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シャーリンが訓練場に現れると、他の者らが彼女のもとへと集まっていく。


騎士団などとは違って上下関係が(ゆる)いのか。


皆、シャーリンに敬語も使わずにまるで友人のように声をかけていた。


ネイルだけが特別かと思われたが、どうやら彼女は自分の部下には好きにさせているようだった。


笑顔で挨拶を交わしているシャーリンと仲間たち。


その光景を見たネイルは、もう模擬戦は続けられないと思って、目の前にいたリットに声をかけようとしたが――。


「あぁぁぁッ! あんたあのときのターバン女ッ!?」


彼女はシャーリンを見つけるや(いな)や駆け出していた。


以前のことをまだ根に持っていたのだろう。


リットはシャーリンに気絶させられてこの町に連れて来られたことを思い出し、ネイルがそんなこともあったなと頭を抱える。


食いつかんばかりの(いきお)いでシャーリンに向かったリットだったが、その行く手をある人物に(さえぎ)られてしまった。


「ちょっとガーベラ!? なんで邪魔すんの!?」


それは仲間のガーベラだった。


ガーベラは結んでいる金色の髪を揺らすと、リットを無視してシャーリンの前へと歩いていく。


リットは、そんな彼女を(わめ)きながら止めようとした。


シャーリンに用があるのは自分だと、ガーベラを背中から押さえつけようとする。


しかし突然、左右から手を取られ、逆に押さえつけられてしまった。


「はい、ストップ」


「ここはあいつに(まか)せようぜ」


彼女を押さえつけたのはフリーとファクトだった。


三人はシャーリンに訊きたいことがあった。


そこで、ガーベラが彼らの代表になったようだ。


リットには悪いが個人的なことよりも、今はこっちを優先させてもらうと、ニ人は言った。


「ならあたしがターバン女に訊いてあげるから!」


「お前だと話にならねぇだろ」


「ボクもそう思う。まあ、ガーベラもちょっと怪しいけどなぁ……」


ファクトは自分が訊ねてやるというリットに釘を刺し、フリーが同意しながらも不安になるようなことを口にした。


自分が訊くと言って聞かなかったのはガーベラも同じだが、ファクトもフリーもリットよりはまだマシくらいの感覚だ。


どうもうちの女たちは(当然メロウも)、喧嘩っぱやいところがある。


フリーとしては口と頭が回るファクトが向いていると思ったが、ガーベラの頑固さは仲間内で一番。


言い出したら聞かない連中の中でもナンバーワンであるため、彼女に(まか)せるしかなかった。


「お初にお目にかかる。私はガーベラ。まずはパノプティコンから出してもらったことの礼を言いたい」


ガーベラは仲間たちと談笑していたシャーリンに挨拶すると、慇懃(いんぎん)に頭を下げた。


流刑島パノプティコンから出せてもらえた理由も。


この町へ連れて来られた事情も。


すべて先ほどネイルから聞いたばかりというのもあってか、訊ねたいことがあるというのに慎重な声のかけ方だ。


「あんたがガーベラか。なるほど。聞いていたとおり礼儀正しい子みたいね」


「失礼だが、その話はメロウ姉さんから聞いたのか?」


シャーリンはコクッと(うなづ)くと、ネイルへ視線を動かした。


それに気がついたネイルは、彼女に向かってその(とが)った歯を見せる。


何かの合図なのか。


ネイルの笑みを見たシャーリンが、その場にいる全員を見回していた。


「失礼ついでに、いろいろと訊きたいことがあるんだが」


「あとでいいかい? ちょっと今は忙しくてね」


「悪いが、力づくでも話してもらうぞ」


ガーベラは礼儀正しい態度こそ変わらなかったが、威圧するようにシャーリンに詰め寄った。


そんな彼女を見たフリーは、あんぐりと口を開けていた。


その顔は、やはりこうなったかとでも言いたそうだ。


訓練場の空気が変わる。


シャーリンを囲んでいた|盗賊万歳《ヘイル トゥ ザ シーフ》の面々が、一斉にガーベラのことを(にら)みつける。


助けられたくせに、なんだその態度はと言いたいのだろう。


間違ってはいないし、そう思うのも当然だ。


だが、ガーベラ――いや、彼女だけではない。


流刑島にいた四人には、たとえ礼儀に反しても(ゆず)れないものがあった。


「メロウ姉さんは、今どこにいる?」


そう――。


それは、彼ら彼女らにとっての恩人であるメロウ·リフレイロードだ。


本来ならば止めるべきだとフリーもファクトもわかっているが、この場で乱闘になってでも、メロウの居場所を知りたかった。


訓練場にいた面々が武器を手に握り始めた。


一方でガーベラは全く動じずにシャーリンを見据え、フリーとファクトも彼女の背中を守るように立つ。


もちろんリットもニ人に掴まれたままで、四人はシャーリンの仲間たちに囲まれる形になった。


「バカが……。シャーリンに喧嘩(けんか)を売るってことは、うちのチーム全員に喧嘩を売るってことと同じことなんだぞ……。リットと違ってあいつらならそれぐらいわかっていそうだったが……。どうしてこうなる……」


そんな訓練場でネイルだけは、頭を抱えたままだった。


彼としては、メロウの仲間であるリットたちに関して考えがあったのだろう。


しかし、シャーリンの登場やガーベラの態度で、ネイルの計画はすべて破綻(はたん)してしまったようだ。


「まあ待てよテメェら! 今のは喧嘩を売ったうちに入らねぇって!」


ネイルは、意を決して皆に向かって声を張り上げた。


彼の声からは、この場をなんとか収めようとする必死さが伝わる、そんな(ひび)きがあった。


「そいつらが姉さんって呼ぶメロウ·リフレイロードは、シャーリンの妹分だ! 身内の態度が悪いくらい気にすることじゃねぇだろ!?」


「ネイルの言うとおりだよ。こいつらはもう私たちの身内なんだ。多少のことは兄弟喧嘩だと思って許してやろうじゃないか」


ネイルに続いて、シャーリンも皆に落ち着くように声をかけた。


そのおかげか、誰もが武器を収めていく。


これで一安心。


少なくともフリーとファクトはそう思った。


とりあえずこの場が落ち着いてから、改めてシャーリンに話を訊くかとニ人は思っていたが――。


「では、シャーリンの大姉さん。兄弟喧嘩ついでに私と一つ模擬戦をしてもらえないでしょうか?」


ガーベラはいきなり、シャーリンと試合をしたいと言い出した。

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