1章_主は絶望をされた
----世界観背景
ここは棒人間の世界。棒人間は体の色によって種族が別れており、それぞれが国家を建設して異色の棒人間と貿易や戦争を繰り返してきた。
この世界には、「強靭の黒棒」の住む黒国、「繁殖の白棒」の住む白国、「魔法の赤棒」の住む赤国、「技術の灰棒」が住む灰国、そして「信仰の青棒」が住む青国が存在する。
赤国には血筋を元にした身分制度が制定されており、聖職、貴族、平民の3階級に分かれていた。そして、聖職、貴族は魔法と富を独占し、平民たちの生活を苦しめていた。
しかし近年、度重なる不況と重税により、平民の不満が爆発した。一部は暴徒と化して貴族屋敷を襲い、一部は革命軍を結成して王族討伐の動きを見せていた。
ここは赤国、南部のサンミューズ領。サンミューズ家に仕える従者であるフローレンとカステラは、隣町へのお使いから帰っていた。
フローレン「だいぶおそくなっちゃったね」
カステラ「帰ったら怒られるんだろうな〜」
カステラ「でもしょうがないじゃん!治安維持の目的だとかで、道が通行止めになってたんだから。」
フローレン「メイド長わかってくれるかな。。」
カステラ「ちゃんと急いで行ってきてこれだったんです!って伝えるんよ!」
フローレン「あ、お屋敷が見えてきた」
カステラ「やった!温かい湯船が私を待っている!!」
フローレン「ん?なんか煙がたってない?」
カステラ「煙?確かに、、、何かあったのかな。。」
フローレン「...?」
それから駆け足で丘を登って、私達が仕えるお屋敷、サンミューズ家のお屋敷に到着した
すでに真っ暗な夜だというのに、屋敷の周りは赤く燃え上がっていた。
周囲の庭には火が放たれている。屋敷のドアも破壊されていた。窓も、ところどころで割られている。
カステラ「そんな。。」
フローレン「なんで!お屋敷が燃えているの!?」
カステラ「フローレン。。。どうしよう。」
フローレン「カステラ!シャルル様を助けに行かないと!」
カステラ「助けに!えっ!中がどうなってるかまだ。。」
カステラ「って、ちょっとまって!危ないよ!」
中に入ると、天上が2回まで続く広い玄関がある。客人が来た際に貴族の威厳を示す最初のスペースだ。左には厨房、奥には客室、右側には食堂と階段があり、中央に向かって曲線状に伸びている。
すでに乱戦が行われた後のようで、床にはお屋敷の使用人や、そうでない者の残骸が転がっている。
カステラ「フローレン。これやばいよ。」
フローレン「...」
ガチャリと左の部屋から音がなる。
暴徒「おっ」
カステラ「げえー!」
暴徒「メイドの生き残りか。可愛がってやるよ」
カステラ「あなた達何者!?」
暴徒「は?お前らに酷使されてる平民だが」
フローレン「人様の家で何をやっているの!」
暴徒「わざわざそれを答える必要はないな」
フローレン「カステラ、やるよ!」
カステラ「わ、わかったよ!」
カステラ「風魔法ウィンドカッター!」
暴徒「痛てぇ!」
私たちは戦闘員ではないけど、戦闘魔法もいくつかは習得している。奥様のマロー様が、従者全員に対して戦闘魔法を身に着けるように教育しているから。
フローレン「この!えい!!」
暴徒「ふごっ」
カステラ「ふう」
2対1で暴徒をボコボコにすると、暴徒は大人しくなった。
暴徒「うっ、、下級メイドだと思ったがやるじゃないか。。」
フローレン「あなた。なぜこんなことをしたの?シャルル様や、旦那様は無事なの?」
暴徒「なぜって、それは、、俺達にはもうこうやって飯を奪うしか生きる道がねえんだよ」
暴徒「貴族のことは知らねえ。だが、上の階に行った奴らはもっと血気盛んだったからな。殺しちてるかもな。ははっ」
フローレン「...カステラ!上に行こう!」
カステラ「ええっ..逃げようよ...」
フローレン「主様を助けないと!」
カステラ「うっ、、わかったよ。」
「コンコン!」
フローレン「シャルル様!失礼します!」
フローレン「って、寝てるんですか!?」
フローレン「起きてください!!お家が襲撃されてます!」
シャルル「...?なんだお前?」
フローレン「シャルル様、大変です。暴徒が家に侵入しています。はやくこちらへ」
シャルル「え、暴徒?」
フローレン「いいから来てください!」
部屋の外に移動中...
