3章_主はきっと苦しんでいる
赤国軍を去った私は一人でシャルル様を探す旅に出た。
あの人が生きていない...なんて考えない。
もしシャルル様が生きていたなら、必ずお助けしなければならない。
それが私の使命だから。
ここから東に5里進めば、コミューン街という街につく。
革命軍が占拠している街の中では一番近い。
シャルル様が捕らわれているとすれば、ほぼ確実にここに連れて行かれるはずだ。
公道を使えば比較的すぐにたどり着けるはずだが、普通に行ったら革命軍に捕まる可能性がある。
だから森を迂回して、遠回りにコミューン街を目指すことにした。
...お腹すいたなぁ
思えば昨日の昼から何も食べていない。
朝はまだ貴族屋敷で良いものを食べたから良いけど、ここ数年間は経験したことがない時間絶食している。
しかも昨夜はシャルル様が心配でほとんど寝ていない。この体はもう限界だ。
私は、森の中で見つけた川で水を飲もうと思った。
「ふう。」
なんとか水を手に入れることができた。
そして、私は川のほとりに腰を下ろした。
「シャルル様……今どこにおられるのですか?」
ここにいないはずの彼の姿を想像する。
時刻は昼頃。普段なら、昼食を済ませて、私達が後片付けをする時間だろう。
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「バリーン」
カステラ「あっ、フローレン。またお皿割っちゃった!」
メイド長「なんですって?お皿1枚いくらすると思ってるの!全く、本当に勝手の悪い子ね」
フローレン「..も、申し訳ございません。」
マロー「あらあら、まあそんなにカリカリしないの。」
メイド長「奥様!ですが、こんな無能を我が屋敷においておいても、メリットなどありません!」
マロー「仕方ないでしょ。慣れてないんだから。」
マロー「それにまったくできない子の方が、成長を眺めるのが楽しいものよ。」:
メイド長:「...奥様がそうおっしゃるのなら。」
カステラ「フローレン。下手に焦らなくてもよいと思うよ。私みたいに慎重にやってればミスも減るから。」
メイド長「...貴方はゆっくりすぎです。カステラ」
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少しの間、思い出に浸ってしまった。。
サンミューズ家での生活は、楽ではなかった。けど、優しい人に囲まれて、幸せだった。
みんなは、もう...
あの日、わたしたちの家は暴徒に襲われた。
沢山の人が殺されてしまった。
私は運良くシャルル様を連れて逃げ出すことができたけど...
他の人たちはきっともう、この世にいない
だからこそ、あの人だけはちゃんと助けないといけない。
「シャルル様」
私は、立ち上がってコミューン街を目指して歩き出した。
その刹那……
「だれかいるよ?」
草木の間から、3人の黒棒が現れた。
「だれ?」
私は強く警戒する。ここで人に出会うこと事態がすでに危うい。
それに彼らは黒棒。
昨日革命軍にいた黒棒はとても強かった。
もし敵対するものなら、絶望的かもしれない。。
3人の黒棒の中から、一番身長が低い子が私に近づいてきた。
上質そうな青いマントを羽織っていて、黄銅色の髪と目をしている。
見た目だけ見たら私より少し年下かもしれない。
「はじめまして!私はスマイルと言います。あなたは誰ですか?」
スマイルと名乗る少女は、笑顔で私に微笑んだ。
その姿に一瞬見惚れてしまう。
「フローレン...です。」
「フローレンさん、よろしく!」
スマイルは手を差し出してきた。私は握手に応じた。
スマイルの手の感触はとても柔らかかった。
「フローレンさんはどうしてここに?軍人さんではないよね?」
「ええ……革命軍の基地を、探してるの……」
「へぇー!面白いね!」
「あなた達こそ、赤国で何をしているの...?」
恐る恐る私も質問する。
「私達は〜旅の者です!」
「別に怪しい人でも、革命軍の人間でもないですよ」
スマイルは人懐っこい性格のようで、どんどん私に話しかけてきた。
私は内心ホッとしていた。
