジルは、そんな死神から逃げられるワケがないと悟った。


ブラックは刀を構え、ジルに再度接近する。

「ジル!」

突然、アリスはジルの前に現れると、星の精霊たちを呼び出してブラックに飛びかかる。

『スターサークルスウォーム』


星の精霊たちは一斉にブラックに襲いかかる。

「小癪!」

『刀術:風断』

ドカーン!! 辺りに爆発が起こる。

ブラックの斬った精霊たちは、中身から凄まじい光を吐き出して視界を白一色に染めた。


「うっ……」

ブラックは頭を抱えてフラフラしながらも何とか立ち上がる。


アリスは次のスターサークルスウォームを準備してブラックを睨みつける。

が、幼い彼女の足は震えている。

「...ハハハ。さっきのは斬るべきじゃなかったか」

「だが、同じ手は通用しないぞ」

ブラックはアリスを斬りつけようとする。

「うっ...」


一方、ジルはブラックの後方を見ていた。

直後、銃の発砲音が鳴り響いた。

「ウグッ」

ブラックの背中に銃弾が直撃する。


銃を撃ったのは、シャルルだ。

さっきはアカネの炎にやられていたが、何とか立ち上がることができた。

「はあ、はあ…よし。今度は当てたぞ」

シャルルは息をあげながらも頬を緩ませる。

自分の力で敵を仕留めたと思ったからだ。


「お前たち、誰だか知らないが良くやった」

マテリエルも続けて参戦する。彼も重症だったが、杖で体を支えながらなんとか立ち上がる。


「くそっ。油断した...」

ブラックは体制を直してシャルルの方を向く。

しかし、シャルル、そしてマテリエルは容赦なく銃弾を放つ。

マテリエルに限っては、魔法で10本の銃を生成し、それらを一斉にブラックに放つ。

ドドドンドドドン!


「ッ!...グハッ」

(バタン)

