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10章_主のために

とりあえず完結です。長編ものは初めてかも。読み直したら色々とおかしいところしかないんだろうな(白目)

---


シャルルは意識を失いながら、夢を見ていた。

それは幼少期のころの夢だ。そこにはセフィアもセルもいない。いるのはまだ幼い自分。

「シャルル様、あさでございますよ」

ヒビヤが彼に起きるように促すと、彼は起きていつもの着崩れした服装に着替えた。そしてリビングに向かって歩き出し、廊下の扉を開ける。するとそこには笑顔の母が待っていた。

母は今日も彼を笑顔で迎え入れる。


「おはよう。シャルル」

(ん……母さん?)

「シャルル様、朝食の支度ができましたよ」

またヒビヤの声がする。それになんだかいい匂いもする。彼は空腹を感じた。

しかし体は動かない。意識と体がまるで整合性のとれない状態だった。


「今日の朝はパンなのね」

(母上……?)

(父上もいる)

シャルルは両親とともに食事を取った。

それは少し前までの日常だった。


食卓の隅には、メイドたちが一列に並んで待機している。

彼女たちの顔触れは毎年のように変わるのでいちいち覚えていない。

一応人間なんだろうという認識はあるが、実際にはナイフやフォークと大差ないものだ。

呼んだら来るし、呼ばなかったらずっと立っている。そういう存在でありそれ以上でもそれ以下でもない。

もっともたまに寝たり、あくびをしだす奴もいるから、その時は舐められないように懲罰するがな。


窓の外ではホームレスたちが小さな布から出てきて活動を始める時間だ。

もっともそんなものに興味はない。

どうしてあんなみすぼらしい姿になったのか、助けてあげられないのか、

1回くらいは考えてもみた。一人だけ助けてみたこともある。

だが、全員を救えるわけでもないし、彼らの働きは自分たちの生活のために必要だ。考えてもしょうがないだろう。


「さ、いただきましょう」

「う、うん」

「い、いただきます」

彼はパンを丁寧にちぎって口に運ぶ。コックが夜中から丹精込めて作った柔らかいパンだ。

今日も悪くない。

こうやって高貴に朝ご飯を食べ、味付けの下手なものがあれば叱責し、お腹が満杯になれば無理に食べずに残す。

そうすれば料理の質は担保されるし、メイドたちはありがたく残飯を食べて自分に感謝することだろう。


そしてそのまま彼は朝食を完食する。

「ごちそうさま」


---


「シャルル様!」

突然自分の名前を呼ぶ声が聞こえる。

最近からよく聞くようになった声。

フローレン。か。

シャルルは夢から覚めた。だが体は動かず、ただフローレンが来た事だけを目で認識することができただけだった。

「シャルル様、今助けます」

フローレンはシャルルを見つけると、手に火炎を纏い、それを天に掲げた。


「なんだこいつは!」

兵士たちはフローレンを警戒し、銃を向ける。

しかし、フローレンの膨大な魔力に彼らは成す術もなかった。

そしてフローレンは炎を纏った拳を地面にぶつける。


「『ディア・メテオ』!!」

彼女の叫びと共に、シャルルたち貴族と革命軍の間に巨大な爆炎が湧き立つ。

兵士たちはその衝撃波で吹き飛び、その場で倒れている貴族、そして魔導車までも例外なく吹き飛んだ。

もちろん、シャルルの位置は事前に把握しているためそこだけは無事だ。


場面がスッキリすると、フローレンとカステラはお互いの目を見た。

「フローレン。いつのまに牢屋から逃げて...?」

カステラはフローレンの現状に理解が追いつかない。そもそもここにどうやってこれたのかも不思議だった。


「カステラ...シャルル様を返して」

フローレンは強く訴えると、カステラは一歩後ずさる。

カステラは恐怖した。今のフローレンなら、もしかしたら自分にも容赦せず襲ってくるかもしれないと思ったからだ。それほど、彼女の目には余裕がなかった。


