プロローグ
「クソが」
転校初日の朝。
これから毎日歩くであろう通学路を歩く俺、氷室玲央は道端に転がる石を蹴り飛ばした。
あの日から毎日イライラしっぱなしだ。
「玲央〜、なーにそんなにイライラしてんの?」
今日のイライラの原因はこいつ。
堀内歌恋。
家は同じマンションの隣の部屋で産まれた日まで一緒の幼馴染。
着いてこなくていいって言ったのに朝練をサボってまで着いてきた。
「お前が朝練サボってまで着いてくるからだ。
たかが転校初日なんだからお前は教室で待ってりゃいいんだよ。」
俺は歌恋の尻に軽く蹴りを入れた。
「アタシは玲央が心配なんですー。
玲央、肘やってからずっとイライラしてっからさ。」
俺はため息を吐く。
肘。
そう、俺は事故で肘をやっちまって野球を辞めざる終えなかった。
一年の夏に甲子園優勝投手になった俺には甲子園なんて当たり前に行けて、プロになるための通過点でしかない場所だったのに。
「お前はやるなよ。」
俺は歌恋の頭をポンポンと軽く叩き、立ち止まる歌恋を追い越す。
歌恋は投手。
投手にとって肘は生命線だ。
「部活どうすんの?」
「帰宅部、野球出来ねぇんじゃ意味ねぇだろ」
背中越しに問われた。
歌恋は着いてこない。
ーー野球以外興味ねぇけどな。