3話 とりあえずイケメンとは話してみよう
集中するツバメはポッキーが無いことに気づき
一息付く為 その場で両腕を伸ばす
するとノック音と共に不可解な状況が現実へと戻る
ーーまぁたコンニャク娘かぁ?
近くにある熊のぬいぐるみを盾にして そっとドアを開けてみた
するとそこには 手作りのお菓子を持って立っている
イケメンコボルトさんじゃぁ あーりませんか
「あ…… えと……」
「三時のおやつの時間でしたので作ってみました
今回は日本の若者で大流行だという〝ティラミス〟に挑戦してみたんですが」
ーー古い!! 流行の時系列が誤ってる!! ……でんも~~
「ありがとうございます! 料理されるですねコボルトさんは」
「他愛もない取り柄ですよ
よろしければこちらのお部屋にお邪魔してもよろしいですか?」
「え…… あ~ どうぞ! 散らかってますけど……」
ツバメはコボルトを部屋の中へと迎え入れた
狭い空間を一望するコボルトは 爽やかな笑みでその場に腰を下ろし
「えぇと…… コボルトさんはこんにゃ… コニャック王女の側近とかなんですか?」
「えぇ 直属にお仕えする護衛騎士と言ったところです」
「じゃぁ強いんだ!!」
「それほどでも……
ですが主はしっかり守らせていただく所存です 無論あなた様も含めて」
「……」
空になった二つのティーカップに紅茶を注ぐコボルトは
少し真面目な表情でツバメと向き合う
「コニャック様は王女でありながら既に王位を継承されておられる身
長男のライムス王子が亡くなられてから 国中より浴びる重圧は計り知れません
国王様も 王子殿が王位を継承するものとばかり考えておられたものですから
まさか甘やかしていた娘に継承するなんてことは 想定外であられた筈です」
「お兄さん…… 亡くなってたんだ」
ズキッと胸に違和感を感じた
ーーヒドいこと言っちゃったな……
「コニャック様の母君も病にて命を落とし
唯一の肉親が父と娘だけになってしまわれた
同時に二人も失う王女の内心は お察しするしかなかったです」
「……この世界 というよりジェルドワーフ達はどうやって家族を築くの?」
「そちらでは 肉親または誓いを交わした者同士で構成される集団を〝家族〟と見なしてましたよね
ジェルドワーフは身近で生れたものを子と認めて拾い上げるのです
王女の場合は庭園の一輪の花に溜まる水滴から生れました」
「コボルトさんは?」
「私ですか? 私は……」
コボルトはふと本棚を見つめる
立ち上がって手に取ったのは ドイツの民間伝承の本だった
「こちらの世界の〝コボルト〟は 悪戯好きの邪の精霊さんなんですね」
「私はあくまでファンタジーだと思って読んでるけどね あなた方の世界含めて」
「私は多分 母親のお腹の中から産れました」
「もしかしてジェルドワーフだけ特別だったり?」
「それは追々話させて頂きます
ですがどんな形であれ 私達にも誰かを愛するという本能を持っています
それはコニャック様も然りです」
「……まぁ ちょっとキツく当たったことは認めます」
「誰が誰を愛そうとそれを他人が覆すことは出来ません
しかし両想いが実らず ましてや避けられたままはとても悲しいことだと私は思うのです」
真っ直ぐ向かい合って話されたのは とても久しい気がした
何を思ったのかツバメは ドアを開けて廊下を走った
ーー 〝ごめん〟 ただそれだけは言おう
しかし相手の行動は予想の遙か上を凌ぐ
前に進めば進むほど漂ってくる異臭がツバメを襲う
「んっっ!! 何この内臓を焼き尽くすかのような…… 毒沼でもあるの?!」
その正体は考えている間にも迫ってくる
「おーツバメ! ようやく部屋から出てきてくれたゲルか?!」
やって来たのはコニャック が持ち抱えるあれは要約するならジャイ○ンスペシャル
蒸発する紫の液体でコーティングされ トッピングにはこの世の物とは思えない
多分こちらの世界の気味の悪い食材が盛り付けられていた
「待って! ストップ!! 来るな!!! 来るんじゃねぇ!!!!」
「ん? まさかツバメよ…… 照れてるでゲルルゥン?! あっ!!」
裸足が滑って幼女はダイナミックにひっくり返った
ケーキもどきは恐怖の塊と化して ツバメの顔面を侵食する
ーー生理的にキュゥゥ……
ツバメもその場に倒れる
急いで駆けつけてきたコボルトは冷静だった
「フム……」
紫色のケーキを一舐め
「うん! 美味い!! 料理の腕を上げましたねコニャック様!!」
「ジェェッハッハッハー!!
そうでゲルそうでゲル~~!!
さぁツバメよ 私の愛情たっぷりの新作料理をとくと味わ…… ツバメ?」
顔面を紫にコーティングされたツバメは
心の底から無慈悲を正当化し コニャックへ対する態度を改めた己に罪を与えることを誓う
ーー絶対に謝らない!!
愉快な二人をそばに ただただ身体は硬直しつつも憎悪のオーラは吹き荒れていた