しかし、横から突然、閃光がフローレンを襲った

「!」

フローレンは勘でこれをかわすと、閃光の方向を見る。

「ヒビヤ...様!」


シャルルの側近であるヒビヤのことは、とうぜんフローレンも知っていた。

「なんで!?」


「っふ。あの日、君が捕まってないと聞いたときには焦ったもんだ。まさか、今日までシャルルを守っていたとはな。散々革命軍を蹴散らしたそうじゃないか」

フローレンはヒビヤの服装と今の発言を聞き、敵であることを理解した。

なぜ敵になったのかはわからない。だが、彼は敵だと思うしかない。


「私はシャルル様の人形です。あのひとの望む行動をするだけです…」

フローレンは自分に言い聞かせるように、強く心に訴えた。


「ヒビヤ様。あなたはシャルル様を裏切った。間違いないですね?」

ヒビヤに問いかける。

「ああ、そうだ」

ヒビヤは即答で答えると、続けて呟く。


「シャルルは貴族に相応しくない。国を食い物にするばかりで、守ろうとしない無能だからだ」

フローレンは眉間にシワを寄せた。当然、これまでの言動から、シャルルの性格が聖におよばないことはフローレンにも否定できなかった。

だが、

「私は……シャルル様を裏切らない!」

フローレンがそう叫ぶと、彼女の左手から赤い光が漏れだした。そしてそれを正面に広げると、手から破壊光線のような火炎放射が吹き出す。

「おわっ」

ドッカーン!


ヒビヤは体を電気のように変化させると光速でこれを回避する。後に映る、燃え盛る爆炎を見て驚いた。

(なるほど。流石ジュッグス。こいつにシャルルを託したのは合理的だった)


「あなたは知らないでしょうけど……シャルル様は私に生きる意味をくれた」

今度はフローレンの右手から赤い光りが漏れ出し、再び正面に広げる。するとさっきと同じ火炎放射が炸裂した。


「ったく」

ヒビヤは今度は避けずに受け止める姿勢を取る。

(だがなジュッグス、私の方が一枚上手だ)

『ヴォルテックス・パラライズ』

これで良いだろうと思ったヒビヤは、小さな電流を流して相手を感電させる魔法を唱えた。


炎と雷、どちらも手では透けてしまうような形なき存在。

それ故に、ぶつかりあって相殺するものではない。むしろあまり知られていないが炎は電気を通す。

それを知っているヒビヤは、低圧な電気をフローレンの炎を使って、彼女自身の身に電線させるのだ。


「ぐああ」

フローレンはバランスを崩して自ら発火する。


ヒビヤ「まったく……無知とは怖いものだ」

ヒビヤ「君は騙されていたんだ。フローレン。サンミューズ家が君に何をしたと思う?」

フローレン「そんなことは知っています!」


フローレンは即答でヒビヤの告げ口を否定する。

ヒビヤは『器の解放』のことを告げようとした。そうすれば彼女は戦意喪失するはずだと思ったからだ。

ヒビヤはカステラの方を見る。するとカステラは腕を組んで、「もう話した」と言わんばかりの呆れた表情を返した。

ヒビヤ「..なに?ではなぜ彼らを助ける?」


フローレン「それは...」

フローレン「私がシャルル様の従者だからです!」



ヒビヤ「..やはりわかってないな。あんなクズに本気で仕えるアホがいるか」

フローレン「私はアホなので仕えてしまうんです!」


ヒビヤ「やつらはお前みたいな捨て子を何百人と拾っては魔法実験の材料にした」

ヒビヤ「お前の様に適正のあったものは従者にし、死ぬまでこき使う」

フローレン「そうです」

ヒビヤ「恨む理由はあっても、忠義を果たす理由はないだろう」

フローレン「いいえ、理由がどうであれ、私はサンミューズ家に拾われたから今日まで生きてきたんです」

フローレン「それは事実です!」


ヒビヤ「だが、そもそもあれだけ捨て子が出たのは、サンミューズ家が民に厳しい締め付けを行ったからだ」

フローレン「ええ。たしかにサンミューズ家は最低です。シャルル様も、お世辞にも褒められた人ではないです」

でも、それでもあの人は私を認めてくれた!

