僕の中で何度も僕に殺される君
※私としては普通の作品と思っていますが、精神的に弱っている方は読まない方がよいのかもしれません。
君がまた、泣いてる。
僕の中で、泣いている。
僕の中に居る、君。
僕の中でしか生きられない、君。
「…ねえ、もう泣かないでよ」
「だって、今日も失敗しちゃったんだもん。私ってほんとグズでのろまで嫌になっちゃう…」
「君はそんな自分が嫌いかもしれないけど…僕はそんな君が好きだよ。それも君の魅力のひとつ…君の良さを作るための歯車のひとつ、ふたつだと、僕は思ってるよ」
「でも…もどかしくて私は大嫌い」
僕は君の身体を抱き寄せて、背中を擦る。もう、一時間くらい君のことを慰めてるけど…今日はまったく泣き止まない。
どうやら、またストレスが溜まっちゃったみたいだ。
─────また、殺さないといけないのかな?
僕は君の頭を撫で、君の涙で濡れた瞳を見つめながら問う。
「…苦しいの?」
僕が君に聴くと、こくり…と僕の胸の中で小さく頷いた。
僕には、君の感じるような「痛み」や「苦しみ」がよくわからない。涙を流せる君が魅力的で羨ましいとさえ思う。
僕にはわからない感情を持っている君が。
そして、そんな君に僕は────
僕は君の額に口づけすると、ズボンのポケットからキラッと輝く銀のモノを取り出すと───
─────────ザクッ……
君の胸に、その銀に輝くものを─ナイフを刺した。
どくどく…と、君の胸から零れる紅い血…
甘く切ない、薔薇の香りの血液だ。
そして。
「…ごめんなさい」
刺したのは僕の方なのに、なぜか謝るのはいつも君からで。
「ううん…僕の方こそ、ごめんね。こうすることでしか、君の気持ちを癒してあげられなくて」
ほろほろと、君の瞳からはまだ雨が止まない。本当によく泣く君。
君の目頭と目尻の涙を唇で拭う。
しょっぱくて、切ない味。
君の胸から零れ出る紅は、だんだん紅い薔薇の花弁にひらひらと変わってゆく。気づけば、真っ黒な床には、君の胸から零れた薔薇の花弁で紅く染まっていた。
君の身体がだんだん、薔薇の花弁となり散ってゆく…
「…じゃあ、また…ね」
僕がそう言うと、君は黙ったまま薔薇の花弁まみれの手で、僕の胸にぎゅっと身を寄せた。
君の鼻の啜る音が、薄暗い僕の世界によく響いていた。
そして。
──────ぱらり。
君の最期の一片が、僕の手の中に落ちた。
紅く艶やかな君の欠片…
僕は君の欠片を抱きしめながら、君の花弁まみれの床に寝転がった。
果てしなく伸びる闇の中をぼーっと見つめながら、僕は君の欠片を胸に抱いていた。
何度殺しても僕の中で咲く、一輪の君。
僕の片割れの君。
二度と君が僕の中で咲かないことを願いながら同時に、君が僕の中で咲くのを期待した。
君の散らせた薔薇の花弁を抱きしめながら。
君の遺していった甘く切ない香りを愉しみながら────