カステラ「来たあ〜〜!」
暴徒「うおおおおおおお!」
フローレン「カステラ!」
シャルル「どうやら相当ヤバそうだな。。(汗)」
カステラ「シャルル様部屋におられたんですね!?」
カステラ「えいっ!」
カステラ「ハア ハア ..まだ来るね。」
カステラ「フローレン、先に行って!」
フローレン「え、それは..」
カステラ「いいから!シャルル様を任せたよ!」
フローレン「わかった!ごめん!」
カステラ「......最後の言葉がごめんか。」
私たちは屋敷の一番奥にある旦那様の部屋を目指した。
ここはまだ辛うじて従者の人たちが残っていて、暴徒たちと出会わずに部屋にまでたどり着いた。
使用人A「おお、フローレン!それにシャルル様!無事で何よりです。」
シャルル「お前、父上は無事なのか!?」
使用人A「まだこの部屋は無事です。もっとも、いずれ奴らがくるでしょう。」
使用人A「ともあれ、旦那様がお呼びです。早く中へ!」
フローレン「旦那様、シャルル様をお連れしました!」
シャルル「父上、無事で幸いです!。一体何が起きたのでしょうか?」
ジュックス「シャルル、、ああお前も無事で良かった。」
ジュックス「町で革命の騒ぎが起きているのは知っているだろう。私は議会でこの革命に反対していた。だから一部の強硬派が押し寄せてきたんだろう」
執事「議会での発言に対して暴力で答えるとは。。野蛮なやつらだ」
マロー「民衆は無知で、感情的になりがちです。だから危険なのよ」
マロー「シャルル、時間がありません。すぐに隠し扉へ行って。」
ジュックス「シャルル、お前は一族の末裔だ。必ず生き延びなければならない。」
シャルル「ち、父上、母上も一緒に逃げましょう!」
ジュックス「お前の専属執事のヒビヤはどうした?」
使用人B「ヒビヤ様は本日の昼から出張されています」
ジュックス「そうだったか。では」
暴徒A「見つけたぞジュックス!!覚悟しろ!」
シャルル「っ!!」
ジュックス「貴様ら、よくも家を荒らしてくれたな。」
ジュックスは剣を抜いて前に出る。
マロー「シャルル、早くいって!」
シャルル「...僕は...!」
フローレン「行きますよ!シャルル様」
フローレンはシャルル様の手を強く引っ張った。
だが、シャルルは動こうとしなかったので、フローレンは体制を崩す
フローレン「ウギャッ..」
シャルル「嫌だ!」
マロー「シャルル、、父に似て勇敢になってくたようね。」
マロー「しかし、あなたはサンミューズ家の末裔。家を守り、民を守る使命があるの。」
マロー「必ず生き延びて、この狂い始めた世界を正しなさい!」
ジュックス「まだいたのか!早くいけ!」
暴徒B「いたぞ!討ち取れ!」
暴徒C「俺たちも加勢するぞ!」
シャルル「...どうかご無事でいてください!」
シャルル「..いくぞ」
覚悟を決めたシャルルは、今度はフローレンの手を奪うようにとり、裏口に向けて走り出した。
暴徒B「息子が逃げたぞ!追え!」
ジュックス「させるか!」
激しい戦闘音が背後で鳴り響く。
家にいた人たちはどうなったのか、どうしてこんなことになったのか、頭の中は混乱状態。
(ただ、、今私がするべきこと。)
それははっきりしている。
(シャルル様を全力で、逃がさなければ!)
私は、シャルル様の手を強く握りしめ、狭くて暗い裏道を走りつづけた。
裏口の外に出る。
幸運にもで、暴徒と出くわすことはなかった。
ただ、後ろを振り返ると、屋敷の火が全体に広がり、建物の崩壊が始まっていた。
中にいた人たちは、、きっと助かってない。そう言わざる得ないほどには、十分な炎が屋敷を覆っていた。
フローレン「そんな…」
私は、膝をついて泣いてしまった。
(他のみんなは生きていないの?これからどうなるの?)