少なくとも今、私はあの人に大事にされています!

だから、私はあの人がこれからどうされるのか見たいんです!」


フローレンはヒビヤに炎拳を突きつける。

が、ヒビヤはそれを受け止めてつぶやく。

「はっ!やっぱりお前はアホだな」

ヒビヤはフローレンを蹴り上げる。


フローレン「ううっ……」

ヒビヤ「権力の奴隷に成り下がってるじゃないか」


フローレンは蹴り飛ばされた反動を使ってヒビヤと距離を取る。

一方ヒビヤの表情には全くの焦りがない。

ヒビヤ「仕方ない。そうやって自分を正当化しないとやっていけなかったんだろう」

ヒビヤ「君と話すことはない。さらばだ」

『ゼウスジャッジ』


そう呟くとヒビヤの杖が光り、次の瞬間巨大な雷が落ちた。


(...?!)

フローレンは空から降る天罰の光に感づいたときにはすでに手遅れだった。光はこの世界で一番早い速度で人を襲う。

しかし、フローレンの意志とは関係なく、そこに強風が吹いたことで彼女は奇跡的に雷を回避した。


「....」

カステラは片手で風を起してフローレンを飛ばした。

「なんの真似だ?」

「……」


カステラは無言でヒビヤを睨みつけてる。

「....フローレンに、手を出すのは許さない」

「なに」


カステラがサンミューズ家に拾われたのは6歳の頃だった。カステラが入ってから1ヶ月もしない内に5歳だったフローレンも加わり、二人は一緒の教育を受けてきた。

同じ屋敷で、一緒に働き、遊び、休んだ。

今となっては、シャルルたちとは敵対する革命軍。サンミューズ家への恩など忘れるほどに恨みの方が強い。だけどそれはフローレンを裏切りたいわけではない。

少なくともカステラにとってフローレンは最初で最後の家族であり、自分の妹だと心から思っている。


ヒビヤは意外そうな反応をしたが、やがて彼女の心境をなんとなく察した。

「そうか。君等はいつも一緒だったからな」

「では、仲良くあの世に送ってやろう」

ヒビヤはニヤリと笑った。

『ゼウスジャッジ』


ゴロロロロ!

雷がカステラに直撃する。

「ぁぁぁぁっ!」

カステラはその場に倒れた。雷の余波で皮膚が裂けて出血している。彼女の体からは煙が上がり、煙の周りから稲妻が見えた。

「カステラ!!」

フローレンは叫んで向かおうとするが、ヒビヤが立ち塞がる。

「さぁ、次は君の番だ」

「っ!」

フローレンはヒビヤの杖に警戒する。


「ゼウスジャッ..」

ヒビヤが言い切る直前、彼の後ろに迫る影があった。

『フロストピークフリーズ!!!』


イデアはヒビヤの真後ろでそう唱えると、ヒビヤの体を一気に凍らせた

「がっ..!」

ヒビヤは驚きの表情で咄嗟に振り返ろうとする。だが凍った体が自由を奪い、何もできなかった。

「イデア!」

フローレンが呼びかけると、彼女は笑顔で応える。

「ええ、お待たせ」


イデアは、ジルの魔法『シャドウヴェール』で気配を消し、ヒビヤの隙を伺っていたのだった。

だがイデアは所詮低級魔法しか使えない一般市民。

ここぞという時を狙うために時間をかけてしまった。


「....」

ヒビヤは氷付き、声も発せない。

「これは、決まったか?」

隠れていたジルとアリスが出てくる。

「大丈夫。お姉ちゃんの氷から抜け出せる人はいないから!」


アリスが目を輝かせてフローレンにそう言った。

「……」

そして次の瞬間、ドゴーンと雷が落ち、 氷漬けのヒビヤの体に直撃した。

氷は一瞬で砕け、中から無傷のヒビヤが現れる。


「うそ...」

イデアとアリスは困惑した。


普通なら、人の全身が凍ればそこで意識も途絶えるため、魔法もなくなるはずだ。だが、ヒビヤは体が凍ってから意識が飛ぶまで、多少のラグがある。まず「冷たい!」と感じてから、次に意識が消えるのだ。

