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しょうのさんってひと

 ママってほんとうにたいへんなんだね。

 おとなりのママがいってたとおり、きょうはあめ、それもかなりうるさいぐらいのあめ。それでもママはかさをさしていつものおみせへむかってる。

 そうだよね、あめでもかいものをしにくるひとはいるもんね。そのひとたちのために、ママはいっつもがんばってるんだ。ママかっこいい。


「ご苦労様です」

「ありがとうございます……。ったくここまで降るとは思わなかったわ、天気予報って当たって欲しくない時に限って当たるんだから、参ったなあ」


 そんなあめのせいかわからないけど、きょうはママのおともだちのみんなはしずか。いつもならばママがしごとにいくのをいっせいにみおくってくれるっていうのに、きょうはひとりだけ。

 まあしかたがないよね。だってさ、ママだっていやみたいなんだから。


「ああっと!」

 あれ?なんかだれかとだれかがぶつかるおとがしてさっきママにあいさつをしたおんなのひとがたおれちゃった。

「ご、ごめんなさい、考え事をして前を見てなくて……」

「いえいえ、大丈夫です……」

「どうかしましたか?」

「いやいや、今言った通り私は何でもないですから、どうぞお仕事へ……」

「ありがとうございます、どうかお大事に…。。。」

 あんなにずぶぬれになってるのにだいじょうぶっていうだなんて、ずいぶんげんきなおんなのひとだね。それでそのおんなのひとにぶつかっちゃったおとこのひとはずっとごめんなさいっていってる。どこのおとこのひとだろ?

 まあ、でもわるいことをしちゃったってちゃんとあやまることができてるから、わるいひとじゃないんだよね、それならぼくあんしん。ママもおなじようにあんしんしてるみたい、よかったよかった。


 あれれ?どうもへんだなあ、あんなにずぶぬれになってたのにあのおんなのひといえにもかえらないでずっとぼくとママのいえをみてる。そんなにぬれてるとかぜひくよ、はやくおうちにかえってきがえたほうがいいよ。あんなちっちゃいハンカチでふいたぐらいでどうにかなるのかなあ。

 っていうかこのおんなのひと、ちょっとめがこわい。

 あれあれ、ぼくとママのおうちのほうへやってきた。とおもったら、そのとなりのおへやのよびりんっていうのをおしてた。ぼくしってるよ、なかにはいりたいときはまずこれをおすんだよね。


「もしもし、どなたでしょうか」

「私、児童相談所の者ですが、隣のお部屋の」

「何もありませんけど」

「私はこういう者です」

 おんなのひとはなんだかよくわからないかみをドアにみせてるけど、となりのおへやのママはなんにもこたえない。

「もしもし」

「帰って下さい」

 となりのおへやのママ、どうしてもこのおんなのひととおはなししたくないみたい。それでそのおんなのひと、またとなりのおへやにいっておんなじことやってた。


「児童相談所から来た者ですが、108号室についてうかがいたい事が」

「今忙しいんです」

「ほんのちょっとだけでも」

 それっきりなーんにもおへんじなし。まあしょうがないよね、いそがしいみたいなんだから。いそがしいひとをこまらせちゃいけないよね。ぼくだっていそがしいっていってるママをこまらせておこられちゃったことがあるんだもん。このおんなのひともそのことはわかってるみたいで、あきらめてくれた。うん、えらいえらい。

「情報を掴まないと……」

 だけど、ほかのひととはおはなしをしたいみたい。それで、そのあともあっちこっちのへやにこえをかけてたけど、みんないそがしいとかはなすことはないとかでぜんぜんかまってくれない。そして、へやのなかがあかるいのにはんのうしてくれないこともなんどもあった。


「はぁ……誰も彼も事なかれ主義、自分に累が及ぶことを恐れて口をつぐんで…人一人の命が関わっていると言うのを全然わかってない…………」

 ことなかれしゅぎとか、るいがおよぶとかことばのいみはむずかしくてよくわかんないけど、とにかくそのせいでイライラしてることだけはぼくにもわかる。なんだかつかれたかおになってきたそのおんなのひとがやってきたのは、5かいの503ごうしつってところ。


「あのーすみません、私児童相談所から来たんですけど…………」

「来てくれたんですか」

「ああ、やっとまともに対応してくれる方がいました……」


 おそらはくらくないけど、あめのおとがめちゃくちゃうるさい。そんななか、ほんとうにうれしそうだってかおをしながらそのひとは503ごうしつにはいってった。へやのなかではおちゃわんのなかにはいったおちゃがしろいけむりをだしてる。

