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死線という名の鏡  作者: 宮雲八尋
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プロローグ

僕、安原智尋は今、渡り廊下を歩いていた。隣には同じ委員会の委員長、五十畑菫先輩が歩いている。彼女の左肩には、「365」と書かれた紙が貼ってある。そして僕の左肩にも、同じ番号の紙が貼られていた。この学校の文化祭では「カップルナンバー」という催しがあり、全校生徒が同じ番号を左肩に貼った生徒を探すのだ。そんな中今日の日程が終わり、僕を含めた執行部のメンバーで後片付けをしていたところ、カップルナンバーの話になり、先輩と同じ番号だということに気づいたのだ。そして今、その報告を文化祭実行委員会に報告するため、特別棟五階の視聴覚室に向かっている。先輩の長く手入れをされた黒くストレートな髪が、歩くたびに美しく揺れる。その姿をつい見ていたら、先輩に気づかれてしまった。

「どうした?」

「いや、まさか五十畑先輩と同じ数字とは思わなくて、未だに信じられないというか、すごい偶然だなって思って。」

「まあ、確かにそうだよね。私も、こんなことってあるんだって思った。」

普段あまり話すことがないからか、先輩はそこで口を閉じてしまった。辺りに沈黙が流れる。その沈黙が、僕の心を刺してくる。そして、焦りにも似た、不安にも似たものを煮えたぎらせる。僕にとって、今回の機会はものすごく稀有なものだった。そんなことが、常に頭の念頭に存在している。自分の本心を、伝えることから逃げてきた。傷つくことから逃げてきた。でも五十畑先輩は、そんな僕とは対照的な生き方をしている。しっかりと周りを見ながら、そのうえで自分の意見を示せる。そんな人に、僕はどんな風に見えているのだろうか?きっと、とても弱い人間であると見抜かれているだろう。そのうえで、僕のことをどう思っているのか。そのためには、まず自分が示す必要がある。自分の口から、自分から行動を起こす必要がある。自分がこれまで生きてきた中で、感じたことだ。

「自分から何も起こさないものに、何かが訪れることはない」、だから今自分がすべきことは、その一歩を踏み出すこと。そして、自分の弱い部分をさらけ出すこと。それ以上に、この機会を逃がしてはいけない。ここでしっかりと、伝えなければいけない。そんな気がするのだ。不安に包まれ、どこかみぞおちに空気が通るような緊張を抱きながらも、考えるより先に自分の口を動かした。

「あの、先輩!」

「ん、どうした?」

隣を歩く先輩が、横を歩く僕の方を見て立ち止まる。あまりに大きな声だったから、気遣って止まってくれたのかと思い、僕も止まって先輩の方を見る。

「先輩のこと、五十畑委員長って呼んでいいですか?」

予想していなかったのか、目を大きく見開くと、少し失笑気味に

「別に、大丈夫だよ。それにしても、どうしたいきなり。」

先輩、いや、五十畑委員長が見上げてくる。

「いや、その、もっと委員長と話したいというか、お近づきになりたいなって思って。それで先輩呼びだと、どこか他人行儀かなって思って。五十畑委員長って呼んだらいいんじゃないかって思ったんですけど。」

「へえー、そうなんだ。」

そう言うと、どこか困惑といった表情をしだしたので、

「すみません、いきなり。ちょっと調子に乗りすぎでしたよね。」

委員長が左手を顔の前で横に振る。

「いや、違うの。ちょっと驚いちゃって。今まで委員長って呼ばれたことなんてなかったから。安原君が初めてだよ。」

委員長が僕の方に向き直る。

「まあでも、そう言われちゃったら、もっと委員長として頑張らないとね。」

そう言うと、委員長がいつもの仏頂面ではなく、僕に向けてにっと笑った。その笑顔が、僕にはとても特別なものに感じられた。


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