ヒビヤは、その一瞬のラグを掴める男だった。

彼は凍る寸前に『ゼウスジャッジ』の対象を自分に切り替えていた。無論、並の魔法使いにできる芸当ではないが、数多の戦闘経験を持つ彼にはできた。



「はあ。はあ。やってくれたな」

ヒビヤは小声でそう言うと、イデアに向かって電撃を放つ


「危ない!」

ジルはイデアを守るために前に出る。

「ジル!ダメ!」

アリスはそう叫んで魔法を唱えようとするが、それよりも早く、ヒビヤの雷が到達した。

「あがあああ!」

雷撃を受けたジルは焦げて倒れてしまう。


フローレンは両手に火を纏ってヒビヤに突っ込む。

ヒビヤはステッキの先端から雷撃を放つが、彼女は構わずその火で彼を燃やした。

「ぁぁあ!」

体を燃やされて悶えるヒビヤだったが、今は痛みよりも怒りの方が勝っていた。

彼はポケットからナイフを取り出すと、フローレンの腹に突き刺す。

「があっ...!」


フローレンは軽い悲鳴をあげた。激痛が走るが、同時に体が暖かくなったのがわかる。

フローレンはナイフを引き抜くと、腹からは血が流れだす。

しかし、彼女の炎はそれをすぐに焦がして止血した。


そして、フローレンは構わずヒビヤに蹴りを放つ。

ヒビヤもそれを両腕で受け止めると、フローレンに電撃を浴びせる。

フローレンは電撃に焼かれながらも、彼の胸ぐらをつかんだ。そしてヒビヤの体を引き寄せて、頭突きをする。

ガンッ!! その衝撃で二人の額からは血が流れ出す。だが二人は気にもせず睨み合った。

アリスはジルを避難させながらその様子を見ていた。

(これはもう……)


炎と雷、似て非なる二つの力は交わり、二人の体は激しく燃えていた。

フローレンは炎を纏い、ヒビヤは雷撃を放つ。その二つが混ざり合い、やがてそれは大きなエネルギーとなって二人を包み込んでいた。


フローレンの実力はヒビヤの予測をはるかに超えていた。フローレンの実力が互角に近いことを認めた彼は、決断をする。

(っち。こうなったら、もう一度「ショックウェーブパルサー」を使うしかない!)

上級魔法は当然体の負荷が大きい。魔力は体力と連動しているので、一発くらいなら良いが、使い切れば体が動かなくなってゲームオーバー。

アルザス街で倒れたフローレンや、魔力切れで動けなくなったセフィアやセルがまさにその例だ。


だが、そうでもしなければ勝てないのも事実だった。それにここで押し負ければ全てが無駄になる。せっかくサンミューズ家を滅ぼし、新たな世界に希望を見せるところだというのに、

愚能な主人に仕える哀れなメイドなんかにやられては、彼のプライドが許さない


(これでトドメだ)

地面一帯に光の魔方陣が展開される。それはジルやアリス、そしてカステラなど革命軍たちも含み、その場にいる全員を巻き込む勢いだった。


ヒビヤは魔法を唱える。『ショックウェーブパルサー』とそう言い切ると、魔方陣は輝き始める。

(やらせない!)

しかし刹那、フローレンはヒビヤのステッキを右手で握り込むと、赤い炎を爆発させて杖を破壊した。

バチバチッ!

魔法陣は魔力の供給元を失って、不完全燃焼してしまい、行く当てのなくなった魔力が大爆発を起こした。

ドゴーン! 激しい爆風が街路を1つ吹き飛ばした。


アリスは氷の壁を作り、カステラは風の障壁を作って皆を守る。

そしてフローレンとヒビヤは、その衝撃に吹き飛ばされた。

爆発の中心にいた二人はそのまま壁に叩きつけられ、意識を失った。


...

