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――リフレイロード王国の宮殿で、治安維持組織アナザー·シーズニングのシュガーは、王に謁見(えっけん)していた。


彼女はリーダーだったマスタード·オルランドの汚名をそそぐべく、現国王フェロ―シャス·リフレイロードに直訴しているところだった。


本来ならば、たかだか治安維持組織のメンバーが国王と会うことなど(かなら)わない。


だが、この案件にはメロウ·リフレイロードが絡んでいるため、異例として許された。


もともとメロウの殺害をマスタードに依頼したのがフェロ―シャスだ。


このことが(おおやけ)になっていないのもあり、表向きではシュガーとの謁見は、亡きマスタードへの(ねぎら)いということになっている。


「では、マスタード·オルランドは私の命令を無視して失敗したということだな」


シュガーはフェロ―シャスに、流刑島パノプティコンで起きたことをすべて伝えた。


マスタードの単独行動から突然の島全体の放火、さらに囚人たちの暴動を。


それを聞いたフェロ―シャスは冷たい声を出し、玉座から無表情のままでシュガーを見下ろしている。


シュガーは、そんな態度の王に内心で毒づきながらも何もできない。


ただ湧き上がってくる怒りをすべてメロウへと向けることしか、彼女には自分を抑える方法がなかった。


所詮(しょせん)一介(いっかい)の警備兵だ。


ここで下手に口を(はさ)めばこの案件から外され、マスタードの(かたき)を討つ機会を失うことになる。


耐えるのだ。


そうすれば、恩人の雪辱(せつじょく)を晴らすチャンスは必ずやってくる。


シュガーは片膝をついて下げた頭の下で、そう考えていた。


「信用できる男だからと聞き任せたが。年寄りはやはり使えんな。しかも逃げたメロウは、今ギルドにいるそうではないか」


玉座にふんぞり返り、鼻を鳴らすフェロ―シャス。


彼の耳には、すでにメロウが|盗賊万歳《ヘイル トゥ ザ シーフ》に守られていることは入っていた。


しかも、武闘派で有名な幹部であるシャーリンと彼女が、姉妹分(しまいぶん)(ちぎ)りを(むす)んだこともだ。


シュガーはそのことを、今フェロ―シャスの側近に聞かされた。


あの父親殺し王殺しの王女は、あの悪名高いギルドに入ったのか。


「恥知らずめ」と心の中で叫び、シュガーは拳を(にぎ)っていた(ふる)わせる。


そして、フェロ―シャスのマスタードへ侮蔑(ぶべつ)の言葉にも()え、彼女は顔を上げて言う。


「国王さま! どうか私に、罪人メロウ·リフレイロードを捕らえる命をお与えください!」


出すぎた真似をするなと、フェロ―シャスの側近らが声を荒げたが、国王はそんな彼らを制した。


それからフェロ―シャスはイスから立ち上がると、シュガーに向かって口を開く。


「お主の名は?」


何度も顔を合わせ、ついさっきも側近が口にしていたのに知らなかったのか。


シュガーはまたも内心で毒づいたが、すぐに自分の名を伝えた。


相手は国王だ。


マスタードほどの男ならまだしも、自分のような平民出身の名などすぐに忘れてしまうのだろう。


しょうがない、しょうがないことなのだと、シュガーは名を伝えながら自分に言い聞かせ続けていた。


「では、シュガーよ。お主には我が騎士団と共に、罪人メロウ·リフレイロード確保に参加してもらう、そのほうが死んだマスタードの奴も(よろこ)ぶだろう」


「はっ! 度重なる恩情にこのシュガー、必ずや国王の期待に応えてみせます」


謁見が終わり、シュガーは王の間から去った。


側近たちがフェロ―シャスに進言する。


あのような下賤(げせん)の者が使う必要はあるのかと。


フェロ―シャスは、不可解そうにしている側近らに、笑みを浮かべて返事をした。


「犬には犬の使い道がある。マスタードは失敗したが、あの者の怒りは利用できるだろう。それに別に騎士に取り立てるわけではないのだ。使えるだけ使ってやればいい」


側近たちはフェロ―シャスの言葉を聞くと、その場で深く平伏した。


「おーい! シュガー、シュガーだろう!?」


王の間を出た後、シュガーは城内から外へと向かっていた。


その途中で、彼女は複数の者から声をかけられた。


「お前たち……いや、今はそんな口に利き方はできないな」


それは甲冑姿の若者たち――シュガーに声をかけたこの男女入り混じった集団は、リフレイロード王国が誇る騎士団の面々だった。


彼ら彼女らは全員が元治安維持組織アナザー·シーズニングのメンバーで、マスタードの推薦(すいせん)によって数年前に騎士となった者たちだ。


シュガーと同じく平民出身だった彼ら彼女らだったが、マスタードとの養子縁組によってオルランド姓をもらい、見事に試験を突破した才能あふれる若者たちでもある。


年齢的にはシュガーよりも少し下くらいだが、彼女とは誰もが親友のような間柄だった。


それでも身分でいえば自分よりも高いため、シュガーは少し喋りづらそうにしている。


「同じでいいよ。俺たちはマスタードさんの下にいた同士だろ」


「それよりもシュガーも捜索隊のメンバーに選ばれたんだってね。これで私たちと一緒にマスタードさんの無念を晴らせる!」


長身の男とブラウンヘアの女が、シュガーの手を取って声を張った。


他の者たちも2人と同じ気持ちのようで、誰もがシュガーを歓迎している様子だ。


「ヴィネガー、ソルト……。みんなも……」


シュガーは昔の仲間たちに囲まれ、緊張の糸が切れてしまった。


涙が止まらない。


涙腺(るいせん)(ゆる)んで戻らない。


嬉しいのに、嬉しいだけなのにどうしてこんなにも涙が出てしまうのかと、シュガーは恥ずかしい姿をさらしたことを皆に謝った。


それから涙を拭った彼女は、騎士となった昔の仲間たちに向かって声を張り上げる。


「必ずマスタードさんの無念を晴らす! ここにいる私たち全員でだ!」

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