21
そう言うと、シャーリンは詳しい話を始めた。
自分は|盗賊万歳《ヘイル トゥ ザ シーフ》というギルドの幹部をやっている。
もし自分と姉妹の契りを結めば、罪人であるメロウの後ろ盾になってやれると。
話を聞いたメロウは理解できなかった。
わざわざ国王殺しの元王女を、どうして義姉妹にしたいのか。
たしかにシャーリンが所属する|盗賊万歳《ヘイル トゥ ザ シーフ》は、リフレイロード王国でも有名なギルドだ。
国内の様々な地域に拠点を持ち、輸送部門や工業部門があり、商業、金融も含めて様々な事業に特化した下部組織を複数束ねている。
一方で、治安の悪い環境で成長を遂げた関係上、荒事とは無縁とは言い難い。
各地域に現れる犯罪者や盗賊に対する自衛戦力の拡充を行っており、法に触れない事業体でありながら犯罪者集団としての性格がかなり濃い。
戦力拡大の一環として武器の開発、生産も行っており、さらには身寄りのない者や孤児を引き入れ、メンバーにしている。
また開発した武器を販売し、それもギルドの資金源になっている。
その組織の規模や保有戦力の存在もあり、その影響力はフレイロード王国も警戒している一大ギルドだ。
そんなギルドの幹部――大人物といっていいシャーリンが、なぜ国と敵対するようなことをしようとしているのか。
「わからないって顔をしてるね。でも、私としてはとてつもなく意味があるんだ」
「その意味とは?」
訊ねられたシャーリンは、前のめりになっていた体をイスの背もたれに預ける。
「あんたは大きなヤマが張れる奴だ。それが姉妹になる理由さ」
「……あなたは何を知っているのですか、シャーリン?」
「そいつはこれから話していくよ。もちろん貫目は五分の契りでいい」
「あなたがよくても周りがそれを認めないのでは? わざわざ厄介者を抱えるんです。あなたが上でいい」
「その言い方だと取引きは飲んでくれるってことでいいんだね。なら四分六ってとこでどうだい? 歳も私のほうがほんのちょっぴり上だしね」
「わかりました。今日から私はあなたの義妹です」
メロウの返事を聞き、シャーリンの口角が上がった。
それは、ずっとメロウが感じていた彼女の無邪気さが、花が開いたような笑みだった。
そしてシャーリンは、白い歯を見せるとイスから立ち上がる。
「どこへ行くつもりですか? まだ話が終わってないですよ」
「家族になるには儀式をやらなきゃいけない。ケガが治る前になっちまうかもしれないけど、あんたには近いうちに私の親父とも会ってもらわないね」
「親父……? ああ、|盗賊万歳《ヘイル トゥ ザ シーフ》の代表ですか」
「それと、あんたの大事なもんもパノプティコンから出してやらなきゃいけないしね。やることが山積みなんだよ」
愛想よく手を振り、機嫌よく去っていくシャーリン。
そんな彼女の背中に向かって、メロウは一つだけ聞かせてほしいと言った。
振り返ったシャーリンは、言ってみなと言葉を返す。
「あの子たちを出してくれるということは、私たち全員を|盗賊万歳《ヘイル トゥ ザ シーフ》に入れるということでいいのでしょうか?」
「さあ、そいつはどうだろうね。あんたは入れるが、他の連中はいろいろ試さないといけない」
「それは……できる限りお手柔らかに……。では、これからあなたのことはなんと呼べばいいのでしょう?」
「そうだねぇ。まあ、名前でもいいけど。この業界じゃ姉貴や姉御のほうがしっくりくるかな」
「では、シャーリンの姉御。どうかあの子たちのことを、よろしくお願いします」
メロウはベットから体を動かし、その上で跪くと深く頭を下げた。
そんな彼女を見たシャーリンは、両眉を下げると呆れたように言う。
「あんたはもう私の妹なんだけどねぇ……。それでその態度、やれやれだわ」
シャーリンは大きくため息をつくと、メロウの前から去っていった。
洞窟内に一人残されたメロウは、頭をベットにつけたまま考える。
おそらくシャーリンは、国王殺しの真相を知っている。
彼女がやろうとしていることは、これからリフレイロード王国に嵐を呼ぶだろう。
その中心となるのは自分だ。
もう引き返せない。
しかし、元からやろうとしていたことだ。
彼女の――|盗賊万歳《ヘイル トゥ ザ シーフ》の後ろ盾は大きく、これからやろうとしていることに役に立つ。
目を瞑り、まるで罪悪感を覚えたような表情をしたメロウはつぶやく。
「あの子たちを巻き込んでしまったことが、私の一番の罪ですね……」
リット、フリー、ガーベラ、ファクト。
流刑島で偶然出会った四人の少年少女に対して。
メロウは、言葉にできない複雑な感情を抱いた。
それは、これから彼女がやろうとしていること――。
シャーリンがメロウを使って考えていることが、凄まじく波乱に満ちたものであることを表していた。
元王女の始末を目論む現リフレイロード王国と、その王女を抱えようとしている|盗賊万歳《ヘイル トゥ ザ シーフ》。
今まさに、平穏だった王国始まって以来の大事件が起ころうとしていた。