普段のブラックなら軽く避けれた攻撃のはずだが、足をすくわれた彼はあっという間に八の巣にされてしまった。


「死、、しんじゃった...?」

アリスは今起きたことに対して脳の処理が追いつかず、錯乱していた。

ジルも同じだった。

彼らは、人の死ぬ瞬間を見るのが初めてだったからだ。


一方シャルルとマテリエルは歓声をあげた。

「や、やった!倒したぞ!」

「ああ。黒国の汚い野蛮人め。ざまあみろ」

マテリエルはブラックが倒れたのを確認すると、アリスに向き直る。

そして彼女の頭を優しく撫でた。

「よくやったな……お嬢ちゃん……」

「…え…うん」


アリスは無邪気に褒めてくるマテリエルをよそに、ブラックの死体を気にしていた。

---


一方、アカネに対してはフローレンとイデアが相手をしていた。

アカネっちは直属の小隊を使って合成魔法を発動させる。

「あんたたち合わせなさいよ!」

「イエス!」

兵士たちが一斉に魔法陣を作ると、それらは合わさりより大きな魔法陣へと変化する。

「行くわよ!」

『フレイム……バースト!』

アカネたちから膨大な炎の風が巻き起こる。

まるで炎の竜巻だ。


「なに...そんなのあり!?」

イデアは驚きながらも、必死に氷の壁を作ろうとする。

だが、イデアの氷は小さく、とてもあの炎を防げるものではない。


フローレンも対抗して大きな魔方陣を展開する。

「使ったことないけど..」

『フレイムバースト!』

「えっ!!」

フローレンの魔法は、アカネの炎と相殺してしまった。


「すごい...」

イデアはフローレンの勇敢さに感心する。

一方、アカネは苛立ちを強めていた。


「くそっ……!」

「なんでメイドごときが私の魔法を何度も防げるのよ!」


アカネは突然の出来事に怒りを抱く。

「はあ、はあ、本当に何者なの!あいつら!」

「アカネ様、落ち着いてください」

「我々には魔法壁があります。隊列を崩さない限りはこちらが有利です」

「そんなこと言ったって、倒さないと意味ないでしょ!」


「なんとかしなさいよ!」

「そんな、無茶です...」


アカネの振る舞いは少しだけどこかの誰かに似ている気がした。

言ってはいけないと思うけど、シャルル様と少し似ている。

「もしかして、貴方も貴族...?」

フローレンは素朴な疑問をアカネに問うた。

「はあ?なによ今更?」


アカネは不意をつかれた質問に警戒を強める。

その様子を見たイデアが変わりに答える。

「そうよ。アカネはこのコミューン街近郊の村を治める貴族だったの」

「だった?今は違うの?」

フローレンはイデアに聞き返す。


「アカネはコミューン街の他貴族たちを追い出して、今はこの町一帯を支配する革命軍の幹部になった」

「どういうつもりかは知らないけどね」

イデアはべつに興味がないとでも言うように話を終える。

イデアからすると、アカネが町を支配するようになってから警察の力が弱まり、治安が悪くなったのを悪く思っているからだ。ただ、貴族たちが治めていた頃が良かったかと言われると、そうでもないから複雑な心情でもある。


一方、アカネはここぞとばかりに語り始める。

「この町は膨張し続ける貴族たちの税金によってずっと苦しめられていた」

「だから、この私が他の悪い貴族たちを追い出してあげたのよ!」

アカネは顔を赤くしながらフローレンに言う。

「なるほど……」

しかし、それを聞いたフローレンはあまり納得している様子はない。いや、どちらかといえば憐れむような表情だ。

『悪い貴族』

そんな定義をされてもよくわからないからだ。

するとアカネはさらに畳みかけるように言う。

「それに今は私がこのコミューン街という国を統べる女帝なのよ!」

「だから、あなた達は早く死んで私の奴隷になりなさい!」

アカネはフローレンに指を指してそう命令した。

しかしフローレンはそれは反応せず、アカネに追い出された貴族のことを考えていた。



(私の仕えるサンミューズ家も、暴徒たちに襲われて皆殺しにされた)

フローレンはアカネの『悪い貴族』というワードを聴き、自分が仕えていた家族のことをまた思いだす。

(シャルル様たちが悪い貴族だったとでも言うの?)

(あの人は私を助けてくれたのに)

フローレンはふつふつと怒りが込み上げてきた。そして両手に魔力を集め始める。

「舐めないでくれる?」

フローレンは怒りをあらわにし、アカネを睨む。

「はあ?なによ」

(なにこいつ……急に雰囲気変わりすぎじゃない)

アカネは突然変わったフローレンの態度に少したじろぐ。だが、すぐに気を取り直すと、兵士たちに命令した。

「あんたたち!やっちゃって!」

「イエス!アカネ様!」

兵士たちは杖を構え、フローレンに向かって魔法を放つ。

シュッ……シュシュシュシュッ!

炎や氷、実弾や毒が魔弾となってフローレンに降り注ぐ。


「スー」

(『炎渦疾風』!)

フローレンは深呼吸すると、足元から爆ぜる炎をまき散らす。

その炎は何層にも連なり、アカネたちの魔弾はすべて消沈する。

「うそ……」

アカネは魔法が消えたのを目の当たりにして驚く。

そして、炎の中から出てきたフローレンを見てさらに驚愕する。

(なに……あのメイド)


フローレンのメイド服は炎に包まれているが、着ている洋服は全く焦げていない。

それどころか、焦げたはずの髪はいつの間にか元どおりになっている。これはフローレンが炎の魔法を使いこなしていることを証明していた。


フローレンはアカネの目前に迫り、拳を振るうと、彼女たちを守るバリアに衝突する

ドッカーン。と

「キャッ!」

「ウワー!」

フローレンの拳がバリアを大きく凹ませると、兵士たちは思わず悲鳴をあげた。そして各々が吹き飛ばされる。


「うう...」

アカネの綺麗な衣服は見事に焦げ落ち、ボロボロになってしまった。

それを見て機嫌を悪くはするものの、顔をあげてフローレンを見ると、顔を歪ませる。

息をあげながらも、杖で体を支えながら立ち上がる。

そして彼女から一歩後ずさる。


他の兵士たちもフローレンを見て酷く怯えている。

ある者は死んだ振りをし、ある者は両手をあげて、降参ムードだ。


「やっぱり、私はあなたを許せません..」

だがフローレンの殺意は止まらない。

フローレンは再び拳を構えると、足元を軸に炎が舞い上がる。

(まさか、もう一度さっきの技をする気!?)


