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海から上がって来たのは、アナザー·シーズニングに捕まったはずのガーディだった。


暴動のどさくさに(まぎ)れて逃げ出したのか。


相棒のトリッキーも彼に続いて小舟に乗ってくる。


「ファクトの奴に聞いたのかよ。俺たちの作戦をよぉ」


トリッキーは歯をむき出しにして、リットを抱いているメロウを(にら)みつけた。


身の危険を感じたリットは(あわ)てて包丁を(にぎ)り、ニ人に対して身構える。


ガーディもトリッキーも武器は持っていなかったが、けっして油断はできない。


トリッキーは魔法を使うことができ、ガーディのほうはどうしてだがずっとメロウのことを嫌っていた。


それに何よりも、この小舟では人間四人の重さに耐えられない。


確実に自分たちを落としにくる。


リットはここまで来てメロウを殺させるとかとニ人と対峙(たいじ)した。


「やる気か? 知ってるぞ、リット。テメェは仲間内で一番の雑魚(ざこ)だろ? 前に打ち合ってるのを見てたぜ。そんなテメェがマジでやる気か? あん!?」


「包丁持ってるからって俺らに勝てる気かよぉ。魔法もろくに使えないテメェがよ!」


ガーベラとフリーが(すご)んでくる。


戦う前から勝負はわかっていると声を(あら)げてくる。


それもしょうがないことだった。


彼らが知っているのは、リットたちがメロウから剣や魔法、技などを習っているところだけだからだ。


そのときのリットは、力ではガーベラに負け、魔力ではフリーに(おと)り、ファクトのような特技も持ち合わせていない情けない姿だった。


彼女本人も、自分には取り柄がないことをよく知っている。


だが、それでもリットは引かない。


どんな手を使ってもメロウを守る。


姉さんのためにも仲間のためにも、そしてなによりも自分のために。


「このまま一緒に乗るなら四人でも小舟がもつ方法を考えるけど……姉さんとあたしを落とそうっていうなら、もちろん戦うよ!」


吠えたリット。


その顔は自信に満ち(あふ)れていた。


(おび)えなど一切ない。


元々の性格から、リットは相手の強さに(おく)するような人間ではないのもあったが。


何よりもマスタード·オルランドを倒した力――魔法剣を扱う力に目覚めたのもあった。


マスタードに比べれば、目の前のニ人はただのチンピラでしかない。


「あれ、なんで!? 魔力が出ない!? なんでよ!? なんで出ないんだよ!?」


しかし、リットの握る包丁から魔力は出なかった。


彼女はまだ自分で魔法剣の力をコントロールできない。


マスタードと戦ったときはただ無我夢中で包丁を振っていただけで、一体どうやって魔力を纏わせたのかを、リットはわかっていなかった。


「なに言ってんだテメェは!」


「魔法でも使う気だったのかよ。だけどビビっちまって出せねぇってか。お似合いだぜ、テメェにはよぉ!」


トリッキーは詠唱(えいしょう)を始め、その手に火を出現させた。


それは犬か猫くらいの大きさで、受けてもダメージは大したことはなさそうだったが、それでも足場の悪い小舟の上では遠距離攻撃は脅威(きょうい)だ。


ガーディが前に出てくる。


海を泳いで追ってきたせいでずぶ濡れになっている姿が不気味で、余計な恐怖感を(あお)る。


そんなニ人に対してリットが思わず仰け反ってしまうと、突然、彼女の包丁が奪われた。


「姉さん!?」


メロウが目を覚まし、リットから包丁を奪ってガーディへと斬りかかったのだ。


その瞬間、彼女の握った包丁に(いかづち)宿(やど)った。


暗かった海がピカッと明るくなり、凄まじい唸り音を鳴らしながら剣が振り落とされる。


「メロウ!? テメェはぁぁぁッ!」


ガーディはその一撃を喰らって海へと吹き飛んだ。


残されたトリッキーは火の玉を放ったが、メロウが包丁を一振りすると、放った火と共に雷にやられてしまう。


黒焦げになって倒れたトリッキーを、リットが海へと放り捨てる。


「ファクトが……フリーが……ガーベラが……救ってくれた命なんです……。あなたたちに取られるほど……安くは、ない……」


メロウは満身創痍ながらも、敵を一気に片付けることに成功した。


しかし、やはり無理をしていたのか。


彼女はその場に倒れ込んでしまう。


リットは慌てて彼女に駆け寄った。


姉さん、姉さんと何度も声をかけて、体は大丈夫なのかと確認をする。


だが、メロウは再び意識を失っていた。


それでも呼吸は安定しており、静かに眠っていることを見るに問題はなさそうだった。


「メロウメロウメロウメロウゥゥゥ! テメェはいつか絶対に殺す! 国をメチャクチャしたクソったれは絶対に俺がぁぁぁッ!」


海からはガーディの怨み言が聞こえ続いてる。


もう追いかける体力もないのか。


それともメロウの強さに(かな)わないと(あきら)めたのか。


どちらにしても二度と彼らとは会うことはないだろうと、リットは水面に浮かぶガーディとトリッキーの姿を見た。


その後にメロウをそっと寝かせてオールを握ると、小舟を漕ぎ出す。


夜の海を進みながらリットは思う。


皆はメロウを助けるために命をかけた。


だからこそ姉さんは、あんなところで殺されてたまるかと無理して立ち上がった。


全身を火傷している重傷者なのに、体に鞭を打ってガーディとトリッキーを退(しりぞ)けた。


それに比べて自分はなんて情けないのだろう。


仲間たちに姉さんを託されたのに、逆に守られてどうするんだ。


「やっぱ姉さんもみんなもスゴイよなぁ……。あたしも頑張んないとね」


リットは改めてメロウや仲間たちの凄さを感じると、使えない自分でも、次からは姉さんを守ると内心で吠えた。

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