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39話 SO WE ARE THA ONE


マイギターを床に置いたビャーゴはハーフルの手を握る


「お前!!」


「祈るように歌うんだ」


怒ろうとしたウホマンドだったが

似合わないビャーゴのセリフでその場が静まり返る


「俺も…… セイザンもスザクも共生の国を願っている

戦争なんてコリゴリさ 〝皆仲良く〟を実現して何が悪いんだ」


「ビャーゴさん……」


「今は民が怯えている

人魚なんて関係ない この一ヶ月で学園内に響き渡っていた君の本気の歌を

俺達含めたこの場にいる全員を そして国中に届いて欲しい」


ハーフルの手の震えが止まる

ビャーゴは満足げにその場を後にし チワワとすれ違う間際で


「さすが女たらしで有名ね」


「でしょう? 国民を笑顔にするのがセリアンスの王子ということを今後ゴヒイキに~」


深く深呼吸するハーフルの背中をウホマンドが支えた


「ごめんねウホちゃん…… いつも助けて貰ってばっかりで」


「本当にな こんな都会にお前を連れて来るなんて 村の人間は正気の沙汰じゃないと

……最初は本気で思っていた

だけど今のハーフルは私よりも逞しく見える」


「……ヘヘ!! なんか初めてウホちゃんに認められた気がする」


「寮に来てから お前は何が楽しかった?」


「言うまでもないよ たくさんの友達が出来た事!!」


「そうか…… だったらあとはその素直な気持ちに歌詞を載せるだけだ

私は何も心配せずに ただお前の歌に心惹かれて座って聞いてるよ」


「ありがと…… ウホちゃんが親友で良かったよ」


照明が銀髪を明るく輝き 周り恍惚させる聖女が通る階段

殻を破った者にだけ上がらせてくれる一段一段は 登って行くハーフルの後ろ姿は勇ましく

もう弱い自分じゃないよと言い張っているかのよう そんな風にウホマンドの耳に聞こえてきた


ステージでは ドリアードが観客を怯えさせないようフォローを入れながら進行している


『えぇ皆さん!!

おそらくですが外で起きている事に関して大体お耳に入っているかと思われます

ですが有事の際はこの室内競技場が避難所となってますのでどうか慌てないで下さい!!』


「北の小国の王子は何処だ!! 説明させろ!!」


「家に歩けない母がいるんです!! どうか一度帰らせて下さい!!」


引きは無くとも次々と流れてくる避難民

もはや品のあるホール以前に 学園内には国全体のほぼ全ての国民の避難が集中している

サレインも静まり返る頃には門は閉ざされ 学園祭も続行不可能となる中

不謹慎と分かっていても諦めない生徒がいた


「頑張れ…… ドリアードちゃん」


料理も作っている場合じゃなかったコン達は一旦持ち場を離れ ステージ裏へと向かう


「こんなこと…… 今まで起きてなかったじゃないか!! 北の小国と何かあったのか!!?」


「押すな!! 私は貴族だぞ お前あとでどうなるか……」


「うちの娘は無事なんですか?! 何処にいるんですか?!」


コン達と一緒に聞いてるコニャックにもまた 耳を塞ぎたくなるような言葉が飛び交う


「また差別したのか!! ピグミス王国のように!!」


「今口にした奴は誰だ!! 反共示唆は重罪だぞ!!」


「っ……」


〝王政に不満を持つ者は〟けして表だって動いている者だけではない

普段の私生活から不意に思ってしまう者を含めるか含めないか

敵は誰で何処に潜んでいるかなど 安易に区別が付くわけではないのだと悟る


『えぇ皆さん!! 演劇もいよいよ最後となりました!!

それどころじゃないという重々承知の意見もこちら側には響いております

ですが!! ……私達は共生の国の民です!!

泣いてる人がいる 困ってる人がいる

そんな心に傷を負い始めてしまった責任は誰にあるのでしょうか?

そうやって人を責めていくことが平和でしょうか?

国の兵士は既に動いて対策を打っています 皆さんを助ける為に動いています

今私達に出来る事は互いに勇気づけ合い この状況を共に乗り越えることだとは思いませんか?


それでは…… 当学園に転校してきてくれた我等の新しい仲間 ハーフルさんです』


極微な動揺は残るものの

声を荒げる者は時を重ねる毎に静まっていった


隣で待機していたハーフルは 凜とした佇まいでステージの真ん中へと歩いて行く

孤独に戦う時間 人知れず深呼吸する歌姫はマイクに声を当てた


『今…… 私の友達が戦場に出向いてます

普段からは想像も出来ない彼女の行動に正直驚きを隠せません

なのにどこか あの人が私を守ってくれてる事に家族にも似た安心感があるのです

その人はここより遠く離れた別世界の救世主 私はそう唱えます

隔離された島を離れて 信用できるのはいつも隣にいてくれて親友だけでした

だけど外に出てみれば助けてくれる人がいた これがどれだけ心強かったか

手を差し伸べられることで口に出る〝明日〟という言葉がどれだけ温かかったか

共生の国というのは私が思っていた理想と少し違ってました

だけど皆のおかげで実感を湧くことができました」


「「「「「 ………… 」」」」」


「彼女の名前は…… アスラ・ド・シュラバー

異世界より渡りしこの世界の闇を払う英雄

そんな彼女を中心に巡り会えた数多くの友達になってくれた者達に

そしてこの国の繁栄と共生を信じて歌います

聞いて下さい 〝SO WE ARE THA ONE〟 」


マイクから発せられる範囲は 放送室にいたカザドの配慮もあって学園中に届けられた


魔法による音源から発せられる音響は室内を包み込み

人魚の歌声は全ての物体をそよ風のように通り過ぎる

魅せられる景色は人の理想 それは未来をたぐり寄せる一束の近道



『 立ち昇る朝陽は 僕を嫌っていた

  でもそれじゃあ あまりにも不公平じゃないか


  傷ついて 今日を迎えれないけど

  誰しもそうなら きっと前を向けないだろうな


  baby ready steady go

  僕らは同じ 星に生まれ


  baby maybe tniy light

  誰もが胸に小さな灯を抱いてる 筈だった


  この国の 暗闇を

  月凪の町で傾く 歪んだ空を 


  全て包み込んで 光り輝かすのは僕たちだ

  生まれ変わるんだ 希望が痛みを乗り越えていく


  涙を乾かす 弱音を閉じ込めたストーリー


  待っていたのは 願い叶う遠い場所

  手で繋がる輪っかを覗けば そこには明日があったんだ』



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