もし、黒棒が敵だったら今の私では勝ち目がない。
「ねえねえ、フローレンさんは何しにこんなところを?」
スマイルは質問を続ける。私は徐々に警戒を緩めながら質問に答えた。
「……シャルル様を探しているの」
「誰なの?その人。」
「私の大切な人……」
「へぇ、大切な人かぁ」
そう言うと、スマイルはいたずらに微笑んだ。
そして彼女はこう続けた。
「なるほど! その大切な人を助けに来たんだね」
「そうです。」
「最初はシャルル様に連れられて革命軍の討伐隊にいたんです」
「でも戦いの中で、革命軍に捕らわれてしまったんです」
「それは災難でしたね。。」
「もしかして、、たった一人でその方を助けに向かっているの?」
スマイルは心配そうに私を見つめる。
私は、自分が無謀なことをしているとわかっていた。でもシャルル様を助けることは、私の人生の全てだから……。
「はい」
そう答えると、スマイルは少し考えてから口を開いた。
「あなたの主を尊ぶ強い気持ち、とても共感しました〜!」
スマイルの目はキラキラしていた。
なんかとても恥ずかしい。。
「あっ、そうだ!これあげます!」
スマイルは私に小さな箱を手渡してきた。
中には、パンと水が2つずつと干し肉が入っていた。
「これは……?」
「私達の食料です!フローレンさんの分もあげます!」
「……ありがとう」
私は礼を言って受け取ると、その場で食べた。
久しぶりに口にした食べ物は味が薄かったけど、とても美味しく感じた。
「おいしい」
思わず口をついて出てしまうほどに。。
「良かった!」
スマイルも嬉しそうだった。私はこの子と仲良くなれる気がした。
でも……今はシャルル様のことが心配だ。
もう太陽は沈み始めていた スマイルに別れを告げてコミューン街へと向かう。
コミューン街へと近づくにつれて、大きな屋敷がちらほら見えてくる。その全ての家紋が血で埋められている。
おそらくすべて失脚したのだろう。
私は人通りの少ない箇所から道路に進入した。
町並みは他の街と特別な差があるようには見えない。
普通そうな人が普通に歩いているし、お店も開いている。
革命軍が占拠しているから、そこに住む市民は強制労働とか、厳しい監視でもさせられてるのかと思ったけど、そんなことはないらしい。
これなら普通に歩いていれば怪しまれないだろう。。
そう思って道路を歩いていると、複数人の赤棒が何かを囲っている様子が見えた。
何を囲っているのだろうと遠くから覗いてみると、中心に小さな子供がいた。
「お前、親はいねえのか?」
「何...?放っといてよ..」
女の子は怯えている様子だった。
「俺たちと来ないか?うまいもんが食えるぞ。」
「本当……?」
話を聞く限り、囲っているやつらは人さらいかもしれない。
まだ日も出ているというのに、治安が悪い。
私はその人たちにゆっくり近づく。
向こうも私に気づいたようで、強い睨みをこちらに向けてきた。
私も彼らを睨み返しながら、問いかけた。
「何をしているんですか?」
「おいおい、なんだこの女ァ」
「こいつも奴隷にしちゃうか?」
男が舌なめずりをしながら近づいてきた。気持ち悪い。。私は一歩下がった。
すると後ろから、もう1人が近づき、私の肩に手を置いた。
私はそいつの手を払い除け、平手で仕返しをする。
「てめえ何しやがる!」
倒れた赤棒は殴られた頰を抑えながら、怒りを表した。
もう1人の赤棒が私を押さえつけようと、襲いかかってきた。
私は地面に押し倒された。
「おいおい、この女の顔に傷入れんなよ」
私を押し倒した赤棒は下卑た笑みを浮かべる。
私はその顔を睨みつけると、彼は私の首を手で掴んできた。
力が強くて抵抗できない……
「っはは。『エンハンスアーム』だ。俺の腕力は一時的にだが黒棒並にできる」
「大人しくしな..」
さらに首を強く締め付けられた。息ができない……意識が遠くなっていく……。
もうだめだと思った時、男は手を離した。私は崩れ落ちるように地面に横たわる。
「フロスト...」
誰かがそう呟いていた。
するとそいつは氷漬けになっていた。
「え?」
