8話 ジェルドワーフの寿命
目が覚めるツバメは 王宮の数ある客室の一部屋にいた
「疲れて寝ちゃってたのか……」
フカフカの羽毛ベッドから起き上がるツバメ
城下町が見えるガラス扉を開き バルコニーに出た
「私達がいた所はどこかな~」
星のように輝く夜景に コメントも無しに一望する
「気に入って頂けたかな?」
「……元気になったんだコンニャク娘?」
「コンニャク娘?」
そこには違和感漂うコニャックが 分厚い柵の上に座っていた
「初めまして王子候補のアスラよ
我輩コニャックの父〝トコロ・テン・ゾル・シリカゲル・ナマタマゴ101世〟でジェル」
「あっお父さん…… 初めましてトコロさん」
「ジェルジェルジェル! 大した器だ 萎縮しないそのドンと構えた立ち振る舞い 歓迎するジェルよ」
「ありがとうござます……」
心にもない挨拶で乗り切るツバメにトコロは 〝部屋に戻ろう〟と指で合図を送る
ツバメは疑念の表情で部屋に戻ってベッドに座る
「して聞くが…… 其方は雌でジェルな?」
ーー雌って……
「メスを異世界より召すってか? ジェラジェラジェラ!!」
「ハハハ……」
ーー此のオヤジにしてあの娘ありだわ
苦笑も清々しい手前 トコロは真顔になる
「相手が男性だろうが女性だろうが無性だろうが我輩は認めるジェルでの
ここは差別の無い共生の国…… いや世界だからの!」
「そういえば私が異世界人だってこと知ってたんですね」
「人間の臭いはこの世界の生物とは似ても似つかぬ
それに娘の事だ 宇宙を股に掛けてでも自分の伴侶を見つける奴でジェル」
「全部筒抜けだったんですね」
高らかに笑うツバメを余所に 釣られて笑いそうなトコロの表情は変わらなかった
「自分の世界に帰りなさいアスラよ」
「え……?」
「娘が邪魔をするなら我輩達が力を貸してやろう」
「ちょっと待って…… 嬉しい申し出ですけど その… いいんですか?」
「何も其方が気にくわない訳ではない かと言って娘から愛する人を奪うのも気が引ける
我輩が心配しているのは二人が愛し合ったときのことでジェルよ」
「何か起こるんですか?」
トコロはその辺を俯きながら歩き回っており
「この世界にもたくさんの 種族別に生物が繁栄してきておる
しかしジェルドワーフに限っては 我輩達ドワッフル王家含め
城下町にいる住人会わせて何千匹とおらんのジェル」
「それって?」
「〝ジェルドワーフの寿命は10年〟」
「え……」
ツバメは唾を飲んだ
「三歳で成人し 七歳で老人になる ……死ぬ間際もピチピチでジェル
歴史で最も古くから記されている ジェルドワーフの始祖ドヴェルグの時代からそれは変わらん」
「そう…… なんですか……」
「人間は100年以上 巨人は500年くらい生きるんだったでジェルの 誠 羨ましい限りだが……
解ったかねアスラよ 我輩達と其方達との生きる時間が違い過ぎるのでジェルよ」
「…………」
トコロはツバメの顔を真剣な眼差しで見つめ 決して逸らしてはいけないことだと悟る
「其方が本気でコニャックを愛することになれば 未来は残酷なのでジェル
悪いことは言いません すぐにでもお帰りなさい」
「でも…… それってコニャックを結婚させないってことなの? でも今回の王子募集って……」
「……愛娘を自由にさせたくてな」
そう言って肩の力を抜いたトコロは 哀愁を漂わせながら扉へと向かって行った
「募らせた王子候補達と娘を結婚させるつもりはない
王位継承の儀式当日に 娘に家出される前々から決めておったのでジェル
この世界を治める王者を他種族の誰かに譲ろうとな」
「でも…… コニャックはまだ王位を放棄した訳じゃ……」
「関係ないのじゃよ娘さん
寿命10年の種族が頂点に居座れるほど この世界はもう単純じゃなくなっているのでジェル
任期に人生全てを賭けても 統治するには限界があるのでジェル
誰かに任せた方が娘も幸せになれるってもんジェルよ」
「……そんなもんなんですか」
「我輩はもう9歳……
振り返れば 親から教えられた事しかやって来なかった世間知らずでジェル
娘にはそんな後悔をさせたくないでの
でもまぁ こうして王の座に就ぎたい有望な若い種族の代表もいることだし 不安は無いでジェルルン!」
無理をしているのはどこかで感じ取っていた 重い扉は閉められ 再び一人になる
それはそうと語尾の巻き舌は親子だなと思ったツバメはベッドに身体を倒し
ーーいろいろ大変なことになってるんだな…… あの王様もショタのまま死ぬのね
コンニャク娘はどう思ってるんだろう
初めて会ったあの寮での二人の会話を思い出してみるが
ーー思い出したところであいつのセクハラしか覚えていない……
干渉しないで元の世界に戻れば良いってそれだけ考えてたし
自分の進路を忘れて とりあえずこの世界の事を考え出していると
ガラス窓に 数秒刻みで石が当たる音に気付いた
「ん?」
ガラス窓を開けてバルコニーに出てみると ツバメは驚く
「えっ…… 大丈夫なの?」
「これ…… くらいなんとも…… 助けに来たでゲルよ ツバメ」
柵の上に立っていたのは 発熱により顔を真っ赤にさせたコニャックだった
しかしその登場も決まらず その場に転がるように倒れるのであった
ーーカッコ悪いなぁ…… まったく