けれども、私よりも混乱していたのはシャルル様だった。
シャルル「なんで、なんでこんなことになっているんだ?」
シャルル「警備隊は何をしている?暴徒の襲撃にも対処できないのか!」
シャルル様は私を睨みつけながら、そんな聞いても仕方がないことを、言い出した。
フローレン「シャルル様、落ち着いてください」
シャルル「貴様らメイドもだ!数だけ多いくせに肝心なとき役に立たない」
そう言われると自分の肩がぐっとあがる。
フローレン「も、申し訳、、ありません」
フローレン「で、、でも貴方だけはなんとか、、死なせるわけにはいかないと..」
フローレンああ、だめだ。涙が止まらない。なんて冷たい人なんだろう。
シャルル「クソっ、これだからメイドは。。」
シャルル「この町はもうダメだ」
フローレン「...はい」
シャルル「確か隣町にはマテリエル家の家があったな」
シャルル「ドライブ・マテリエル。気に入らない奴だが、頼るしかないよな...」
シャルル「はあー」
シャルル「おいメイド。今からマテリエル家の屋敷に向かうぞ」
フローレン「え!?今からですか?」
シャルル「なんだその不満そうな顔は」
フローレンはさっき外出から戻ったばかりで一切休めていなかった。
(だけど、仕方ないよね)
フローレン「いえ!申し訳ございません。承知しました」
シャルル「あとあれだ。お前の名前はなんだ?」
フローレン「え?あ、フローレンです」
シャルル「そうか。じゃあフローレン。お前には責任をとってもらうからな」
フローレン「えぇ...」
シャルル「事が収まるまでは、お前が僕を死ぬ気で支えろ」
シャルル「わかったな」
ああ、やっぱり私はこの人に一生ついていくんだな。。
私には、静かにうなずくことしかできなかった。
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家を失った私達は、夜中のうちに街を去りました。
幸いにも真夜中の街道に人影は全く無く、わたしたちの存在に気づく人はいなかったでしょう。
そして、わたしたちは隣領を統める貴族である、マテリエル家を頼りました。
私達は一日かけて隣町である、スクリュー町にたどり着きました。
完全に徹夜です。そして今は夕方、もう体がクタクタ..
マテリエル家の屋敷は、まだ暴徒たちに襲われていません。到着した私達はまず、壮大な門と整った庭園に迎えられました。
そして、わたしたちはマテリエル家の領主様との謁見に望みました。
マテリエル家領主「シャルル殿、久しいですな。一体何があったのですか?」
シャルル「僕の屋敷が襲撃されたのだ。屋敷にいた人たちは皆殺しにされた。家も焼き払われて住むところがない」
シャルル「どうか、しばらくの間匿って貰えないだろうか?」
マテリエル家領主「....もちろん、と申したいのは山々なのですが、こちらも十分な待遇を用意できるほど余裕がありません」
マテリエル家領主「とはいえ、シャルル殿の頼みとあれば、何かしらの宛を探してみましょう」
シャルルは頷き、安堵の表情を浮かべた。
マテリエル家領主「ただ、一つ制約があります」
シャルル「……なんだ?」
マテリエル家領主「シャルル様の身の安全のためにも、今日はこの屋敷から、いえ、客間から不用意に出ないようにお願いします」
マテリエル家領主「ここは隣町ですから、もしシャルル殿の追手が潜んでいた場合、責任を持てません」
シャルル「わかっている。身の回りの世話は連れにやらせる」
マテリエル家領主「どうか良い夜を過ごされますように」
私とシャルル様は、客間へ案内されました。質素なベッドには豪華なシーツが敷かれていて、大きな窓からは庭園を一望できます。
シャルル様はベッドに横たわり、すぐに眠ってしまいます。私のためと思われるベッドもシャルル様の隣においてあった。
とはいえ、こんな立派な部屋で寝るのは初めてなので、如何せん心が落ち着かない。
「おいメイド」
突然、シャルル様が私を呼ぶ。
フローレン「は、はい!」
私は驚いて姿勢を正す。
シャルル「温かい茶を一杯もってこい」
フローレン「かしこまりました」
私は一礼して、部屋をでた。
