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05

数年前のリフレイロード王国は、とても豊かな国だった。


土地は肥え、食物が豊かでありながら、国境には山々に囲まれた自然の要害を持った難攻不落の城塞が立つ。


さらに治安も良く、税は低く、他の国では考えられない制度――生まれに関係なく努力さえすれば望む職につけた。


すべては先代、先々代と続くリフレイロード王の尽力(じんりょく)によるものだったが、ある日に国王は殺されてしまった。


それは王位第ニ継承者だった王の娘――メロウ·リフレイロードによってだと国から発表された。


それから第一継承者だったフェローシャス·リフレイロードが国を継ぎ、王国はそれまでの制度を廃止。


農民は農民のまま、商人は商人のまま、貴族は貴族のままと、すべて生まれで決まる国政が敷かれる。


さらにフェローシャスが軍を起こし、他国と戦争を始めたことで税は高くなり、民を苦しめた。


これらのことで民と上流階級との貧富の差は広がっていく。


格差は罪人を産む。


食うために犯罪をする者が増え、もはや平和だったリフレイロード王国は、以前とは完全に別の国となっていた。


「なに言ってんだよファクト! 姉さんにそんな言い方するなんて酷いよ!」


リットは、一方的にメロウを問い詰めるファクトに声を荒げた。


そんな彼女の態度に、ファクトは呆れた様子で鼻を鳴らしている。


いい加減に気がつけとでも言いたそうな態度だ。


すると、突然メロウが席を立ち、黙ったまま家を出て行ってしまう。


皆は彼女の背中に声をかけたが、メロウが振り返ることはなかった。


「おい、ファクト。今の話……本当なのか?」


ガーベラがファクトに訊ねると、フリーも彼のほうを見ていた。


フリーは口にこそしていないが、その表情からして、ガーベラと同じことを訊こうとしていたことがわかる。


そんなニ人にファクトは言った。


聞いての通りだと。


あの女が父親である王を殺し、リフレイロード王国を今のような酷い国にしたのだと。


「態度と口調こそ聖人じみてるが、あの女こそ元凶みたいなもんなんだよ。お前らだってそう思うだろ? 国さえまともだったら、オレたちがこんな島に来ることはなかったんだ!」


王国が以前のままだったら、自分たちは罪を犯したりはしなかった。


ファクトの叫びに、ガーベラもフリーも何も言い返せずにいた。


ただ彼から目をそらし、拳を強く握るか、歯を食いしばるだけだ。


ニ人は、メロウのことを悪くは言わないものの、ファクトの意見に同意していた。


たしかに国さえまともであったなら自分たちもまともだっただろうと、ガーベラとフリーは考えてしまう。


「姉さんが()ったって言ったの!? 言ってないでしょ!? それなのにどっかで聞いたこと鵜呑(うの)みにするな! 姉さんはあたしたちの仲間じゃないの! あたしたちが信じないでどうするんだよ!」


そんなニ人とは違い、リットはファクトに言い返した。


出会ってから日こそ浅いが、メロウが立派だと言われている国王を、ましてや父親を殺すなんて考えられない。


たとえ本人が殺したのだとしても、それには絶対に事情があるはずだ。


メロウが自分のためだけに、人の命を奪うような人間じゃないことくらいわかっているだろう。


リットは揺れ動くガーベラとフリーに(げき)を飛ばすように声を張り、ファクトにも訴えているようだった。


だが、彼はそんなリットを見て――。


「相変わらずおめでたいな、お前は。人なんて信じるもんじゃねぇ。そうやって仲間だ友だちだなんて言ってんと、そのうち痛い目を見るぞ」


諭すように言い返すと、自分の部屋へと行ってしまった。


リットは彼に掴みかかろうとしたが、ガーベラとフリーがそれを止めていた。


ファクトは、それを背中で感じながら歩を進める。


自分は間違ってなどいない。


仲間など必要ない。


誰も信じるものかと顔を歪め、自分の部屋に入るとベットに寝転んだ。


ファクトの家は、平民ながら裕福な家庭だった。


それは今はない制度――生まれに関係なく努力さえすれば望む職につけたからだった。


ファクトの父は法学者だった。


実定法に関する研究を(おこな)う実定法学と、基礎法学を学び、国内の法律を強固にし、ときに隙間(すきま)を使って人助けをしていた。


しかし制度がなくなったことで仕事を奪われ、さらに兵士として戦争へと送られた。


戦地へと行ったファクトの父は二度と故郷には戻らず、異国の地で命を落とす。


地獄はそれでは終わらず、ファクトの母は食べる物を手に入れるために、あちこちに頭を下げて回った。


これまで家族ぐるみの付き合いがあった者たちを頼ったが、彼ら彼女らはそんなファクトの母を拒絶。


落ち目の人間からは人は離れる。


ファクトはそのことを幼い頃に知った。


高い税金を払えば飢えが待っている。


貧富の差、格差は広がり続け、普通に働いているだけでは、今日の食事にも困るようになっていた。


ファクトの母は、わずかな食べ物を手に入れるために、おぞましい男たちに抱かれた。


優しい言葉をかけてきても、結局は裏があるのだ。


幼い日のファクトは、人間不信の底へ突き落とされたのだった。


誰も信じるものか。


そう思っているのに。


そのはずなのに。


「オレは間違ってねぇ……間違ってるはずがねぇんだ……」


どうしてこんなに後味が悪いのだと、ファクトは無理矢理に目を(つぶ)った。

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