「正野さんですね、確か当児童相談所に電話をかけて来た……」

「はいそうです」

「108号室に住んでいるシングルマザーだと言う女性の子どもを、一度も見ていないと」

「ここに越して来てもうすぐ半月になります。向こうは1階、こちらは5階とかなり離れてはいますけど、同じマンションに住んでる手前どうしても気になって。他の部屋の奥さんにもそれとなく聞いてみたんですけどはぐらかされるばっかりで、この前本人に聞こうとすると全力で止められました」

「今年で4歳のはずなんですけど最寄りの幼稚園にも一度も行っていないようで」

「もう5月も後半ですよ、うちの子来年入園なんでその前に一度は顔を合わせておきたいんですけれど……」

「なるほど、明日にでも上の方に確認を取った上で調査してみたいと思います」

「あの、これはどうでもいい話なんですけど」

「何でしょうか」

「この部屋、なぜかこのマンションの他のどこよりも家賃が安いそうなんです。他の部屋が七万円なのにここだけは五万二千円で、何でも前の住居人が不始末をやらかしたからだそうなんですけど、その事についてもあの108号室の奥様が関わってるらしくて……………詳しい事は教えてくれなかったんですけど」

「わかりました。記憶に留めておきましょう」


 おんなのひとはしょうのさんっていうべつのおんなのひとにあたまをさげるとありがとうっていいながら503ごうしつからでてった。うれしそうなかおをしてるけど、ぼくとママのいえにはいってくるってことだよね、それって。

 ぼくとママのいえはぼくとママのもの、だれにもかってにはいらせない。はいっていいのは、ママかぼくがみとめたひとだけ、わるいけどこのおんなのひとはいれてあげない。だって、ぼくのママのつぎにだいじなたからものをもってかれそうなきがするんだもん。でもぼくわかる、ぼくがどんなにがんばってもあのひとにはかなわないって。いや、ママでもだめだって。

 だからぼくひらめいた。あんなひとにもってかれるぐらいなら、ぼくのママのつぎにだいじなたからものを、ほかのだれかにあげちゃおうって。



 えーっと……ああみーつけた、あのおとこのひと。あさにあのおんなのひととごっつんこしてたおとこのひと。よくわかんないひとだけど、きっとわるいひとじゃない。だから、ぼくしんじる。ぼくのたからもの、あげちゃう。


「ったくひっどい雨だな…でもさ、こういう時こそ仕事ってのはしやすいもんでね…さてと…」

 おにいさんおいで。ぼくのママのつぎにだいじなたからもの、あげちゃうよ。

「おっ、こりゃまた驚いた。こんな大雨だってのに雨戸どころかガラス窓さえ閉まってねえ。いくら風向きの関係で吹き込む訳じゃないとは言え無警戒すぎやしないかねえ、まあ大したもんはねえだろうがしっかり頂いとくかね」


 そうそう、こっちこっち…あれれ?ぼくがおいでおいでもしないうちにそのおにいさん、ずぶぬれのままぼくのだいじなおたからをしまっているおしいれにはいってきた。おにいさん、ぼくすっごくうれしいよ。

「なんでえしけたもんばっかりだな…どうせシングルマザーの家庭なんぞ高が知れてるのはわかっちゃいたけどよ…おや?」

 そうそう、それだよ、それ。ぼくのママのつぎにだいじなたからもの。

「こんなに奥にしまっておくって事はきっと大事なもんに違いねえ。こいつは随分な収穫になるかもしれねえぞ。よし、後は安物ばっかりだがこのでっけえ包みを持って帰れただけでもよしとしとくか、となったら長居は無用、あばよってな」

 あれ?おにいさんぼくのたからものじゃなくて、そのとなりのをもってっちゃった。

「……なーんか未練を感じるんだよな。まっ、気のせいか」

 もう、おにいさんったらあたまがいいのかわるいのかわからないんだから。せっかくぼくがなんにもいわないうちにぼくのママのつぎにだいじなたからものをみつけたとおもったのに、そんなんじゃだめだよ。



 あっママおかえり、おしごとたいへんだったね。あれっ、なにをあわててるの?

「やだ、どうして窓が開いてるの?しっかり鍵どころか雨戸まで閉めて出て行ったはずなのに…って言うかこれ…」


 あーそれね、じつはぼくが…ってママぜんぜんきいてない。ママがあんなにあわててるのぼくはじめてみた。


「どうしよう…警察を呼ぼうかな…いややめよう、たかがこんな事で…」

 ママ、おまわりさんなんかよばなくてもいいよ。べつにたいしたことはおきてないんだから。ってぼくがいうのもきかないで、ママはおしいれをあけた。

「なーんだ、これなら大丈夫…やっぱり警察を呼ぼう」

 だいじょうぶっていってる、それならよかった。ぼくのママのつぎにだいじなたからものがあるからあんしんしたんだね。よかったよかった。

 ってかさー、なんであのおにいさんはぼくたからものじゃなくてとなりのふくろをもっていったんだろ。ぼくわかんなーい。

つづきはあしただよ!

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