厨房に向かうと、そこにはマテリエル家のメイドたちがいた。
彼女たちはなにか話しているようだ。
「客間には誰が通っているのかしら?」
「ここだけの話、サンミューズ家の人らしいよ」
「あ、昨日屋敷が襲われたっていう...」
「ええ、」
「そんな人たちを匿って大丈夫なの。」
「サンミューズ家とマテリエル家は、社交上は仲が良いからね」
「でも政治の方針は真逆よ」
「そうらしいわね」
「サンミューズ領ではマテリエル領と違って年貢意外の諸役が多いし..厳しいのよね」
「亡命貴族を助けたら、こっちにとばっちりが来たりしないかしら?」
「怖いわね」
どうやら私達の話をしているようだった。
今のタイミングで私が間に入ると、なんとも気まずい。。
でも、お茶の入れ方を聞かないわけにもいかないし、、
「す、すいません!」
「そ、そのお茶なんですけど……」
彼女らは振り返り、私の存在に気づいたようだった。
「貴方は?」
「サンミューズ家の従者、フローレンと申します」
「あっ、貴方がフローレン様?お噂はかねがね」
彼女たちは私に丁寧に挨拶してくれた。やはり貴族同士だと交流があるようだ。
「それで、お茶の入れ方なんですが……」
彼女達は快く教えてくれた。そして、出来上がった紅茶を持って客間に戻るのだった。
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翌朝
シャルル様はマテリエル家の領主様と会談していた。
今回は例によって私も同席しています。(とはいえもちろん、私は立っていますけどね)
領主「昨日はよく眠れましたかな」
と、領主様は当たり障りのない話題から始める。
シャルル「あぁ、おかげさまでな」
領主「それは良かった。。それで今後のご予定ですが、シャルル殿」
領主「革命軍の存在はご存じですよね?」
シャルル「知っている」
領主「赤国の西側にあるコミューン街を中心に、彼らの勢力は日々増大しています」
領主「それに伴って、いたる領地で反乱の波が起きています」
領主「シャルル殿の屋敷が襲われたのも、革命軍の手によるものではないかと噂されています」
領主「このままでは、マテリエル家も危険にさらされるでしょう」
シャルル「……そうだな。」
領主「実は、すでに私の息子は東部の革命軍を討伐するべく遠征に出ております」
領主「しかし今一つ戦力不足で苦悩しているみたいなのです」
シャルル「それで僕にどのような頼みを?」
領主「シャルル殿には、息子率いる本隊に合流して頂きたく存じます」
シャルル「ほう。」
シャルル様はまだ15歳。
もうすぐ士官学校に入れる年齢ではあるけど、戦闘の経験なんて全くないはず。。
嫌な予感がする私はシャルル様の方を見たけど、シャルル様は小さく笑っているように見えた。
そんなシャルル様の様子を確認した領主様も、微かに顔をニヤリとさせて、立ち上がる。
領主「シャルル殿、両親の安否もわからない中、心苦しいと思います。ですが、お家の復興のためにも、この国のためにも、一躍動いてはいかがでしょうか」
領主「勿論。無理と言われるのであれば、こちらであなたを匿う用意があります」
「あなたのご両親やお友達の無念を晴らすためだと思って、ご決断いただけませんか?」
シャルルは立ち上がって言う。
シャルル「承知した。我はこの国に尽くすことを誓おう」
領主様はホッとしたように胸を撫で下ろしたように見えた。
そして、領主様はそのまま一枚の地図を取り出して、シャルル様にいろいろと説明していた。
一通りの話を済ませた後、領主様はシャルル様に質問する。
領主「ちなみにですが、そちらの従者はどのようにされますか?」
シャルル「もちろん、連れて行く」
領主「……分かりました」
(ホッ)
私は安堵の一息をついた。
もしここで要らないから置いていくなんて言われたら、私に行く場所なんてないのだから。
これはもしかしたらチャンスかもしれない。
ずっとお慕いしていたシャルル様に、私を助けてくれた貴方に恩を返せるかもしれない。
そしてもしかしたらもしかしたらだけど、貴方に認めてもらえるかもしれない。
頑張ろう...!