「なっ....あっ....」

アカネは身構えるものの、怯えて体が動かない。

(ヤバい……これは本当に殺される)

「早くバリアを張りなさい!じゃないと本当に死んじゃうわよ!」

イデアが兵士たちに叫ぶ。だが皆恐れているせいで動けない。

(うそでしょ?この役立たずたち!!)

「わかったわよ!降参!これで良いでしょ!」

アカネは両手をあげてフローレンに訴える。


だが、彼女は何も返さず、アカネを睨む。

「.....」


「っ...」

アカネは心臓がドクンと鳴るのを感じる。

そして、負けを覚悟する。

(もうダメ……殺される!)

しかし、フローレンが攻撃する直前で、イデアがフローレンの手を掴む。


「フローレン!待って!」

「……イデア様?」

フローレンは驚いた顔でイデアを見る。

「もう良いでしょ!これ以上やっても意味ないよ!」

「これ以上はあなたの手が汚れるだけだよ!」

イデアはフローレンを引き止めると、アカネを睨みながら言う。

「...わかりません。なんで止めるのですか?」

「主の敵は私の敵。だから、アカネは私が殺します」

「っ!……そんな」

フローレンはイデアの手を振りほどくと、再び拳を構える。


そして、再びアカネたちに向かって炎を放とうとする。

「え……うそっ…………お家に……帰りたい……の」

フローレンは円陣を巻く炎を纏いながら、アカネに向かって飛び出す。


そして、彼女がアカネの顔面に拳を振るう一歩手前で、


「ごめん!」

『フロストピークフリーズ』

イデアが早口で呪文を唱えると、フローレンの足元に氷が生成される。

そして彼女は、その場でころんだ。

ズドン!


そして、フローレンの拳はアカネに当たらず空を切る。

「え?」

「……」

フローレンは頭を思い切りぶつけて気絶する。なんなら頭から出血している。

イデアはそんなフローレンを優しく抱きしめると、耳元で囁いた。

「フローレン。おつかれさま」

「……うっ……うう……」


----

その後、アカネたちは観念し、イデアやあとから来たシャルルたち赤国軍によって捕縛された。

アカネが降参したことが相まってか、コミューン街の革命軍は総崩れとなり、瞬く間に町は赤国軍に解放された。

シャルルやマテリエルはご満悦である。


フローレンは、頭に痛みを感じながらも、目を覚ました。

そしてイデアの膝で寝ていることに気がつく。

(あれ……?なんで寝てたんだろ?)

「あっ!アカネ様!」

フローレンは勢いよく起き上がると、周りを見渡す。

すると、手錠を掛けられて吊るされるアカネと、同じ様にされている革命軍の兵士たちの姿が見えた。


「あ、フローレン!起きたんだね」

「イデアさん……私は....?」

フローレンは頭の包帯を手に触れながら聞く。

「ああ、それは……」

「その、ごめん。私が焦って雑なことしちゃったから。フローレンに怪我をさせちゃって...」

「?」

包帯の周りには、いつの日か見た星の精霊たちが飛んでいた。

よく見るとイデアの隣にはアリスも座っている。ちなみに少し離れてジルも、精霊に囲われて床に寝そべっていた。

(アリスさんのお星さまか。また助けられちゃったな)


「えっと、何がどうなったんでしょうか?」

「ええとね。それは、、」


イデアが説明しようとすると、シャルルが割り込んできた。

「おお、目覚めたかフローレン」

「はい!シャルル様、ご迷惑をお掛けいたしました……」

フローレンは頭を下げる。するとシャルルは少し困った表情で答えた。

「ハハハ。まさか! アカネを捕えたそうだな。むしろ良くやった!」

「え?う〜ん。そうなんですか?」


フローレンは自分の記憶を辿るが、アカネにトドメを刺すところで止まってしまっている。

だから、そこから先で何があったのかまではわからず、自分の手柄なのかも確信できていないみたいだった。

「フローレン、頭に怪我をしてるからこれ以上の尋問はやめておくよ。今は休め」

(シャルル様が気遣いの言葉を...?!)

シャルルはそう言うと向こうを向いて歩いて行こうとする。


フローレンは驚きの表情をしていたが、イデアとアリスはシャルルを見てヤレヤレといった表情をしていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