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そのに

 2話目です。ここまで書かないとラブコメ感出ないかな?

 ……回想しているうちに気分が余計にブルーになってきた。帰ったらまずベッドにダイブしてごろごろしよう。お着換えとかはその後。そんな算段を立てているうちに馬車は屋敷へと到着し、ルナの手を借りつつ私が馬車を降りた、その時だった。


「ヘンリエッタ! 」


 そう言って馬車に走り寄ってくる殿下に似た顔の青年が、殿下とは対照的な銀髪を揺らしながら私に向かって駆け寄ってくる。そんな彼の姿が視界に飛び込んできた瞬間。わたしの沈み切っていた心に光が刺した。


「ジャック! 今日もうちに遊びに来ていたのね!? 」


「うんっ! ヘンリエッタは今日も御勤めだってわかってたけれど、会いたくなってきちゃった」


 そう言って子供っぽい満面の笑みを浮かべてくるのはジャック=リヒトル――リヒトル公爵家の3男だった。彼は私とお姉ちゃんの秘密を知っている数少ない貴族の友人にして、私の本当に好きな相手だった。王太子殿下と顔がそっくりなのはリヒトル公爵家と王家は血筋的にかなり近いかららしい。


 彼と私が知り合ったのは2年半前、私が外ではお姉ちゃんの振りをするようになって間もなくのことだった。その日、私は王城で開催されるパーティーに『王太子の婚約者』として招待されていた。そこでいつもよりも長時間お姉ちゃんを演じ続けた私は気分が悪くなってパーティーの途中でお城の外に逃げ出しちゃった。そんな私に手を差し伸べてくれた相手、それがジャックだった。


 ジャックに私が『リモナ』ではなく『ヘンリエッタ』であるところを見られた時。私は最初、この世の終わりだと思った。その真実が公表されればこれまで私が頑張ってきたことは全て水泡に喫し、家名にもお姉ちゃんに名前にも泥を塗ることになっちゃうから。でも、ジャックはやつれた私のことを介抱し、私が『ヘンリエッタ』であることを口外しないと誓ってくれた。それどころか。


『世界中が君が君のお姉さんであることを求めたとしても、ぼくだけは本当の君を見つめ続け、本当の君を肯定し続けるよ。だって君も、お姉さんに負けないくらい素敵にぼくの目には見えるから』


とまで言ってくれた。その瞬間、これまで恋とは無関係な人生を送ってきた私は生まれてはじめて『恋』と言う感覚を知った。


 それ以来、私の心の共にして初恋相手のジャックは『友達として』よく私の屋敷によく遊びに来るようになっていた。そんな彼の笑顔が私にとっては心の支えで、生きる活力になっていた。本当の私をまっすぐ見つめてくれるジャックの笑顔を見ると、どんなに落ち込んだ時でも元気になれる。ジャックのちょっとあどけなさの残る笑顔を見ていると、明日も頑張ろうっていう気になれる。今日もまた、ジャックの笑顔に私は救われちゃった。


 ――王太子殿下じゃなくてジャックと恋人同士になれたら、どんなに幸せだろう。ジャックに私の本当の気持ちを伝えて、ジャックに彼女になりたいな。


 そんな感情が何度頭を過ったか知れない。でも私はその度にぐっと堪えた。この恋愛感情は絶対に許されない。この感情を優先させると大好きなお姉ちゃんや一族に迷惑をかける。だって、まだお姉ちゃんと殿下の婚約は有効なのだから。


 この時もまた、そんな感情が頭をもたげてきて私は必死に感情を押し込めようとしてみる。でも自分の本当の感情を押し込めるのはやっぱり苦しくって、顔に出ちゃったみたい。私の苦悩に気付いたらしいジャックは、いつものように私のことを心配してくれる。


「どうしたんだい、ヘンリエッタ。お腹でも痛いのかい? 」


 ――なんでここで優しくしちゃうのよ。そんな風に優しくされたら、私、本当に……。


 喉まで出かかった言葉をギリギリのところで飲み込む。私はジャックに聞こえないように小さく「バカ」と呟いた。




 それから。私は自分の部屋までジャックを連れてきて今日の殿下との2人きりの時間がどれだけ苦痛だったかの愚痴を垂れ流していた。


「殿下ったら『あの天真爛漫なヘンリエッタがいてくれたら、ぼく達の関係をうまく取り持っていてくれたかな』とか抜かすのよ? 仮にもお姉ちゃんが目の前にいるのに、その相手の前であの発言ってありえなくない? 」