ヒビヤ、フローレンは両者ともに沈黙して戦闘は終わった。

2人とも微妙だにしない


カステラはフローレンを抱えると、フローレンはわずかに目を開けた。

「う....」

「フローレン。無茶して…」

「シ....ル........は?」

シャルルは無事かと聞いているようだった。

こんなときでも、こんなときだからこそフローレンはシャルルを気にしているらしい。


アリスはがれきの中からシャルルを探した。

「いた!」


シャルルはヒビヤの電気を浴びて全身が酷く腫れていた。

アリスはシャルルの腕を触ると、微かに意識があることを確認する

「生きてはいるね」

そういうとアリスは、星の精霊をシャルルの傍に置いて彼を癒した。


「…グハッ」

シャルルは血反吐を吐きながら目を覚ます。

「お前たち...」

シャルルはいつかの自警団を見つけると、不思議がっている。


「フローレンが、助けに来たんだよ」

アリスがそういうとシャルルは目を開いて、立ち上がる。

「なにっ!?」

アリスとシャルルは歩いてフローレンのところに寄る。


フローレンは、微かに目をあけてシャルルを確認すると、そのまま目を閉じてしまった。

カステラは嫌な予感を感じる。

フローレンの肩を揺らすがもう目をあけてくれない。

「フローレン!」


状況を知ったアリスは走ってフローレンにかけつける。

「ちょっと見せて!」

そして、いつもの星の精霊をフローレンに置いて彼女を癒そうとした。


しかし、精霊たちはフローレンを認識せず、ただ浮かんでは消えていた。

「なんで!どうして消えちゃうの!?」

アリスの経験上こんなことは初めてだった。


今までは傷を癒す度に精霊の数が増えていくのに、今日は増えてくれない。

「私の『願いの力』が届いてない?」

アリスは自分の無力さを呪った。フローレンの傷が癒える様子もないことに、絶望する。

「なんで……なんでよ!」

アリスは涙ながらに叫んだ。

「なんで?私の力が弱いからなの?」

アリスは拳を握りしめて自分の膝を叩く。

そして悔しそうな表情で俯いた。


イデアは、ぼろぼろのジルに肩を貸しながらその様子を見て涙を流した。


「報われ…ないな…」

ジルもアリスを見て泣き出してしまった。

「ごめん……なさい……」


だがそれ以上に泣いていたのは、カステラだった。

「フローレン……ごめん……」

彼女は大粒の涙をこぼしながらフローレンの体を抱きしめた。


カステラの悲しむ様子を見て、アリスもジルも胸が痛くなった。

そしてシャルルもまた、膝をついてフローレンの頬に触れた。


「フローレン。。すまなかった」

シャルルは泣いているようで、彼の声は震えていた。

そしてフローレンの体は少しずつ消滅していった。

それはまるで、ランプの炎が消えるように儚いものだった。


カステラはそれを見終えると、立ち上がってシャルルに言った

「シャルル・サンミューズ!あんたのせいよ!」

「一体この子に何をしたの!?」


カステラの怒りは収まらない。彼女の燃える瞳は、シャルルを捉えて離さない。

イデアが慌てて「だ……ダメです!」 と言うが、イデアの言葉を聞いてもカステラは止まらなかった。

彼女はフローレンを失った悲しみとシャルルへの怒りで我を忘れている。だから自分の気持ちを抑える術がなかった。


一方シャルルは反論する余力を残していなかった。

彼はフローレンと逃げ出してから、革命を掲げる連中に復讐するという使命感で動いていた。その過程で、フローレンの犠牲はやむを得ないと考えていた。

なぜならそれが立場の違いだからだ。自分は貴族で、従者を使いつぶす力を持っているからだ。

だがそれは間違いだったと今気づいた。


結局自分がしたことは、フローレンを最後まで頼り、利用しただけに終わった。カステラが怒るのも無理はないことだったと理解した。


「なんとなくわかった。世界は残酷だな」