「お前、何しやがる!」
人さらいたちも驚いているようだった。
彼らの視線の先には別の赤棒がいる。
「あなた達ね。この街で子供を攫っている悪党は」
「あっ。こいつ自警団の紋章をつけてやがる。やべえ。逃げるぞ!」
「エンハンスレグ」
男たちはものすごい逃げ足で走り去っていった。
「っち、逃げ足の速いやつら..」
「大丈夫ですか?」
彼女は私に手を差し伸べた。
「ありがとうございます」
私は彼女の手を掴んで起こしてもらった。
その人は赤いマントに黄色の髪をしている。
耳もとに青い宝石を付けているのが印象的だ。
「こちらこそ、妹が危ないところを助けてもらってありがとうございます」
「お姉ちゃん!遅いよ〜」
さっきの少女がつぶやく。
「ごめんアリス。でも一人になっちゃダメでしょ」
ああ、どうやら彼女の姉らしい。
彼女は再び私の方を向いて話し出す。
「申し遅れました。私はイデア。この町で自警団をしています」
「で、この子がアリス。私の妹なんです」
イデアと名乗った少女はアリスという妹を紹介する。
「よろしくね!」
「よろしくお願いします……。私は、フローレンと言います」
私も軽く会釈をした。アリスは元気な子だ。
私は疑問に思ったことを尋ねた。
「自警団というのは一体?」
「ああ、この街では警察が根こそぎ革命軍に追い出されてしまったから、治安が最悪なのよ。
さっきみたいに赤棒や黒棒が幅をきかせて好き勝手やっているの」
「だから私たち自警団で、街の治安維持活動を行ってるのよ!」
「なるほど、そうだったんですね」
「ところであなた、もしかして外の町から来たの?」
一瞬、言って良いのか戸惑う。
でもこの人たちは革命軍ではなさそうだし、大丈夫かもしれない。
そう思った私は正直に答えることにした。
「はい、そうです。」
「そう。もしかして、革命軍に入るつもり?」
「え?!いえ、そういうわけでは...」
「ふ〜ん」
私はうまく答えられなかった。
するとイデアは何かを思いついたように、こう言った。
「革命軍に入るつもりがないのなら、私たちに協力してみない?」
「協力……?ですか」
「そう!人手が足りなくて困ってるんだ。」
「それに、あなた可愛いし!私たちと一緒に働きましょうよ!」
「だから、フローレンさんみたいな優しい人が入ってきてくれたのは嬉しいわ!」
「ねえ、よかったらあなたも自警団に入らない?」
「え!?」
突然の誘いに困惑する。
本来なら、嬉しい誘いなのかもしれない。
でも、私にはシャルル様を助けるという目的がある。
それに私の顔が革命軍にバレている可能性だってある。
この人たちに迷惑はかけたくない....
「ごめんなさい。私も、この街には別の目的で来ているんです」
「そっかぁ」
イデアは残念そうに俯いた。
するとアリスが、何かを思い出したように顔を上げた。
あどけない笑顔を浮かべながら彼女はこう言った。
「そうだ!フローレンさんも一緒にお家に帰る?」
突然の提案に私は戸惑う。家にはもう戻らないと決めているから……しかし、この子の無邪気な表情を見ていると、断るのも悪い気がした。
「え、えっと……」
私が悩んで困っていると、イデアさんはアリスに言った。
「アリス!そんな簡単にお家には帰れないのよ」
「でもお姉ちゃん。フローレンの泊まるところないんじゃない?」
「あっ..」
「確かにそうかもしれませんが……」
私は正直に答える。
するとイデアさんは少し考えてから言った。
「それなら、今日はうちで寝ていって」
「え!?いいんですか?」
私は遠慮しながら尋ねる。すると彼女は微笑んで答えた。
「いいのよ!アリスも懐いちゃってるし、あなた可愛いしね。」
「ありがとうございます!!」
私は嬉しさでつい叫んでしまった。
そんな私にイデアさんは、笑いながら言った。
「そんなに喜ばれると照れるなあ」
そうして私は、イデアのいう自警団の事務所に足を運んだ。
どうやらイデアさんの自警団は、コミューン街の一角にあるらしい。
カランカランッと鳴る玄関を開けると、小さなバーのようなお店に入った。
「いらっしゃ〜い」
中にいた女性が声をかけてきた。