 私の言葉にジャックは「うーむ」と腕を組んで考えこむ。そして。


「それって、王太子殿下も本当のヘンリエッタのことが好きなんじゃないかな」


 思いもよらないジャックの言葉に、わたしは暫く思考が停止しちゃう。


「……ジャック、今なんて……? 」


「だから、殿下もヘンリエッタ――つまり、自分の婚約相手の妹の方が好きなんじゃないかって」


「ないないない、それは絶対にない! だって、私ってあのお転婆娘なのよ? 完璧で究極な無敵の貴族令嬢であるお姉ちゃんを差し置いてお転婆娘を選ぶなんて、よっぽどのもの好きじゃないといないでしょ。いや、私はそんな、完全無欠な貴族令嬢であるお姉ちゃんをうまく演じられていないのがいけないんだろうけれどさ」


 私がいつものように自嘲気味に言うと、ジャックは私の目をじぃっと見つめてくる。そして。


「そんなもの好きが、目の前にいるんだけどなぁ」


 ジャックの言葉の意味を理解した途端。私の顔はかっと熱くなる。


「か、からかわないでよ! 」


 ついそう口走った私に対して、ジャックは徐に立ち上がり。


 ドンッ


 ベッドに押し倒される私。そして、必然的にわたしとジャックはお互いの鼻と鼻がくっつきそうな位置にで見つめ合う構図になる。


 ――好きな人の顔がこんなに至近距離に……。


 心臓の鼓動がうるさい。ドキドキしすぎて、今すぐにでも意識が飛んじゃいそう。なのに、ジャックは私の着も知らないで私の耳元で甘い言葉を囁く。


「からかってなんかないよ。ぼくのこの気持ちは本気。本当は今すぐにでもヘンリエッタをぼくだけのものにしたい。甘くてとろけそうなヘンリエッタの全てを、ぼくだけで美味しくいただいてしまいたい」


 ジャックの温かい吐息がくすぐってくる。


 ――もう、ダメ……。


 私の意識が飛びかける、その寸前。


「なーんてね。ヘンリエッタにぼくがガチ恋しているのは本当だけれど、今はここまでにしておこうか。まだ君と殿下の婚約が有効な以上、ここで君のことを寝取ったりなんてしたら王太子妃寝取られ罪で王宮に捕まっちゃうからね」


「わ、私と殿下の婚約じゃないし……お姉ちゃんと殿下の婚約だし」


 私が小さく呟くとまたジャックは私に顔を近づけてくる。


「ってことは、『ヘンリエッタ』のことは今すぐぼくがおいしくいただいちゃっても誰からも文句は言われないのかな」


 一度収まった心臓の鼓動が再び早くなり出す。だ、ダメ、このままじゃ……。


 そう思った時だった。ぱっとジャックは私から顔を離す。


「って今のも冗談。ぼくはヘンリエッタのことが好きだけど、そんな強引にことを進める気はないって」


 いつもの人懐っこい笑みを浮かべてジャックはそう言ってくる。それに対して私はほっと胸をなでおろすけれど、心には何かぽっかりと穴が開いたような感覚が残った。


「でもぼくはヘンリエッタのことが女の子として好きだからこそ、ヘンリエッタの素敵なところをたくさん知ってる。その素敵なところに惹かれる男子が他にいても、悔しいけれど当然だと、本気で思ってる」


 そこでジャックは一呼吸置き、そして。


「ただ、やっぱり本当の自分を見てくれない婚約相手と一緒にいるヘンリエッタは見ていてすごく辛そうだよ。だから、いっそのこと婚約破棄してしまった方が互いにとって幸せなんじゃない? もしそうしてくれたら、ヘンリエッタのことはぼくが責任をもって幸せにして見せる」


 そんないつもと少し違う雰囲気のジャックの言葉にその時にわたしは頭がほわほわしていて、何も答えられなかった。ただ。


 ――本当にジャックと一緒になっても私、許されるのかな。リモナお姉ちゃんはそれでも許してくれるのかな。


なんてことを、ちょっと考えてしまった。

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