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デートが終わったらデートだ!



 明美と別れて、俺は寮部屋へと戻った。

 高校時代にタイムリープして、初めて誰かと遊んだ。

 それでも楽しいだけではない。


「やっぱり、明美は怪しいな」


 今日は明美と話して、疑念が深まるだけだった。

 それは、『明美が俺の死を知る理由』だ。


 ――――いつの『未来』から来たんだ?おまえは俺より先に死んだ筈なのに、俺の死を知ってる風だったからさ。

 ――――勿論、事故で死んだ瞬間に『こっち』に来たよ。でも、タイムリープしたのは幼稚園の時かな。


 彼女は俺より先に死んでいた。

 それなのに、知らない筈の俺の死について口にした時も、大して驚く事も無く普通に受け答えをしていた。

 あの反応は――知っている。

 彼女の説明では、未来を知る『五月以前の俺』から自分の死後の展開を聞き及んでいた。

 内容は恣意的に事実が捻じ曲げられて俺が山村慶次を殺した事になっている。明美の態度から察するに、『五月以前の俺』が嘘をついている事は理解しているようだ。

 問題なのはそこだ。

 嘘だとは分かっているが、山村慶次と俺がどうなったか結局明美には正しく伝わっていない。

 嘘をそのまま受け止めたとしても、嘘だと気付いたとしても、『乙倉和稀が死んだ』事実を俺が話すより先に知っていた理由にはならない。

 つまり、明美は『五月以前の俺』以外の手段で俺の死を知ったという事になる。


「何で知ってる?俺が死んだ事を」


 俺が知らないだけで、未だ明美は何か隠している。

 気兼ねなく幼馴染に戻る、はまだ無理そうだ。

 また笑顔で腹の探り合いをしなくてはいけないのか。

 一瞬でもノンストレスな時間があれば良いのに。

 そんな叶わない望みを独り言ちて嘆息するとスマホが着信で震えた。

 考え事の最中だが、何かとお世話になっている『獅山燐』の名前が画面に表示されたので即座にスマホを手に取る。


「もしもし」

『ああ。悪いな、デート中に』

「いや、もう終わった」

『……楽しかったか?』

「今日の百二十四回目のデートは、素直に楽しめたと思う」

『突然パワフルな数字出てきて混乱すんだけど』


 俺だって聞いた時はぎょっとした。

 明美にとってはそうかもしれないが、失礼な話をすると俺にとってデートとしてカウントできる体験は今日の一度しか無い。


「それで、用件は?」

『アンタさ、あ、あたしの犬になったんだよな?』

「相違ない」

『そ、それなら明日は授業サボってあたしに付き合え』

「三日連続でまともに授業受けてないんですけど。控え目にくたばれって仰ってます?」


 今日だってゲロって授業を受けられなかった。

 これから隣室の角田にノートを借りようかとも悩んでいたくらいには、そろそろ勉強に向き合わなくてはいけないという危機感が芽生えている。

 特待生なら本来は一、二回は欠席しても余裕で空白を埋められる学力を備えておくべきなんだろうが、俺のは努力で縋り付いた特権だから薄氷のように脆い。

 次の試験で特待生剥奪もあり得るかもな。

 はは、てことはいよいよ俺の肩書は燐の犬だけって事になるんだな。


「分がっだ……行ぐよ……!」

『泣くほど嫌なら断れよ!』

「燐と一緒が嫌なんて断じて無いけど、勉強は欠かさずやらないとキツい……」

『……し、試験前にあたしが勉強見てやるから大丈夫だろ』


 そ、そんな反則的な手段が使えるのか!

 もしかしなくとも、燐の犬というのはかなり俺にとって都合のいい立場なのか。

 優しい彼女なら、恐らく俺を喧嘩の盾に使ったりはしない……しない……しな…………………しないよね?


「でも、燐って普段は勉強しないんだろ?」

『だったら何だよ』

「人に勉強教えられるのか……?」

『拳よりも言葉で教える方が上手いって自負してる』

「ほ、本当に?俺は要領悪いから言葉で分からないからって殴打とか禁止よ?」

『あたしはいつの時代のバカだよ』


 燐が電話越しで呆れているのが分かった。


『じゃ、明日はデート決定な』

「あ、やっぱりデートなのか」

『っ、ち、違う!犬の散歩な!そう、散歩!』

「了解ですワン」

『よ、要件はそれだけだから……じ、じゃあな!』


 ぶつりと電話が切れた。

 燐からデートのお誘いが嬉しいかと言われたら嬉しい。………だが、それ以上にこのタイムリープがいつ終わるのかも分からない現状で無闇に約束をするのも危ぶまれる。

 俺は何かをしに高校時代に『来た』。

 その何かをクリアすれば、必然的に変化した未来へと強制送還される……というのが創作物で見るお約束の展開だ。


 俺のタイムリープの条件とは何だろう。


 思いつく物としては、やはり未来における死の原因の回避。

 明美の遠回しなアプローチに巻き込まれた山村慶次の嫉妬から来る殺意の矛先になった件については、恐らく解決下も同然だ。

 問題の山村慶次は不在で、明美も遠回しに干渉する手段もやめた。

 充分に条件は満たしている。

 または…………。


「……まだ終わっていない?」


 山村慶次以外で死ぬ可能性がある。

 例えば『五月以前の俺』が変えたからこそ発生した『新たな問題』なのかもしれない。

 もしそうなら、何て事してくれたんだドチクショウと罵りたい気分だ。


「俺の死の回避、か」


 タイムリープの原因の解消がそれで済むなら良い。

 ところが、明美というもう一人のタイムリーパーがいる事から、もう一つの仮説が浮かび上がる。

 それは、『明美のタイムリープの原因』。

 明美が何かをクリアしないと、同じように過去に来た俺も未来に帰れない場合がある。


「いや、それは突拍子も無いか。そもそも『五月以前の俺』が消えたのは、もしかしたらし『自分の課題』を解決したからかもしれない」


 そうだ。

 俺の過去をめちゃくちゃにしてまで『五月以前の俺』が叶えたかった願いがあり、それを昨日の朝までに叶えたから俺と代わった。

 …………まさか、燐というか誰かとワンナイトやるのが夢だったのかな?


「どんだけ拗れた夢なんだ……」


 ヤる事だけやって後は全ての後始末を俺に任せたという事になる考察に、俺は思わず拳を握り締めた。

 もし未来に戻って、『五月以前の俺』の正体と遭遇したらキツめのを顎に叩き込んでやろう。


「ふ、ふひっ、ふへへへへへ、待ってろよクソ野郎…………!」


 未来に戻った時の楽しみが出来たので、取り敢えず風呂で『他の女の臭い』を落としてくる事にした。









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