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根拠もないことをズケズケと。
ネイルは、仲間の危機に笑顔でいるリットに呆れていた。
ガーディとトリッキーは三人を確実に殺すつもりだ。
それなのに、どこからそんな余裕が出てくるのか。
たしかにガーベラは腕力に自信があると言うだけあって、あのまま打ち合いを続けていればガーディが負けていただろう。
戦槌の扱いには慣れている感じはしなかったが、もしあれが剣であれば、基本に忠実な素晴らしい技術を持っていることがわかる。
フリーのほうも、詠唱を始める前に高めていた魔力から、よく己を磨いていることが理解できた。
ファクトの身のこなしと頭の良さは見ることは叶わなかったが、しょうがない。
どちらにしてもこんなところで殺されるようなら、メロウ·リフレイロードの傍にいても本人たちが苦しむだけだと考え、ネイルは模擬戦を止めることはしなかった。
「ガーベラ! トリッキーを狙え! フリーはガーディの注意を引け!」
次の瞬間。
ファクトは仲間に指示を出した。
彼の言葉を聞いたガーベラは、体に巻き付いた土の拘束を強引に引きちぎると、前に立つガーディを無視してトリッキーへと駆け出す。
一方でフリーは詠唱し、風の刃を放ってガーディの足を止めた。
トリッキーも詠唱して魔法でガーベラを迎撃しようとしたが、彼女は放たれた炎を手で受けながらも戦槌を振り上げていた。
その一撃は腹部へと当たり、トリッキーが訓練場の端まで吹き飛んでいく。
ガーベラの一撃で意識を失ったのか。
フリーとファクトの身を縛っていた魔法――土の拘束も消えていた。
「トリッキー!? クソ! せめてお前だけでもぉぉぉ!」
ガーディはファクトに向かって突進した。
ガーベラとフリーには反撃されると思い、腕力も魔力もない彼を狙ったのだ。
当然ファクトもホルダーから投げナイフを手に取り放ったが、ガーディは急所をガードして傷つきながらも止まらない。
このままやられてしまうかと思われたが、ファクトは向かってきたガーディの戦斧を躱して彼の背後に回り込む。
そのときガーディの表情は、何かを思い出したようだった。
「そうだった、こいつはッ!?」
「もうおせえよ」
ファクトは背後から足払いをかけてガーディを転ばす。
地面に倒れた彼に向かってロッドを構え、フリーが詠唱する。
「凍てつく氷よ、其れを凍らせよ。手足を凍結してしまえ」
倒れたガーディの体に氷が現れ、彼の両手両足を固めた。
そして、反対に身動きを封じられたガーディの眼前には短曲刀の刃が突きつけられている。
「ほらね。三人はスゴいでしょ」
「いちいち歯を見せてんじゃねぇ。テメェがはしゃぐとムカつくんだよ。そこまで! フリー、ガーベラ、ファクト三人の勝ちだ」
ネイルが試合を止め、三人は武器を収めて下がろうとした。
だがガーディは納得がいかないのか、動けない状態で声を張り上げた。
今すぐ殺せ。
止めを刺せと、三人の背中に言葉をぶつける。
「こんな情けない姿をさらして生きてられるか! ここで殺さねぇなら、次こそお前らを殺すぞ! メロウ·リフレイロードもそうだ! 幹部と姉妹分なろうが関係ねぇ! 絶対に必ず殺してやるぅぅぅ!」
「好きに言ってろ。まあ、オレらに勝てねぇお前じゃ、メロウ姉さんには触れることさえできねぇだろうがな」
ファクトはそう言い返すと、フリー、ガーベラと共にガーディの前から去った。
去り際にフリーが氷魔法を解いて拘束が解除されたが、ガーディはファクトたちの背中を睨むだけだった。
歯を食いしばり、その口からは血が滲んでいる。
「ぜってぇに……吠え面かかせてやるからなぁ……」
それから三人は、リットとネイルの前に戻ってくる。
ガーベラの発言のせいか。
ネイルは頭を抱えていたが、すぐに訓練場にいた仲間に声をかけてガーディとトリッキーを介抱するように指示を出していた。
リットは嫌々ながらも世話を焼く彼を見て笑うと、持っていた剣を掲げて吠える。
「うおぉぉぉッ! みんな勝ったね! 次はあたしの番! 相手は誰!? さっさとやろうよ!」
剣をハッと声を出しながら振り、リットが訓練場の中央へと歩いていくと、ガーベラはネイルに声をかけた。
リットの相手は誰がするのか。
できることならば加減してやってほしいと、リットにあまり実力がないことを教える。
「あいつは頭が悪いから相手の見極めができない。腕や足が切り落とされようとも最後まで勝つ気で戦う、そう言う奴なんだ」
「ホント、弱いくせにねぇ……」
ガーベラに続いてフリーがため息をつきながら言うと、ネイルは中央へと歩を進める。
そのときの彼は心なしか笑っているように見えた。
今の話を聞いて模擬戦を中止してくれるのか。
フリーがガーベラはそう思っていた。
ニ人は先ほどの模擬戦に、なぜネイルはリットを参加させなかったのか考えていた。
その理由は、彼がリットの実力を知っているからではないかというところに落ち着く。
付き合いも長いとは言わないまでもそれなりの期間はあっただろう。
すぐに癇癪を起すが、ギルドから町一つを任されるような男だ。
人を見る目やその力量くらいはそれとなくわかるはず――そうフリーとガーベラは考え、胸を撫で下ろしていた。
一方でファクトだけは顔を歪め、ホッと安堵しているニ人へ言う。
「……ヤベーぞ。たぶん、リットの相手は――」




