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――シュガーは、マスタードが戻って来ないことに不安を隠しきれなかった。


針のむしろに座るようなつらさを味わっているせいか、部下たちに向かって声を荒げる。


「もういい! お前たちが行かなくとも、私だけでマスタードさんを捜しに行く!」


シュガーはリーダーであるマスタードの捜索を渋る部下たちに愛想を尽かせ、たった一人で燃える島の中へ向かおうとしていた。


だが、リーダー不在の状況で現場を指揮する者までいなくなれば、末端の者たちが動揺する。


ただでさえ島中に火の手が上がっている状況だ。


混乱に乗じて囚人たちが暴動でも起こせば、統率が取れていない状態では対応できなくなってしまう。


部下たちに説得され、シュガーは歯を食いしばりながらもマスタードを捜すことを(あきら)めた。


彼らの言う通りだと、彼女は思う。


自分は後のことを任されたのだ。


ここで勝手に動いては、もし問題が起こってしまったときに、マスタードに合わす顔がない。


しかし、それでも気持ちが晴れることなどなく、シュガーはその短い髪を()きむしりたい衝動に()られていた。


彼女が船内で落ち着かずにいると、そこへ部下の兵が駆け込んでくる。


「どうした、何をそんなに(あわ)てている? もしかして、マスタードさんが戻って来たのか?」


笑みを浮かべて訊ねたシュガーだったが、兵の話はマスタードのことではなかった。


兵の報告とは、なんでも船内に囚人ニ人が侵入し、小舟を奪おうとしていたところを捕らえたということだった。


話を聞いたシュガーはすぐに興味を失い、拘束して魔導機兵にでも引き渡せと雑に指示を出すと、そこへまた兵士が現れる。


「ええい、次から次へとなんなんだ!? また囚人が侵入してきたのか!?」


苛立ちを隠せないシュガーは、入ってきた兵士に怒鳴るように訊ねた。


部下の兵は彼女のあまりの迫力に(おび)えながらも、報告の内容を伝えた。


それは、魔導機兵の一団が囚人たちを連れ、船着き場に避難しにやってきたという話だった。


シュガーは、その中にきっとマスタードがいると思い、まるで別人のような笑みを見せ、部屋から出て行ってしまった。


「そうか、そうだよな! あの人は囚人たちを見捨てて一人で逃げたりしない! きっとこうなると私は信じていたぞ!」


上機嫌で船内を進んで甲板に出ると、そこには魔導機兵の一団に囲まれた囚人たちの姿があった。


囚人たちは疲れ切った表情をして、その場で座り込んでいる。


シュガーは、その中からマスタードを捜した。


(しま)いには船から飛び降りて囚人たちの中へと入り、マスタードの名を叫びながら。


だが、マスタードは見つからなかった。


なぜいないのだと怒りに身を震わせたシュガーは、傍に立っていた魔導機兵へ掴みかかる。


「おい! マスタードさんはどうした!? なぜお前たちといない!?」


詰め寄られた魔導機兵は答えない。


それは、機兵に言葉を話す機能がないからだ。


そんなことは当然シュガーも知っているはずなのだが、彼女は感情のぶつける場所を魔導機兵に求めた。


何度も侮蔑(ぶべつ)の言葉を吐き、手や足も出して、マスタードがいなかった不満を晴らそうとする。


これはもう八つ当たりでしかない。


見かねた部下たちが数人でシュガーを取り押さえ、魔導機兵から引き離した。


「放せお前たち! この木偶(でく)人形はマスタードさんを置いて逃げてきたんだぞ! そんなことは許されん! 私が罰を与えてやる!」


剣を握り、今にも斬りかかろうとするシュガーだったが、さすがに大人数で押されられて身動きできずにいた。


それでも暴れる彼女だったが、次の瞬間にはそれどころではないと青ざめることになる。


「治安維持組織アナザー·シーズニングのリーダー、マスタード·オルランドが殺されたぞ!」


「今がチャンスだ! 全員で船を奪えば、この島から出られる!」


幼さを残した女と男の声が、囚人たちの中から聞こえてきた。


そして、周囲の火事でオレンジ色に見える夜空に、何かの物体が舞ってゴロンと地面に転がった。


シュガーは部下たちを振り払い、そこら中に座っている囚人たちの中を進んだ。


まさか、そんなはずはない。


あの人が殺されるなんてあり得ないと、放られた物体のもとへと走る。


「あぁ……あぁ……。嘘でしょ……? あり得ない……あり得ないッ!?」


そこには頭をかち割られたマスタードの首があった。


シュガーは、無惨なマスタードの首を抱きながら、追いかけてきた部下たちに声をかけられても放心状態になっていた。


目からは涙を流し、首に向かって声をかけ続けている。


そんな状況に追い打ちをかけるように、先ほどの言葉を聞いた囚人たちが船へと乗り込んでいく。


先ほどまでの疲れ切った様子とは思えない暴れっぷりで、船内にいる人間を次々と殴り飛ばしていた。


そんな大混乱の中、事態を収拾させようと魔導機兵も動き出す。


だが、船着き場が囚人でごった返していたのもあって、完全には対応できずにいた。


「よし、予定通り。行くぞ、オレたちは船じゃなくて小舟を奪うんだ」


その混乱に乗じて、リットたちが船に乗り込んでいた。


さっき囚人たちに脱走をするように仕向けたのは、ファクトの作戦だった。


兵たちがマスタードが死んだと知れば、治安維持組織の統率が一時的にでも崩れる。


さらに島は今そこら中が燃えているのだ。


この状況で囚人たちを(あお)れば、誰でも脱走できるかもしれないと思うだろう。


「さすがファクト! やっぱ天才だね!」


「ああ、お前が仲間でよかった」


人混みをかき分けながら進むリットがそう言うと、メロウを背負ったガーベラも、彼女に続いてファクトを()めた。


ファクトは顔を赤くしながら(ほお)()くと、フリーがにやけながら声をかける。


「なに照れてんだよ。お前はすごいんだから堂々としてろって」


「べ、別に照れてなんかねぇよ」


そう言いながらもファクトは、仲間の言葉を素直に喜び、皆で船へと乗り込んだ。

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