彼女は耳と首に青い宝石のアクセサリーを付けていた。
おそらく彼女も自警団の一員だろう。
「こんにちは、ティファさん」
どうやら常連らしいイデアさんは、彼女に挨拶をした。
「紹介するわ。ここが自警団の事務所。本当はティファさんのカフェなんだけど使わせてもらってるのね。」
「ティファさん、この子はフローレン。このまちに来たばかりみたいで、悪いのだけど、今日泊めてあげてもらえない?」
「良いわよ」
ティファさんと呼ばれた彼女は快く承諾してくれた。
私は感謝の気持ちを伝えると、彼女は「いいのよ」と言った。
話が終わると次に、店の奥にいた2人の男性が出てきた。
「イデア。おつかれ」
「ちょうど良いところに」
2人はイデアの同僚だろうか。
「どうしたの?」
イデアはキョトンとした表情で応じる。一方男たちは深刻な顔で話し始めた。
「ジルが革命軍に連行された」
「え?!ジルが..?」
イデアは驚いた。どうやらジルという人は彼女にとっても特別な人らしい。
「ああ。数日前から行方不明だったのはお前も知ってるだろう」
「革命軍に潜入していた仲間から、ジルが投獄されてるって報告を受けた」
「でもどうして?革命軍は政府と貴族を狙うのでしょう?あいつは貴族でも何でもないはず...」
「恐らくは、あいつの昔の仕事だろうな」
イデアははっとしたような顔をした。
私にはなんの話をしているのかわからない。
「イデアさん。部外者の分際で申し訳ないのですが、ジルさんという方は...?」
私が尋ねると、イデアではなく、アリスが答えた。
「ジルは元々、貴族の悪事を暴いていた探偵だったの!」
イデアも頷く。
代わりに男たちが続きを話てくれた。
「正確には、ジルは貴族たちの表に出せない裏事情を売買していたのさ。」
「この腐りきった時代には、不正をしている貴族がほとんど」
「で、貴族たちは気に入らない相手を失脚させるのが大好きな生き物だからな。ジルは一躍だったんだ」
「昔の話だがな。今は貴族もつぶしあいをしている場合じゃなくなって、あいつも今はただの探偵だ」
「だが、」
「あいつの記憶の中には、貴族たちが犯してきた言えない闇が沢山入っているはずだ」
「革命軍からしたら欲しい情報だろうな」
「....」
私は恐る恐る話を聞いていた。
別に私に関係のある話ではないけど、なんだが胸がゾクゾクする。
「ジル…」
イデアさんは深刻な顔で呟く。
「イデア、やめておけ」
「あいつを助けなきゃ!」
「革命軍は俺たちが相手に取れる組織じゃない」
「あいつ1人のために、俺たちの命を無駄にはできない」
「っ……」
彼女は悔しそうに拳を握りこんでいた。
男性たちは去り、私は部屋に案内されていた。
どうやら2階の一室らしい。
「ありがとう。イデア」
私はお礼を言って、部屋に入る。
するとイデアは笑顔で言った。
「ううん!困ったときはお互い様だよ!」
純粋な笑顔に、心が洗われるようだ。
「それに、さっきはごめんなさいね。変な話を聞かせちゃって」
「いえいえ、大丈夫です」
「そのイデアさん。」
「ん?」
「ジルさんを助けに行く気ですね?」
「えっ?」
「実は、、私も革命軍で調べたいことがあるんです...」
私は今までの経緯を彼女に話した。
主人であるシャルル様が、革命軍に捕らわれているかもしれないこと。
そして革命軍の本拠地に侵入しようとしていること。
「そうだったのね。あなたも大変なのね……」
「でも、革命軍は本当に強いのよ」
「はい。知っています……」
「でももしあなたの言っている通りなら、シャルルって人は本当に革命軍に捕まっているかもしれないわ」
「そして、言いにくいけど、かなり酷い目に合わされていると思う」
「革命軍は、貴族を心底憎んでいる人たちの集まりだから……」
私は、シャルル様が酷い目にあっているという想像をして、胸が苦しくなった。
「お願いします!私も連れて行ってください!」
私は跪いてお願いをした。
彼女は私の行動に驚いていたが、少し考えた後答えてくれた。
「……わかったわ」
「一緒に行きましょう」
「!。ありがとうございます」