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炎が舞い上がり、黒煙が舞う。


まだ距離はあるが、リットたちがいる場所も(じき)に焼き尽くされるだろう。


だが、リットはその光景を見て綺麗だなと思っていた。


話で聞いていた花火という火薬を使ったお祝いや、フリーが嬉しそうに語っていた爆裂魔法のようだと、(ほお)(ゆる)ませている。


皆の仲が戻った。


むしろ以前よりもずっと強い結びつきが生まれた気がする。


困難があったことで、自分たちの絆がより強固になったのだ。


そう考えると悪くない気がする。


リットは、傍で横になっているメロウに不謹慎だと思いながらも、今夜起きたことを忘れないと誓った。


「うん? あれは……?」


しばらく(ほう)けていると、遠くの炎に交じって人影が見えてくる。


三人が歩いていった方向ではない。


もしかして、魔導機兵が戻って来たのか。


たしかファクトの話だと、囚人たちを連れて船着き場へ向かったのではないかということだったが。


「まさか、こんなところで見つけるとはな……」


人影はゆっくりと歩を進めながら独り言を呟いた。


次第に近づいて来る人影の顔がようやく見えてくる。


顔に傷が入った屈強な体を持った中年の男。


腰に剣を差し、身なりからして軍人かとリットは思った。


船着き場には帆船(はんせん)が来ていたと言うし、ひょっとしたら救助に来てくれたのか。


そう考えたリットは男に声をかけ、手を振って呼びかける。


「おーい! ここに怪我している人がいるんだ! 早く医者か回復魔法が使える人を呼んできてよ!」


「しかも子供連れだったか……。俺は本当に運がないな……」


リットの前に現れたのはマスタードだった。


マスタードは彼女に歩を進めながら名乗る。


「俺の名はマスタード·オルランド。治安維持組織アナザー·シーズニングをまとめて――」


「知ってるよ、そんなこと! それよりも早くメロウ姉さんを助けて!」


「悪いがそれはできない」


腰に差した剣を手に取り、ゆっくりと近づいて来るマスタード。


助けないと答え、さらに剣を握った男を見てリットは身構えながら吠える。


「なんでだよ!? あんた国から来たんだろ!? 軍人なら姉さんを助けてよ!」


「できないと言っている。メロウ·リフレイロードを引き渡してもらう」


「だからなんでだよ!?」


「子供が知る必要はない。早くこの場から立ち去ってくれ。大人の事情に、巻き込まれたくはないだろう……」


リットはマスタードの言葉と態度から、彼がメロウを殺そうとしていることを理解した。


いやむしろ、その前からなんとなくは予想していた。


彼女は、そんなことをさせてたまるとかと、持っていた包丁を構えてマスタードに立ち(ふさ)がる。


皆にメロウを(たく)された。


理由はわからないが、姉さんをここで殺させてなるものか。


たとえ人を殺してでも守ってみせると、鬼の形相で行く手を(はば)む。


「邪魔をするつもりか……。やめておけ。俺の任務は第二王女の始末だ。それに、子供を殺す趣味はない。国のいざこざで、君が犠牲なることはないのだ……」


「気に入らない……気に入らないね! なんであんたが勝つ前提で話してんだよ!」


リットは包丁で斬りかかった。


調理道具にしては刃が分厚い肉切り包丁。


工場でファクトが拾ったため、野菜を切るためのものだが、剣と打ち合えるほどの強度はありそうだ。


「くっ!? これが子供の一撃か!?」


想像以上の一撃に、マスタードの顔が歪む。


重い。


重たすぎる。


しかも鋼鉄の剣がたった一撃でわずかに欠けた。


いくら肉切り包丁の刃が厚いとはいえ、とても未成年者の、しかも女の出せる一撃ではない。


「あたしは犠牲になんてなってない! あたしはあたしとあたしの仲間のために、やれることをやっているだけだ!」


リットによる包丁の連打が始まる。


派手さはないが、基本に忠実な剣。


その繰り出す剣撃は、リフレイロード王国に伝わる伝統的な剣技だった。


まさか囚人の子供に、メロウ·リフレイロードが教えたのか。


マスタードはリットの実力に驚きを隠せない状態で、そこからさらに気がつく。


「武器に魔力だと!? まさか!? こんな子供にどうしてそんな真似が!?」


かつてまだ世界を魔王の脅威(きょうい)(おお)っていた頃。


剣に魔力を(まと)わせて戦った剣士がいたという。


その名は魔法剣――魔法の力を剣に込めて振るう技だ。


それは魔法の才能と剣技の才能の両方が必要で、かつコントロールが難しく、並大抵の技量では扱えない高等技法とされていた。


この少女は、微力ながらも包丁に魔力を宿らせている。


実際にリットの剣技も魔力も素人に毛が生えた程度だが、それでも普通の武器では受け止められなかった。


力、技、速さ、そして経験。


すべて(まさ)っているマスタードだったが、話でしか知らなかった魔法剣を見たことで、激しく浮足立ってしまっていた。


リットは前に出る。


基本は守りながらも、相手に斬られることを恐れずに踏み込んでくる。


その決死の覚悟もあってか、マスタードは追い詰められ、ついには彼の右肩を斬り飛ばした。


肩口から落ちた剣と腕が転がり落ち、(ひざ)をついたマスタードをリットが見下ろす。


「殺せ。俺は国からの命令に逆らった。第二王女を始末して帰らねば、組織全体の責任になってしまう。だが、命令無視が俺の単独だということになれば――」


「訊いてないよ、そんなこと」


リットはマスタードが喋る終わる前に、その頭へ包丁を振り落とした。

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