シャルルはカステラから目を逸らして、悲しげに言うと、カステラはシャルルを蹴り飛ばした。

シャルルの体は簡単に飛ばされる。シャルルももともと重症だ。

今の蹴りによってシャルルは追加で血を吐き出し、地面との衝突で皮膚が抉れる。

「ぐあああああ!」


「やめて!」

イデアとアリスがカステラの両腕を抑える。

カステラもヒビヤの電撃を浴びてる重症者だ。押さえつけることはできるが、そうすると彼女の傷が開いてしまう。

どうしたものかと悩む二人をよそに、がれきの中からエン・トンピーが現れた。


「あれ、だれだろう?」

アリスが呟くとカステラとシャルルが反応する。

「さっきシャルルを襲ってたごろつきね...」

カステラはがエンをにらみつける。


エンはシャルルを確認すると、頬を緩ませて声を発した。

「シャルル・サンミューズ。貴様は必ず殺す!」

彼はシャルルに向かってナイフを構える。


「またかよ....」

と呆れた声を出すが、すでにシャルルに抵抗する力はなかった。

そして、いっそここで死んでも良いと思っていた。


エンは猛ダッシュでシャルルに迫る。

イデアはとっさに魔法を唱える

「フロストリー...!」

だがエンの速度の方がはるかに速い。

(ダメだ。間に合わない!!)


するとカステラはイデアとアリスを振り切り、シャルルとエンの間に入り込んだ。

そしてエンのナイフを自分が受ける。

「っう!」

カステラの胸をナイフが貫通する。しかし、そのお陰でシャルルは命拾いした。


「吹っ飛びなさい....!」

カステラは両手でエンを押し返すと、10mは吹き飛び、そのままがれきの中に突っ込んだ。

「どわあ!」


カステラはそのまま前のめりに倒れる。彼女は口の端から血を流しながらも微笑んでいた。

だが彼女の目は光を失いかけていた。

(あぁ……やっと死ねるんだ……)

そんなことを考えたとき、ふとシャルルと目が合う。


シャルルは「なぜ?」と言わんばかりの不思議そうな顔をしている


「行って」

カステラは辛い痛みを耐えながらつぶやく。

「え?」

シャルルが聞き返すのでカステラは怒りながらもう一度言う。

カステラ「いって!二度と私の前に現れるな!」


シャルルはその言葉を聞くと、体に鞭を打たれたように走り出した。

それを見て、アリスとイデアもついていく。ジルに肩を貸しながら。


彼らが行くのを見届けると、誰もいなくなった戦場で、カステラは倒れた。

(フローレンのバカ)

そう思いながら彼女は地面に倒れた。


---

シャルルは、貴族たちの反乱の中で唯一生き残ってしまった。

それはフローレンが願った結末であり、皮肉にも彼にとっては全く未来のない世界でもあった。


シャルルは自分の罪を理解した。

それは、フローレンを幸せな奴隷にしてしまったこと。


貴族社会の建前。従者は道具であること、主のために生きるべきであること。

そんなルールがクソであることは誰でもわかっている。

ただ逆らおうにも力がない。戦うよりも従う方が無難であったから今まで従ってきただけだ。


だが、フローレンはそれらの建前をすべて馬鹿正直に受け入れてしまった。ただのバカなのだ。

そしてそんなバカが自分の命を助けてしまったのだから、もうどうすることもできない。


シャルルはフローレンの遺影に向かって手を合わせると、立ち上がりつぶやいた。

シャルル(フローレン。ごめん)

彼は覚悟を決めた。そして自由になった体で立ち上がると、自分が負うべき責任を果たすために家を出て行った。

愛すべき従者を生贄にしてしまった主ができる、償いの旅へ出た。


(エンド:純粋な従者)

シャルル生き残ってしまった。

ここからはなんとマルチエンディングルートが書かれるらしい。

(たぶん)

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