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再び仲間たちの顔を見れたのと、ようやく事情をちゃんと訊いたのもあり、リットはその日を境にメロウに会わせろと喚かなくなった。
それどころかネイルに向かって、ギルドでは何をすればいいのかと積極的に訊き始めるほどだった。
ネイルは最初のうちはまともに相手にしなかったが、リットたちがあまりにもしつこかったので四人とちゃんと向き合うことにする。
「じゃあ訊き返すがよぉ。お前らには何ができんだ? それによってはずいぶん変わるぞ。ギルドっていったってうちはかなりの大所帯なんだ。その上それぞれ専門チームに分かれているからな」
リットたちに詰め寄られたネイルは、ふんっと鼻を鳴らして冷たい声を出した。
両腕を組んで、相手を品定めするかのような視線を向けてくる。
これはネイルからすれば当然のことで、そもそもシャーリンが求めているのはメロウのみ。
リットたちは、ただメロウの願いで自由にしてもらっただけなのだ。
彼ら彼女らは、現段階では|盗賊万歳《ヘイル トゥ ザ シーフ》のメンバーというわけではない。
当然、能力や特技など何ができるかを提示し、自分がギルドの一員にふさわしいかを見せなければならないのが常識といえる。
ネイルに試されていると感じた四人は、それぞれ自信があることを彼に伝えた。
フリーは魔法。
ガーベラは腕力と体力。
ファクトは身のこなしと頭の回転の速さ。
そして、特技など何もないと仲間たちから思われていたリットは、自分にできることは魔法剣だと、その膨らみかけの胸を張って言った。
「じゃあ、そこの長髪はうちの魔法研究部門で働けるようにしてやる。そっちの金髪のまとめ髪は発掘場。ピアスの奴は販売のほうでいいか」
「あたしは?」
「テメェは……とりあえずこの町で待機だ。俺の目の届くとこにいろ」
「はぁ!? なんだよそれ!? みんなには合う仕事を選んだのにあたしにはないわけ! てゆーか話聞いてたらみんなバラバラになっちゃいそうじゃん! そんなの絶対にヤダ! みんなでメロウ姉さんの傍にいたいんだよ、あたしたちは!」
リットはネイルに詰め寄ると、彼の身体を両手で掴んだ。
それから激しく振り続けながら大声で喚き始める。
眉間に皺を寄せ、ただされるがままだったネイルだったが、突然ガバッとリットの両手を掴み返した。
リットは身をよじって逃れようとした。
だが腕力で劣っていて、彼の手を振りほどけない。
それでも暴れた彼女は、ネイルの顔面に自分の顔を突きつけて文句を言い続けた。
これまで黙っていたネイルが、ここでようやく口を開く。
「テメェの態度……イラつくぜぇ。何度も言ってる気がするが、テメェらは自分たちの立場をわかっているのかぁ? こっちはシャーリンからテメェらに真っ当な仕事を紹介するように言われてんだ。命を張る必要がねぇ真っ当なやつをな。それにテメェらは自分たちからギルドで何をすればいいか訊いてきたんじゃねぇかよぉ!」
ネイルは呼吸を挟まず一気にまくし立てた。
彼の言葉はまだ止まらない。
「だいたいよぉ。テメェらはうちやメロウ·リフレイロードと関わっただけで客でも仲間でもなんでもねぇんだぞぉ。それともなんか勘違いしてんのか? なんか勘違いさせるような態度を俺が取っちまったのか? ナメやがって超イラつくぜぇぇぇッ! テメェごときがよぉ! |盗賊万歳《ヘイル トゥ ザ シーフ》をバカにしてることだよな、それ! こっちはいつでもテメェらなんか捨てれるしバラせんだ。その気になりゃあなぁ! クソがぁぁぁ!」
突然、人が変わったように怒り始めたネイルを見て、リットを除く他の三人は思わず仰け反ってしまった。
それは恐怖とか怯えからではなく、彼のあまりのキレっぷりに引いてしまったからだった。
そんな三人のことなど気にせずに、ネイルは声を張り上げ続けて、たまたま側にあったレンガ造りの壁を何度も蹴っていた。
冷めた目で「うわー……」とでも言いたそうなフリー、ガーベラ、ファクトに、リットが声をかける。
「大丈夫だよ。ネイルはちょっとイライラしやすい性格で、こうやって抜いてるだけだから。根っこは良い人だよ」
「その根が良いとか根が悪とかよぉ……。ムカつくぜぇチクショーがッ! 人間は地面に埋まってる植物じゃねぇんだぞ! それが根っこってどういうことなんだぁ!? あぁぁぁんッ!?」
それからネイルは、数分の間をどうでもいいことに当たり散らして、ようやく落ち着きを取り戻した。
その後、彼の提案によってこれから実戦形式の模擬戦を行うことになった。
ネイルが説明するように言う。
「そこは少々小さいが、武器も防具もなんでもそろってる。ついたら好きなもんを選びやがれ。テメェらの覚悟が甘ったれの戯言かただの依存かをそこで試してやる」
四人で一緒にメロウの傍にいたいと言うなら力を見せてみろと、ネイルはリットたちを連れて町にある訓練場へと向かった。
彼ら彼女たちはその訓練場で、まさか予想もしていない者らと顔を合わせるとは、このときは思ってもみなかった。




