表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/47

03

――メロウたち五人が送られた流刑島の名はパノプティコン。


島には魔力により自動で動く魔導機兵がおり、囚人は常に監視されている。


囚人には最低限の住居である家が提供されるため、寝る場所には困らない。


家には五人で一組。


朝から陽が落ちるまで、決まった時間と内容の労働をする。


仕事の時間さえ終われば、後は自由になっている。


最低限のルールは“島から抜け出さない”ことで、特に厳しい決まりは設けられてはいない(だが、囚人同士の揉め事や、集団で独りの人間を攻撃したときは罰を与える)。


囚人たちの仕事は、主に農作業や取れた野菜を食品工場でまとめることなどで、自分たちの食料は自給自足で(まかな)われている。


この島には囚人たち以外に人間はいないが、定期的にやってくる。


それは、魔導機兵の魔力供給や取れた野菜を回収するためである。


パノプティコンにやって来てからひと月――。


メロウたちは今日も他の囚人たちと共に、畑仕事や工場で野菜をまとめて荷車に乗せる作業をしていた。


「はぁ、ダルいなぁ。なんでボクが農作業なんだよぉ。体格的にどう見てもおかしいだろ」


「文句をいう(ひま)があるなら手を動かせ。見てみろ。メロウ姉さんなんて、もうあそこまで()っているぞ」


「姉さんは普通じゃないんだから比べないでくれよぉ。ったく、リットとファクトはいいよなぁ。工場の仕事でさぁ」


フリーがうんざりした様子で(うつむ)くと、傍にいたガーベラは彼に呆れていた。


彼女は口にしてこそしていないが。


その顔からして、男のくせにだらしないとでも言いたそうだった。


一方でメロウは、そんなニ人のことを少し離れた場所から見て微笑んでいる。


今日の作業は、メロウとフリー、ガーベラが野菜の収穫。


リットとファクトは工場で採れた野菜を仕分けし、木箱に詰める仕事だった。


好みはあるが、屋内での作業である仕分け仕事のほうが囚人たちには人気があった。


外の仕事を単純に挙げると、草刈り、耕耘(こううん)、土寄せ、マルチ張り、支柱立て、植え付け、と、どれをとっても重労働だ。


それとごく(まれ)にだが、囚人が増えることが決まると、家を造ることもある(魔導機兵が図面を出し、指示をくれる)。


しかし、ガーベラのように、それを鍛錬と思えればこれほど良い環境もない。


パノプティコンに来た囚人の多くが貧困層というのもあって、朝昼晩と食事が出て、雨風がしのげる住居があるだけでも天国だった。


もちろん中には娯楽のない島にうんざりし(魔導機兵の待機場に図書室はあるが)、まるで兵士のような規則正しい生活を()いられることを嫌がる者もいる。


口では不満を言っているフリーだが、彼はそれなりにここでの生活を気に入っていた。


その一番の理由は、同じ屋根の下で暮らす人間に恵まれたことだった。


メロウとは最初こそ揉めたが、今ではフリーをはじめ、ガーベラもリットも彼女のことを慕っている。


同じ家に住むファクトだけは、今でもひとりで本を読んでいることが多いが、それでも必ず食事の時間には顔を出して会話をしているので、なんだかんだいって馴染んでいた。


特にリットは家族がいない、孤児院の出身だ。


そんな生まれというのもあってか、リットは誰よりも仲間ができたことを嬉しく思っていた。


「やっと仕事が終わったのに、よく体を動かす気になるな」


一日の仕事が終わり、メロウたちは家へと戻っていた。


今日はリットとファクトが食事当番だったので、ガーベラは家の外で重りをつけた丸太を振っている。


右手で百回、左手で同じ数をこなし、疲れている体にさらに負荷を与えていく。


「そんなこと言わずに、お前も少しは鍛えたらどうだ? そうすればへばらないし、なによりも外の仕事も嫌じゃなくなるぞ」


「それはない! つーかボクには魔法があるしね。姉さんは通じなかったけど、これまでボクの魔法に(かな)うヤツなんていなかったんだから」


「それでも鍛えておいて損はないだろう。最後にものを言うのは体力なんだぞ。なあ、メロウ姉さん」


ガーベラの問いにメロウが笑みを返すと、フリーのほうは怪訝(けげん)な顔をしていた。


この女は、脳みそまで筋肉でできているのか、はたまた真性のマゾヒストか。


綺麗な金色の髪に手足も長いのも、なんだかもったいない気がする――フリーはそう思っていた。


それでも、ガーベラは島に来てから毎日続けているので、彼女の根性は認めているので余計なことは言わない。


「よし、姉さん。頼むよ」


素振りを終えると、次はメロウとの練習だ。


互いに削った丸太で武器を作り、それを打ち合う。


メロウは木剣。


ガーベラのほうは戦槌(せんつい)だ。


打ち合いとはいっても、当然、経験があるメロウにガーベラが戦い方を習っているという感じだ。


木のぶつかり合う音が響く中、家の中からリットが出てくる。


「ご飯できたよーって、あぁぁぁッ! ちょっとズルいよ、ガーベラ! 抜け駆けして! あたしだって姉さんに剣を習いたいのに!」


「別に抜け駆けなどしていないぞ。人聞きが悪いことを言うな」


「なにをー! 抜け駆けは抜け駆けでしょ! ガーベラ卑怯(ひきょう)ズルい汚いッ!」


「うるさいぞリット! それ以上(わめ)くなら(だま)らせる!」


騒ぎ出したリットとガーベラが取っ組み合いを始めた。


それを慌てて止めに入るメロウとフリー。


さらにリットに続いて出てきたファクトが、呆れた顔でニ人を眺めていた。


「ありゃ長くなりそうだな。……料理、(なべ)に戻しておくか」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